【次世代電力技術の実力 第7回】電気を「作らない」で稼ぐ市場|容量市場2.2兆円と、上限15円→10円の需給調整市場
ニュースの要点
(2029年度分・過去最高)
(前年度比 約2割上昇)
(2026年9月受渡分から)
- 発電所は「発電した電気」だけでなく、「発電できる状態を保っていること」でも収入を得る。その仕組みが容量市場で、2029年度分の約定総額は2兆2,094億円と過去最高になった。
- 一方で需給調整市場は、入札上限が19.51円→15円→10円と段階的に切り下げられた。蓄電池やVPPの収益前提は、技術ではなく制度の側で動く。
- 工場やビルが「電気を使わないこと」を売る発動指令電源も市場の一角にある。2029年度向けには715万kWが応札された。
技術の概要 ── 電気には「kWh」以外の商品がある
ひとことで言うと:電気は「流した量」だけでなく、「いざというとき出せる能力」と「秒単位で増減できる俊敏さ」も、それぞれ別の市場で値段がついている。
電力の取引というと、1kWhいくらで売買する卸電力市場を思い浮かべる人が多い。だが、いまの制度では電気は3種類の価値に分解されて取引されている。
ひとつめがkWh価値、つまり実際に流れた電力量。ふたつめがkW価値で、「その時間に発電できる能力を確保しておくこと」そのものに対する対価である。3つめがΔkW価値、需要と供給のズレを埋めるために出力を上下させる調整力の対価だ。
この分割には理由がある。太陽光や風力が増えると、卸電力市場の価格は安い時間帯が長くなる。kWhの売上だけでは、めったに動かないが停電を防ぐために必要な発電所の固定費を回収できない。そこで「動かなくても、動ける状態でいること」に値段をつけたのが容量市場である。
数字で比べる
| 項目 | kWh価値 | kW価値 | ΔkW価値 |
|---|---|---|---|
| 取引の場 | 卸電力市場 | 容量市場 | 需給調整市場 |
| 買い手 | 小売電気事業者ほか | 電力広域的運営推進機関 | 一般送配電事業者 |
| 価格の目安(2026年時点) | 時間帯で大きく変動 | 12,388〜15,112円/kW | 上限10円/ΔkW・30分 |
| 決まる時期 | 前日・当日 | 4年前のオークション | 週間・前日 |
| 最終的な負担 | 電気料金 | 容量拠出金を通じて電気料金 | 託送料金を通じて電気料金 |
| 主なリスク | 価格変動 | 制度改定と経過措置 | 上限価格の切り下げ |
実用化の現在地 ── 片方は過去最高、片方は値下げ
2026年に入って、この2つの市場は逆方向に動いた。容量市場は過去最高値を更新し、需給調整市場は価格の上限が引き下げられた。順に見ていく。
容量市場 ── 約定総額2兆2,094億円
2026年1月に公表された2029年度分のメインオークションでは、約定総容量1億6,608万kW、約定総額2兆2,094億円という結果になった。平均約定単価は13,303円/kWで、前年度比でおよそ2割の上昇である。落札率は96.4%だった。
注目すべきは、初めて全9エリアで約定単価が指標価格(Net CONE、10,075円/kW)を上回ったことだ。東北・東京・九州の3エリアは上限価格の15,112円/kWに張り付いた。
約定総額の2兆円超は、最終的に小売電気事業者が支払う容量拠出金として、電気料金に反映される。発電所を新しく建てなくても、既存の発電所を維持するだけで年間2兆円規模のお金が動く市場が、すでに常設で回っているということである。
需給調整市場 ── 上限価格は19.51円から10円へ
もうひとつのΔkWの市場では、逆に価格を抑える方向の見直しが続いた。
これまで一次調整力・二次調整力①・複合商品の入札上限は19.51円/ΔkW・30分だった。ところが募集量が埋まらないエリアや商品があり、上限価格に張り付いた約定が頻発して調達費用が膨らんだ。2025年4月の週間取引では、北海道・中国・四国・九州で最高約定単価が19.51円、つまり上限そのものになっている。同月の週間取引の調達費用は全エリア合計で約133億円だった。
対策として、2026年3月に前日取引化が導入され、応札量は増えた。それでも高値の集中は残り、上限は15円へ、さらに2026年9月1日受渡分から10円へ引き下げられることになった。対象は一次調整力・二次調整力①・複合商品の3つである。
審議の資料では、14円を超える約定は数量で約3%にすぎないのに調達費用の約17%を占めていたとされる(制度変更前は数量6.2%で費用の約35%)。ごく一部の高値が全体の費用を押し上げていた構図である。
この意味は大きい。第4回で扱った系統用蓄電池は、需給調整市場の収入を前提に採算を組む。その上限が半分近くまで下がるということは、設備も技術も変わらないのに、収益モデルだけが制度で書き換わるということだ。
発動指令電源 ── 工場が「止める」を売る
容量市場には、発電所だけでなく需要家も参加できる。電力が足りなくなりそうなときに使用を減らす約束をして、その能力をkWとして売る仕組みで、発動指令電源と呼ばれる。2029年度向けオークションでは715万kWが応札された(応札全体の約4.2%)。
実務としては、アグリゲーター(特定卸供給事業者)が複数の需要家をまとめて1つの電源として登録する。参加を募集しているアグリゲーターの条件を見ると、要請は年間で最大12回程度、1回あたり3時間の削減を継続すること、対象期間は平日の日中帯といった枠組みが一般的である。契約した容量に届かなければ報酬は減額される。対象設備は自家発電設備、蓄電池、蓄熱槽、生産設備、空調、照明などで、1,000kW未満でも参加できる募集がある。
電気設備の観点から見た課題
「電気を使わないことを売る」と言葉にすると簡単だが、実際に売れる形にするには設備側の条件がいくつも要る。
つまりこの分野は、設備そのものより「計測・制御・契約」を整えた側が取り分を得る構造になっている。受変電設備の更新時に計測点と通信を残しておけるかどうかが、後から効いてくる。
産業構造とお金の流れ
誰が払い、誰が受け取るのかを整理する。挙げる企業名は報道や公開資料で関与が示されている事実の列挙であり、評価や推奨を意味しない。
発電事業者。既存の火力・水力・揚水を保有する事業者にとって、容量市場は稼働率と切り離された固定的な収入源になる。約定単価が2割上がったということは、同じ設備でも受け取る額が増えたということである。一方で、経過措置により古い電源には減額が適用される設計になっている。
蓄電池・VPP事業者。需給調整市場は蓄電池が得意とする領域だが、上限価格の切り下げで単価の天井は下がった。今後は「高値のスパイクを取る」戦略より、容量市場・卸電力市場・需給調整市場を組み合わせて年間で回す設計が中心になる。第4回で触れた長期脱炭素電源オークションによる固定収入と、市場収入の比率をどう置くかが採算の分かれ目になる。
アグリゲーター。複数の需要家をまとめて1つの電源として市場に出す事業者である。エナリスのように容量市場の発動指令電源への参加企業を毎年募集している例があり、制度対応・計量・指令の伝達・精算を代行することで手数料を得る。需要家側に専門知識がなくても参加できる形をつくるのが役割になる。
需要家(工場・ビル)。止められる負荷を持っている事業所は、それ自体が収益源になりうる。ただし報酬は契約容量に対して支払われ、実際に削減できなければ減額される。設備更新の際に計測・遠隔制御を仕込んでおくかどうかで、参加のハードルが変わる。
制度の運営側。容量市場は電力広域的運営推進機関、需給調整市場は一般送配電事業者が買い手として運営し、取引所として電力需給調整力取引所が関わる。市場設計の変更は資源エネルギー庁の審議会で議論される。
関連する政策・制度
2026年時点で動いている主な論点は次のとおりである。
- 指標価格(Net CONE)の引き上げ── 新設LNG火力の建設コスト上昇を反映し、現行の10,075円/kWから約2万円/kW規模へ引き上げる方向で議論されている。上限価格は指標価格に連動するため、容量市場の上限も上がることになる。
- 約定方式の2段階化── 供給力が不足するエリアだけ高値で約定する仕組みに変え、余裕のあるエリアの過払いを抑える案。
- 需給調整市場の前日取引化と上限引き下げ── 2026年3月に前日取引を導入し、9月1日受渡分から上限を10円/ΔkW・30分へ。
- 長期脱炭素電源オークション── 容量市場の枠内で、脱炭素電源に20年間の固定収入を与える別枠の入札。第4回で扱った系統用蓄電池の主要な収入源になっている。
いずれも、設備の性能ではなく「いくらで買い取られるか」を決める議論である。この分野を追うときは、技術ニュースより審議会の資料のほうが情報として速い。
関連する動きを追うには
- 電力広域的運営推進機関「容量市場の在り方等に関する検討会」── オークション結果と制度見直しの一次情報
- 資源エネルギー庁「安定供給確保に向けた制度整備ワーキンググループ」── 需給調整市場の上限価格と商品設計
- 電力需給調整力取引所(EPRX)の取引実績 ── 商品・エリアごとの約定価格と約定量
本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。
出典
- 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2029年度)」第71回容量市場の在り方等に関する検討会 資料3(2026年1月20日公表)
- 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2029年度)の公表について」
- スマートジャパン「約定単価・総額は過去最高 29年度対象の容量市場メインオークション約定結果」(2026年1月30日)
- 電力・ガス取引監視等委員会「需給調整市場の運用等について」第9回制度設計・監視専門会合 資料4(2025年5月23日)
- Gridwatch Policy Desk「需給調整市場、上限価格15円から10円へ」
- エネハブ「経産省、需給調整市場の入札上限価格15円/ΔkW・30分に見直し案」
- エナリス「2028年度 容量市場(発動指令電源)参加企業を募集」(2025年9月11日)
- 電力需給調整力取引所「取引実績の取りまとめ結果」
- 電力広域的運営推進機関「容量市場メインオークションについて」説明会資料(2025年7月)
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