技術図書館自分は無事なのに、自分だけ停電する構外の地絡が続く間、構内ケーブルの充電電流がZCTを逆向きに通る。方向性を標準に据える理由を6枚でこの資料をスライドで見る資料一覧を見る

PASの地絡継電器は、方向性(DGR)を標準として選定します。無方向性(GR)でも成立する条件はありますが、それは条件を満たしたときに使える例外という位置づけです。理由は、もらい事故が「自分は無事なのに自分だけ停電する」事故であること、そして構内の高圧ケーブルはあとから伸びるからです。この記事では、方向性を標準にする理由、もらい事故が起きるしくみ、無方向性のままでも成立する条件、そして整定と上位との協調を整理します。

結論

地絡継電器は方向性(DGR)を標準にします。無方向性は条件を満たしたときに使える例外と考えます。

  • もらい事故は、構外の地絡が続く間に自分の構内ケーブルの充電電流がZCTを逆向きに通って起きる
  • 無方向性(GR)は零相電流の大きさしか見ないので、構内か構外かを区別できない
  • 方向性(DGR)はZCT+ZPDで零相電圧も見て、地絡の向きを判定する
  • 構内ケーブルは増築・盤の増設であとから伸びる。将来の変更に強いのは方向性
  • 無方向性でも成立する目安は 22sq 50m/38sq 42m/60sq 36m/100sq 29m(60Hz・0.2A整定)。0.4A整定なら約2倍
  • 方向性にしても、ZCTの貫通方向・遮へい層の接地・ZPDの健全性は施工と試験で確認する
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。全部を読まなくても、必要なところだけで解決します。
この記事は⑤と⑥にあたります。⑤で方向性を決め、⑥で整定します。
この記事で読めるようになる用語:地絡電流PAS(高圧気中開閉器)保護協調短絡電流

方向性(DGR)を標準にする

PASの仕様を決めるとき、地絡継電器は方向性つきを標準にしておきます。無方向性を選ぶのは「構内の高圧ケーブルが短く、条件を満たすことを確かめられたとき」だけです。順番を逆にして「まず無方向性で検討し、足りなければ方向性」とすると、条件のギリギリを狙う判断が毎回発生し、しかもその条件は数年で変わります。

無方向性が悪いわけではありません。標準を方向性に置くほうが、判断も将来の変更も楽になります。
向きまで見るために、零相電圧を検出する構成が増えます。
項目 GR(無方向性) DGR(方向性)
検出するもの 零相電流の大きさ 零相電流+零相電圧(位相)
必要な検出器 ZCT ZCT+ZPD(零相電圧検出器)
構外地絡の判別 できない できる
もらい事故 構内ケーブルが長いと起こりうる 原理的に起こりにくい
ケーブルが伸びたとき 条件を外れると不必要動作するようになる 影響を受けにくい
構成と価格 簡素で安い 検出要素が増えるぶん高くなる
位置づけ 条件を満たしたときに使える例外 標準
DGR付PASがGR付PASより高くなるのは、零相電圧を検出する構成が加わるためです。その差は、不必要動作で設備が止まる損失と比べて判断します。
ペン太ペン太
ケーブルが短ければ無方向性でいいのでは?
ハリタハリタ
その時点では成立します。ただ増築で盤が増えたり、ルートが変わったりすると条件を外れます。あとから継電器を替えるほうが手間です。
ここまでのポイント
  • 地絡継電器は方向性(DGR)を標準として選定する
  • 無方向性は「条件を満たすことを確かめたときに使える例外」
  • GRは零相電流の大きさだけ、DGRはZCT+ZPDで向きまで見る
  • 構内ケーブルはあとから伸びる。将来の変更に強いのは方向性

もらい事故は、なぜ起きるのか

原因は「他人のPASが開いた電流」ではなく、自分のケーブルに流れる充電電流です。

よくある説明に「他の需要家のPASが開放して、その事故電流が自分のところにも流れる」というものがありますが、これは因果が逆です。実際には構外の地絡が続いているあいだに、系統の対地電圧が偏って零相電圧が現れ、自分の構内ケーブルの対地静電容量を通って充電電流が流れます。この電流は構内事故のときとは逆向きにZCTを通りますが、大きさしか見ていないGRには区別できず、動作してしまいます。

上が「もらい事故」、下が「波及事故」。矢印の向きと、止まる範囲が逆になります。
もらい事故 波及事故
事故の場所 構外(他の需要家や配電線) 自分の構内
起きること 自分のPASが不必要動作して自分だけ停電 自分の事故で配電線が止まり、他の需要家も停電
対策 方向性(DGR)を標準にする PASの確実な動作、保護協調
名前が似ていますが、方向が正反対の現象です。混同すると対策も逆になります。

⚠ もらい事故は、構内を点検しても再発を止められない

原因が構外にあるため、構内の絶縁測定をしても「異常なし」で終わります。復電はできても、同じ配電線で地絡が起きればまた止まります。再発を止める手立ては継電器側にしかありません。これが、最初から方向性を標準にしておく実務上の理由です。

ここまでのポイント
  • もらい事故=構外地絡中に自分の構内ケーブルの充電電流がZCTを逆向きに通ること
  • 「他人のPASが開いた電流が流れてくる」わけではない
  • 構内を点検しても原因は見つからず、再発も止まらない
  • もらい事故と波及事故は方向が正反対の現象


無方向性のままでも成立する条件

既設がGRのままの設備や、構内がごく短い小規模な設備では、無方向性でも成立します。その確認に使うのが、PAS負荷側にある高圧ケーブルの合計こう長です。この表はメーカーの取扱説明書に載っているもので、CV・CVT、地絡動作電流0.2A整定が前提です。

この範囲に収まっていれば無方向性でも成立します。0.4A整定にすれば約2倍まで。
ケーブル
公称断面積
0.2A 整定 0.4A 整定(約2倍)
60Hz 50Hz 60Hz 50Hz
22 sq 50 m 60 m 100 m 120 m
38 sq 42 m 51 m 84 m 102 m
60 sq 36 m 43 m 72 m 86 m
100 sq 29 m 35 m 58 m 70 m
CV・CVTの場合。0.4A整定の値は「0.2A整定の約2倍」というメーカーの記載にもとづく目安です。
いま条件内でも、盤の増設や増築でこう長は伸びます。判断はそのたびにやり直しになります。

⚠ 無方向性を選ぶなら、あわせて確認すること

  1. 将来の増設予定 盤の増設・増築でケーブルが伸びる計画がないか
  2. 余裕の大きさ 表の値ぎりぎりなら、方向性にしておくほうが安全
  3. 引込方式 地中引込(UGS・UAS)は構内ケーブルが長くなりやすい
  4. 電力会社・保安管理者の意向 方向性を求められることがある

この4つに引っかかるなら、こう長が条件内でも方向性にしておきます。

計算で確かめるときの考え方

地絡動作電流 Ig に相当する1線あたりの対地静電容量 Co は、次の式で求められます。

式 Co = Ig /(√3 × 2πf × V)
記号 Ig:地絡動作電流[A]/f:周波数[Hz]/V:公称電圧 6,600[V]

💡 Ig=0.2A のときの Co

  • 60Hz 0.2 /(1.732×2π×60×6,600)= 約0.0464μF
  • 50Hz 0.2 /(1.732×2π×50×6,600)= 約0.0557μF

周波数だけが違うので、50Hzの値は60Hzの 60/50 = 1.2倍になります。ここで求まる Co は「継電器が動作する充電電流に相当する静電容量」であり、不動作を保証する値ではありません。メーカーの最大ケーブル長の表は、この値に余裕を見込んだものです。実務では表の値をそのまま使い、計算は根拠の確認に使います。

出典:戸上電機製作所 GR付PAS 取扱説明書(無方向性で使用可能な最大ケーブル長)、高圧受電設備規程(JEAC 8011)

ここまでのポイント
  • 無方向性の可否は、PAS負荷側の高圧ケーブルの合計こう長で確認する
  • 0.2A整定の目安は 22sq 50m/38sq 42m/60sq 36m/100sq 29m(60Hz)
  • 0.4A整定にすれば約2倍まで使える
  • 将来の増設・余裕の小ささ・地中引込に当てはまるなら、条件内でも方向性にする


整定と、上位との協調

動作電流・動作時間・上位との協調はセットで決めます。

高圧受電設備規程も、「構内のZCT負荷側の対地静電容量が大きく、構外事故時に不必要動作するおそれがある場合には、地絡方向継電装置を用いることが望ましい」としています。方向性を標準にしておけば、この判断で悩む場面がなくなります。そのうえで、整定は物件ごとに決めます。

決めること 目安 理由
地絡動作電流 0.2A(標準)/0.4A 構内ケーブルが長いときは0.4Aで不必要動作を避ける
動作時間 0.2秒 上位の遮断装置より先に動く必要がある
上位との時間差 0.2秒以上 同時動作を避け、事故点を最小範囲で切り離す
零相電圧整定 方向性で設定する 向きの判定に使う。位相の範囲もあわせて決まる
整定値は電力会社との協議で決まることがあります。着工前に確認しておくと手戻りがありません(上位との協調は保護継電器と保護協調)。
PASが0.2秒で動き、上位はそれより0.2秒以上あとに動く。この順番が保護協調です。
ここまでのポイント
  • 方向性を標準にすれば、要否の判断で悩む場面がなくなる
  • 整定は物件ごとに決める(動作電流0.2A/0.4A、動作時間0.2秒)
  • 上位との時間差は0.2秒以上をとる
  • 方向性では零相電圧整定と位相の範囲もあわせて決まる

方向性なら絶対に大丈夫、ではない

方向性にすれば構外地絡による不必要動作は原理的に起きにくくなりますが、ゼロになるわけではありません。標準として採用したうえで、施工と試験で次を確かめるところまでが対策です。

⚠ 方向性にしても確認すること

  • ZCTの貫通方向 ケーブルの通し方向を間違えると、判定が逆になる
  • ケーブル遮へい層の接地の取り方 接地線をZCTに通すかどうかで零相電流の見え方が変わる
  • ZPDの不良・配線の誤り 零相電圧が正しく入らないと方向判定ができない
  • 高抵抗地絡 電流が小さく、整定値に達しない
  • 雷サージ・ノイズ 瞬間的な零相電流で動作することがある
  • 配電線の残留電圧 対地静電容量が不平衡だと常時零相電圧が出て、試験値がずれることがある

年次点検では、地絡動作電流値・地絡動作電圧値・位相試験・開閉器連動までを確認します。

遮へい層の接地線をZCTに通し返さないと、導体側と遮へい層側の電流が打ち消し合います。

なお地中引込(UGS・UAS)では構内ケーブルが長くなりやすく、方向性が前提の構成になります。機種の選び方はPASの選定方法と定格電流の計算、零相電圧を取るための制御電源はPAS内蔵VTの選定と設置基準で扱っています。

選定したPASを、そのまま単線結線図に落とし込めます。機器の配置・接続・開閉動作まで画面上で確認できるブラウザツールです(登録不要)。

単線結線図デザインスタジオを開く

ここまでのポイント
  • 方向性にしても、ZCTの貫通方向や遮へい層の接地を誤ると判定が狂う
  • 高抵抗地絡や雷サージでは、方向性でも動作・不動作の問題が残る
  • 年次点検で動作電流・動作電圧・位相試験・連動まで確認する
  • 地中引込は方向性が前提の構成になる


よくある質問

地絡継電器の方向性は付けたほうがよいですか?

方向性(DGR)を標準として選定します。無方向性は、構内の高圧ケーブルが短く条件を満たすことを確かめられたときに使う例外と考えてください。

なぜ方向性を標準にするのですか?

もらい事故は構外の地絡が原因なので、構内を点検しても再発を止められないためです。さらに構内ケーブルは増築や盤の増設であとから伸び、無方向性で成立していた条件を外れることがあります。

無方向性でもよいのはどんなときですか?

PAS負荷側の高圧ケーブルが短いときです。0.2A整定なら 22sq 50m/38sq 42m/60sq 36m/100sq 29m(60Hz)が目安で、0.4A整定にすれば約2倍まで使えます。ただし将来の増設予定があるなら、条件内でも方向性にしておきます。

もらい事故と波及事故はどう違いますか?

もらい事故は構外の事故で自分のPASが不必要動作して自分だけ停電すること、波及事故は自分の構内の事故で配電線が止まり他の需要家まで停電することです。方向が正反対です。

もらい事故は「他社のPASが開いた電流」が原因ですか?

違います。構外の地絡が続いている間に、自分の構内ケーブルの対地静電容量を通って充電電流が流れ、それがZCTを逆向きに通ることが原因です。

DGRにはなぜVTが必要なのですか?

向きを判定するために零相電圧が必要だからです。ZCTの零相電流とZPDで検出した零相電圧の位相関係から、構内か構外かを判定します。

整定はどう決めればよいですか?

地絡動作電流0.2A(構内ケーブルが長ければ0.4A)、動作時間0.2秒、上位の遮断装置との時間差0.2秒以上が目安です。電力会社との協議で決まることもあります。

方向性にすれば不必要動作はなくなりますか?

原理的には起きにくくなりますが、ZCTの貫通方向の誤り、遮へい層の接地の取り方、ZPDの不良、高抵抗地絡、雷サージでは問題が残ります。施工と試験での確認が必要です。


まとめ ― 取り違えやすいところと手順

取り違えやすいところ 正しくは
まず無方向性で検討し、足りなければ方向性 方向性が標準。無方向性は条件を満たしたときの例外
もらい事故は他社のPASが開いた電流が原因 構外地絡中に自分の構内ケーブルの充電電流がZCTを逆向きに通ることが原因
もらい事故=波及事故 方向が正反対の別現象
今のケーブル長で条件内なら無方向性でよい 増築・盤の増設でケーブルは伸びる。将来の変更も見て決める
方向性にすれば不必要動作はなくなる ZCTの貫通方向・遮へい層の接地・高抵抗地絡では問題が残る
もらい事故は構内を点検すれば原因が分かる 原因は構外。構内の点検では見つからず、再発も止まらない
判断の順番を「方向性が標準、無方向性は例外」に固定しておくと、物件ごとに悩まなくて済みます。
手順 やること 使う値
1|標準を決める 地絡継電器は方向性(DGR)を標準にする 仕様書・社内標準
2|例外の確認 無方向性にする理由があるなら、こう長を確認する 22sq 50m/38sq 42m ほか(60Hz・0.2A整定)
3|将来の確認 増設予定・余裕の大きさ・引込方式を確認する 地中引込は方向性が前提
4|整定 動作電流・動作時間を決める 0.2A/0.4A・0.2秒
5|協調 上位の遮断装置と0.2秒以上の差をとる 電力会社との協議も確認
6|施工と試験 ZCTの貫通方向・遮へい層の接地・位相試験を確認する 年次点検でも確認する
この6手順なら、毎回同じ基準で仕様を決められます。

📘 あわせて確認したいこと

本体の定格はPASの選定方法と定格電流の計算、制御電源とVTはPAS内蔵VTの選定と設置基準、保護継電器全体の考え方は保護継電器と保護協調で扱っています。

出典:高圧受電設備規程(JEAC 8011)、JIS C 4601 地絡継電器、JIS C 4609 高圧受電用地絡方向継電装置、戸上電機製作所 GR付PAS 取扱説明書、日本電気技術者協会。整定値は電力会社との協議によって変わります。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。引込・高圧受変電・幹線・接地を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。