連載「電気設備とお金の話」番外編

第1回では、電気設備を含む建設業の賃金を公的統計6本で検証した。年齢計・全社員の平均という「業界全体の現在地」は、そこでおおむね見えたと思う。

ただし読者からの関心が最も集まるのは、たいてい別の数字だ。「いま、いくらから始まるのか」——初任給である。

初任給は業界の賃金水準を測る指標としては偏りが大きい。年齢も勤続も職責もゼロの一点を切り取っているだけで、生涯賃金とは別の話だ。それでも初任給を見る価値があるのは、これが企業が「今この瞬間、人を採るためにいくら払う覚悟があるか」を金額で公表した唯一の数字だからである。中期経営計画の美辞麗句と違って、初任給は円単位で嘘がつけない。

先に結論

この記事では、電気工事の上場サブコン9社について、公式に開示されている初任給を年度別に並べ直した。結論から言うと、表の半分以上が空欄になった

そして、その空欄の分布自体が、この業界について何かを語っている。

2026年4月入社・大卒の最高
(住友電設)
318,600
同・最低
(ユアテック/九電工)
260,000
最高と最低の差
(月額58,600円)
1.23
9社×5年=45セルの充足率
(20セル)
44.4%

この記事で使うデータと、使わないデータ

使うデータ

  • 各社の公式ニュースリリース(PDF・HTML)
  • 各社の決算説明資料・個人投資家向け説明資料(IR開示)
  • 各社の公式新卒採用サイトの募集要項
  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」結果の概況(令和4年〜令和7年)

使わないデータ

  • 転職サイト・就活まとめサイト・年収ランキングサイトの独自集計
  • 出典年度が特定できない「◯◯社の初任給は△△万円」という孤立した数字
  • 差額からの逆算・按分・推定値

この記事のルール

本連載の方針どおり、推定は一切していない。確認できなかったセルは「非公表」と書く。

空欄を埋めたい誘惑はあったが、埋めた瞬間にこの表の意味がなくなる。


前提の確認:公的統計に「建設業の初任給」はもう存在しない

企業の数字を見る前に、比較の物差しを確認しておく必要がある。ここで一つ、押さえておくべき事実がある。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」は、かつて産業別の新規学卒者初任給を公表していた。しかしこの系列は令和元年(2019年)で終了している。e-Stat に残る「産業別新規学卒者の初任給の推移<平成元年〜令和元年>」が最後の時系列であり、令和2年(2020年)調査以降、産業別の内訳は公表されていない。

さらに令和2年調査から、「初任給」という集計項目そのものが廃止され、「新規学卒者の性、学歴別賃金」という新しい表に置き換わった。同時に学歴区分も変更され、「専門学校」が独立区分として新設された。令和元年以前の数値と単純に接続することはできない。

つまり——

押さえておくべき前提

「電気設備業界の大卒初任給の平均」を示す公的統計は、現在存在しない。

これは重要な前提だ。業界水準を知りたければ、企業が自分で出した数字を一社ずつ拾い集めるしかない。この記事がやっているのは、まさにその作業である。

比較に使える公的統計は、全産業・全国平均の値だけになる。以下がその推移だ。

表1 新規学卒者の賃金(全国・全産業・男女計) 単位:千円

学歴 令和4年
(2022年4月入社)
令和5年
(2023年)
令和6年
(2024年)
令和7年
(2025年)
2022→2025
大学院267.9276.0287.4299.0+11.6%
大学228.5237.3248.3262.3+14.8%
高専・短大202.3214.6223.9235.5+16.4%
専門学校212.6214.5222.8230.7+8.5%
高校181.2186.8197.5207.3+14.4%

出典:厚生労働省「令和4年〜令和7年 賃金構造基本統計調査 結果の概況」第9表/第10表

表1の読み方(定義の注意)

この調査における賃金は「6月分の所定内給与額」=きまって支給する現金給与額から超過労働給与額(時間外・深夜・休日出勤・宿日直・交替の各手当)を差し引いた額。企業が公表する「初任給(基本給)」とは定義が完全には一致しない。企業側の公表額に諸手当が含まれるか否かは各社の表記に従っている。

令和8年(2026年)調査の結果は本稿執筆時点で未公表。企業側の2026年4月入社データと直接比較できる公的統計は存在しない。

全国平均の大学卒は3年で+14.8%(月3.38万円)、高校卒は+14.4%(月2.61万円)。これがベースラインである。


表2 大卒初任給の推移(電気工事上場サブコン9社)

単位:円/月。すべて各社の公式開示に基づく。

会社 2022年4月 2023年4月 2024年4月 2025年4月 2026年4月
住友電設非公表252,400265,200277,400318,600
関電工非公表非公表非公表非公表305,000
きんでん非公表非公表非公表非公表300,000
トーエネック非公表230,000240,000260,000280,000
中電工非公表217,000235,000260,000275,000
ユアテック非公表非公表非公表非公表260,000
九電工(クラフティア)非公表非公表240,000260,000260,000
日本電設工業非公表220,550
※注1
230,930非公表非公表
※注2
四電工非公表非公表非公表非公表非公表
※注3
(参考)全国平均・大学卒228,500237,300248,300262,300未公表

※注1:日本電設工業が2024年3月22日リリースで示した「改正前」の額。同リリースに「2023年4月入社に適用」との明記はないため、直前額として掲載している。

※注2:日本電設工業の公式採用サイトには275,530円(学部卒)が掲載されているが、適用年度の表記がない。2025年4月・2026年4月のいずれに対応するか公式に確定できないため、年度欄には入れていない。同様に修士了289,170円、高専卒262,270円、短大・専門卒255,790円。

※注3:四電工の公式採用サイトには261,500円(大学卒)が掲載されているが、こちらも適用年度の表記がない。ただし引き上げ幅だけは決算説明資料で年次特定できている(後述)。

9社×5年=45セルのうち、埋まったのは20セル(44.4%)。

電気設備サブコン各社の大卒初任給の推移を示す折れ線グラフ。公式開示がある年のみを結んでいる。2022年4月入社は9社とも金額を非公表。住友電設は2023年4月252,400円、2024年265,200円、2025年277,400円、2026年318,600円。トーエネックは2023年230,000円、2024年240,000円、2025年260,000円、2026年280,000円。中電工は2023年217,000円、2024年235,000円、2025年260,000円、2026年275,000円。九電工(クラフティア)は2024年240,000円、2025年260,000円、2026年260,000円。日本電設工業は2023年220,550円、2024年230,930円まで開示。2026年4月入社のみ開示は関電工305,000円、きんでん300,000円、ユアテック260,000円で、四電工は実額を非開示。比較の破線は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」による全国平均・大学卒で、2026年は未公表。
図1 大卒初任給の推移(電気設備サブコン・公式開示分のみ)

表3 高卒初任給の推移

単位:円/月。会社によって「高卒」「技術職」「技能職」と呼称が異なるが、いずれも高校卒業者を対象とした区分。

会社 2023年4月 2024年4月 2025年4月 2026年4月
住友電設(技術職)197,800210,600221,000255,400
トーエネック185,000195,000215,000235,000
中電工非公表非公表非公表230,000
九電工(クラフティア)非公表200,000220,000非公表
日本電設工業(高3卒)186,910
※改正前額
197,390非公表非公表
関電工(技能職)非公表非公表260,000
※二次情報
非公表
きんでん/ユアテック/四電工非公表非公表非公表非公表
(参考)全国平均・高校卒186,800197,500207,300未公表

※関電工の2025年4月・技能職260,000円は、2025年4月に高卒技能職の初任給を一律5万円引き上げた旨を報じた二次情報(東京報道新聞、2026年2月)による。関電工の公式リリースでは金額を確認できていない。同社統合報告書2025には「2024年度に初任給改定、賃金改善を実施」との記載があるが、金額の記載はない

※ユアテックは高卒採用を継続している(2027年度採用計画で高卒技術職約60名・事務職約10名)が、高卒初任給の金額は現行年度分も含めて一切未公開。日本電設工業の現行採用サイトにも高卒区分の金額掲載はない。


表4 2026年4月入社・学歴別の横並び

現時点で最も比較可能性が高いのが、2026年4月入社の断面である。

会社 大学院(修士) 大学卒 高専卒 短大・専門卒 高校卒
住友電設325,200318,600308,400308,400255,400
関電工320,000
※博士335,000
305,000280,000非公表非公表
きんでん315,000300,000275,000275,000非公表
トーエネック291,700280,000256,200246,100
※専門1年241,000
235,000
中電工285,000275,000245,300237,600230,000
ユアテック275,000
※博士292,000
260,000234,500226,900非公表
九電工(クラフティア)275,000260,000239,000非公表非公表

※中電工の額は公式表記で「基本給+資格給」の合計。住友電設・ユアテックは「諸手当除く」と明記。各社の内訳定義は統一されていない。

大卒の最高は住友電設318,600円、最低は260,000円(ユアテック・九電工)。差は月58,600円、倍率1.23倍年額に直せば約70万円の差が、入社時点ですでに開いていることになる。

電気設備サブコン大手9社の2026年4月入社・大卒初任給を高い順に並べた横棒グラフ。住友電設318,600円、関電工305,000円、きんでん300,000円、トーエネック280,000円、中電工275,000円、ユアテックと九電工が260,000円。日本電設工業と四電工は非公表。全国平均・大学卒262,300円の位置に破線。
図2 2026年4月入社・大卒初任給の横並び(大手9社)

検証1 上げ幅は公的統計の平均を上回っているか

年度が特定できている3社について、公的統計と同じ2023年→2025年の区間で比較する。

対象 2023年4月 2025年4月 増加額 増加率
中電工217,000260,000+43,000+19.8%
トーエネック230,000260,000+30,000+13.0%
住友電設252,400277,400+25,000+9.9%
全国平均・大学卒237,300262,300+25,000+10.5%

同じ2年間で、全国平均の大卒初任給は+25,000円(+10.5%)上がった。3社のうち中電工は+19.8%とほぼ倍のペースで上げているが、住友電設は+9.9%と全国平均をわずかに下回る。「サブコンだから一律に上げ幅が大きい」わけではない。

ただし、この見え方はスタート地点の差でほぼ説明できる。2023年時点で中電工の217,000円は全国平均237,300円を20,300円下回っていた。それが2025年には260,000円となり、全国平均262,300円とほぼ並んだ(-2,300円)。上げ幅の大きさは、追い上げの大きさだったということになる。

逆に住友電設は2023年時点ですでに全国平均を15,100円上回っており、2025年時点でも+15,100円で差を維持している。もともと高い会社は、平均並みのペースで上げるだけで位置を保てる。

そして2026年4月に、住友電設は大卒を一気に+41,200円(+14.9%)引き上げた過去5年で最大の引き上げ幅である。同社は2023年から4年連続で初任給改定をプレスリリースしており、その改定幅は2024年+12,800円、2025年+12,200円、2026年+41,200円と、直近で明確に加速している。

2023年→2026年の3年間で見ると、年度が追える3社はいずれも全国平均の3年分(2022→2025の+14.8%)を大きく超える。

対象 2023年4月 2026年4月 増加額 増加率
中電工217,000275,000+58,000+26.7%
住友電設252,400318,600+66,200+26.2%
トーエネック230,000280,000+50,000+21.7%

一方で、九電工(現・クラフティア)は2025年4月の260,000円から2026年4月も260,000円で据え置きである。同社は2024年・2025年と2年連続で全学歴一律+20,000円という大幅な引き上げを行ったが、2026年3月のリリースは組合員平均25,000円(約8.3%)の処遇改善に触れるのみで、初任給への言及がない。据え置きの根拠は採用サイトの「基本給(2026年4月入社)」表記のみである。

この章の結論

上げ続けている会社と、いったん止めた会社がある。これは業界の一律トレンドではなく、各社の判断の差だ。


検証2 高卒初任給の伸びは大卒を上回る

高卒側は、追える会社が少ないながら、傾向が明確に出る。

対象 2023年4月 2026年4月 増加額 増加率
住友電設(技術職)197,800255,400+57,600+29.1%
トーエネック185,000235,000+50,000+27.0%
(参考)全国平均・高校卒 2022→2025181,200207,300+26,100+14.4%

住友電設は3年で+29.1%、トーエネックは+27.0%同じ会社の大卒の伸び(+26.2%、+21.7%)を、高卒の伸びが上回っている。

これは第1回で確認した論点と整合する。建設業では学歴による賃金差が全産業平均よりも小さく、その差はさらに縮まる方向に動いている。同一社の2026年4月時点の大卒/高卒比を見ると——

会社 大卒 高卒 倍率
トーエネック280,000235,00045,0001.19倍
中電工275,000230,00045,0001.20倍
住友電設318,600255,40063,2001.25倍
(参考)全国平均 2025年262,300207,30055,0001.27倍

3社中2社が全国平均の学歴差(1.27倍)より小さい。住友電設は全国平均並みだが、これは大卒側が突出して高いためであり、高卒側の絶対額(255,400円)は全国平均の高卒(207,300円)を月48,100円上回っている

この章の結論

高卒でこの業界に入るという選択は、初任給の断面で見るかぎり、全産業平均と比べて不利ではない。むしろ差は開く方向にある——ただし上位企業に入れれば、という条件つきで。

高卒と大卒の初任給上昇率を対比した棒グラフ。住友電設は大卒+26.2%に対し高卒+29.1%、トーエネックは大卒+21.7%に対し高卒+27.0%で、いずれも高卒の伸びが大卒を上回る。参考として全国平均は大卒+14.8%、高卒+14.4%だが、こちらは2022年→2025年の3年間であり、企業2社の2023年→2026年とは期間が1年ずれている。
図3 高卒初任給の伸びは大卒を上回っているか(2023年→2026年)

検証3 開示していない会社が多すぎる

この記事で最も重要な発見は、おそらく個別の金額ではない。表の空欄の分布である。

初任給の改定を毎年プレスリリースで公表している会社

  • 住友電設:2023年・2024年・2025年・2026年と4年連続。改定前後の額を学歴別に全掲載。年次の再構成が完全にできる唯一の会社
  • トーエネック:2024年・2025年・2026年に「賃金及び賞与などの処遇改善について」を公表。翌年度の予定額まで先出ししている(2027年度は大卒300,000円)
  • 九電工(クラフティア):2024年・2025年に全学歴一律+20,000円をリリース

IR資料でのみ開示している会社

  • 中電工:コーポレートサイトのニュース欄には初任給リリースが1件もない。しかし決算説明資料と個人投資家向け説明資料に、大学卒の改定額が継続的に載っている。2026年3月に採用サイト内の「採用ニュース」でようやく改定を告知した
  • 四電工:初任給の実額はどのIR資料にも一切ない。あるのは引き上げ幅だけ——2024年4月+14,500円、2025年4月+15,000円、2026年4月「毎年一律に引き上げ」(金額非開示)。賃上げ率(組合員平均・定昇込み)は2024年6.84%、2025年6.45%、2026年6.13%と3年分そろっている

ほぼ何も開示していない会社

  • きんでん:2022年〜2025年の初任給が一切確認できない。初任給引き上げに関する公式リリースも0件(未確認であり、非存在とは断定できない)。判明しているのは2026年4月入社の額のみ
  • ユアテック:同上。採用サイトに「2026年度実績」の額があるだけで、過去年度の一次情報は公式サイト上に残っていない。高卒初任給は現行年度分も含めて未公開
  • 関電工:業界最大手の一角でありながら、初任給の金額を公式に開示した資料が2026年4月入社分以外に見つからない。統合報告書2025には「2024年度に初任給改定、賃金改善を実施」とあるが金額なし

そして、年度が書いていない会社

四電工と日本電設工業の採用サイトには初任給額が掲載されているが、「◯年度実績」という年度表記がない。261,500円や275,530円という数字自体は公式だが、それが何年の数字なのかを公式に確定できない。就活生・転職者にとって、これは実質的に「いつの数字かわからない金額」である。

この章の結論

採用競争が激化していると各社が言う一方で、自社の初任給の履歴を公開している会社は9社中3社しかない。

これは推測だが、開示している会社ほど、初任給を「競争上の武器」として使う意思がはっきりしている。住友電設が改定前後を並べて出しているのは、上げ幅そのものを見せたいからだろう。逆に、公式リリースを出さない会社の初任給が上がっていないとは限らない——記録が残っていないだけかもしれない。ただし記録が残っていないという事実は、求職者が自分で検証できないことを意味する。

電気設備サブコン大手9社の大卒初任給について、2022年4月から2026年4月までの5年分の公式開示状況を示したマトリクス図。45セル中20セルのみ金額が確認でき、充足率は44.4%。社別の開示年数は住友電設・トーエネック・中電工が4年、九電工(クラフティア)が3年、日本電設工業が2年、関電工・きんでん・ユアテックが1年、四電工が0年。年別の開示社数は2022年が0社、2023年が4社、2024年が5社、2025年が4社、2026年が7社。
図4 開示状況マトリクス:9社×5年=45セルのうち埋まったのは20セル

反証の検討

この記事の結論を弱める材料を、先に挙げておく。

1. 初任給は生涯賃金と相関しない

初任給が高いことと、30代・40代で高いことは別問題である。初任給を大きく引き上げた企業が、その原資を中堅層の昇給抑制から捻出している可能性は排除できない。実際、九電工が2026年に初任給を据え置いた一方で組合員平均25,000円(約8.3%)の改善を行ったのは、原資配分を若手から中堅にシフトさせた例と読める。初任給の順位を企業選びの主軸にするのは危険だ。

2. 「初任給」の定義が各社バラバラ

中電工の275,000円は「基本給+資格給」の合計。住友電設・ユアテックは「諸手当除く」と明記。他社は内訳が明示されていない。地域手当・住宅手当・固定残業代の扱いが揃っていないため、表4の横並びは厳密な比較にはならない。額面の順位が手取りの順位と一致する保証はない。

3. 全国平均との比較は定義が一致していない

賃金構造基本統計調査の値は「6月分の所定内給与額」であり、4月の提示額そのものではない。また同調査は5人以上規模の民営事業所を対象とするため、上場企業だけを見る本記事の対象とは母集団が異なる。「サブコンは全国平均を上回る」という比較には、この定義差の分だけ幅がある。

4. 生存者バイアス

この記事は上場9社しか見ていない。電気工事業には数万社の中小企業があり、その大半は初任給を公表していない。上場サブコンの初任給は、業界の上限に近い側を切り取っている。

5. 2022年度が全社空白

2022年4月入社の初任給は9社すべてで確認できなかった。各社が当時は開示していなかった可能性が高いが、断定はできない。過去のウェブページを復元する手段(アーカイブサイト)はこの調査環境から利用できなかった。したがって「2022年から急に上がり始めた」という主張は、本記事のデータでは支持も否定もできない。


まとめ

このデータから言えること

  1. 年度が追える3社(住友電設・トーエネック・中電工)は、2023年→2026年の3年間で大卒初任給を+21.7%〜+26.7%引き上げた。全国平均の3年分(2022→2025で+14.8%)を明確に上回る
  2. 上げ幅の大きさは、スタート地点の低さとほぼ対応している。中電工は2023年に全国平均を月20,300円下回っていたが、2025年にほぼ追いついた
  3. 高卒の伸びが大卒の伸びを上回っている。住友電設+29.1%、トーエネック+27.0%(いずれも2023→2026)。同一社内の大卒/高卒比は1.19〜1.25倍で、全国平均の1.27倍より小さい会社が多い
  4. 2026年4月入社の大卒初任給は、最高318,600円・最低260,000円で1.23倍の差。年額に直せば入社時点で約70万円の開きがある
  5. 全社が毎年上げ続けているわけではない。九電工(クラフティア)は2024年・2025年に一律+20,000円ずつ引き上げた後、2026年は据え置いた
  6. 電気設備業界の初任給水準を示す公的統計は存在しない。賃金構造基本統計調査の産業別初任給は令和元年で系列が終了しており、比較できるのは全産業平均だけである

このデータでは言えないこと

  1. 業界全体の初任給水準。上場9社しか見ておらず、しかもうち3社は年度別の履歴が取れない。中小企業は含まれていない
  2. 2022年からの変化。2022年4月入社分は9社すべて未確認。始点が置けない
  3. 初任給の高さと生涯賃金の関係。この記事は入口の一点しか見ていない。第2回で扱う賃金カーブと合わせて読む必要がある
  4. 手取りの比較。諸手当・固定残業代・地域手当の扱いが各社で異なり、額面の順位が可処分所得の順位を意味するとは限らない
  5. 開示していない会社が上げていないかどうか。きんでん・ユアテック・関電工の履歴が取れないのは、開示方針の問題であって賃金政策の評価ではない

実務者への含意

若手実務者が自社の位置を確認するとき、この表は「自分が入社した年の初任給」との比較に使える。ただしもっと重要なのは、自社が初任給を毎年いくら上げているかを、自分が調べられるかどうかだ。

初任給の改定は、多くの場合ベースアップと連動している。自社の初任給が3年で+25%上がっているのに自分の給料が+5%しか上がっていないなら、それは原資が新卒側に厚く配分されているということであり、社内で問うべき事実になる。逆に自社が初任給を公表していないなら、そもそも比較の材料がないということだ。

各社のIR資料——決算説明資料と個人投資家向け説明資料——は、この情報が最も高い確度で残っている場所である。上場企業に勤めているなら、自社のIRページを一度見ておく価値がある。中電工の例のように、採用サイトにもニュースリリースにも載っていない数字が、投資家向け資料には載っていることがある。


次回予告

次回(第2回)は、初任給の先を見る。年齢・企業規模・勤続年数の3軸で賃金カーブを描き、「自分の給料は業界のどこにいるのか」に答える。建設業の賃金カーブが50代前半まで伸び続ける一方で、企業規模1,000人以上と10〜99人では40代で月10万円以上の差が開く——その構造を賃金構造基本統計調査で確認する。


出典一覧

公的統計

住友電設

トーエネック

中電工

九電工(株式会社クラフティア)

日本電設工業

四電工

ユアテック

関電工・きんでん

  • 各社公式新卒採用サイトの募集要項(2026年4月入社分)。両社とも過去年度の初任給を公表した一次資料は確認できなかった
  • 関電工の技能職初任給引き上げ(2025年4月・月26万円)は二次情報:東京報道新聞
    https://tokyonewsmedia.com/archives/18455

本記事の更新方針

更新方針

初任給の改定は各社とも3月〜5月に集中して発表される。本記事は毎年3〜4月の各社リリースを反映して更新する。現時点で空欄になっているセルも、各社が過去分を開示した時点で追記していく。

現在の充足率は9社×5年=45セル中20セル(44.4%)。この数字がどこまで上がるかは、業界の開示姿勢がどう変わるかを測る指標でもある。


本記事の数値はすべて上記の一次資料(および明示した二次情報1件)に基づく。確認できなかった数値は推定せず「非公表」と記載した。誤りを見つけられた方はご指摘いただきたい。

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