「施主さんに『なんで電気代こんなに上がるの』って言われて、何も言えませんでした……」

ペン太くんがまた困っています。

これは電気設備の設計者にとって、避けて通れない質問です。そしてきちんと分解して説明できると、そのまま省エネ提案につながる質問でもあります。

この記事では、電気料金の請求額を5つの要素に分けて整理します。すべて一次情報(経済産業省・資源エネルギー庁・OCCTO・各電力会社の公表資料)で確認した2026年7月末時点の内容です。


🧾まず全体像|請求額は5つでできている

低圧でも高圧でも、請求額の構造は基本的に同じです。

請求額 = ①基本料金 + ②電力量料金 ± ③燃料費調整額 + ④再エネ賦課金 −(⑤政府の支援)

そして、この中に請求書には項目として出てこないものが2つ隠れています。託送料金容量拠出金です。

要素 請求書に出るか 誰が決めるか
①基本料金 出る 小売電気事業者
②電力量料金 出る 小売電気事業者(託送料金・容量拠出金を内包
③燃料費調整額 出る 燃料価格と為替で自動的に決まる
④再エネ賦課金 出る が年1回決定
⑤政府の支援 値引きとして出る が予算措置ごとに決定

ポイント!ここが説明のキモです

①〜⑤のうち、建物側の努力で動かせるのは「使う量」と「使い方」だけです。単価はどれも自分では決められません。

だからこそ、「電気代を下げたい」という相談の答えは、最終的に省エネ改修・自家消費太陽光・デマンド管理に収束します。この構造を先に示せると、提案がまっすぐ通ります。


電気料金の請求額を構成する5つの要素と、請求書に出ない託送料金・容量拠出金を示した図
図1:電気料金の請求額を構成する要素

⚡①②基本料金と電力量料金|高圧はデマンドがすべて

低圧(従量電灯など)は契約アンペアで基本料金が決まりますが、高圧はまったく別の世界です。ここは設計者の腕が効く部分なので、少し詳しく見ます。

契約電力は「過去1年の最大値」で決まる

契約電力500kW未満の高圧は実量制です。東京電力エナジーパートナーの説明を引用します。

契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうち最も大きい値となります

お客さまがご使用された電力を30分毎に計量し、そのうち月間で最も大きい値を最大需要電力といいます

つまり、たった一度ピークを跳ねさせると、その値が以後12か月間ずっと基本料金を決め続けます。

力率を改善すると基本料金が15%下がる

高圧の基本料金の式はこうなっています。

基本料金 = 基本料金単価 × 契約電力 × (185 − 力率) ÷ 100

力率85%なら(185−85)÷100=1.00。力率100%なら(185−100)÷100=0.85

力率を85%から100%に改善するだけで、基本料金が15%下がります。

参考までに、東京電力エナジーパートナーのベーシックプラン(高圧・関東エリア、2026年4月1日実施)の基本料金単価は1kWあたり2,530円です。

ポイント!金額に直すと提案しやすくなります

基本料金単価2,530円/kWで契約電力を10kW下げられたとすると、

2,530円 × 10kW × 12か月 = 年間およそ30万円

進相コンデンサの更新やデマンド監視装置の導入は、この金額と比べて判断してもらう話になります。「電気代が高い」という漠然とした相談を、投資回収年数の話に変換できるわけです。


🛢️③燃料費調整額|3〜5か月前の為替が効いてくる

燃料費調整制度は、原油・LNG・石炭の価格変動を毎月の電気料金に自動で反映するしくみです。

ここで設計者が知っておくと差がつくのが、タイムラグです。資源エネルギー庁の説明によれば、実績の平均燃料価格には

毎月の貿易統計価格の加重平均のうち 3〜5ヶ月前の3ヶ月平均

が使われます。

つまりいま円安が進んでも、電気料金に出てくるのは3〜5か月後ということです。

参考に、東京電力エナジーパートナーの2026年5月分の燃料費調整に使われた平均燃料価格は、原油69.1ドル/バレル、LNG 553.4ドル/トン、石炭120.3ドル/トン、為替155.3円/ドルでした。

注意点|燃調には上限があるものとないものがあります

規制料金では「基準燃料価格の1.5倍」という上限が制度上設定されています。一方、自由料金では各社の約款次第で、上限を撤廃したメニューが多くあります。

施主が契約しているのがどちらなのかで、燃料価格が急騰したときの効き方がまったく変わります。約款を確認するよう促してください。


🌱④再エネ賦課金|2026年度は4.18円/kWh

再生可能エネルギーの導入を支えるため、電気を使う全員が負担しているのが再生可能エネルギー発電促進賦課金です。

経済産業省が2026年3月19日に公表した内容は次のとおりです。

項目 内容
2026年度の単価 1kWhあたり 4.18円
適用期間 2026年5月検針分 〜 2027年4月検針分
買取費用等 4兆8,507億円
回避可能費用等 1兆6,495億円
販売電力量 7,665億kWh
標準家庭(月400kWh)の負担 月額1,672円/年額20,064円

2025年度は3.98円/kWhだったので、0.20円の引き上げです。

注意点|「2026年度=2026年4月から」ではありません

適用は5月検針分からです。2026年4月検針分はまだ3.98円が適用されます。ここを間違えると、施主に示した試算がずれます。

減免制度は使えるのか

一定の要件を満たす事業者には減免制度があります。ただし要件は厳しく、次の4つをすべて満たす必要があります。

  • 電気の使用に係る原単位が基準値を超えること(2026年度申請時の基準値は4.96
  • 申請事業所における申請事業の電気使用量が年間100万kWhを超えること
  • 申請事業の電気使用量が申請事業所の電気使用量の過半を占めること
  • 原単位の改善のための取組を行う者であること

減免率は製造業等で8割(優良基準未達成なら4割)、非製造業で4割(同2割)。申請の受付は毎年11月の1か月間のみです。

ポイント!

「年間100万kWh超」かつ「原単位4.96超」という条件から、実質的な対象は電炉・化学・製紙などの電力多消費の製造業です。一般的なオフィスビルや店舗はまず対象外と考えてよいでしょう。

ただし工場案件を担当するなら、施主が使えるかどうかは確認する価値があります。申請が11月の1か月だけという点は、知らないと1年待ちになります。


💴⑤政府の支援|9月使用分までしか決まっていません

政府による電気・ガス料金の負担軽減策は、恒久的な制度ではありません。予算措置ごとに、出たり止まったりします。

2025年以降の推移を、使用月ベースで並べるとこうなります。

使用月 低圧 高圧
2025年7月 2.0円/kWh 1.0円/kWh
2025年8月 2.4円/kWh 1.2円/kWh
2025年9月 2.0円/kWh 1.0円/kWh
2025年10〜12月 支援なし 支援なし
2026年1月 4.5円/kWh 2.3円/kWh
2026年2月 4.5円/kWh 2.3円/kWh
2026年3月 1.5円/kWh 0.8円/kWh
2026年4〜6月 支援なし 支援なし
2026年7月 3.5円/kWh 1.8円/kWh
2026年8月 4.5円/kWh 2.3円/kWh
2026年9月 3.5円/kWh 1.8円/kWh

2026年7〜9月分は、2026年6月12日に令和8年度一般会計予備費5,135億円を措置して実施されているものです。経済産業省は「標準的な家庭において、3か月で5,000円程度の負担引下げ効果」としています。

注意点|2026年10月以降は白紙です

本記事の執筆時点で、10月使用分以降の支援は決まっていません。過去にも2025年10〜12月、2026年4〜6月と、支援が途切れた期間があります。

また支援は使用月ベースなので、検針は翌月になります。2026年9月使用分は10月検針分に反映されます。施主への説明では、この1か月のずれに注意してください。


政府による電気料金支援の単価が2025年7月から2026年9月にかけて途切れながら推移したグラフ
図2:電気料金の政府支援の推移(使用月ベース・低圧)

🔍請求書に出てこない2つ|託送料金と容量拠出金

ここからは、請求書を見ても項目として出てこないのに、確実に払っている費用の話です。

託送料金|2026年11月に上がる見込みです

託送料金は、小売電気事業者が送配電網を使うために一般送配電事業者に払う料金です。これは小売の仕入原価なので、基本料金と電力量料金の中に溶け込んでいます。

参考値として、東京電力エナジーパートナーが開示している託送料金相当額は、東京電力エリアの低圧供給で9円44銭/kWh(平均単価)です。電力量料金の相当部分がこれだとわかります。

そしてここが今回いちばん新しい情報です。

2026年7月10日、一般送配電事業者が一斉に「託送供給等に係る収入の見通し」の変更承認申請を行いました。適用予定は2026年11月1日です。

事業者 申請内容
東京電力パワーグリッド 現行比 2,516億円の増額(5年合計7兆6,062億円)
関西電力送配電 1,496億円の増額(年換算1,056億円増)
東北電力ネットワーク 年間収入見通しを4,799億円 → 5,578億円(779億円/年の増額

東京電力パワーグリッドは理由をこう説明しています。

物価・労務費単価の高騰や金利の上昇によって、当社を取り巻く事業環境は大きく変化

物価高騰等の影響を全て吸収することは難しい状況

背景には、レベニューキャップ制度が2026年度から物価上昇等を期中に反映できるよう見直されたことがあります。

注意点

これは申請段階であって、承認済みではありません。また具体的な新単価(円/kWh・円/kW)は国の審査後に決まるため、執筆時点では未公表です。

容量拠出金|転嫁するかは小売次第

容量市場は、将来の供給力(発電所を建てて維持してもらうこと)を確保するためのしくみです。その費用を小売電気事業者などが容量拠出金として負担します。

ここで注意が必要なのは、OCCTOが明記しているこの点です。

小売需要の電気料金に容量拠出金を反映させるかどうかは、発電事業者からの電源調達を含め、各小売電気事業者の判断となります

つまり、別建てで請求する会社もあれば、単価に織り込んでいる会社もあるということです。施主の請求書に「容量拠出金」という行があるかどうかは、契約先によります。

規模感を見ておきましょう。メインオークションの約定総額の推移です。

実需給年度 約定総容量 約定総額
2026年度 1億6,271万kW 8,425億円
2027年度 1億6,745万kW 1兆3,140億円
2029年度 1億6,608万kW 2兆2,094億円

3年で2.6倍です。2029年度は各エリアの約定価格が、指標価格(Net CONE、2029年度向けは10,075円/kW)を大きく上回りました。

さらに制度側でも、Net CONEを最新の発電コスト検証を反映して約2.05万円/kW(従来の約2倍)へ見直す方向で議論が進んでいます。

注意点

Net CONEの見直しと約定方式の二段階化は、2026年度のメインオークションから適用する方向で整理されていますが、2027年度以降の在り方は検討が継続中です。確定した将来像として語らないほうが安全です。


📅2026年秋は、3つが同時に効いてきます

ここまでの話を時系列に置き直すと、2026年の秋に上昇要因が重なることが見えてきます。

時期 何が起きるか
2026年9月使用分まで 政府の支援(低圧3.5〜4.5円/kWh)あり
2026年10月使用分から 支援は未定。途切れる可能性がある
2026年11月1日 託送料金の改定が適用される見込み(申請中)
2026年10〜12月分の燃調 2026年7月の円安(163円台)が反映されてくる

燃料費調整は3〜5か月前の貿易統計を使うので、2026年7月に163円台まで進んだ円安は、秋以降の燃料費調整単価に効いてきます。2026年5月分の算定に使われた為替が155.3円/ドルだったことと比べると、円安方向です。

ポイント!これは提案のタイミングの話でもあります

「秋から電気代が上がる要素が3つ重なります」と説明できれば、省エネ改修や自家消費太陽光の検討をいま始める理由になります。

ただし断定は禁物です。支援の再開があるかもしれませんし、燃料価格が下がる可能性もあります。「上がる要素が重なっている」という言い方にとどめるのが誠実です。


2026年秋に支援切れ・託送料金改定・円安の反映が重なることを示した時系列図
図3:2026年秋に重なる電気料金の上昇要因

🧰では、建物側で何ができるのか

単価は動かせません。動かせるのは次の3つです。

①契約電力(デマンド)を下げる

高圧の基本料金は契約電力で決まり、しかも過去12か月の最大値に縛られます。デマンド監視、ピークシフト、空調と生産設備の運転タイミングの調整が効きます。

②力率を改善する

進相コンデンサの設置・更新で、基本料金が最大15%下がります。コンデンサの劣化で力率が落ちている既存建物は、意外と多くあります。更新提案の入口になります。

③使用量そのものを減らす

照明のLED化、高効率空調、断熱改修、そして自家消費型太陽光と蓄電池。

自家消費型については、環境省の「ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業」が令和8年度も実施されています(一次公募は令和8年7月9日〜7月31日正午必着)。太陽光と蓄電池を同時に導入する事業が補助対象です。補助率や単価は公募要領で確認してください。

ポイント!省エネ法の対象になっていないか

年間のエネルギー使用量が原油換算1,500kL以上の事業者は、省エネ法の特定事業者として毎年7月末日までに定期報告書・中長期計画書の提出が義務づけられています。

施主がこの規模なら、省エネ提案は「電気代を下げる話」であると同時に「法令対応の話」になります。提案の重みが変わります。


✅まとめ

  • 請求額は①基本料金 ②電力量料金 ③燃料費調整額 ④再エネ賦課金 ⑤政府の支援の5つでできている
  • さらに託送料金と容量拠出金が、請求書に出ないまま電力量料金に内包されている
  • 再エネ賦課金は2026年度4.18円/kWh(2025年度3.98円から+0.20円)。適用は2026年5月検針分〜2027年4月検針分で、4月検針分はまだ3.98円
  • 標準家庭(月400kWh)の賦課金負担は月1,672円/年20,064円
  • 政府の支援は2026年9月使用分までしか決まっていない。10月以降は白紙。支援は使用月ベースで、検針は翌月
  • 託送料金は2026年11月1日適用予定で増額申請中(東電PGは2,516億円の増額)
  • 容量拠出金は転嫁するかどうかが小売事業者の判断。約定総額は実需給2026年度8,425億円 → 2029年度2兆2,094億円と3年で2.6倍
  • 燃料費調整は3〜5か月前の貿易統計を使うため、2026年7月の円安は秋以降に効いてくる
  • 2026年秋は「支援切れ・託送料金改定・円安の反映」が重なる可能性がある
  • 建物側で動かせるのはデマンド・力率・使用量の3つだけ。高圧なら力率85%→100%で基本料金が15%減

「電気代が上がった」は、分解すれば説明できます。そして分解したその先に、設計者ができる提案があります。


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⚠️免責事項

本記事は公表されている制度と各社の開示情報を整理した情報提供であり、特定の電力契約・設備・商品を推奨するものではありません

記載の単価・金額は2026年7月末時点で公表されている情報にもとづきます。契約種別・エリア・小売電気事業者によって料金の内訳と単価は異なります。本記事で例示した単価は特定の事業者・エリア・プランのものであり、すべての契約に当てはまるものではありません。

託送料金の改定は申請段階であり、承認されたものではありません。政府による支援は予算措置ごとに決定されるため、今後の実施は未定です。

実際の料金の確認・試算にあたっては、必ず施主の検針票および契約中の小売電気事業者の約款・公表資料をご確認ください。

参考にした主な情報源