【次世代電力技術の実力 第2回】洋上風力はなぜ止まったのか|三菱商事撤退・再公募と送電の壁
三菱商事の撤退で洋上風力は「安さ」から「完遂できるか」へ審査が変わった。一方で五島の浮体式、北九州の着床式は2026年に運転を始め、秋田では海底ケーブル工事が動く。技術の中身、再公募の現在地、送電と系統側の課題、そして産業のどこに需要が落ちるのかを整理する。
三菱商事の撤退で洋上風力は「安さ」から「完遂できるか」へ審査が変わった。一方で五島の浮体式、北九州の着床式は2026年に運転を始め、秋田では海底ケーブル工事が動く。技術の中身、再公募の現在地、送電と系統側の課題、そして産業のどこに需要が落ちるのかを整理する。
ニュースの要点
2026年度に再公募
(最大45GW)
2028年6月運転予定
- 2025年8月、三菱商事は第1ラウンドで落札した秋田・千葉の3海域から撤退。建設費が当初想定の2倍超に膨らんだことが理由とされ、政府は2026年度中の再公募に向けて制度を組み直した。
- 一方で現場は動いている。2026年1月に五島で国内初の商用浮体式が、3月には北九州・響灘で国内最大の着床式(25基)が運転を始め、秋田・男鹿沖(315MW・2028年6月運転予定)では海底ケーブル工事が発注された。
- 政府目標は2030年に10GW(稼働ベース5.7GW)、2040年に30〜45GWの案件形成。目標は据え置きだが、価格一辺倒だった審査は「完遂できるか」重視に変わった。
技術の概要 ── 洋上風力は「風車」より「土木と送電」の事業
ひとことで言うと:風車をつくる話ではなく、風車を海に立てて、そこから電気を陸まで運ぶ「土木と送電」の話。事業費の多くもそこに落ちる。
洋上風力発電は、海上に設置した風車で発電し、海底ケーブルで陸上の変電所へ送る仕組みである。陸上風力との違いは、風が強く安定していること、大型の風車を設置できること、そして工事のほぼすべてが海上作業になることにある。現在の主流機は1基あたり15MW級で、ブレードの先端高さは200mを超える。
設置方式は二つに分かれる。水深が浅い海域(おおむね50〜60mまで)では海底に基礎を打ち込む「着床式」、それより深い海域では浮体に風車を載せて係留する「浮体式」を使う。日本は遠浅の海が少ないため、2040年の目標を達成するには浮体式の実用化が前提になっており、2026年1月に五島(長崎)で国内初の商用浮体式が運転を開始した。
| 項目 | 着床式 | 浮体式 |
|---|---|---|
| 対象水深 | 〜50〜60m程度 | それ以深(日本の大半の海域) |
| 基礎 | モノパイル、ジャケットなど | スパー型、セミサブ型など+係留 |
| 国内の実用化段階 | 商用運転中(秋田、北九州など) | 初の商用(五島)が2026年1月に運転開始 |
| 送電 | 66kV級の交流海底ケーブルで陸上変電所へ。大規模化すれば洋上変電所と高圧直流(HVDC)が必要 | |
| 工事の要 | SEP船(自己昇降式作業船)、ケーブル敷設船、基地港湾。国内の船腹と港が不足している | |
技術的に成熟しているのは風車そのものではなく、それを海に立てて電気を陸に運ぶ土木・送電の部分である。事業費の多くもそこに落ちる。
実用化の現在地 ── 「本格普及」の入口で足踏み
安値落札からの反動
「実証段階/初期量産/本格普及」の3段階で見ると、着床式は本格普及の入口、浮体式は実証から初期量産への移行期にある。ただし着床式の普及は、2025年に大きくつまずいた。
再エネ海域利用法にもとづく事業者公募は、2021年の第1ラウンドで三菱商事を中心とする企業連合が秋田県能代・三種・男鹿沖、由利本荘沖、千葉県銚子沖の3海域を、いずれも当時の想定を大きく下回る11.99〜16.49円/kWhの供給価格で総取りした。しかしその後の資材高騰、円安、金利上昇、風車メーカーの供給制約で建設費が当初想定の2倍超に膨らみ、2025年8月27日、三菱商事は3海域からの撤退を正式に発表した。同社の2024年度の関連損失は522億円と報じられている。
これを受けて経済産業省と国土交通省は2025年12月に新しい公募制度をまとめ、2026年1月に詳細を示した。主な変更は、供給価格の想定幅を設けて極端な安値を評価しないこと、物価に連動して基準価格を調整する仕組みを入れること、審査配点を「事業実行面」と「安定供給・サプライチェーン形成」に厚くし、運転開始時期の早さの配点を下げること、応札上限を1者あたり1GWとすること、そして撤退した事業者を次回公募から締め出すことである。撤退3海域の再公募は2026年度中に実施するとされている。
止まっていない案件もある
第2ラウンド(2023年12月選定)と第3ラウンド(2024年12月選定)の案件は準備が進んでいる。秋田県男鹿・潟上・秋田市沖(315MW、JERA・伊藤忠・電源開発・東北電力)は2028年6月の運転開始を予定し、2026年3月に住友電工が66kV交流海底ケーブル約57kmの設計・製造・施工を一括受注した。新潟県村上・胎内沖(684MW、三井物産・RWE・大阪ガス)は2029年6月、長崎県西海市江島沖(住友商事・東京電力RP)は2029年8月の運転開始を予定する。
運転中の設備では、2026年に秋田でブレードの破損が2件報告され、落雷検知の運用に「監視の抜け」があるとして国が点検を指示した。実績が積み上がる一方で、保守の水準も問われ始めている。
電気設備の観点から見た課題
電気設備の設計・施工の立場から見ると、洋上風力の課題は「風車の性能」ではなく「電気を陸に運び、系統につなぐ部分」に集中している。
これらは、事業者にとってはコストだが、電気設備の業界にとっては需要である。風車は輸入でも、送電・変電・接続の設計と施工は国内で行われる。
産業構造とお金の流れ
洋上風力の事業費のうち、風車本体は3〜4割程度で、残りは基礎、設置工事、海底ケーブル、変電設備、保守にかかるとされる。需要が動く領域を上流から整理する。ここに挙げる企業名は、報道や公開資料で関与が示されている事実の列挙であり、評価や推奨を意味しない。
風車本体。国内メーカーは撤退済みで、Vestas(デンマーク)、GE Vernova(米)、Siemens Gamesa(独・西)の3社が供給する。国内案件はVestasの15MW機とGEの18MW機が採用されている。政府は国内サプライチェーン形成を審査項目に加え、部品の国産化を促している。
基礎・浮体。着床式のモノパイル、浮体式の浮体構造は鉄鋼と造船の領域である。大林組、大成建設、鹿島、清水建設、東洋建設などが浮体基礎の低コスト化に取り組み、戸田建設は五島の商用浮体式を手がけた。
海底ケーブル。住友電工と古河電工が国内案件のケーブルを製造・敷設しており、NEDOの基盤技術検討にも両社を含む6社が参画している。北海道〜本州の直流送電が動けば、ケーブル需要は桁が変わる。
工事・船舶。SEP船は五洋建設、清水建設、大林組・東亜建設などが保有し、ケーブル敷設船と基地港湾(秋田、能代、北九州、室蘭など)が制約になっている。船の稼働枠を確保できるかが、事業の実現性そのものを左右する。
事業者・電力。第2・第3ラウンドの事業者はJERA、三井物産、住友商事、丸紅などの連合で、電力会社(東北電力、東京電力、関西電力、大阪ガス)と海外の洋上風力事業者(RWE、bp)が組んでいる。売電はFIP制度にもとづくため、事業者の収入は市場価格+プレミアムで決まる。
送電網。北海道〜本州の海底直流送電は、北海道電力・東北電力・東京電力・電源開発の送配電4社連合と、海外資本を含むもう1陣営が名乗りを上げている。整備費は託送料金を通じて全国の電気料金で回収される仕組みである。
関連する政策・補助金
第7次エネルギー基本計画は洋上風力を再エネの主力電源化の中核に位置づけ、2030年に10GW、2040年に30〜45GWの案件形成目標を維持している。浮体式については2040年に15GWの導入目標が示され、グリーンイノベーション基金で低コスト化の技術開発・実証が進む。2026年度は国土交通省が洋上施工の最適化技術の開発支援(1件あたり年1.5億円まで、最長3年)を公募した。制度面では再エネ海域利用法の改正によりEEZ(排他的経済水域)への展開に道が開かれ、新公募制度は撤退3海域の再公募から適用される。公募要領は年度ごとに変わるため、最新情報は経済産業省・国土交通省の公表資料で確認されたい。
関連する動きを追うには
- 洋上風力促進小委員会の資料(経済産業省・国土交通省)── 公募制度と各ラウンドの進捗の一次情報
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)── 北海道〜本州の連系設備計画
- 各社のIR資料・プレスリリース ── 受注、運転開始、損失計上の一次情報
本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。
出典
- 経済産業省・国土交通省「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」(2026年1月21日)
- 資源エネルギー庁「これまでの洋上風力政策の進捗」
- 「秋田沖の最新動向2026年版 ― 三菱商事撤退から再公募へ」(2026年5月)
- 「三菱商事撤退の洋上風力3海域、2026年に再公募」
- 環境金融研究機構「第二ラウンドで3海域を決定」(2023年12月)
- 住友電工「秋田県男鹿市・潟上市及び秋田市沖洋上風力発電事業向け海底ケーブル工事を受注」(2026年3月17日)
- 古河電工「海底ケーブル予備品及び補修台船のスタンバイサービスの事業開発に関する基本合意」
- エネハブ「北海道〜本州間(日本海ルート)の海底直流送電設備、2陣営が整備の意思表明」
- 日本経済新聞「海底送電の計画提出1年延期 東電など、資金調達難航」
- 総合資格navi「浮体式洋上風力発電は次世代エネルギーの要となるか?」(2026年)
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