技術図書館PASの塩害対策は外箱とがいしを別に外箱の材質と海岸からの距離の目安、がいし部の強化、区分の値と更新時期この資料をスライドで見る資料一覧を見る

PASの塩害対策は「ステンレス製にする」だけでは終わりません。塩害が痛めるのは外箱(腐食)と口出線・がいし部(汚損)の2か所で、対策する部品も選び方も別だからです。この記事では、外箱の材質と海岸からの距離の目安、モールドコーンの正しい位置づけ、JISの汚損区分の読み方、価格差と更新の目安までを整理します。

結論

塩害対策は外箱の材質と口出線・がいし部の仕様を、別々に決めます。

  • 外箱は 鋼板製/耐塩/重耐塩(ステンレス製)。目安は海岸から1km超/300m〜1km/300m以内
  • 距離の区分は業界で慣行的に使われている値で、規格番号のある基準ではない
  • モールドコーンは主回路の口出線・がいし部を強化する部品。LA専用の対策ではない
  • 耐重塩じん用の区分は 0.35mg/cm²。0.06mg/cm² は区分ではなく「口出線を強化した場合の緩和」
  • 価格差の目安は 鋼板製→SUS製で約8〜11万円、モールドコーン形で約18万円(メーカー標準価格)
  • 屋外用の更新推奨時期は10年。塩害地区では外箱の腐食が寿命を決める
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
この記事は⑤の一項目です。現地の環境を見て決めるので、①のルート決めとセットで確認します。

塩害はどこを痛めるのか

潮風 塩分が運ばれる。
外箱 錆びて腐食する。
がいし部 汚れて閃絡する。
対策 2か所別々に。
たとえるなら
塩害は、海辺の家の「門扉の錆」と「窓ガラスの曇り」
海辺の家では、鉄の門扉が錆びるのと、窓ガラスが塩で白く曇るのは別の困りごとです。門扉に錆止めを塗っても、窓はきれいになりません。PASも、外箱の錆と、がいし・口出線の汚れは別々に手を打ちます。
ここに注意!
「ステンレス製にすれば、塩害対策は終わり」ではありません。
ステンレス製は外箱の腐食への対策です。がいし・口出線に塩じんが付いて絶縁が落ちる汚損には効かないので、重塩害地域ではモールドコーンなどの口出線の強化もあわせて検討します。

塩害というと外箱の錆を思い浮かべますが、高圧機器で怖いのはがいし・口出線の表面に塩じんが付着して絶縁が落ちることです。湿気を吸うと表面に導電経路ができ、閃絡(フラッシオーバ)につながります。外箱の腐食と、がいし部の汚損。対策する場所も、選ぶ仕様も別です。

痛むところ 起きること 対策する仕様
外箱 腐食で穴があき、浸水して内部が劣化する 材質と表面処理(鋼板製/耐塩/重耐塩・SUS製)
がいし・口出線 塩じんの付着で絶縁が低下し、閃絡につながる モールドコーンなどで口出線・がいし部を強化する
どちらか一方だけでは足りません。SUS製にしてもがいし部の汚損対策にはならず、モールドコーンを付けても外箱は錆びます。
ここまでのポイント
  • 塩害が痛めるのは 外箱(腐食)と がいし・口出線(汚損)の2か所
  • 外箱は材質と表面処理で、がいし部はモールドコーンなどで対策する
  • 片方だけでは対策として不十分

外箱の選定 ― 海岸からの距離が目安

1km超 鋼板製。
300m〜1km 耐塩。
300m以内 重耐塩(SUS製)。
目安 現地も見て決める。
ここに注意!
「海岸から300mを超えていれば、重耐塩はいらない」ではありません。
300m・1kmの区分は業界の慣行値で、規格の基準ではありません。風向や標高によっては300mを超えていても重耐塩が必要な場合があるので、潮風の当たり方、既設機器の錆、特記仕様書もあわせて決めます。
仕様 目安となる条件 内容
鋼板製(一般) 海岸から1kmより遠い一般地域 溶融亜鉛めっき鋼板など
耐塩 海岸から 300m〜1km 程度 表面処理と膜厚で耐食性を高めた仕様
重耐塩(ステンレス製) 海岸から 300m 以内 ステンレス鋼板。耐塩じん汚損 0.35mg/cm² の仕様例がある
メーカーによっては、地区別(関東・北陸など)の推奨仕様が用意されていることがあります。

⚠ 距離だけで決めない

この距離区分は業界で慣行的に使われている値で、規格番号のある基準ではありません。出典側も「一概に何mからと判断することは困難」「風向・標高などの環境要因を考慮する必要があり、300mを超えていても重耐塩が必要な場合がある」としています。

実務では、①現地の状況(潮風の当たり方、既設機器の錆の出方)②同じ敷地の他の盤類の仕様③発注者の特記仕様書、の3つを確認してから決めるのが確実です。

ペン太ペン太
海岸から400mなら耐塩でいいんですよね?
ハリタハリタ
目安ではそうです。ただ潮風が直接当たる向きなら重耐塩にします。まわりの既設機器の錆を見ると判断しやすいですよ。
ここまでのポイント
  • 外箱は 鋼板製/耐塩/重耐塩(SUS製)から選ぶ
  • 目安は海岸から1km超/300m〜1km/300m以内
  • この距離は業界慣行値で、規格で決まった基準ではない
  • 風向・標高・既設機器の状態・特記仕様書もあわせて判断する


モールドコーンとは何か

塩じん がいし部に付く。
コーンなし 表面を伝って閃絡。
コーンあり 道のりが長くなる。
LA 内蔵の有無とは別。
ここに注意!
「モールドコーンは、LA(避雷器)の塩害対策」ではありません。
モールドコーンは主回路の口出線・がいし部を強化する部品です。発注時は「外箱の材質」「LA内蔵の有無」「モールドコーンの要否」を分けて指定します。

モールドコーンは、主回路の口出線の付け根(がいし部)をモールドで包んで強化する部品です。沿面距離を稼いで、塩じんが付着しても絶縁が落ちにくいようにします。製品によっては口出線の長さ(100mm²×2.0mなど)とセットの形式になっています。

⚠ 「LAに塩害対策を施した仕様」ではない

モールドコーンをLA(避雷器)の塩害対策と説明されることがありますが、実際は主回路の口出線・がいし部の対策です。LAを内蔵するかどうかとは別の選択肢なので、発注時は「外箱の材質」「LA内蔵の有無」「モールドコーンの要否」を分けて指定します。

JISの耐塩じん汚損区分の読み方

区分 耐塩じん汚損の値 位置づけ
一般用 ― 標準
耐軽塩じん用 ― 区分のひとつ
耐中塩じん用 ― 区分のひとつ
耐重塩じん用 0.35 mg/cm² 重塩害地域向け。メーカー仕様にもこの値が出てくる
(緩和規定) 0.06 mg/cm² 区分ではない。口出線を強化した場合はこの値でよい、という注記
0.35と0.06を並べて「2つの区分」と読むのは誤りです。0.06は緩和規定の値です。引用するJIS C 4605は2020年に改正されているため、版も確認してください。

出典:JIS C 4605(1kVを超え52kV以下用交流負荷開閉器・2020年改正)、JIS C 4607 引外し形高圧交流負荷開閉器、戸上電機製作所・エナジーサポートの製品仕様

ここに注意!
「0.35と0.06は、2つの汚損区分」ではありません。
0.35mg/cm²は耐重塩じん用の区分の値です。0.06mg/cm²は、モールドコーンなどで口出線を強化した場合にこの値でよいという緩和の値です。
ここまでのポイント
  • モールドコーンは主回路の口出線・がいし部を強化する部品
  • LA専用の塩害対策ではない。外箱の材質・LA内蔵の有無とは別の選択肢
  • 耐重塩じん用の区分は0.35mg/cm²
  • 0.06mg/cm²は区分ではなく「口出線を強化した場合」の緩和規定


価格差と、選定の判断

SUS製 約8〜11万円の差。
コーン形 約18万円の差。
更新推奨 屋外用で10年。
腐食 進めば前倒し。
たとえるなら
重耐塩にするのは、海辺で乗る車に防錆加工をしておくこと
最初に少しお金をかけて下回りに防錆加工をしておけば、錆で早く買い替えることになるのを防げます。PASも、初期費用の差より、錆びて早めに取り替える手間のほうが大きくなりがちです。
ここに注意!
「10年たつまでは、更新を考えなくてよい」ではありません。
10年は更新推奨時期の目安です。塩害地区では外箱の腐食が寿命を決めるので、点検で錆・穴あき・塗装の膨れが進んでいれば、年数前でも更新を検討します。
仕様の違い 標準価格の差の目安 備考
鋼板製 → ステンレス製 約8〜11万円 無方向性か方向性かで幅がある
標準形 → モールドコーン形 約18万円 口出線の仕様が変わるため差が大きい
メーカー標準価格にもとづく差の目安です。実際の取引価格とは異なり、価格改定もあるため、金額は必ず最新のカタログで確認してください。

判断のしかたはシンプルです。外箱の腐食は更新周期を直接縮めるので、塩害地区では初期費用の差より、10年後にもう一度足場を組んで取り替える手間のほうが大きくなります。迷う立地なら、周囲の既設機器がどれくらいで錆びているかを見て決めます。

ここまでのポイント
  • 鋼板製→SUS製の差は約8〜11万円、モールドコーン形は約18万円(標準価格の目安)
  • 価格は改定されるため、金額は最新のカタログで確認する
  • 塩害地区では初期費用より更新周期のほうが効いてくる

更新と点検

対象 更新推奨時期・期待寿命 備考
PAS(屋外用) 使用開始後 10年 または定格負荷電流での開閉200回
SOG制御装置 10年 本体と別に見る
外箱 期待寿命 10年(腐食) 塩害地区ではここが寿命を決める
パッキング 10〜15年 経年・永久変形
ピン・ばね 15年 発せい
日本電機工業会「汎用高圧機器の更新推奨時期に関する調査」報告書による。製造者の保証値ではなく更新の目安です。

⚠ 塩害地区の点検で見るところ

  • 外箱:錆・腐食・穴あき、塗装の膨れ、取付金具やボルトの発せい
  • がいし・口出線:塩じんの付着、汚損の程度、ひび割れ
  • 操作紐:切れ・傷み(屋外なので劣化が早い)
  • 接地線:端子部の腐食、外れ・断線
  • 年数に達していなくても、腐食が進んでいれば更新を検討する
選定したPASを、そのまま単線結線図に落とし込めます。機器の配置・接続・開閉動作まで画面上で確認できるブラウザツールです(登録不要)。

単線結線図デザインスタジオを開く

ここまでのポイント
  • 屋外用の更新推奨時期は10年(または開閉200回)。SOG制御装置も10年
  • 外箱の期待寿命は腐食で10年。塩害地区ではここが寿命を決める
  • 年数前でも、腐食が進んでいれば更新を検討する


よくある質問

PASの塩害対策にはどんな種類がありますか?

外箱の材質(鋼板製/耐塩/重耐塩・ステンレス製)と、口出線・がいし部の強化(モールドコーンなど)の2つに分かれます。痛むところが違うので、別々に選びます。

モールドコーンとは何ですか?

主回路の口出線の付け根(がいし部)をモールドで包んで強化する部品です。沿面距離を稼いで、塩じんが付着しても絶縁が落ちにくくします。LA専用の塩害対策ではありません。

ステンレス製にすれば塩害対策は十分ですか?

外箱の腐食対策としては有効ですが、がいし・口出線の汚損対策にはなりません。重塩害地域では口出線の強化もあわせて検討します。

海岸から何mなら重耐塩ですか?

目安は300m以内が重耐塩、300m〜1kmが耐塩です。ただしこれは業界で慣行的に使われている値で、規格で決まった基準ではありません。風向や標高でも変わるため、現地の状況とあわせて判断します。

0.35mg/cm² と 0.06mg/cm² は2つの区分ですか?

違います。0.35mg/cm² は耐重塩じん用の区分の値で、0.06mg/cm² は「モールドコーンなどで口出線を強化した場合はこの値でよい」という緩和規定の値です。

鋼板製とSUS製で価格はどのくらい違いますか?

メーカー標準価格での差は約8〜11万円が目安です(無方向性か方向性かで幅があります)。モールドコーン形にすると標準形との差は約18万円になります。実売価格や価格改定で変わるため、最新のカタログで確認してください。

塩害地区のPASは何年で更新すればよいですか?

屋外用の高圧交流負荷開閉器の更新推奨時期は使用開始後10年です。外箱の期待寿命も腐食で10年とされており、塩害地区ではここが寿命を決めます。

LA内蔵形でも、モールドコーン仕様は選べますか?

LA内蔵の有無とモールドコーンの要否は別の選択肢なので、組み合わせて選べる製品があります。たとえば避雷器内蔵形にモールドコーン仕様を用意しているメーカーもあります。形式の表し方は製品ごとに違うので、カタログで確かめます。


まとめ ― 取り違えやすいところ

取り違えやすいところ 正しくは
モールドコーンはLAの塩害対策仕様 主回路の口出線・がいし部を強化する部品。LA専用ではない
0.35と0.06は2つの汚損区分 0.35は耐重塩じん用の区分、0.06は口出線を強化した場合の緩和規定
SUS製にすれば塩害対策は完了 外箱の対策。がいし・口出線の汚損は別に考える
海岸からの距離は規格で決まっている 業界の慣行値。風向・標高・現地状況で判断する
価格差は数万円 標準価格で 約8〜11万円(SUS)/約18万円(モールドコーン形)
年数が来るまで使える 屋外10年が目安。腐食が進んでいれば年数前でも更新する
発注時は「外箱の材質」「LA内蔵の有無」「モールドコーンの要否」を分けて指定します。

📘 あわせて確認したいこと

本体の定格はPASの選定方法と定格電流の計算、制御電源とVTはPAS内蔵VTの選定と設置基準、方向性の要否は地絡継電器の方向性(DGR)は必要かで扱っています。

出典:JIS C 4605(2020年改正)、JIS C 4607、日本電機工業会「汎用高圧機器の更新推奨時期に関する調査」報告書、戸上電機製作所・エナジーサポートの製品仕様および標準価格。価格と仕様は改定されるため、採用にあたっては最新のカタログをご確認ください。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。引込・高圧受変電・幹線・接地を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。