📌 今回のテーマ
「若手設計者との関係構築と主体性の喚起:
事務的設計からマーケティング目線の営業的設計への変革期における、育成の基本姿勢」
電気設備設計は、建物の機能と安全を支える重要な役割であり、その技術力はプロジェクトの成否を左右します。しかし今、多くの方が、技術継承の停滞、若手設計者との付き合い方、そして高まるDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応という複合的な課題に直面していると思います。
持続的に成長できる設計組織を構築するための「組織基盤」と「マネジメント」に焦点を当て、単に技術を教えるだけでなく、若手がプロフェッショナルとして自立し、創造性を発揮できる環境をいかに作り上げるか。そして、自身はどのように学び向き合っていくのか。
次世代へと確実にバトンを渡す戦略をあくまで一つの見解に過ぎませんが自身の考え・経験を踏まえ、考察していきます。
職務への意欲と成長へのギャップ:現状の捉え方
若手社員の中には、仕事に対して高い意欲を示す方もいれば、業務を「作業」として捉え、自発的な行動に踏み出しづらいと感じている方もいるかもしれません。
設計業務のプロセスにおいて、若手設計者がモチベーションを維持し、成長を実感しづらい背景には、「自分の仕事が最終的に何につながるのか見えない」という課題があります。設計図面が単なる記号や計算の集積に見え、実際に建物が完成するまでの長い期間(数ヶ月以上)や、目に見えない計画部分の多さが、達成感を得ることを難しくしています。
日々、黙々とパソコンに向かう設計業務において、一律に「達成感や成長を感じているか」と問うのは酷かもしれません。
💡 成長の場と主体性の確立
組織は教育プログラムや指導体制を整備し、「成長の場」を提供しています。しかし、指導層が技術や理論を一方的に「提供する」だけの姿勢では、現代の複雑化・情報過多な環境において、若手が過去の世代と同じレベルの経験値やスキルアップを実現するのは困難です。
「待っていれば誰かが教えてくれる」「指示されたことだけやればいい」という受け身の姿勢では、成長は限定的になります。指導層からの「与えられた教育」を若手設計者自身の自発的な「行動」によって最大活用するという主体的な姿勢が不可欠です。
🎯 教育の第一歩:目的と影響力の明確化
建築は、膨大なお金と規模と時間を要するオーダーメイド品であり、条件、環境、時代を考慮すれば全く同じものは二つと存在しません。
このような特殊な分野において、若手の主体的な成長を促す教育の第一歩は、以下の点を明確にすることにあります。
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あなたの作業が何の目的を持っているか。
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その作業がどの部分に、どのような影響を及ぼすのか。
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建物全体を通した影響力を具体的に説明する。
これこそが、設計者としての当事者意識と責任感を醸成し、深い成長を促すための鍵だと考えます。
学びの原動力:仕事を超えた「この人と一緒にやりたい」という関係性
私自身、キャリアを振り返ったとき、最初に自発的に深く学ぼうと決意したきっかけは、「電気設備設計」という仕事の内容そのものよりも、むしろ「この職場で、この先輩と、このチームと一緒に仕事を成し遂げたい」という人間的な関係性にありました。
入社当初は、設計という業務を知識や技術の習得という義務感で捉えていました。しかし、指導してくれた先輩が、私が出した凡庸なアイデアにも真剣に向き合い、決して見捨てずに、夜遅くまで技術資料を読み漁りどの方法が最善かを一緒に検討していました。そういった経験が今のような、技術情報の掲示につながっているのかもしれません。
📌 仕事を「自分ごと」にした環境
信頼への応え:
先輩の信頼に応えたい、期待を超えたいという感情が、受け身の姿勢を打ち破る最も強い原動力となりました。
共有された目標:
仕事が単なるタスクリストではなく、「職場というチームで共有する目標」になったとき、設計図面やコスト計算は、その目標達成のために自ら取り組むべき挑戦へと変わりました。
若手設計者が自ら学び、成長を加速させるには、単なる教育プログラム以上に、「この人と、この場所で成長したい」と思わせる、信頼に基づいた人間関係と、目標を共有できる心理的な安全性のある職場づくりこそが、最も重要だと感じました。
設計の面白さとは何か:行動を促す「価値」の提示
若手の心に火をつけ、行動へと駆り立てるには、設計の本質的な魅力を明確に伝え、彼らの興味を「作業の消化」から「価値創造」へと転換させる働きかけが重要です。
設計の面白さとは、突き詰めればプロフェッショナルとしての自己実現につながります。
施主の想いを「形」にする創造性:
設計者は、施主の漠然とした要望やビジョンを、安全で機能的な現実の建物として具現化させる役割を担います。「この設計が、未来に何十年も使われる空間になる」という創造的な喜びは、大きな動機付けとなります。
制約の中で最適解を導く思考力とコストコントロール:
設計は、法規、納期、構造、そして特にコストコントロールといった厳しい制約条件の中で、施主の意見を最大限に反映させ、最善の解(最適解)を導き出す知的なプロセスです。この調整を通じて、若手は問題解決能力という普遍的なビジネススキルを磨き上げることができます。
主体的な行動がもたらす成長:スキルアップと自己実現
プロフェッショナルとしての成長:
設計の現場で、理想と現実の調整役として意見をまとめ上げ、さらにマーケティング目線の提案を行う経験は、技術的な専門知識に加え、コミュニケーション能力と交渉力、そしてビジネス感覚を育みます。能動的に機会を掴むことで、「戦略を持ったプロフェッショナル」としての能力が身につきます。
自分の生活に対する影響:
彼らが設計に携わった成果は、地域を活性化させ、社会のインフラとして機能します。「自分の仕事が社会に貢献している」という確かな実感となり、自己肯定感と誇りにつながります。
今後求められる設計の役割:事務的設計から営業的設計へ
かつての設計が、発注された仕様に基づき図面を作成する事務的・技術的な役割が主であったのに対し、今後はマーケティングの視点を取り入れた営業的な役割が強く求められます。
これは、単に与えられた要件を満たすだけでなく、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、自社の技術力や付加価値を戦略的に提案する能力です。設計者は、技術的な正確さに加え、市場動向への深い理解と、提案によって顧客を説得し、事業を推進する力が必要になります。
この新しい役割こそが、若手設計者にとっての大きな挑戦であり、同時に、従来の技術職にはない高いビジネススキルとキャリアアップの可能性を秘めています。
まずは、私たちが設計の仕事に対する純粋な喜びと、それがもたらす将来的な価値を明確に語り、彼らの主体的な行動を引き出すための対話と環境づくりに努めましょう。この連載では、若手の純粋な熱意を引き出し、強固な組織を築くための具体的なマネジメント戦略を、今後深く探求していきます。















