第1回 防爆とは何を防ぐことか
防爆の話は、機器の型番から入ると必ず遠回りになります。先に押さえるべきなのは、何がどれだけ危険なのかという数字と、どの法令がどこにかかるのかという枠組みです。この回では、そこを数値で確かめます。
結論
電気設備が断てるのは、爆発の3要素のうち着火源だけ機器を選ぶ前に、扱う物質の引火点と、着火に必要なエネルギーの大きさを知っておく。
- 爆発には可燃性ガス・酸素・着火源の3つが要る。前の2つは工程が持ち込むもので、電気工事では消せない。
- ガソリンの引火点は−43℃以下。常温で蒸気を出す物質かどうかが、危険場所になるかの分かれ目になる。
- 人体にたまる静電気は約0.8mJ。ヘキサン0.24mJ、プロパン0.25mJなので、静電気の一発で着火する。
- 労働安全衛生法・電気事業法・消防法が、機器・工事・施設の3方向から同時にかかる。
- 防爆は、結局なにを防いでいる?
- 引火点が常温より低いと何が起きる?
- どれくらいのエネルギーで着火する?
- 実際の事故はどう起きている?
- 法令はどれがかかる?
- d2G4 と Ex d IIB T4 の違いは?
- この連載では何を扱う?
防爆は、何を防いでいるのか
防爆という言葉は「爆発を防ぐ」と読めるが、電気設備の側でできることは限られている。爆発が起きるには、可燃性のガスや蒸気、酸素、そして着火源の3つがそろう必要がある。このうち前の2つは、プラントや工場の工程そのものが持ち込むものであり、電気工事で消すことはできない。
したがって防爆工事の目的は一点に絞られる。危険な雰囲気ができうる場所で、電気設備が着火源にならないようにすることである。着火源になるのは、開閉器の火花やモータのブラシのアークだけではない。電球や巻線の高温部、絶縁不良による地絡、静電気、そして工事中の工具も含まれる。
この視点に立つと、防爆工事で問われるのが「防爆機器を買ったかどうか」ではないことがわかる。機器と工事と保守が一体でなければ、着火源は残る。以下では、その「危険な雰囲気」と「着火源」が、数字としてどのくらいの大きさなのかを先に押さえておく。
- 爆発の3要素のうち、電気設備が断てるのは着火源だけ。
- 着火源はアークや火花だけでなく、高温部・静電気・地絡も含む。
- 機器・工事・保守のどれかが欠けると、着火源は残る。
引火点 ── 常温で蒸気を出すかどうか
💡 引火点が常温より低い物質は、置いてあるだけで蒸気を出している
危険場所になるかどうかは、まずここで分かれます。
危険場所になるかどうかを最初に分けるのが引火点である。引火点とは、その液体が可燃性の蒸気を出し、火を近づけると引火する最低の温度をいう。常温より低ければ、缶を置いてあるだけで蒸気が出ていることになる。
ガソリンの引火点は−43℃以下とされ、真冬の屋外でも蒸気を出す。一方、灯油は40〜60℃、軽油は40〜70℃、重油は60〜100℃で、常温では蒸気を出さない。同じ「油」でも扱いが大きく違うのは、この差による。
| 物質 | 引火点 | 発火点 | 燃焼範囲 | 蒸気比重 |
|---|---|---|---|---|
| ガソリン | −43℃以下 | 約300℃ | 1.4〜7.6vol% | 3〜4 |
| トルエン | 4℃ | — | — | — |
| キシレン | 27℃ | — | — | — |
| アセトン | −20℃ | 約469℃ | — | — |
| メチルアルコール | 11℃ | 約385℃ | — | — |
| 灯油 | 40〜60℃ | 約255℃ | — | — |
| 軽油 | 40〜70℃ | 約250℃ | — | — |
| 重油 | 60〜100℃ | 250〜380℃ | — | — |
もうひとつ見落とせないのが蒸気比重である。ガソリンの蒸気は空気の3〜4倍重く、床面やピット、側溝の底にたまる。「換気扇は付けてあります」という現場で、換気扇が天井にしかない例は多い。重い蒸気は、いちばん濃いところが動かないまま残る。
燃焼範囲も押さえておきたい。ガソリンは空気中で1.4〜7.6vol%の濃度のときに着火する。下限の1.4%は、感覚的には「においがはっきりわかる」よりも薄い領域である。濃すぎても薄すぎても燃えないが、漏れが始まれば必ずその範囲を通過する。
- 引火点が常温より低い物質は、常に可燃性の蒸気を出している。
- ガソリンの蒸気は空気の3〜4倍重く、低いところにたまる。
- ガソリンの燃焼範囲は1.4〜7.6vol%。漏れれば必ずこの帯を通る。
着火エネルギー ── 静電気だけで足りてしまう
💡 人体にたまる静電気は約0.8mJ、ヘキサンの着火に要るのは0.24mJ
ドアノブでパチッとくる一発で、着火する側に入っています。
着火源の側も、数字で見ると印象が変わる。物質ごとに、着火に必要な最小のエネルギー(最小着火エネルギー)が決まっている。単位はミリジュールで、多くの物質が1mJに満たない。
比較のために、人体にたまる静電気を見ておく。帯電電位が4,000V、静電容量が100pFのとき、人体に蓄えられる静電エネルギーは約0.8mJになる。4,000Vというのは、乾いた冬にドアノブでパチッとくる程度の帯電である。この一発で、ヘキサンもプロパンもメタンも着火する計算になる。
開閉器の接点で飛ぶ火花は、これよりはるかに大きい。「小さなスイッチだから」という直感は、この領域では通用しない。防爆機器が求められるのは、感電や火災の心配だけでなく、この桁のエネルギーを外に出さないためである。
| 物質 | 最小着火エネルギー |
|---|---|
| 二硫化炭素 | 0.009 mJ |
| 水素 | 0.019 mJ |
| アセチレン | 0.019 mJ |
| エチレン | 0.07 mJ |
| ジエチルエーテル | 0.19 mJ |
| ベンゼン | 0.20 mJ |
| ヘキサン | 0.24 mJ |
| プロパン | 0.25 mJ |
| メタン | 0.28 mJ |
| アセトン | 1.15 mJ |
水素やアセチレンは0.02mJを切る。これらを扱う場所で機器グループIICが求められるのは、この差による(第3回で扱う)。
- 多くの物質は、1mJに満たないエネルギーで着火する。
- 人体の静電気(4,000V・100pFで約0.8mJ)でも十分足りる。
- 開閉器の火花はこれよりはるかに大きい。
実際に起きていること
⚠️ 着火源が電気とは限らない。だが電気設備は、こちらから消せる着火源である
はしごの火花やライターは、その場の判断に左右されます。電気設備は、設計と施工の段階で潰せます。
公表されている災害事例を2件だけ挙げる。どちらも、着火源そのものは電気設備ではない。
| 事例 | 何が起きたか | 着火源 |
|---|---|---|
| 地下のガソリンタンクの洗浄作業中に爆発 | タンク撤去工事で、内部に可燃性蒸気が滞留していた。1名が死亡、1名が入院。電動ファンによる換気が不十分で、作業中に蒸気濃度を測定していなかった。 | 鉄製はしごとタンクの衝撃による火花 |
| 接着剤の有機溶剤の蒸気に引火し爆発 | 集合住宅の改装工事で、n-ヘキサンを65〜75%含む接着剤を塗布したあと、窓を閉め切った室内で作業。作業計画も有機溶剤作業主任者の選任もなかった。 | パテを軟らかくするために点けたライター |
- どちらも、蒸気がたまる状態を作ったうえで小さな着火源が加わっている。
- 爆発は「大きな火」から始まるとは限らない。
- 電気設備は、設計と施工でこちらから消せる着火源である。
法令は3つ重なってかかる
💡 労働安全衛生法が機器、電気事業法が工事の方法、消防法が施設
どれか1つを満たせば済む、というものではありません。
防爆にかかわる法令は1つではない。現場では、次の3つが同じ設備に重なってかかる。どれか1つを満たせば済むものではないので、初めて防爆の案件を担当するときは、まずこの重なりを整理しておきたい。
| 法令 | 所管 | おもな対象 | 現場で効いてくる場面 |
|---|---|---|---|
| 労働安全衛生法 | 厚生労働省 | 防爆構造の電気機械器具 | 機器の選定。型式検定に合格した機器かどうかを、合格証と表示で確認する。 |
| 電気事業法 | 経済産業省 | 電気工作物の工事方法 | 施工。電気設備技術基準の解釈 第176条などが、金属管工事やケーブル工事の方法を定める。 |
| 消防法 | 総務省消防庁 | 危険物を貯蔵・取り扱う施設 | 施設としての位置づけ。電気設備については「電気工作物に係る法令の規定による」とされ、結局は電技解釈に戻る。 |
実務でつまずきやすいのは、機器の検定にばかり目が行って、工事方法の側が抜けることである。検定合格品を使っていても、電線管のねじ込みが足りなければ、その部分は防爆として成立しない。逆に、工事は指針どおりでも、機器が検定合格品でなければ同じことになる。
- 3つの法令が、機器・工事・施設の3方向から同時にかかる。
- 機器の検定に目が行って、工事方法が抜けることが多い。
- 消防法の電気設備は、結局は電技解釈に戻ってくる。
表示が2系統あるのはなぜか
💡 「d2G4」と「Ex d IIB T4」は、拠り所にしている基準が違う
表記のゆれではありません。銘板を見たら、まずどちらの系統かを確かめます。
現場で機器の銘板を見ると、「d2G4」のような表示と、「Ex d IIB T4」のような表示の両方に出会う。これは表記のゆれではなく、拠り所にしている基準そのものが違う。
厚生労働大臣が定めた規格は電気機械器具防爆構造規格だが、実際の検定では、工場電気設備防爆指針にもとづく従来の系統と、国際規格に沿った国際整合防爆指針にもとづく系統の2つが運用されている。メーカーはどちらでも検定を受けられるが、1台の機器に両方の基準を部分的に混ぜて適用することはできない。
交付される型式検定合格証の様式は同じで、法令上の扱いにも差はない。したがって設計側が気にすべきなのは、どちらが上か下かではなく、表示の読み方を両方知っておくことである。読み方は第3回で扱う。
- 構造規格の系統と、国際整合防爆指針の系統が並存している。
- 1つの機器に両方の基準を部分的に適用することはできない。
- 合格証の様式と法令上の扱いは、どちらでも同じ。
この連載で扱う範囲
防爆は範囲が広いので、現場で判断が必要になる順に並べます。
- 第1回(本記事) ── 防爆とは何を防ぐことか。3つの要素と、重なってかかる3つの法令。
- 第2回 ── 危険場所の区分。ゾーン0・1・2をどう決め、旧区分とどう対応するのか。
- 第3回 ── 防爆構造の種類と表示の読み方。耐圧・安全増・本質安全の使い分け。
- 第4回 ── 機器の選定。型式検定、機器グループ、温度等級から絞り込む手順。
- 第5回 ── 施工と検査。金属管工事、シーリングフィッチング、ケーブルグランド、接地、そして定期の点検。
- 第6回 ── 配管工事とケーブル工事の違い。どこでガスを止めるのか。
- 第7回 ── 保管庫の照明とスイッチ。整備工場の小さな保管庫で、庫内に残す機器をどこまで減らせるか。
💡 この回のまとめ
常温で蒸気を出す物質があること、そして着火に必要なエネルギーは静電気1回ぶんで足りること。この2つを踏まえると、「念のため防爆にする」ではなく「ここは着火源を残せない」という判断ができるようになります。
よくある質問
防爆とは、何を防ぐことですか?
電気設備が着火源にならないようにすることです。爆発には可燃性ガス・酸素・着火源の3つが要りますが、前の2つは工程が持ち込むもので、電気工事では消せません。電気の側で断てるのは着火源だけです。
引火点が常温より低いと、どうなりますか?
置いてあるだけで可燃性の蒸気を出している状態になります。ガソリンの引火点は−43℃以下で、真冬の屋外でも蒸気が出ます。一方、灯油は40〜60℃、軽油は40〜70℃で、常温では蒸気を出しません。
静電気だけで着火することはありますか?
あります。人体の帯電電位が4,000V、静電容量が100pFのとき、蓄えられる静電エネルギーは約0.8mJです。ヘキサンの最小着火エネルギーは0.24mJ、プロパンは0.25mJなので、静電気の一発で着火しうる計算になります。
防爆にかかわる法令はどれですか?
労働安全衛生法(機器の型式検定)、電気事業法(工事の方法。電気設備技術基準の解釈 第176条など)、消防法(危険物施設としての構造・設備)の3つが同じ設備に重なってかかります。
「d2G4」と「Ex d IIB T4」は何が違いますか?
拠り所にしている基準が違います。前者は構造規格、後者は国際整合防爆指針にもとづく表示です。どちらで検定を受けても合格証の様式と法令上の扱いは同じですが、1つの機器に両方を混ぜて適用することはできません。
防爆機器を買えば、それで足りますか?
足りません。機器と工事と保守が一体でなければ着火源は残ります。検定合格品を使っていても、電線管のねじ込みが足りなければ、その部分は防爆として成立しません。
本記事は公開情報にもとづく一般的な解説です。物性値は資料により幅があり、実際の設計では扱う製品のSDSによってください。設計・施工にあたっては、所轄の労働基準監督署・消防機関・産業保安監督部および発注者の社内基準を確認してください。


