ニュースの要点

  • 積水化学工業は2026年3月、フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」の事業開始を発表。2027年に年産100MW級のラインを立ち上げ、2030年に1GW級を目指すと報じられている。
  • 政府は2040年に国内導入約20GW、2030年度に発電コスト14円/kWh以下という目標を掲げ、量産投資に最大約1,572億円の補助を決めている。
  • 現行製品の変換効率は15%前後、屋外耐久は10年相当。既存のシリコン型(効率20%超・25〜30年保証)とは、まだ用途で棲み分ける段階にある。

技術の概要 ── 「塗って作る」太陽電池

ペロブスカイトとは、特定の結晶構造をもつ材料群の総称である。太陽電池では、ヨウ素・鉛・有機分子などを組み合わせたペロブスカイト結晶を発電層に用いる。最大の特徴は、この発電層を溶液としてフィルムに「塗布」できる点にある。シリコン型が高純度のインゴットを切り出して作るのに対し、ペロブスカイト型は印刷機のようなロール・ツー・ロール方式で製造できる。

結果として、製品は薄く、軽く、曲げられる。重量はシリコン型の10分の1程度とされ、これまで荷重の制約で太陽光パネルを載せられなかった工場の折板屋根、体育館、高速道路の遮音壁、ビルの壁面などが設置候補に入ってくる。日本は国土面積あたりの太陽光導入量がすでに主要国で最も高く、「平地に置く場所がない」ことが普及の壁になっていた。政府がこの技術を国家戦略に据えた理由はここにある。

項目 シリコン型(結晶系) ペロブスカイト型(フィルム)
製造方法 インゴット切り出し・セル組立 溶液を塗布(ロール・ツー・ロール)
モジュール変換効率(市販品) 20〜23%程度 15%前後
重量 10〜12kg/m²程度 約1/10とされる
耐久性 出力保証25〜30年 10年相当(20年相当を開発中)
主原料の供給 中国が世界シェア約8割 ヨウ素は日本が世界シェア2位
設置できる場所 荷重に耐える屋根・地上 軽量屋根・壁面・曲面にも

なお、研究段階ではシリコンの上にペロブスカイトを重ねる「タンデム型」で30%を超える効率が報告されている(カネカ32.5%、東芝31.3%、エネコートテクノロジーズ30.4%など、いずれも研究セル値)。ただし研究セルの数値と量産モジュールの効率は別物であり、市販品の水準に落ちるまでには通常数年を要する。

実用化の現在地 ── 「実証」から「初期量産」へ

実用化までの距離を「実証段階/初期量産/本格普及」の3段階で見ると、2026年時点のフィルム型は初期量産の入口にある。

先頭を走る積水化学工業は、2024年末に大阪・堺のシャープ旧本社工場を取得し、総事業費約3,145億円のうち最大約1,572億円の国の補助を受けて量産体制を整えてきた。2026年3月27日には積水ソーラーフィルムとしてSOLAFILの事業開始を発表し、当面は既存設備での限定生産、2027年に100MW級ライン、2030年に1GW級の構築を目指すとしている。先行供給先として名前が挙がったのは、さいたま市、滋賀県、西日本高速道路、福岡県、福岡市、東京都の施設で、いずれも金属屋根への設置である。現行製品の仕様は幅30cm、変換効率15%、屋外耐久10年相当と説明されている。

後続も動いている。アイシンは2026年8月、NEDOのグリーンイノベーション基金による次世代太陽電池の実証事業に採択され、300mm角の実用サイズモジュールで量産技術の確立を進める。愛知県は同社製の電池を名鉄神宮前駅のホーム屋根、名古屋高速の料金所壁面、高速道路の遮音壁など9か所に各約1kW設置する実証を2026年7月から順次始めており、中部電力ミライズと関西電力が発電量の評価やPPA事業モデルの検証に加わる。パナソニックホールディングスはガラス一体型(建材一体型)で効率18.1%をうたい、2026年の事業化を目指す。カネカはタンデム型の製品販売を2028年度に計画している。

海外では中国勢の規模が際立つ。UtmoLightは1GWラインを稼働させ、Microquantaは100MWラインからGW級への拡張を進めている。英Oxford PVもタンデム型の商用出荷を始めた。日本勢が「初めて量産する」のではなく、「量産競争にすでに入っている」というのが正確な現在地である。

コストについて、官民協議会は2030年度に14円/kWh以下(タンデム型は12円/kWh以下)という目標を置いている。現時点の製品価格は各社とも公表しておらず、初期の案件は自治体向けの補助事業や実証が中心である。市場価格が見える段階には、まだ達していない。


電気設備の観点から見た課題

設計・施工の実務から見ると、ペロブスカイト太陽電池の課題は「発電層の材料」よりも「電気設備としての扱い」に多く残っている。

第一に、耐久10年という前提の設計。建物の設備更新周期は15〜20年、シリコン型の出力保証は25〜30年で組まれてきた。10年相当の製品を採用する場合、PCS(パワーコンディショナ)や架台、配線の寿命より先にモジュールを交換する前提で、更新のしやすさを最初から設計に織り込む必要がある。壁面や高所に設置するほど、交換工事の足場費が採算を左右する。

第二に、効率15%が意味する面積と回路数。同じ出力を得るのに、シリコン型の約1.3〜1.5倍の面積が要る。フィルム型は1枚あたりの面積が小さく出力も小さいため、ストリング(直列回路)の本数、接続箱の数、直流配線の総延長が増えやすい。壁面設置では配線ルートが屋根よりも長く、露出配線の保護や雨仕舞いの納まりも設計項目になる。

第三に、系統連系と自家消費。環境省の2026年度補助事業では、自家消費率50%以上、FIT/FIPに依存しないことが要件となっている。初期の案件は「売電で回収する」モデルではなく、「自家消費で電気料金を減らす」モデルで組まれる。低圧連系でも逆潮流の有無で保護装置の構成が変わるため、契約種別と連系区分の整理が設計の入口になる。

第四に、防火・落下・廃棄。壁面に貼る以上、外装材としての防火性能や、剥離・落下時の安全性は建築側と共同で確認する項目になる。発電層に鉛を含むため、廃棄・回収の仕組みも整備途上である。設計図書に「撤去時の処理方法」を記載する運用が、今後は標準になると見られる。

裏を返せば、これらは「設計者と施工者の仕事が増える」課題でもある。軽量屋根・壁面という新しい設置場所が開けば、その分だけ電気設備の設計・施工の需要が生まれる。

産業構造とお金の流れ

ペロブスカイト太陽電池の普及で需要が動く領域を、サプライチェーンの上流から順に整理する。ここに挙げる企業名は、報道や公開資料で関与が示されている事実の列挙であり、評価や推奨を意味しない。

原料。発電層に使うヨウ素は日本が世界シェア2位で、千葉県の地下かん水から採取される。国産化戦略の根拠のひとつであり、供給元として伊勢化学工業などの名前が報道で挙げられている。

モジュール製造。積水化学工業(積水ソーラーフィルム、日本政策投資銀行が14%出資)、パナソニックホールディングス、アイシン、東芝、カネカ、エネコートテクノロジーズ(トヨタ系)、リコー、YKK AP(2027年に生産予定)などが開発・量産を進めている。製造装置や封止フィルム、電極材料といった周辺材料の需要も、量産ラインの立ち上げに伴って発生する。

設置・施工。先行案件は自治体庁舎、高速道路施設、駅、工場の金属屋根と壁面である。ここで発生するのは、電気工事(直流配線・接続箱・PCS・連系)と建築工事(下地・防水・防火)の両方であり、既存のシリコン型より施工比率が高くなりやすい。

電力事業。愛知県の実証に中部電力ミライズと関西電力が加わっているように、PPA(第三者所有)モデルで設置費を電力会社側が負担し、利用者は電気料金で支払う形が検討されている。初期の普及はこの形が中心になると見られる。

需要側。2026年度は環境省が調査・導入計画の策定費用を9/10補助する事業を実施しており(第1回公募の締切は2026年10月15日正午)、対象は自治体・民間企業とも含まれる。政府部門は2035年に50〜70MW以上、2040年に100MW以上を率先導入する方針も示している。まず公共が買い手になり、コストを下げてから民間へ、という2010年代のLED照明と同じ道筋である。


関連する政策・補助金

第7次エネルギー基本計画で次世代型太陽電池は国家戦略に位置づけられ、2040年に約20GW(コスト低減が進めば最大40GW)の導入目標が示されている。グリーンイノベーション基金による技術開発支援(次世代太陽電池分野で総額648億円)、GXサプライチェーン構築支援による量産投資補助(積水化学向けに最大約1,572億円)、環境省の導入支援と政府率先導入、官民協議会(JPSCを含む)による規制改革と国際標準化が、支援の四本柱である。補助制度は年度ごとに公募要件が変わるため、最新の公募情報は各省庁の公表資料で確認されたい。

関連する動きを追うには

  • 官民協議会の資料(経済産業省)── 目標値と各社の進捗が公開されている
  • 環境省「ペロブスカイト太陽電池 導入支援」── 公募要領と採択結果
  • 各社のIR資料 ── 設備投資額と量産時期の一次情報

本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。

出典

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ABOUT ME
HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。