こんにちは、HARITAの設計室です。

今回から「引込・受電設備の設計マニュアル」を全6回でお送りします。

建物の電気は、必ずどこかから入ってきます。道路の電柱から架空で引くのか、地面の中を通して引くのか。低圧のまま受けるのか、高圧で受けて建物の中で落とすのか。この「入口をどう設計するか」が、引込・受電計画です。

すでに 高圧受変電設備の設計マニュアル(全14回) で、キュービクルの中身は一通り扱いました。この連載はその手前――電力会社の配電線から、受電点までの話です。

第1回は全体像です。「どこまでが電力会社の設備で、どこからが自分の設備なのか」を押さえたうえで、この計画のいちばん最初の分かれ道である低圧受電か高圧受電かの判断を見ていきます。

引込・受電とは、どこからどこまでの話か

電気は、どこで「自分のもの」になるか責任分界点(PAS・UGS)電力会社の設備発電所 ― 変電所 ― 配電線 ― 引込線維持・管理は電力会社需要家(建物)の設備受変電設備幹線分電盤 ― 器具維持・管理は建物の所有者ここで責任が移る線を引くのは電力会社。責任が移るのは、この一点HARITAの設計室

電気は、発電所から変電所を経て、配電線を通って建物までやってきます。ここまでは電力会社の設備です。そして建物の側には、受変電設備や幹線、分電盤があります。こちらは建物の所有者の設備です。

この2つの境目が責任分界点です。高圧受電なら、架空引込では引込柱に付けるPAS(気中負荷開閉器)、地中引込ならUGS(地中線用開閉器)のところが分界点になるのが一般的です。

新人のうちにいちばん誤解しやすいのが、ここです。「電線を引いてくれるのは電力会社なんだから、こちらは受けるだけ」と思ってしまう。ところが分界点より先で起きた事故は、こちらの責任になります。しかも高圧の場合、自分の設備の事故が配電線を通じて周辺一帯を停電させてしまうことがある。これが波及事故です。

分界点の決め方とPAS・UGSの選定は第4回でじっくり扱います。ここでは「引込・受電の設計とは、この一点をどこに置き、そこまでをどう引いてくるかを決める仕事だ」とだけ押さえてください。

もう少し全体の位置づけを見ておきたい方は、【新人講座 第8回】引込・受変電のきほん が入口として読みやすいと思います。

低圧か高圧か ― 分かれ目は契約電力50kW

50kWで、設計の世界が変わる低圧受電(50kW未満)受変電設備いらない主任技術者選任は不要受ける電圧100V・200V必要な場所分電盤まわり手続き比較的シンプル高圧受電(50kW以上)受変電設備キュービクル主任技術者選任が必要受ける電圧6.6kVを降圧必要な場所置場+保守通路手続き協議と検査50kWは料金表の区切りではなく、設備が増えるかどうかの分岐点HARITAの設計室

引込・受電計画で最初に決まるのは、受電方式です。そしてその判断はほぼ、契約電力が50kWに届くかどうかで決まります。

50kW未満なら低圧受電。電力会社が100V・200Vまで落としたものをそのまま受けるので、建物側に受変電設備は要りません。50kW以上になると高圧受電になり、6.6kVを受けて建物の中で降圧する――つまりキュービクルが必要になります

この数字は電気料金の区分としても出てきますが、設計者にとっては料金表の話ではありません。設備が1台増えるかどうか、置き場所が要るかどうか、有資格者を置くかどうかの分岐点です。

数値は目安として読んでください
50kWは低圧供給の一般的な上限の目安です。実際の供給条件は各電力会社の供給約款と個別協議で決まります。電圧区分そのものの定義は 内線規程の解説|電圧区分(低圧・高圧・特別高圧)の境界と根拠 にまとめています。

実務でよくあるのは、基本設計の段階で「45kWだから低圧でいけますね」と決めたあとに、厨房機器やEV充電設備が追加されて50kWを超えてしまうパターンです。低圧から高圧への変更は、盤を1つ足すような話ではなく、置き場所と工期と契約を丸ごと組み直すことになります。ぎりぎりのときほど、早めに高圧側で当たりをつけておくほうが安全です。

高圧を選ぶと、何が増えるのか

高圧を選ぶと、増えるのは機器だけではない1キュービクル受変電設備そのもの2置き場所保守通路と離隔3主任技術者選任または委託4定期点検月次・年次の点検5受電までの工期協議と検査の時間増えるのは設備だけではない。人と時間も増えるHARITAの設計室

高圧受電にすると増えるものを、5つに分けて並べてみます。

  • キュービクル:受変電設備そのもの。屋外置きか電気室かで、建築との調整内容が変わります。
  • 置き場所:本体の寸法だけでなく、保守通路と周囲の離隔が要ります。計画の初期に建築へ伝えておかないと、あとから「置く場所がない」になります。
  • 電気主任技術者:選任、または外部委託が必要になります。建物の運営コストに効いてきます。
  • 定期点検:月次点検・年次点検が入ります。年次では停電を伴うので、テナントがいる建物では調整事項になります。
  • 受電までの工期:電力会社との協議、竣工検査、受電。低圧よりも確実に時間がかかります。

①②はいわば図面の話で、設計者が気づきやすいところです。見落とされやすいのは③④⑤――人と時間の話のほうです。

「高圧にすると電気料金は安くなります」という説明はよく聞きますが、それは①〜⑤のコストを引いたあとで判断するものです。小規模な建物で、契約電力が50kWぎりぎりのとき、あえて低圧に収める設計をするのは十分に合理的な選択になります。

キュービクルの中身に興味が出てきたら、高圧受変電設備の設計マニュアル① からどうぞ。

引込・受電の設計は、この順番で決まる

引込・受電は、この順番で決まる1負荷を想定する何がどれだけ動くか2契約電力を決める同時に使う量で決まる3受電方式を決める低圧か、高圧か6協議・申込みへ受電日から逆算する5責任分界点を決めるPAS・UGSの位置4引込方式とルート架空か、地中か順番を飛ばすと、必ずどこかで戻ることになるHARITAの設計室

この連載の地図です。6つのステップは、そのまま第1回から第6回に対応しています。

  • ① 負荷を想定する 何がどれだけ動くのか。ここが動くと後ろが全部動きます。
  • ② 契約電力を決める 設備容量の合計ではなく、同時に使う量で決まります(第2回)。
  • ③ 受電方式を決める 低圧か高圧か。今回の話です。
  • ④ 引込方式とルートを決める 架空か地中か、どこから建物に入れるか(第3回)。
  • ⑤ 責任分界点を決める PAS・UGSをどこに置くか(第4回)。
  • ⑥ 電力会社と協議し、申し込む 受電日から逆算します(第5回)。そして工事区分と図面化で締めくくります(第6回)。

順番には意味があります。たとえば④の引込ルートを先に決めてしまうと、③で高圧に変わったときにキュービクルの位置ごとやり直しになります。②の契約電力が固まらないうちに⑥の申込みに進むと、供給条件の提示を受けてから数字が変わって、もう一度協議することになります。

順番を飛ばすと、必ずどこかで戻ることになる――引込・受電はとくにそれが起きやすい領域です。

特別高圧という選択肢

受電電圧の3段階と、その境目低圧受電高圧受電特別高圧受電100V・200Vで受ける6.6kVを受けて建物内で降圧22kV・66kVなど契約電力 50kW契約電力 2,000kWいずれも目安。実際は供給約款と各電力会社の運用で決まりますHARITAの設計室

受電電圧は、低圧・高圧・特別高圧の3段階です。高圧の上には特別高圧があり、目安として契約電力2,000kWあたりから検討対象になります。

大規模な商業施設、工場、病院、データセンターなどが該当します。特別高圧になると変電設備は一気に大がかりになり、専用の建屋や敷地内変電所が要ります。電力会社側の工事期間も年単位になることがあります。

新人のうちに特別高圧の案件を担当することはまずありませんが、「高圧の上にもう一段ある」ことを知っておくだけで、規模感の見当がつくようになります。契約電力の桁を見た瞬間に「これは特別高圧の話だ」と気づけるかどうかは、案外重要です。

なお、近年は系統の空き容量が足りず、申し込んでも接続まで待たされるケースが出てきています。規模の大きい案件ほど、電力会社への相談は早いほうがよいという状況です。

まとめ ― 50kWは、料金表ではなく設計の分岐点

  • 引込・受電の設計とは、責任分界点をどこに置き、そこまでをどう引いてくるかを決める仕事
  • 分界点より先で起きたことは、こちらの責任。高圧では波及事故のリスクがある
  • 低圧か高圧かは、契約電力50kWが目安の分かれ目(数値は目安。供給約款と協議が優先)
  • 高圧にすると増えるのは設備だけではない。置き場所・有資格者・定期点検・工期も増える
  • 設計は「負荷想定 → 契約電力 → 受電方式 → 引込方式 → 分界点 → 協議」の順。飛ばすと戻る
今回の合言葉
50kWは、料金表ではなく設計の分岐点。
料金が変わるのではなく、設備と人と時間が変わります。

よくある質問

Q1. 契約電力が50kWちょうどのときは、低圧ですか高圧ですか?

一般的には50kW以上が高圧受電の対象です。ただし「ちょうど50kW」で計画すること自体が危うい、というのが実務の感覚です。将来の増設や、想定より大きい機器への変更で簡単に超えます。40kW台後半になったら、高圧側の可能性を建築・施主と共有しておくのが安全です。

Q2. 契約電力は、設備容量を全部足せば出ますか?

出ません。すべての機器が同時に全負荷で動くことはないので、需要率などをかけて「同時に使う量」を見積もります。この考え方は次回(第2回)で扱います。計算そのものは 電力会社との契約電力の計算方法【圧縮計算】 が詳しいです。

Q3. 低圧のほうが電気料金は高いと聞きました。高圧にすべきですか?

単価だけを見れば高圧のほうが安くなることが多いですが、キュービクルの費用、置き場所、主任技術者、定期点検の費用がかかります。契約電力が50kWぎりぎりの規模では、これらを引くと低圧のほうが総額で有利になることも珍しくありません。単価ではなく、建物のライフサイクル全体で比較してください。なお、これは一般的な考え方の説明であり、個別の契約判断は電力会社および専門家にご確認ください。

次回予告

第2回は「契約電力の想定」です。設備容量を全部足した数字と、実際に契約する数字はなぜこんなに違うのか。需要率と負荷率、そして圧縮計算の考え方を、図で追いかけます。

合言葉は「契約電力は、設備容量の合計ではない」。→ 第2回 契約電力の想定 を公開しました。

次に読むならこれ【引込・受電設備の設計マニュアル②】契約電力の想定 ― 契約電力は、設備容量の合計ではない設計マニュアル