【次世代電力技術の実力 第9回】CCSは2030年に間に合うのか|9案件2,000万トンと、掘るまで確定しない地層
ニュースの要点
年間貯留量の合計目標
貯留ポテンシャル
拠出が求められる管理費用の年数
- 2026年5月22日にCCS事業法が全面施行され、CO2の貯留事業と導管輸送事業が許可制になった。制度の枠組みは整った。
- 先進的CCS事業では9案件が候補に選ばれ、合計で年約2,000万トンの貯留を2030年度までに始めることを目指している。国の当面の目標は年600万〜1,200万トンである。
- ただし地下に本当に入るかは掘らないと分からない。苫小牧は2026年1月に試掘を開始し、首都圏案件は2026年4月に試掘の許可を得たという段階にある。
技術の概要 ── CCSは「3つの事業」の連結である
ひとことで言うと:CO2を「分けて」「運んで」「埋める」。ひとつの技術ではなく、性格の違う3つの事業を鎖のようにつなぐ話である。
CCSはCarbon dioxide Capture and Storageの略で、発電所や製鉄所、セメント工場などから出る排ガスからCO2を取り出し、地下深くの地層に閉じ込める技術を指す。
工程は3つに分かれる。分離・回収は排ガスからCO2だけを取り出す化学プラントの仕事で、アミン系の溶液に吸収させて加熱で追い出す方式が主流である。輸送はパイプラインか専用船で、貯留地点まで運ぶ。圧入・貯留は、地下1,000メートル以深の帯水層などに圧入し、上を粘土質の遮蔽層で蓋をして閉じ込める。
この3工程は、必要な技術も、リスクの性質も、事業主体も違う。分離・回収はプラント技術、輸送は物流、貯留は資源開発である。CCSが難しいのは、性格の違うこの3つを一本の事業として成立させなければならないところにある。
数字で比べる
| 項目 | 分離・回収 | 輸送 | 圧入・貯留 |
|---|---|---|---|
| 主な設備 | 吸収塔・再生塔・熱交換器 | 導管・液化設備・専用船 | 圧入井・圧縮機・監視装置 |
| 主な担い手 | プラントメーカー・排出事業者 | ガス・海運・港湾 | 石油・天然ガス開発 |
| コスト削減目標 | 4分の1以下 | 7割以下 | 8割以下 |
| 主なリスク | エネルギー消費が大きい | 用地・航路・港湾の確保 | 地層が想定どおりか不明 |
| 終わった後 | 通常の設備更新 | 通常の設備更新 | 数十年の監視が続く |
実用化の現在地 ── 制度は整い、地層はこれから
2026年のCCSは、「制度の整備は終わり、地下の確認はこれから」という段階にある。
制度 ── CCS事業法が全面施行
2024年に成立した二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が、2026年5月22日に全面施行された。これにより貯留事業と導管輸送事業が許可制になり、探査から圧入、監視、そして事業終了後の扱いまでが一本の法律で決まった。
特徴的なのは、終わった後の設計が明文化されている点である。CO2の圧入を止めてから原則10年を下らない期間が経過すれば廃止の許可を申請できるが、その際にJOGMECへ管理を移すには、少なくとも30年分の管理業務費用を拠出する必要がある。海洋環境の調査は最低1年以上、季節変動をとらえられる年4回程度の観測が想定されている。貯留するCO2の純度は原則99体積%以上とされた。
つまりCCSは、圧入が終わってからさらに数十年、費用を払い続ける事業として制度設計されている。
案件 ── 9案件、合計で年2,000万トン
事業としてはJOGMECの先進的CCS支援事業が中心になっている。2023年度に7案件で事業性調査が始まり、2024年度には9案件が候補として選ばれて設計作業に入った。国内貯留とアジア大洋州地域での貯留の両方が含まれ、9案件の合計で年間約2,000万トンの貯留を2030年度までに開始することを目標にしている。
2025年度には国内のパイプライン輸送案件で試掘が始まり、2026年度からは排出事業者を束ねた6つのクラスターについて、事業性調査と設計作業が動き出した。
先行しているのが苫小牧と首都圏である。苫小牧では石油資源開発が2025年9月に試掘の許可を得て、2026年1月に試掘を開始した。首都圏の案件はINPEXと関東天然瓦斯開発が九十九里沖を対象とし、日本製鉄の東日本製鉄所から約80kmの導管でCO2を運ぶ構想で、2026年4月に試掘の許可を得ている。
国内の貯留ポテンシャルは11地点で合計160億トンが確認されているとされる。ただしこれは地質データからの推定で、実際に圧入できるかどうかは試掘の結果を待つしかない。
目標との距離
国の目標は、2030年までに年600万〜1,200万トンの貯留を確保し、2050年に年1.2億〜2.4億トンへ拡大するというものである。
電気設備の観点から見た課題
CCSは地下の話に見えるが、地上側では電力を大量に使う設備と、数十年動き続ける監視設備が生まれる。
この連載で扱ってきた他の技術と違い、CCSは「うまくいっても発電量が増えない」という特徴を持つ。純粋にCO2を減らすためだけの費用なので、炭素の値段が上がらないかぎり事業として自立しない。
産業構造とお金の流れ
誰が費用を負担し、どこに工事が生まれるのかを整理する。挙げる企業名は報道や公開資料で関与が示されている事実の列挙であり、評価や推奨を意味しない。
排出事業者。製鉄、発電、セメント、化学など、燃焼や製造工程でCO2を出す事業者が起点になる。首都圏の案件では日本製鉄の東日本製鉄所が排出源として想定されている。2026年度からは複数の排出事業者をまとめたクラスター単位での検討が6件動き出しており、1社では成立しない規模を束ねる形が主流になりつつある。
輸送。導管を敷くか船で運ぶかで、関わる業種が変わる。導管ならガス事業者と土木・配管工事、船なら海運と港湾、そして液化設備が必要になる。CCS事業法の全面施行で導管輸送も許可制になり、事業として位置づけが明確になった。
貯留。試掘・圧入・監視を担うのは資源開発の会社である。苫小牧では石油資源開発、首都圏ではINPEXと関東天然瓦斯開発が名前を連ねる。海底の掘削設備、坑井、圧入設備の建設がここで発生する。
国とJOGMEC。先進的CCS支援事業として調査・設計・試掘の費用を支え、事業終了後には管理を引き受ける。裏を返せば、CCSは最終的に国が長期の責任を持つ前提でしか成り立たない事業だということでもある。
関連する政策・支援
- CCS事業法(2024年成立・2026年5月22日全面施行)── 貯留事業と導管輸送事業を許可制とし、探査から事業終了後の管理までを規定。圧入停止後は原則10年を下らない期間を経て廃止許可を申請でき、国への移管には30年分の管理費用の拠出が必要になる。
- 先進的CCS支援事業(JOGMEC)── 分離回収から輸送、貯留までを一体で支援する枠組み。9案件を候補として、2030年度までの貯留開始を目指す。
- CCS長期ロードマップ── 2030年までに年600万〜1,200万トンの貯留を確保し、2050年に年1.2億〜2.4億トンへ。コストは2023年比で分離・回収を4分の1以下、輸送を7割以下、貯留を8割以下にする目標が置かれている。
- グリーンイノベーション基金── カーボンリサイクル関連の支援は約5,312億円規模とされる。
技術としてのCCSは、世界では既に商用の実績がある。日本で問われているのは、地層が使えるかという地質の問題と、誰がその費用を払い続けるかという制度の問題である。
関連する動きを追うには
- JOGMEC「二酸化炭素の貯蔵等(CCS)」 ── 先進的CCS支援事業の案件一覧と進捗
- 資源エネルギー庁「カーボンマネジメント小委員会」の資料 ── 案件ごとの試掘許可と工程
- 経済産業省 産業保安のCCS関連資料 ── 事業法の省令と技術基準
本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。
出典
- 資源エネルギー庁「CCUS政策の動向について」カーボンマネジメント小委員会 資料4(2026年6月)
- カーボンクレジット.jp「CCS事業法が全面施行、貯留事業の規制枠組み確定」
- JOGMEC「先進的CCS支援事業の概要」
- JOGMEC「国内初のCCS事業化の取り組み 2030年度までのCO2貯留開始に向け、調査7案件を候補として選定」
- 経済産業省「CCS事業化に向けた先進的取組」
- 経済産業省「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)について(概要)」
- GX実行会議「(参考資料)CCS」
- 経済産業省「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」(2023年3月)
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