技術図書館高調波流出電流計算を9枚のスライドで読む発生機器の抽出 → 検討要否の判定 → 等価容量の計算まで、図解つきで通して確認できます。スライドを見る資料一覧を見る

高調波流出電流計算というと身構えますが、実際に電卓を叩くところまで進む物件は多くありません。指針の手順は第1ステップ(等価容量で判定)第2ステップ(流出電流で判定)に分かれていて、ほとんどは第1ステップで終わります。この記事では、その第1ステップ=いわゆる簡略方法を、適用範囲の確認から発生機器の抽出、換算係数の確認、検討要否の判定、等価容量との比較まで、計算例つきで順に追いかけます。

結論

第1ステップには3つの出口があります。そこに当たれば流出電流の計算は不要です。

  • 計算が必要なのは新設/高調波発生機器の新設・増設・更新/契約電力相当値・受電電圧の更新のとき(減設だけの変更は対象外)
  • 発生機器は負荷リストから拾い、機器の仕様書(特記事項欄)で対策の有無を確認する
  • 1相あたりの入力電流が20A以下の機器は適用範囲外(JIS C 61000-3-2)
  • 換算係数 Ki は6パルス・リアクトルなし3.4/リアクトル付1.8/交・直流側1.4/12パルス0.5/24パルス0.25
  • 検討要否の条件をすべて満たせば、等価容量も計算せずに検討終了
  • 等価容量 P0 = Σ(Ki × Pi)。高圧受電かつコンデンサがすべて直列リアクトル付ならP0×0.9
  • 限度値は6.6kV:50kVA/22・33kV:300kVA/66kV以上:2,000kVA
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
①〜⑥がこの記事の範囲です。④か⑥で終われば、流出電流の計算はしません。
この記事で読めるようになる用語:高調波進相コンデンサ直列リアクトル力率

そもそも計算が要るのか(適用範囲)

高調波流出電流計算は、高圧または特別高圧で受電する需要家が対象です。そのうえで、すべての工事で必要になるわけではありません。指針が適用されるのは次の3つの場合です。

減設によって契約電力相当値が下がるだけの変更は、対象になりません。
場面 対象になるか 見るところ
新設 対象 受電設備を新しく作る。計算書は電力会社への申込みに添える
高調波発生機器の新設・増設 対象 空調・昇降機・UPSなどを新たに入れる
高調波発生機器の更新 対象 更新の前後で換算係数Kiが変わることがある
契約電力相当値の更新 対象 上限値は契約電力に比例するため、増えれば余裕も増える
受電電圧の更新 対象 6.6kV→22kVなどで限度値も上限値も変わる
減設による変更 対象外 契約電力相当値が下がるだけなら計算しない
出典:高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン、JEAG 9702 高調波抑制対策技術指針。
ペン太ペン太
空調機を同じ容量で入れ替えるだけでも計算が要るんですか?
ハリタハリタ
対象になります。容量が同じでも、リアクトルの有無が変われば換算係数が変わるからです。
ここまでのポイント
  • 対象は高圧・特別高圧で受電する需要家
  • 新設、高調波発生機器の新設・増設・更新、契約電力相当値や受電電圧の更新が対象
  • 減設によって契約電力相当値が下がるだけの変更は対象外
  • 同じ容量の更新でも、換算係数が変われば結果は変わる

全体の流れ ― 第1ステップとは何か

指針の手順は2段階です。第1ステップは等価容量という「換算した容量」で判定するだけの簡単な段階、第2ステップが次数ごとの流出電流を実際に計算する段階です。この記事が扱う簡略方法は、第1ステップにあたります。

A・B・Cのどれかに当たれば、そこで終わりです。
ステップ やること 使うもの 終われる条件
第1ステップ 発生機器の抽出 → 換算係数の確認 → 検討要否の判定 → 等価容量の比較 図面・負荷リスト・機器の仕様書 条件を満たす、または限度値以下
第2ステップ 次数ごとの流出電流を計算し、上限値と比較 稼働率・補正率・契約電力相当値 上限値以下
第2ステップの考え方は高調波ってなに?発生原因と対策内容で扱っています。

💡 「簡略方法」は計算を省くことではない

簡略方法という言い方から「ざっくり計算してよい」と読まれることがありますが、そうではありません。流出電流を計算する必要があるかどうかを、少ない手間で判定する手順のことです。判定の結果、必要になれば第2ステップで正規の計算をします。

ここまでのポイント
  • 手順は第1ステップ(等価容量で判定)と第2ステップ(流出電流で判定)の2段階
  • 簡略方法=第1ステップ。計算の要否を少ない手間で判定する手順
  • 第1ステップには「適用範囲外」「条件を満たす」「限度値以下」の3つの出口がある
  • 図面と機器の仕様書があれば、第1ステップは判断できる


ステップ1 ― 高調波発生機器を抽出する

最初の作業は、建物の負荷から高調波発生機器を拾い出すことです。拾うだけなら負荷リストでできますが、対策がされているかどうかは負荷リストには書かれていません。そこが実務でいちばん時間のかかるところです。

屋上の空調室外機、昇降機、電気室のUPS、ホールの調光盤。だいたいこの辺りにあります。
拾う → 20Aの判定 → 仕様書で対策の有無、の順に進めます。
区分 主な機器 備考
インバータ機器 空調機、ポンプ、エレベータ、エスカレータ 建物にほぼ必ずある。台数が多い
電源装置 UPS、直流電源装置、整流装置 リアクトルの有無を仕様書で確認
医療機器 MRI、CT、X線装置 病院では容量が大きく効いてくる
重機・搬送 クレーン、巻上機 サイリスタ制御のものは換算係数が大きい
調光機器 調光盤のあるもの ホール・劇場で拾い漏れやすい
生産設備 工場用生産機器、サーボアンプ 汎用インバータとサーボアンプ単体は全容量が対象
出典:高調波抑制対策技術指針。1相あたりの入力電流が20A以下の機器は、JIS C 61000-3-2により機器側で対策済みのため適用範囲外です。

仕様書のどこを見るか

対策の有無は、機器の仕様書の特記事項欄に書かれていることが多くあります。「高調波抑制リアクトル付」といった記載があれば対策ありと判断できます。記載がなければ、メーカーへの照会が必要です。

図面の姿図や機器表だけでは判断できません。仕様書か、メーカーへの照会で確定させます。
ペン太ペン太
負荷リストに「インバータ」と書いてあれば、それで足りますか?
ハリタハリタ
足りません。リアクトルが付いているかどうかで換算係数が3.4にも1.8にもなるので、そこは仕様書で確かめます。
ここまでのポイント
  • 負荷リストから高調波発生機器を拾い、台数と定格入力容量をまとめる
  • 1相あたりの入力電流20A以下の機器は適用範囲外(JIS C 61000-3-2)
  • 対策の有無は機器の仕様書の特記事項欄で確認する
  • 記載がなければメーカーに照会して回路種別を確定させる


ステップ2 ― 換算係数 Ki を確認する

換算係数 Ki は、その機器の容量を「三相ブリッジ6パルス変換装置の容量」に換算するための倍率です。同じ容量でも、リアクトルが付いていれば高調波は少なくなるので、係数も小さくなります。この係数は図面からは読み取れません。回路種別をメーカーに確認するのが基本です。

ACLは整流器の手前、DCLは整流器とインバータの間。この位置で換算係数が変わります。
値が大きいほど、同じ容量でも高調波を多く出す回路です。
回路種別 換算係数 Ki どういう機器か
6パルス変換装置 リアクトルなし 3.4 対策のない汎用インバータ、古いUPSなど
6パルス変換装置 リアクトル付(交流側) 1.8 ACLを入れた状態
6パルス変換装置 リアクトル付(直流側) 1.8 DCLを入れた状態
6パルス変換装置 リアクトル付(交・直流側) 1.4 ACLとDCLの両方を入れた状態
12パルス変換装置 0.5 多相化変圧器を使い、5次・7次を打ち消す
24パルス変換装置 0.25 さらに低い次数まで打ち消す
出典:高調波抑制対策技術指針 表201-2-1(回路種別ごとの換算係数・抜粋)。表には他の回路種別も載っています。

💡 Kiが下がると、二重に効く

換算係数が下がると、等価容量 P0 が小さくなって第1ステップで終われる可能性が上がります。さらに、検討要否の条件にある「Kiが1.8を超える機器がない」も満たしやすくなります。リアクトルを1台足すかどうかの判断は、機器の価格だけでなくそのあとの検討の手間まで含めて比べると判断しやすくなります。

ここまでのポイント
  • Ki は機器の容量を6パルス変換装置の容量に換算する倍率
  • 6パルス・リアクトルなし3.4/交流側または直流側1.8/交・直流側1.4
  • 12パルス0.5/24パルス0.25
  • 回路種別は図面では分からない。メーカーに照会して確定させる


ステップ3 ― 検討要否を判定する

ここが簡略方法の山場です。条件をすべて満たせば、等価容量を計算せずに検討終了にできます。逆に、ひとつでも欠ければ等価容量の計算に進みます。

①〜③は図面で判断できます。④はメーカー仕様が要ります。
条件 内容 確認する資料
① 受電方式 高圧受電であること 単線結線図
② 建物用途 用途がビルであること 用途・申請区分
③ 進相コンデンサ すべて6%直列リアクトル付であること 単線結線図・機器表
④ 換算係数 Kiが1.8を超える機器がないこと 機器のメーカー仕様
条件は「すべて満たす」ことが必要で、3つ満たしただけでは終了になりません。

⚠ 2023年版で変わったところ

  1. 条件③の「直列リアクトル付」は6%直列リアクトル付を指し、13%直列リアクトル付は該当しないことが明確化されました(JIS C 4902-2を参照)
  2. 第1ステップの判定に、高調波発生機器の比率に関する条件(比率35%以下)が加わりました

手元の資料が2013年版のままだと、13%リアクトルの設備で判断を誤ります。着手前に最新版で条件を確認してください。

ペン太ペン太
コンデンサが3台あって、2台だけリアクトル付ならどうなりますか?
ハリタハリタ
条件③は満たしません。「すべて」が条件なので、1台でも無しなら等価容量の計算に進みます。
ここまでのポイント
  • 条件をすべて満たせば、等価容量を計算せずに検討終了
  • ①高圧受電 ②用途がビル ③進相コンデンサがすべて6%直列リアクトル付 ④Kiが1.8を超える機器なし
  • 一部だけリアクトル付では③を満たさない
  • 2023年版で「6%」の限定と、高調波発生機器の比率の条件が加わった

ステップ4 ― 等価容量を限度値と比べる

条件を満たせなかったら、等価容量を求めて限度値と比べます。式は次のとおりで、機器ごとに「換算係数 × 定格容量」を出して足し合わせるだけです。

 P0 = Σ(Ki × Pi)[kVA]
記号 Ki:換算係数/Pi:定格容量[kVA]/i:回路種別
低減 高圧受電かつ進相コンデンサがすべて直列リアクトル付なら P0 × 0.9
この例は168.8kVA。6.6kV受電の限度値50kVAを超えたので、第2ステップへ進みます。
受電電圧 限度値 判定
6.6 kV 50 kVA これ以下なら検討終了
22 kV・33 kV 300 kVA これ以下なら検討終了
66 kV以上 2,000 kVA これ以下なら検討終了
等価容量の求め方をもっと詳しく見る場合は高調波流出電流計算[等価容量の計算方法]へ。

💡 0.9倍が使えるかどうかを先に確認する

「高圧受電かつ進相コンデンサが全て直列リアクトル付」であれば、求めた P0 に0.9を掛けられます。等価容量が限度値のぎりぎりにあるときは、この1割が結果を分けます。リアクトルの要否そのものは6%・13%の意味とリアクトルの選定方法で扱っています。

出典:高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン、JEAG 9702 高調波抑制対策技術指針(2023年版)、JIS C 61000-3-2、JIS C 4902-2、日本電気技術者協会「高調波抑制対策要否の判断と流出電流の計算」。数値は指針の版によって変わることがあります。

ここまでのポイント
  • P0 = Σ(Ki × Pi)で、機器ごとの換算容量を足し合わせる
  • 高圧受電かつ進相コンデンサがすべて直列リアクトル付なら P0 × 0.9
  • 限度値は6.6kV:50kVA/22・33kV:300kVA/66kV以上:2,000kVA
  • 限度値以下なら検討終了。超えていれば第2ステップへ進む


よくある質問

高調波流出電流計算の「簡略方法」とは何ですか?

指針の手順のうち第1ステップにあたる部分で、流出電流を計算する必要があるかどうかを少ない手間で判定する方法です。計算を省略してよいという意味ではなく、判定の結果必要になれば第2ステップで正規の計算をします。

どんなときに計算が必要ですか?

新設の場合、高調波発生機器を新設・増設・更新する場合、契約電力相当値または受電電圧を更新する場合です。減設によって契約電力相当値が下がるだけの変更は対象外です。

どの機器を拾えばよいですか?

インバータ機器(空調・ポンプ・昇降機)、UPS・整流装置、医療機器、クレーン・巻上機、調光機器、生産設備などです。1相あたりの入力電流が20A以下の機器はJIS C 61000-3-2により適用範囲外になります。

換算係数Kiはどこで調べますか?

回路種別ごとに技術指針の表で決まっています。6パルス・リアクトルなしが3.4、リアクトル付(交流側または直流側)が1.8、交・直流側の両方が1.4、12パルスが0.5、24パルスが0.25です。実機の回路種別は図面では分からないため、メーカーに照会します。

計算しなくてよい条件を教えてください。

①高圧受電である②用途がビルである③進相コンデンサがすべて6%直列リアクトル付である④換算係数Kiが1.8を超える機器がない、をすべて満たすことです。2023年版ではこれに高調波発生機器の比率に関する条件も加わっています。

進相コンデンサは一部だけリアクトル付でも条件を満たしますか?

満たしません。「すべて」が条件なので、1台でも直列リアクトルなしのコンデンサがあれば等価容量の計算に進みます。

13%の直列リアクトルでも条件③を満たしますか?

満たしません。2023年の改定で、条件にある「直列リアクトル付」は6%直列リアクトル付を指し、13%は該当しないことが明確にされました。

等価容量はどう計算しますか?

P0=Σ(Ki×Pi) です。機器ごとに換算係数Kiと定格入力容量Pi(台数を掛けた合計)を掛け、すべて足し合わせます。高圧受電かつ進相コンデンサがすべて直列リアクトル付であれば、求めたP0に0.9を掛けられます。

限度値はいくつですか?

受電電圧で決まります。6.6kVなら50kVA、22kV・33kVなら300kVA、66kV以上なら2,000kVAです。これ以下なら検討終了になります。

限度値を超えたらどうなりますか?

第2ステップに進み、次数ごとの高調波流出電流を計算して上限値(6.6kV受電なら5次3.5mA/kWなど)と比べます。超えていれば対策を決めて、もう一度計算します。

まとめ ― 取り違えやすいところと手順

取り違えやすいところ 正しくは
簡略方法=ざっくり計算してよい 計算の要否を判定する手順のこと。必要になれば第2ステップで正規に計算する
高圧受電なら必ず最後まで計算する 第1ステップには3つの出口がある。多くの物件はここで終わる
進相コンデンサは一部がリアクトル付なら該当する 「すべて」が条件。1台でも無しなら該当しない
「直列リアクトル付」なら6%でも13%でもよい 2023年版で6%限定と明確化。13%は該当しない
4項目のうち3つ満たせば検討終了 すべてに該当してはじめて検討終了
換算係数は図面から読み取れる 回路種別はメーカーの仕様で確認する必要がある
換算係数が小さいほど高調波が多い 大きいほど多い。6パルス・リアクトルなしの3.4が最大級
高調波発生機器はすべて計算対象 1相あたりの入力電流20A以下の機器は適用範囲外
「すべて」と「6%」の2語を見落とすと、条件を満たしていないのに終了にしてしまいます。
手順 やること 使う資料・値
1|適用範囲 計算が必要な場面かを確かめる 新設/機器の新設・増設・更新/契約・受電電圧の更新
2|抽出 高調波発生機器を拾い、台数と定格容量をまとめる 負荷リスト、20A以下は対象外
3|換算係数 回路種別からKiを確認する 仕様書の特記事項欄、メーカー照会
4|検討要否 条件をすべて満たすか判定する 高圧受電/ビル/6%SR付/Ki≦1.8 ほか
5|等価容量 P0=Σ(Ki×Pi)(必要なら×0.9) 6.6kV:50kVA と比較
6|次の判断 超えていれば第2ステップへ 次数ごとの流出電流を計算する
この6手順なら、どこで止まってよいかが分かるので、不要な計算をしなくて済みます。

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ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。引込・高圧受変電・幹線・接地を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。