初任給とエリアを数字で見てきたこの連載で、次に気になるのは「手当」だ。基本給が同じでも、住宅手当・家族手当・単身赴任手当がどれだけ出るかで手取りは大きく変わる。資格を取ったら毎月いくら増えるのか、転勤したら家賃補助はいくらなのか——これは求人票を1枚見ただけでは、意外なほどわからないことが多い。

そこで今回は、大手9社の公式採用サイト・福利厚生ページだけを根拠に、住宅手当・家族手当・単身赴任手当・通勤手当・資格手当(月次)・資格取得一時金・時間外手当の7種類について、「実額(円/月など)まで書いているか」「名称だけか」「記載自体がないか」を仕分けた。転職メディアの独自集計や、出典不明の「手当込み年収」は一切使っていない。書かれていないものは「わからない」であって「ない」ではない——この区別を最後まで崩さずに見ていく。

結論から言うと、手当は「ある会社とない会社」ではなく「金額を書く会社と書かない会社」に分かれた。9社中3社は住宅手当・家族手当などを円単位で開示し、残り6社は名称を挙げるだけか、そもそも名称すら出てこない。唯一そろっていたのは奨学金の返還を会社が肩代わりする制度で、8社が同じような金額で導入していた。

この記事の結論

手当の実額(円/月など)を開示しているのはクラフティア(4/7項目)・住友電設(3/7項目)・日本電設工業(3/7項目)の3社のみ。残る6社は「通勤手当、家族手当など」と名称を並べるだけで、具体的な金額はどの手当についても確認できなかった。

「資格手当」という毎月支給の手当は、9社中1社(住友電設)にしか名称すら出てこない。資格に対する金銭的インセンティブは、月次手当ではなく取得時の一時金(祝金・報奨金)という形にほぼ統一されている。

奨学金返還支援制度だけは9社中8社で確認でき、金額もほぼ横並び(月1.5万円前後×最長10年=上限180万円が主流)。唯一きんでんだけ制度の記載自体が確認できなかった。

1. 手当は「ある/ない」ではなく「金額を書くか」で9社が分かれる

まず前提を書いておく。この記事は「どの会社の手当が多いか」を測るものではない。測れるのはあくまで「公式サイト上でどこまで金額を開示しているか」であり、記載がない手当がその会社に存在しないという意味では決してない。エリア記事で見た「拠点一覧の掲載粒度が会社ごとに違う」のと同じ構造が、手当でも起きている。

大手9社の手当開示レベルを示す表
図1 手当の開示格差マトリクス(大手9社)。各社公式サイトの採用情報・福利厚生ページ(2026年7月26日取得)を仕分け。

結果は明快だった。実額まで開示しているのはクラフティア・住友電設・日本電設工業の3社で、この3社だけが7項目中3〜4項目で具体的な円額を示している。対して関電工は住宅手当(独身社宅10,000円/月)の1項目のみ、きんでん・トーエネック・ユアテック・四電工の4社は実額を開示した手当が0件、中電工も体系的な実額開示はなく、資格取得祝金について「電気主任技術者(第一種)20万円」という1事例の紹介があるのみだった。

クラフティア
実額開示
4/7項目
住友電設
実額開示
3/7項目
日本電設工業
実額開示
3/7項目
関電工
実額開示
1/7項目
残り5社
実額開示
0/7項目

開示が薄い6社が手当そのものを支給していない、ということではない。たとえばきんでんの募集要項には「諸手当 時間外手当、通勤手当等」という一文があるだけで、手当は存在するが金額は書かれていない。四電工・ユアテックも同様に、世帯手当・単身赴任手当・時間外手当といった名称は挙げるが、円単位の記載はどこにもなかった。この6社を志望する場合、手当額は会社説明会や内定後の条件提示まで数字が出てこない可能性が高い、ということまでは言える。

2. 実額を開示する3社は、具体的に何をいくら出しているか

クラフティア(旧・九電工):手当の種類も金額も最も詳しい

クラフティア(2025年10月1日に九電工から商号変更)は9社の中で最も開示が厚い。独身寮補助は40,000円/月、通勤費は上限10万円/月まで支給。家族関連は「養育手当」という名称で配偶者と子1人の場合15,000円/月(2人目以降は1人増えるごとに8,000円加算)。資格取得一時金は種類が多く、1級電気工事施工管理技士10万円、第3種電気主任技術者10万円、第1種電気工事士3万円、技術士・1級建築士は50万円など、資格の難度に応じた段階が設けられている。同社独自の手当として、特定地域業務手当(東京・関西・沖縄16,000円/月、離島は6,000〜12,000円)、施工管理手当(施工管理業務に従事した日1,000円/日)もある。

住友電設:住宅・家族・単身赴任がすべて実額

住友電設は住宅関連の開示が手厚い。独身者向け家賃補助が26,000〜40,000円/月、家族と同居する社員向けの住宅手当が36,000〜52,000円/月。家族手当は配偶者13,000円/月・その他扶養家族6,500円/月と明記されている。単身赴任者向けの別居手当も28,000〜51,000円/月と幅で示され、月2回の帰省費用支給(航空機利用等の条件あり)も制度としてある。一方で通勤手当・資格手当(月次)は名称のみか記載なしで、資格取得一時金の名称も見当たらなかった。

日本電設工業:家族手当と住宅支援、資格取得報奨金が実額

日本電設工業は家族手当が配偶者16,000円/月・子1人につき5,500円/月。住宅支援制度は転勤者最大10万円/月、30歳未満の社員は最大5万円/月、その他の社員は最大2万円/月(持ち家も対象)と対象者別に金額が分かれている。資格取得報奨金は1級電気工事施工管理技士10万円、第一種電気工事士5万円、消防設備士甲種5万円などが確認できた。通勤手当は「全額支給」と方針は明記されているが、月額の上限までは書かれていない。

注記:「資格手当」という月次手当はほとんど存在しない

9社の募集要項・福利厚生ページを見る限り、資格そのものに対して毎月上乗せされる「資格手当」という名称は、住友電設の募集要項に名称のみ登場する以外、確認できなかった。

その代わり9社中6社で、資格取得に対する一度きりの金銭的インセンティブの存在が確認できた。クラフティア・日本電設工業は資格ごとの金額まで開示し、関電工・中電工は名称のみか1事例限り、ユアテック・四電工は「資格取得支援」というより曖昧な制度名にとどまる。毎月の手当ではなく、取得時に一度だけ支給する設計に、業界としてほぼ収れんしているとみられる。

3. 名称だけ・記載なしの6社は、何がわからないのか

きんでん・トーエネック・中電工・ユアテック・四電工の5社と、住宅手当以外は名称止まりの関電工。この6社に共通するのは「手当という制度の存在は認められるが、金額の相場観がまったくつかめない」という状態だ。たとえばトーエネックは「通勤手当、家族手当、時間外勤務手当、住宅手当、帰省旅費」と5つの名称を並べているが、1円も金額は出てこない。中電工にいたっては、福利厚生の詳細ページ自体が同社のドメインではなく外部の求人プラットフォームに接続する構造になっており、公式ドメイン内で完結する情報がそもそも少ない。

これは 「情報を出さない会社は待遇が悪い」という意味ではない。月給・初任給・賞与月数など、他の指標では実額を開示している会社も多い(たとえば中電工は平均年収789万円〔2024年度〕を公式に開示している)。手当という項目単位では開示が薄い、という事実だけを本稿は示している。

4. 奨学金返還支援制度:唯一そろっている手当

7種類の手当がバラバラな開示状況だったのに対し、奨学金返還支援制度(会社が社員の奨学金返済を肩代わり・補助する制度)だけは9社中8社で確認でき、金額もほぼ横並びだった。

大手9社の奨学金返還支援制度の金額比較
図2 奨学金返還支援制度の比較。会社が社員の奨学金返済を肩代わり・補助する制度の上限額。

最も多いのが「月1.5万円前後×最長10年=上限180万円」という設計で、中電工・ユアテック・日本電設工業・四電工・クラフティアの5社がこの水準にそろう。関電工はやや手厚く月2万円・最大10年・総額240万円。トーエネックは最大84万円で、9社の中では最も少ない(期間の記載はなし)。住友電設だけは他社と設計が異なり、勤続3・6・9年に到達するたびに残高上限36万円を代理返還する方式(3回・累計最大108万円)を取っている。きんでんについては、募集要項・福利厚生ページのいずれにも制度自体の記載が見当たらず、非公表・確認できずとした。

これだけ多くの会社が同じような制度・同じような金額を用意しているのは、奨学金を抱えた新卒層への訴求が、業界共通の採用課題になっていることの表れと読める。裏を返せば、奨学金返還支援の金額差は9社を比べる材料としてはほとんど機能しない。180万円前後という水準そのものが、この業界での「相場」に近い。

5. 転職・就活でこの数字をどう使うか

「名称のみ」の手当は、聞くべき質問リストに変換できる

手当の名称は出ているが金額が非公表、という項目は、会社説明会や面接の場でそのまま質問できる具体的なリストになる。「住宅手当は名称だけ挙がっていましたが、金額はどのくらいですか」「単身赴任手当は転勤の距離で変わりますか」——本稿が拾えなかった数字を、実際に会社に聞いて埋めるのが最も確実な次の一歩になる。

実額まで開示する会社は、情報公開に前向きな社風の可能性がある

手当の金額まで具体的に書く会社が3社にとどまったのは、エリア記事で見た拠点開示の格差(拠点総数を公表しているのは四電工のみ)と似た構図だ。情報を細かく出す会社と出さない会社がある、という会社ごとの傾向は、手当以外の場面(有価証券報告書の開示、面接での質問対応など)でも一貫している可能性がある。

奨学金返還支援は「あって当たり前」に近づいている

8社中5社が180万円前後という同じ水準の奨学金返還支援を用意している以上、この制度の有無や金額は、会社選びの決定的な差にはなりにくい。むしろ「制度自体が確認できなかった」きんでんのような例外を見つけたときに、個別に確認する価値がある、という使い方が実態に近い。

6. このデータの限界

以下は本稿が示していないこと

手当の有無ではなく、開示の有無を測っている。「記載なし」は当該制度が存在しないという意味ではなく、公式サイト上に名称・金額の記載が確認できなかったことを示す。

掲載時点(2026年7月26日)のスナップショットであり、今後の改定は反映していない。手当額・奨学金支援額はいずれも改定されうる。

学歴・職種(総合職・施工系・高卒採用など)による違いを本稿は区別しきれていない。会社によって新卒向けページと高卒採用向けページで記載内容が異なる場合があり、本稿は原則として新卒(大卒・院卒)向けページの記載を基準にした。

時間外手当(残業代)は労働基準法により全社に支払い義務がある。本稿で「記載なし」としたのは、募集要項上に固定額としての記載がなかったという意味であり、残業代そのものが支払われないという意味ではない。

転職メディアが独自に集計・推定した手当額や年収情報は使用していない。各社公式サイトに記載がない数字は、すべて「非公表・確認できず」として扱った。

出典

すべて各社公式サイトの採用情報・福利厚生ページ(2026年7月26日取得)。転職メディアの記載は根拠に用いていない。

奨学金返還支援制度について、住友電設は同社ニュースリリース(2023年)も参照した。商号変更について:株式会社クラフティア(2025年10月1日、旧・株式会社九電工)、住友電設株式会社(2026年10月1日付でセムリンクス株式会社へ商号変更予定、2026年3月3日上場廃止)。いずれも各社公式リリースによる。