高圧引込設備 設計を始めよう! やさしい手順マニュアル
このマニュアルは、高圧で電気を受け取る設備(引込設備)を設計する流れを、専門知識があまりない方にも分かりやすく解説します。一つ一つのステップの意味を理解しながら、設計の抜け・漏れを防ぐための手順書です。
I. 最初の一歩:電力会社との相談と準備
Step 1: 契約する電気の量と電圧を決めよう

契約する最大の電気量(契約電力)の確認:
まず、建物でどれくらいの電気を最大で使うのか(契約電力 )を把握します。これが設計の基礎データになります。
供給される電圧の確認:
電力会社から**何ボルト(例:)**の電気をもらうのかを確認します。この電圧に合わせて機器を選びます。
設備の分類を確認:
建物全体の電気設備が「高圧」「特別高圧」「低圧」のどのグループに入るのかを確認し、引込設備が正しく接続されるように計画します。
Step 2: 電力会社と引込方法を話し合おう

細かいルールの打合せ:
電気事故を防ぎ、責任の範囲を明確にするため、設計前に電力会社と相談します。
引込地点(どこから電気を引き込むか)、引込方法(電柱からか、地下からか)、事故が起きたときの設備の止まり方(SOG動作時限などの保護協調)、将来の増設予定などをしっかり確認します。
設計の流れの最終確認:
ここで決めた内容をもとに、設計全体の計画(スケジュールや特に注意すべき点)をチェックし、具体的な設計作業に入ります。
Step 3: どんな方法で電気を引き込むかを決めよう
必要な部品を確認し、図面案を作る:
電気設備に必要な主要な部品(開閉器、避雷器など)をリストアップし、電気の流れを示す単線結線図の簡単な案を作成します。(→ 機器の詳しい説明は**「V. 付録」**を見てください)
引込線の本数、方法、電気の方式の決定:
引込線の本数:基本的に1回線で引き込みます。予備の線が必要な特別な場合は、回線引込(予備線付き、ループなど)を検討します。
引込方法:電力会社の電線が空中を通っているなら架空引込、地下を通っているなら地中引込となります。架空引込の場合、電柱、屋上、壁など、どこから引き込むかを建物所有者や設計者と相談して決めます。
電気の方式を明記:図面には、電気の相数(3φ)、線数(3W)、定格電圧()、周波数(60Hzまたは)を忘れずに書き込みます。

Step 4: 事故から設備を守る装置を選ぼう(保護装置)

漏電(地絡)を防ぐ装置:
責任の区切り目には、漏電事故を検知する**地絡継電装置(GR、ZCT)**を必ず設置します。
方向まで見る地絡方向継電器(DGR)の検討:
誤動作を防ぐ: ケーブルがとても長い場合など、普通の漏電遮断器(GR)では誤って作動してしまうことがあります。それを防ぐために、漏電の発生方向まで判別できる地絡方向継電器(DGR)とZPD(電圧を見る変圧器)のセットが必要になります。
長いケーブルの目安: のCVTケーブルを使う場合、ケーブルの太さごとに、GRが正しく働く最大の長さが決まっています。この長さを超えると の検討が必要です。
の例: で約 、 で約 が目安。
の例: で約 、 で約 が目安。
事故が起きたら知らせる: 漏電などで設備が停止したことを、使用者に知らせるため、SOG制御装置から警報線 本を配線でつなぎます。
雷から守る避雷器(LA):
雷の電圧(サージ)から大切な機器を守るため、**避雷器(LA)**を設置します。必要な性能や設置場所を決めます。
Step 5: 引込線の太さと種類を決めよう

電線・ケーブルの種類と敷設方法:
使う電線: 絶縁電線(OE, OC)か、ケーブル(CVT, FPT)を選びます。
敷き方: 架空なら碍子(がいし)やメッセンジャワイヤーで吊るし、地中なら管の中を通すか、直接埋めるかなどを検討します。
引込線の太さの決め方:
普通の電流に耐える太さ(許容電流): 普段流れる最大の電気量に耐えられる太さを選びます。また、電線の定格電流は、契約した電気量の**倍以上**にするのが基準です。
事故の電流に耐える太さ(短絡電流強度): 漏電やショート(短絡)といった事故が起きたときに、瞬間的に流れる大きな電流に耐えられる太さが必要です。目安として、短絡電流 の場所なら 以上、 の場所なら 以上が必要です。
Step 6: 区分開閉器(PAS)の仕様を決めよう

PASの役割と設置場所:
責任の区切り目: 電力会社との責任分界点(設備の入口)に、電気を入り切りするための**区分開閉器(PAS)**を設置します。場所は、建物側の敷地内です。
守るべき規格: は、JISC 4607などの規格に適合し、異常な電流を感知する過電流ロック機能と、SOG制御装置による自動遮断機能が必要です。
PASと一緒に必要な部品: が正しく働くために、以下の部品が必要です。
必ず必要なもの:GR(地絡継電器)、ZCT(零相変流器)、SOG制御装置、LA(避雷器)、VT(制御用変圧器)、EA(A種接地)。
状況によって必要なもの:誤動作を防ぐためにDGR(地絡方向継電器)、ZPD(零相計器用変圧器)を検討します。
PASの定格電流の決め方(計算と短絡電流のチェック):
① 負荷電流の計算: 契約電力から、普段流れる電流 を計算し、これに耐える開閉器を選びます。
定格電流の種類:PASは通常、**、、**の 種類から選びます。
② 短絡電流のチェック: 普段の電流だけでなく、事故の時に流れる短絡電流に耐えるかを確認します。


注意: 短絡電流の値は、電力会社に確認します。
SOG制御装置と100V電源:
SOGの働き: SOGは、過負荷やショートでは動かず、配電線が無電圧になったときに内蔵バッテリー(コンデンサ)を使って を開き、事故を遮断する装置です。
電源: SOGの電源は、信頼性や安全のため、PASの中に を内蔵して供給する方法がおすすめです。
PASの外箱の仕様:
外箱は、標準は鋼板製ですが、塩害の恐れがある場所では耐塩塗装や重耐塩塗装をしたステンレス製などを選びます。
Step 7: 電気メーター(VCT, Wh)の場所を決めよう

メーター機器の設置ルール:
誰が工事をするか: VCTと の機器の手配と取り付け工事は、原則として電力会社が行います。使う側は**設置場所(スペース)**を準備します。
設置場所: 電力会社によって異なり、九州電力では電柱に設置することが多いですが、他の電力会社では建物内(受電設備内)が多い傾向があります。
メーターを分ける場合: VCT(変圧器)をキュービクル内、(メーター)を建物の外側に分ける場合、機器間を繋ぐ** の空の配管を 本**敷設する必要があります。
遠隔検針: 遠隔で電気の使用量をチェックするための通信回線が必要な場合があり、そのために** の空の配管を 本**用意することもあります。
Step 8: 引込用の電柱を設計しよう
引込柱の選定:
使う電柱: 引込柱には、A種コンクリート柱を使います。
電柱の大きさ:
電気を引き込む柱:
途中の支える柱:
型番の読み方: 例えば の「」は長さ()、「」は先端の直径()、「」は曲げに対する強度()を示します。
Step 9: 地下埋設管とケーブル工事の詳細を決めよう

管路(パイプ)の選定基準:
管の種類:鋼管、コンクリート管、樹脂管など、設置場所に適したものを選びます。
管の直径:ケーブルをスムーズに通すため、管の内径はケーブルの外径の 倍以上にします。
ケーブルの曲げ方: ケーブルが傷つかないよう、曲げる半径は単心ケーブルで直径の 倍、多心ケーブルで 倍以上を確保します。

ケーブル引き入れの注意: ケーブルを引っ張って入れる際の力()が、ケーブルが耐えられる最大の力(許容張力 )を超えないように()計画します。
マンホール・ハンドホールの設置:
間隔: ケーブルの保守や入れ替えのため、ハンドホールは ごと、マンホールは ごとを目安に設置します。
マンホールの仕様: ケーブルの種類や本数に合わせて大きさを決め、防水性能(防水型、密閉防水型など)、蓋の強度(軽荷重、重荷重)を選びます。
地中引込用のスイッチと配管:
開閉器: 地下から電気を引き込む場合は、気中開閉器を設置します。
引込管: 電源用、隣の建物用、予備用など、** 本**の管路を布設することが一般的です。(電力会社に要確認)
Step 10: 接地(アース)工事の詳細を決めよう

接地工事の種類と共用:
や 、 など、高圧機器の金属部分の接地は、雷などに対応できる全て A種接地工事とし、これを つにまとめて使います。
避雷器(LA)の接地基準:
抵抗値:地中への抵抗値は** 以下**でなければなりません。
使う線の太さ: 接地線は** 以上**の太さを使い、長さは 以内とします。

付録:使用機器リスト(何をどこに使う?)
高圧引込設備で使われる主な機器とその役割です。
略語 | 機器名称 | 役割(初心者向け解説) |
---|---|---|
PAS | 区分開閉器 | 敷地内の入口にある大きなスイッチ。漏電やショートが起きたら自動で電気を遮断します。 |
GR | 地絡継電器 | 漏電(地絡)を検知するセンサー。 |
DGR | 地絡方向継電器 | 漏電の「方向」を検知するセンサー。ケーブルが長いときなどの誤動作を防ぎます。 |
VCT | 計器用変成器 | 高い電圧と電流を、電気メーター(Wh)で測れる低い値に変換します。 |
Wh | 電力量計 | 電気料金を計算するためのメーター(電力会社所有)。 |
VT | 計器用変圧器 | 高い電圧を、制御装置(SOGなど)を動かすための に変換します。 |
CT | 変流器 | 普段の大電流を、保護装置(OCR)で扱える低い電流に変換します。 |
LA | 避雷器 | 雷が落ちたときに、その高い電圧を地面に逃がして機器を守ります。 |
SOG | 制御装置 | PASに内蔵された頭脳。漏電事故時にPASを自動で開くよう指示を出します。 |
ZCT | 零相変流器 | 漏電が発生したことを検知するための部品。 |
ZPD | 零相変圧器 | DGRと一緒に使い、漏電時の電圧を検知します。 |
CP | コンクリート柱 | 引込線やPASを支える頑丈な電柱。 |
EA | A種接地 | 機器や避雷器を地面につなぐ最も重要な接地工事。厳格な抵抗値が求められます。 |
このマニュアルは設計の流れを分かりやすく説明したものです。実際の設計を行う際は、必ず最新の電気技術基準や、電力会社が定める細かなルール、そして詳細な技術計算(電流計算など)に基づいて進めてください。