海の近くに置くキュービクルや外灯は、塩で錆びて寿命が縮みます。塩害の仕様は海岸からの距離と潮風の当たり方で目安を決め、最後に現地の錆と客先の要望で確かめます。盤は1km・300mで3段階、外灯は20kmまでと、機器によって物差しが違うのが注意点です。ここでは区分の目安、現地で見ること、機器ごとの選び方、外灯の区分、長持ちさせる手入れまで、図で順に確かめます。

1km以内か、300m以内か(潮風が直接当たるか)の2つの質問で、盤の仕様が決まります。
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
この記事で読めるようになる用語:塩害・キュービクル・PAS・プルボックス

盤の塩害区分 ― 1kmと300mで3段階

キュービクルや屋外盤の塩害仕様は、キャビネット工業会・盤標準化協議会の区分が目安になります。海岸からの距離と、潮風の当たり方で屋外・耐塩・重耐塩の3段階に分けます。

約300m以内で潮風が直接当たるなら重耐塩、300m〜1kmで潮風が当たらないなら耐塩、1km超は屋外仕様。仕様が上がるほど塗装が強くなります。
仕様 設置場所の目安 塩水噴霧
屋外 一般の屋外・屋側 240時間
耐塩 海岸から約300m〜1km。潮風が当たらない 500時間
重耐塩 海岸から約300m以内。潮風が直接当たる 1000時間
キャビネット工業会・盤標準化協議会の技術資料をもとに作成。塩水噴霧は塗装の試験時間で、寿命の年数ではありません。

距離は海岸線からの直線距離で測ります。地図で設置場所から最も近い海岸までを測れば、まず区分の見当がつきます。この区分は業界の目安で、法令で決められた義務ではありません。だからこそ、次の章の現地確認で根拠を足します。

たとえるなら
塩害は、「海辺に置いた自転車」です。
海から近いほど、潮風が当たるほど、早く錆びます。だから海岸からの距離と風の当たり方で、一般・耐塩・重耐塩の仕様を選び分けます。
ここまでのポイント
  • 1km超は屋外、300m〜1kmは耐塩、約300m以内は重耐塩
  • 潮風が直接当たるかどうかも区分の条件
  • 距離は海岸からの直線距離で測る
  • 業界の目安で、法令の義務ではない

距離だけで決めない ― 現地で見る4つのこと

塩の飛び方は、風向き、地形、まわりの建物で大きく変わります。同じ距離でも、傷み方がまったく違うことがあります。距離の区分を出したら、現地で次の4つを確かめます。

まわりの既設の錆、潮風の当たり方、雨で洗われない場所、客先の要望。1つでも当てはまれば、区分を1段上げることを考えます。

いちばん確かなのは、まわりの既設を見ることです。近くの屋外盤やフェンス、手すりに錆が出ていれば、その土地の塩害の強さがわかります。新築でも、隣の建物や道路の金物を見れば判断できます。

見落としやすいのが雨で洗われない場所です。軒下やひさしの下は、付いた塩が雨で流れず残るので、海から離れていても傷みやすくなります。照明器具のメーカーも、雨の当たらない場所では1段上の仕様を勧めています。

ひっかけ注意
「盤が一般仕様の距離なら、照明も一般仕様でよい」ではありません。
照明は盤より目安の範囲が広く、耐塩が20km程度まで及ぶメーカーもあります。機器ごとにカタログの区分で確かめます。
ここまでのポイント
  • まわりの既設に錆があれば1段上げる
  • 海側が開けて風が抜ける場所は厳しく見る
  • 軒下など雨で洗われない場所は塩が残る
  • 特記仕様書・客先の標準を確認する


機器ごとの選び方 ― 基準がない機器は盤に合わせる

塩害の区分がはっきり決まっているのは、盤と照明器具です。発電機やプルボックスには専用の距離の基準がないので、同じ場所に置く盤の区分に合わせます。

キュービクル・盤は塗装区分、外灯は照明の区分、PASは外箱とがいし部の2か所、ケーブルラックは材質の記号で選びます。
機器 基準 選び方
キュービクル・盤 盤の塗装区分 1km・300mで屋外/耐塩/重耐塩
発電機 専用の距離基準なし 盤の区分に合わせ、耐塩・重耐塩の仕様を指定
PAS 外箱と、がいし部の汚損区分 外箱は鋼板/耐塩/SUS。がいし部は別に選ぶ
外灯 照明工業会の目安 重耐塩は約200m以内、耐塩は20km程度まで
プルボックス 専用の距離基準なし 盤に合わせ、SUS・溶融亜鉛めっき・樹脂から選ぶ
ケーブルラック 材質の記号 屋外はZA・Z35。塩害地域は塗装を重ねる
基準がない機器も、同じ場所の盤と同じ区分にそろえると、選び方の根拠が残ります。

PASは、外箱の錆と、がいし・口出線の汚れ(絶縁低下)の2か所で対策が別になります。外箱の材質とモールドコーンの選び方はPASの塩害対策で詳しく扱っています。ケーブルラックの材質記号(ZM・ZA・Z35)はケーブルラックの材質選定で確かめられます。

ボルトや支持金具など小さな金物も忘れがちです。本体を重耐塩にしても、ボルトが先に錆びれば同じです。屋外の金物はステンレスか溶融亜鉛めっきにそろえます。

ひっかけ注意
「塩害仕様なら錆びない」ではありません。
塩害仕様は錆びにくい仕様です。雨で洗われない面に塩が残ると錆は進むので、点検時の洗浄と塗装傷の補修が欠かせません。
ここまでのポイント
  • 盤は塗装区分、外灯は照明の区分で選ぶ
  • 発電機・プルボックスは盤の区分に合わせる
  • PASは外箱とがいし部を別々に選ぶ
  • ボルト・支持金具も同じレベルにそろえる


外灯 ― 照明の区分は20kmまで

照明器具は、盤とは物差しが違います。日本照明工業会のガイドでは、重耐塩は常に飛来塩分が高い地域(海岸から約200m以内が目安)、耐塩は飛来塩分があり天候で高くなる地域(約200m〜20kmが目安)です。盤なら屋外仕様で済む距離でも、照明は耐塩になることがあります。

盤は1km超で一般の屋外ですが、照明器具は20km程度までを耐塩の範囲として見ます。地域によって塩の届く範囲も違います。

飛来塩分がどこまで届くかは、地域でも違います。道路橋示方書では、塩の影響を考える範囲を次のように分けています。

地域 海岸線からの範囲
日本海沿岸部 Ⅰ 20km
日本海沿岸部 Ⅱ 5km
太平洋沿岸部 2km
瀬戸内海沿岸部 1km
沖縄 全域
道路橋示方書・同解説の地域区分。この範囲では、耐候性鋼材を塗装せずに使う前に飛来塩分の確認が要るとされています。照明器具メーカーの資料でも引用されています。

重耐塩の目安を約300mとするメーカーもあるので、採用する器具のカタログで確かめます。器具選定の全体は照明設備の設計マニュアル③ 器具の選定で扱っています。

ここまでのポイント
  • 照明の重耐塩は約200m以内、耐塩は20km程度まで
  • 盤なら一般の距離でも、照明は耐塩になることがある
  • 日本海側は20km、太平洋側は2km、沖縄は全域が目安
  • メーカーで目安が違うのでカタログで確認

長持ちさせる ― 仕様を上げたあとにすること

塩害仕様は「錆びない」ではなく「錆びにくい」です。仕様を上げたあとも、手入れで寿命が変わります。

  • 塩を落とす:雨の当たらない面は塩がたまります。点検のときに水で洗い流すと長持ちします(方法はメーカーの取扱説明書に従います)。
  • 傷は早めに補修:搬入や据付でできた塗装の傷、現場で切った・穴をあけた部分は、そこから錆が広がります。タッチアップや亜鉛の多い塗料で補修します。
  • 点検で錆を見る:扉のすき間、ちょうつがい、ボルト、換気口のまわりは錆が出やすい場所です。

電気設備の施設方法そのものの決まりは、内線規程の塩害を受けるおそれがある電気設備で確かめられます。

ここまでのポイント
  • 塩害仕様は「錆びにくい」であって「錆びない」ではない
  • 雨の当たらない面は、点検のときに洗って塩を落とす
  • 塗装の傷・現場加工部は早めに補修


よくある質問

海岸から何mなら塩害対策が要りますか?

盤・キュービクルの目安では、1km以内が塩害対策の範囲です。約300m〜1kmで潮風が当たらない場所は耐塩、約300m以内で潮風が直接当たる場所は重耐塩です。

耐塩と重耐塩は何が違いますか?

塗装の強さが違います。盤の区分では、塩水噴霧試験の時間が耐塩で500時間、重耐塩で1000時間です(屋外仕様は240時間)。

塩害対策は法令で決まっていますか?

距離の区分は業界の目安で、法令の義務ではありません。まわりの既設の錆や客先の要望も合わせて決めます。

発電機やプルボックスはどう選びますか?

専用の距離の基準がないので、同じ場所に置く盤の区分に合わせます。プルボックスはSUS製・溶融亜鉛めっき製・樹脂製から選びます。

PASは一般とステンレス製の2種類だけですか?

外箱は鋼板製、耐塩、重耐塩(ステンレス製)から選べます。がいし・口出線の汚れ対策(モールドコーンなど)は外箱と別に選びます。

外灯は盤と同じ区分でよいですか?

違います。照明器具は、重耐塩が約200m以内、耐塩が約200m〜20kmが目安です。盤なら一般の距離でも、照明は耐塩になることがあります。

海から離れていても塩害仕様にすることはありますか?

あります。まわりの既設が錆びている場所や、軒下など雨で塩が流れない場所では、区分より1段上げることを考えます。

まとめ ― 取り違えやすいところ

取り違えやすいところ 正しくは
距離の区分を満たせばどこでも同じ 風・雨の当たり方と既設の錆で1段上げる
塩害対策は法令の義務 業界の目安。義務ではない
外灯も1km超なら一般 照明は20km程度まで耐塩の範囲
PASは一般とSUSの2種類だけ 耐塩もある。がいし部は別に選ぶ
本体だけ塩害仕様にすればよい ボルト・支持金具もそろえる
「距離で目安、現地で確認、機器ごとの物差しを使い分ける」の3つで取り違えを防げます。
ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。引込・高圧受変電・幹線・接地を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。