消防用設備等 | 避難設備

誘導標識の設置基準
― 避難口・通路誘導標識の実務ポイント

消防法施行令第26条・施行規則第28条の3、平成11年消防庁告示第2号を根拠に、誘導標識の設置対象・設置場所・寸法・蓄光式の性能基準・誘導灯との省略関係までを、設計/施工の実務目線で整理しました。

対象:電気設備設計・消防設備施工の実務者 / 最終確認:2026年7月

01誘導標識とは ― 誘導灯との違い

誘導標識は、避難口の位置や避難の方向を示す「電源を必要としない緑色の標識板」です。電気で光る誘導灯(避難口誘導灯・通路誘導灯・客席誘導灯)とは異なり、外光や照明の反射、あるいは蓄光によって視認させる受動的な避難設備という点が最大の違いです。

項目 誘導灯 誘導標識
電源 常用電源+非常電源(蓄電池等)が必要 不要(蓄光式は光を蓄える)
視認の仕組み 自ら発光 外光・照明の反射/蓄光による発光
主な根拠 規則第28条の2 規則第28条の3
点検 非常電源・光源の機能点検が必要 変形・脱落・汚損・視認障害の確認が中心
位置づけ 避難設備の主軸 誘導灯を補完/小規模用途では主役にもなる
実務ポイント

「誘導標識を付ければ誘導灯を省ける」という単純な関係ではありません。蓄光式誘導標識を設けても、原則として通路誘導灯そのものを免除するものではない点に注意が必要です(省略の条件は後述)。

02設置義務のある防火対象物と法的根拠

誘導標識の設置は、消防法施行令第26条を受け、施行規則第28条の3に具体的基準が定められています。技術上の細目は平成11年消防庁告示第2号「誘導灯及び誘導標識の基準」によります。

設置対象は原則として消防法施行令別表第一の(一)項から(十六の三)項までの防火対象物です。劇場・飲食店・物販店・病院・共同住宅・事務所・駐車場など、ほぼすべての用途が含まれるため、「誘導灯が不要な建物であっても誘導標識は必要」というケースが実務上は数多く発生します。

根拠法令のつながり

  • 消防法施行令 第26条:誘導灯及び誘導標識を設置すべき防火対象物と原則を規定。
  • 消防法施行規則 第28条の2:誘導灯の設置・省略基準。
  • 消防法施行規則 第28条の3:誘導標識の設置基準(設置場所・間隔・省略)。
  • 平成11年消防庁告示第2号:寸法・輝度など技術上の基準。

032種類の誘導標識と設置場所・高さ

誘導標識は、示す情報によって「避難口誘導標識」と「通路誘導標識」に分かれます。それぞれ設置すべき場所と高さの考え方が異なります。

図1|2種類の誘導標識(表示イメージ)

避難口誘導標識と通路誘導標識のイメージ

避難口誘導標識は緑地に白、通路誘導標識は白地に緑で避難の方向(矢印)を示すのが基本。※図は表示内容の模式イメージです。
避難口誘導標識

役割:避難口(屋外への出口・直通階段の出入口など)の位置を示す。

設置場所:避難口の上部又はその直近の避難上有効な箇所。

要件:多数の者の目に触れやすく、採光が識別上十分な箇所に設ける。

通路誘導標識

役割:避難の方向(避難口へ向かう向き)を示す。

設置場所:廊下・通路の床面又はその直近の壁など。曲がり角にも設ける。

高さ:床面又は床面に近い位置。蓄光式を床面付近に設ける場合は床面からおおむね1m以下を目安とする。

床面や床面付近に設ける通路用(特に蓄光式)は、歩行や清掃に耐えられるよう、環境に応じて耐水性・耐摩耗性・耐薬品性を備えたものを選定し、接着剤・両面テープ等で容易に剥がれないよう確実に固定します。階段の始点・終点にも配置し、つまずき防止のため設置高さを統一するのが望ましい運用です。

図2|取付位置・高さのイメージ(断面)

取付位置・高さのイメージ(断面)

避難口誘導標識は避難口の上部又は直近へ。床面付近に設ける通路(蓄光式)誘導標識は、床面からおおむね1m以下を目安に、耐水・耐摩耗仕様で確実に固定する。

04設置間隔(歩行距離7.5m)の考え方

通路誘導標識の間隔は、告示・規則で明確に数値化されています。

つまり「どの地点に立っても、7.5m以内にいずれかの誘導標識が見える」状態を確保するのが基本です。曲がり角は視線が切れて避難方向を見失いやすいため、距離要件とは別に必ず標識を配置します。直線的な長い通路では、標識間の距離が実質的に最大15m程度(両側から7.5mずつ)となるよう割り付けるとイメージしやすくなります。

図3|通路誘導標識の配置イメージ(平面)

通路誘導標識の配置イメージ(7.5m間隔・曲がり角)

各部分から最寄りの通路誘導標識までの歩行距離を7.5m以下に。曲がり角は距離要件と別に必ず設置する。矢印は避難口へ向かう避難方向を示す。
注意

「7.5m」は誘導標識の値です。誘導灯の有効範囲(歩行距離)とは別の基準なので混同しないでください。誘導灯の有効範囲は区分(A級・B級・C級)や表示面の縦寸法によって10〜30m等と変わります。

05表示面の寸法・区分

誘導標識の表示面は、視認性を確保するため最小寸法が定められています。

誘導標識の表示面寸法(平成11年消防庁告示第2号)
形状・種別 最小寸法の基準
正方形 一辺の長さが12cm以上
長方形 短辺10cm以上、かつ面積300cm²以上
高輝度蓄光式(緩和) 短辺8.5cm以上、かつ面積217cm²以上とすることができる

表示は避難口誘導標識・通路誘導標識それぞれの図記号(ピクトグラム)を用い、地色・図の色は基準に適合したものとします。市販の認定品を用いれば寸法・色・図記号は基準を満たしますが、現場で任意にラミネート出力したものなどを使う場合は寸法・色調・退色に注意が必要です。

06蓄光式誘導標識の性能基準

停電時にも一定時間発光する蓄光式誘導標識は、輝度によって「中輝度」「高輝度」に区分され、それぞれ性能基準が定められています。値は代表的な目安であり、実際の適用は所轄消防の審査基準・認定内容によります。

蓄光式誘導標識の輝度の目安
区分 性能の目安(消灯・停電後の平均輝度)
中輝度蓄光式 照射後20分経過時におおむね24〜100mcd/㎡の平均輝度を保有
高輝度蓄光式 停電後20分でおおむね100mcd/㎡以上(用途・条件により300mcd/㎡以上、60分後75mcd/㎡以上を求める場合あり)
最重要ポイント:励起光の確保

蓄光式は光を蓄えて発光するため、性能を保つには平常時に必要な照度が採光又は照明により確保されている箇所に設けなければなりません。窓のない通路や、消灯運用となる場所に貼っても、蓄えるべき光が届かなければ機能しません。採光が不十分な場合は照明でこれを補います。

延べ面積5万㎡以上、15階以上かつ3万㎡以上、複数路線が乗り入れる地下駅舎や地下3層以上といった大規模・高層・地下の防火対象物では、非常電源60分相当に対応する高い輝度性能が求められる場合があります。該当規模の案件では、所轄消防と早期に協議することを推奨します。

07誘導灯による省略・設置免除の関係

誘導標識と誘導灯は、互いの設置を一定条件で省略できる関係にあります。設計段階で最も判断を要する部分です。

① 誘導灯の有効範囲内は誘導標識を省略できる

避難口誘導灯又は通路誘導灯の有効範囲内にある部分には、原則として誘導標識を重ねて設ける必要はありません。誘導灯でカバーされない範囲を誘導標識で補う、という考え方になります。

② 避難が容易な階では誘導標識自体を省略できる場合

代表的な免除条件

避難階において、居室の各部分から主要な避難口までの歩行距離が30m以下であり、かつその主要な避難口を容易に見通し、識別できる場合は、誘導標識を設けないことができます。

ただし、避難口誘導灯の有効範囲外で歩行距離が30mを超える部分などが生じる場合は、その部分について誘導標識が必要になります。「見通せる・識別できる」の判断は所轄消防に委ねられる部分が大きいため、間仕切りや什器のレイアウトを含めて確認します。

誤解しやすい点

逆方向の関係、すなわち「蓄光式誘導標識を設ければ通路誘導灯を免除できる」わけではありません。誘導灯の省略はあくまで規則第28条の2の要件(区分・歩行距離・用途等)に基づくものであり、蓄光式標識の設置がそのまま誘導灯免除の根拠になるものではない点を、設計根拠として明確にしておきます。

08誘導標識の選定フロー(判断チャート)

「その部分に誘導標識が要るのか」「避難口用か通路用か」「蓄光式にすべきか」を、上から順に判断していくフローです。各階の廊下・通路・居室部分など、対象となる範囲ごとに当てはめて確認します。

対象範囲を1つ選ぶ
(各階の通路・居室部分など)
STEP 1 | 判定
その部分は、避難口誘導灯・通路誘導灯の
有効範囲内か?
YES

誘導標識は原則不要
誘導灯でカバーされる範囲。重ねての設置は要さない。

NO ↓ 次へ

STEP 2 へ

STEP 2 | 判定
避難階で、主要な避難口までの歩行距離が30m以下
かつ避難口を容易に見通し・識別できるか?
YES

誘導標識を省略できる場合あり
見通し・識別性は所轄消防の判断による。什器・間仕切り配置後の状態で確認。

NO ↓ 設置が必要

STEP 3 へ

STEP 3 | 分岐
示すべき情報は「避難口の位置」か「避難の方向」か?
避難口の位置

避難口誘導標識
避難口の上部又は直近の、目に触れやすく採光が十分な箇所へ。

避難の方向

通路誘導標識
各部分から歩行距離7.5m以下、及び曲がり角へ。床面又は直近の壁など。

STEP 4 | 仕様の選定
停電時の視認確保が必要か(床面付近設置・暗くなる通路等)?
必要 / 床面付近

蓄光式(中・高輝度)を選定
平常時に採光又は照明で励起光(照度)を確保。床面付近はおおむね1m以下・耐水/耐摩耗仕様。

十分な採光あり

通常(反射式)誘導標識でも可
寸法(正方形12cm/長方形短辺10cm・300cm²等)と視認性を確保。

フロー使用上の注意

このチャートは判断の順序を整理した実務用の目安です。STEP 2の省略可否や蓄光式の適否は、平面図・避難計算をもとに所轄消防の審査基準・指導で最終確認してください。蓄光式を選んでも通路誘導灯そのものが免除されるわけではありません。

09設置上の留意点と施工チェックリスト

基準値を満たしても、視認を妨げる要素があれば避難設備としての意味を失います。竣工前に以下を確認します。

  • 各部分から誘導標識までの歩行距離が7.5m以下、曲がり角にも標識があるか。
  • 避難口誘導標識が避難口の上部又は直近の、目に触れやすい位置にあるか。
  • 表示面の寸法(正方形12cm/長方形短辺10cm・300cm²等)が基準を満たすか。
  • まぎらわしい広告物・掲示物・サインが標識の近くにないか(視認妨害の排除)。
  • 蓄光式は、平常時に採光又は照明で必要な照度が確保される箇所にあるか。
  • 床面・床面付近の標識は耐水性・耐摩耗性を備え、剥がれ・つまずきの恐れがないか。
  • 誘導灯の有効範囲・省略条件との整合が設計根拠として説明できるか。
  • 什器・パーティション設置後も標識が隠れないレイアウトになっているか。
まとめ

誘導標識は「電源のいらない避難設備」ですが、設置場所・7.5mの間隔・寸法・(蓄光式は)光の確保・誘導灯との省略整合という5点を押さえることが実務の要です。規模の大きい建物や省略判断が絡む案件では、平面図・避難計算をもって早期に所轄消防と協議するのが確実です。

主な根拠・参考

  • 消防法施行令 第26条/消防法施行規則 第28条の2・第28条の3
  • 平成11年消防庁告示第2号「誘導灯及び誘導標識の基準」(消防庁)
  • 各消防本部・自治体の消防用設備等審査基準(さいたま市・福岡市 ほか)
本記事は一般的な解説を目的としたもので、2026年7月時点の情報に基づきます。数値や区分は改正・所轄消防の運用により異なる場合があります。実設計・申請にあたっては、必ず最新の法令・告示および所轄消防本部の審査基準・指導内容をご確認ください。