電気設備サブコン大手9社の平均年間給与|有価証券報告書で読む実額(2025→2026年3月期)
この連載では、電気設備サブコン大手9社の待遇を「会社が自分で公表した数字」だけで比べてきた。手当の開示格差、奨学金返還支援制度――どれも各社サイトの記載を突き合わせる作業だった。今回はいよいよ年収そのものに踏み込む。ただし転職サイトの推定平均年収は一切使わない。根拠にするのは、上場企業が金融商品取引法で開示を義務づけられている有価証券報告書(有報)の「平均年間給与」だけだ。
有報の平均年間給与は、会社が金融庁(EDINET)に提出した公式書類に載る数字で、定義(賞与・基準外賃金を含む、単体・提出会社ベース)まで明記されている。「平均年収◯◯万円」と書くだけで出典も定義も示さない情報とは、信頼性がまるで違う。9社をこの一次情報だけで並べ、建設業・全産業の平均給与(国税庁)と比べたのが本稿だ。
この記事の結論
① 9社の平均年間給与は2025年3月期で712.9万〜906.0万円。9社すべてが建設業平均(565万円)・全産業平均(478万円)を大きく上回る。電気設備サブコン大手は、少なくとも平均値で見れば高待遇の部類に入る。
② 首位は関電工906.0万円、僅差できんでん888.1万円・住友電設882.4万円が続く。最も低いクラフティアでも712.9万円で、建設業平均を約147万円上回る。
③ 最新の2026年3月期(8社)では各社が大幅賃上げ。関電工は1,012万円と1,000万円を突破し、きんでんも997万円に迫る。関電工+11.7%、きんでん+12.3%、ユアテック+10.5%など、前年比二桁増の会社が並ぶ。
④ 住友電設は大和ハウス工業のTOBで2026年3月3日に上場廃止。有報での年収開示は2025年3月期が最後になる。上場していたから見えていた数字が、非上場化で見えなくなる――これも会社選びで意識したい変化だ。
1. なぜ有報なのか:唯一「会社が自分で出した」年収の一次情報
ネットで「◯◯(会社名) 年収」と検索すると、転職サイトや年収推定サイトが数字を出してくる。だが、その多くは口コミや独自推定にもとづくもので、誰が・いつ・どんな定義で集計したのかが不明なことが多い。本連載が一貫して避けてきたのが、この種の出典不明な数字だ。
これに対し有価証券報告書は、上場企業が年に一度、金融庁のEDINETに提出する法定開示書類だ。その「第1 企業の概況/従業員の状況」には、提出会社(単体)の平均年間給与・平均年齢・平均勤続年数・従業員数が数字で載る。会社自身が責任を持って出した公式データであり、9社を同じ物差しで比べられる。
平均年間給与の定義も有報に明記されている。9社の大半は「平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいる」という注記で、残業代や賞与を含んだ税込の年額だ。ただし中電工だけは「賞与、基準外賃金及びライフプラン加算支援金を含む」、日本電設工業は「税込支払給与額であり基準外賃金及び賞与が含まれている」と、注記の文言がわずかに異なる。ほぼ同じ土俵だが、完全に同一定義ではない点は最後の限界の章で触れる。
読み方の注意:これは「若手の年収」ではない
平均年間給与は、その会社の従業員(単体・正社員中心)全員をならした平均だ。後で見るとおり9社の平均年齢は39〜45歳、平均勤続年数は15〜20年で、ベテランを多く含んだ数字である。20代の若手が入社直後にこの金額をもらえるわけではない。あくまで「その会社の平均的な社員像」を映す数字として読んでほしい。

2. 2025年3月期:9社が出そろう最後の共通年度
まず、9社すべてが有報を開示している直近の共通年度=2025年3月期で横並びにしたのが図1だ。(2026年3月期は後述のとおり住友電設が上場廃止で非開示になるため、9社そろい踏みで比べられる最新年は2025年3月期になる。)
結果ははっきりしている。9社すべてが、建設業の平均給与565万円も、全産業の平均給与478万円も大きく上回った。首位は関電工の906.0万円、僅差できんでん888.1万円、住友電設882.4万円が続く。日本電設工業848.4万円までが800万円台だ。最も低いクラフティアでも712.9万円あり、建設業平均を約147万円、全産業平均を約235万円上回っている。
(関電工・2025年3月期)
(クラフティア・同)
(国税庁・2024年)
注記:ベンチマークとは母集団・定義が違う
比較に使った建設業565.4万円・全産業477.5万円は、国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分=2024年)の値で、1年を通じて勤務した全国の給与所得者(パート等を含む個人単位)の平均給与だ。一方、有報の平均年間給与は各社1社の従業員(正社員中心)の平均であり、母集団も範囲も異なる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から年収換算すると、建設業565.3万円・電気工事従事者547.6万円という近い水準になるが、これも定義は別物だ。図の点線・数値はあくまで水準の目安であり、厳密な同一条件の比較ではない。
平均年収の高さは「勤続の長さ」とセットで読む
平均年間給与だけを見ると差がつくが、その背景には平均年齢と平均勤続年数の違いがある。下の表は2025年3月期の4指標をまとめたものだ。平均勤続年数はきんでん19.7年・関電工19.5年と長い一方、日本電設工業15.4年・クラフティア15.8年・四電工16.3年は相対的に短い。勤続が長い会社ほど、年功的な積み上がりで平均給与も高く出やすい。住友電設は平均年齢44.7歳と最も高く、平均給与の高さもこの年齢構成を反映している面がある。
| 会社(証券コード) | 平均年間給与 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) |
|---|---|---|---|---|
| 関電工(1942) | 906.0万円 | 42.4歳 | 19.5年 | 7,856人 |
| きんでん(1944) | 888.1万円 | 41.7歳 | 19.7年 | 8,461人 |
| 住友電設(1949) | 882.4万円 | 44.7歳 | 17.5年 | 1,823人 |
| 日本電設工業(1950) | 848.4万円 | 42.6歳 | 15.4年 | 2,553人 |
| 中電工(1941) | 789.5万円 | 40.1歳 | 18.7年 | 3,400人 |
| トーエネック(1946) | 753.0万円 | 41.7歳 | 19.5年 | 4,942人 |
| ユアテック(1934) | 734.9万円 | 42.0歳 | 19.4年 | 3,811人 |
| 四電工(1939) | 721.4万円 | 40.2歳 | 16.3年 | 2,158人 |
| クラフティア(1959) | 712.9万円 | 39.0歳 | 15.8年 | 6,620人 |
つまり平均年間給与のランキングは、純粋な「給与水準の高さ」だけでなく「その会社にどれだけベテランが多いか」も混ざった数字だ。20代・30代前半の実感年収を知りたいなら、この平均値をそのまま当てはめるのではなく、会社説明会で年齢別・等級別のモデル年収を確認するのが確実だ。

3. 直近5年:2026年3月期に各社がそろって大幅賃上げ
次に、平均年間給与が5年でどう動いたかを会社ごとに追ったのが図2だ。2022〜2024年3月期は横ばい〜微増だった会社が多いが、2025→2026年3月期にかけて各社がはっきりと上振れしている。
最新の2026年3月期では、関電工が1012.3万円と1,000万円を突破し、きんでんも997.0万円と大台に迫った。前年比では関電工+11.7%、きんでん+12.3%、ユアテック+10.5%など、二桁の伸びを記録した会社が並ぶ。物価上昇と人手不足を背景にした近年の賃上げ機運が、電気設備サブコンの平均年収にもはっきり表れている。
(前年比+11.7%)
(前年比+12.3%)
超えた会社
2026年3月期に有報を開示した8社を平均年間給与の高い順に並べると、関電工1012.3万円、きんでん997.0万円、日本電設工業895.4万円、中電工845.1万円、ユアテック812.1万円、トーエネック787.3万円、四電工774.3万円、クラフティア762.0万円、となる。住友電設は上場廃止のためこの年の数字がなく、9社そろっての比較は前章の2025年3月期が最後になる。
4. 住友電設の開示が消える:上場廃止が意味すること
本稿でもう一つ重要なのが、住友電設をめぐる変化だ。同社は大和ハウス工業のTOB(公開買付け)を経て、2026年3月3日に東証プライム市場で上場廃止となった。2025年10月30日にTOB実施が公表され、同年12月に成立、株式併合を経ての上場廃止という流れだ。
上場廃止で何が変わるか。有価証券報告書の提出義務がなくなり、平均年間給与が公衆の目に触れなくなる。住友電設は2025年3月期に882.4万円と9社中3位の高水準を開示していたが、その数字を外部から確認できるのは、これが最後になる可能性が高い。図1・図2で住友電設の線が2025年で止まっているのは、このためだ。
会社選びの視点:年収を「確認できる会社」かどうか
有報の平均年間給与は、上場企業だからこそ誰でも確認できる。非上場企業や、親会社に吸収された子会社では、この数字がそもそも開示されないことが多い。住友電設の例は、「これまで年収を確認できた会社が、資本の動き一つで確認できなくなる」ことを示している。同じ待遇でも、外から検証できるかどうかは情報の非対称性という意味で無視できない差だ。気になる会社が上場しているか、有報を出しているかは、応募前に一度確認しておく価値がある。
5. 転職・就活でこの数字をどう使うか
「有報の平均年間給与」は最も信頼できる年収の一次情報
会社の年収を調べるとき、まず当たるべきは転職サイトの推定値ではなく有報の平均年間給与だ。EDINET(金融庁)や各社IRサイトで無料で読めて、定義も明記されている。面接で「御社の平均年間給与は直近で◯◯万円ですね」と一次情報を踏まえて話せると、調べ方の解像度が一段上がる。
平均値の高さは勤続の長さ込み。自分の年代の年収は別に確認
繰り返しになるが、平均年間給与は平均年齢40歳前後・勤続15〜20年を含む数字だ。若手の年収を知りたいなら、この平均をそのまま当てはめず、会社ごとの年齢別・等級別モデル年収や、初任給からの上がり方を別途確認したほうがいい。
上場しているか=年収を確認できるかも一つの指標
住友電設のように、上場廃止で有報開示が止まる会社もある。気になる会社の年収を継続的に追いたいなら、その会社が上場を続けているか、有報を出しているか自体が、情報開示の面での一つのチェックポイントになる。
6. このデータの限界
以下は本稿が示していないこと
① 平均年間給与は提出会社(単体)の全従業員平均であり、職種・年代・地域・雇用形態を問わない。技術系/事務系、若手/ベテランの区別はなく、個々人の年収とは異なる。
② 単体ベースの数字であり、連結(グループ全体)や子会社・関連会社の従業員は含まない。従業員数の欄も単体の就業人員で、グループの規模とは一致しない。
③ 比較に用いた国税庁・厚労省の平均給与は、有報とは母集団・定義が異なる。水準の目安として並置したもので、厳密な同一条件の比較ではない。
④ 中電工・日本電設工業は平均年間給与の定義注記が他社とわずかに異なる(ライフプラン加算支援金を含む/税込支払給与額)。実務上ほぼ同じ土俵だが、完全に同一定義ではない。
⑤ 住友電設の2026年3月期は上場廃止により非開示。5年推移の窓は2022〜2026年3月期をそろえたが、関電工は2021年3月期の開示もあり、住友電設は2025年3月期が最終開示となる。
⑥ 転職メディアが独自に集計・推定した年収情報は一切使用していない。本稿の数値はすべて各社の有価証券報告書(EDINET提出書類)と、国税庁・厚生労働省の公的統計にもとづく。
出典
各社の有価証券報告書(提出会社の状況・単体):関電工(1942)、きんでん(1944)、クラフティア(1959)、トーエネック(1946)、住友電設(1949)、中電工(1941)、ユアテック(1934)、日本電設工業(1950)、四電工(1939)(いずれも各社の最新期。金融庁EDINET提出書類または各社IR掲載の有報PDF、2026年7月26日取得)。過年度分もEDINET(disclosure2.edinet-fsa.go.jp)で各社名から書類検索できる。
ベンチマーク(全産業・建設業の平均給与):国税庁「民間給与実態統計調査」令和6年分(全業種計477.5万円・建設業565.4万円、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与=給料手当+賞与、税込)。参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和7年(年収換算で建設業565.3万円・電気工事従事者547.6万円)。(いずれも2026年7月26日取得)。
住友電設の上場廃止について:大和ハウス工業による公開買付け(2025年10月公表・同年12月成立)を経て、2026年3月3日に東京証券取引所プライム市場で上場廃止。上場廃止に伴い、有価証券報告書での平均年間給与の開示は2025年3月期(第100期)が最後となる。





