この記事は連載「連載」(全5回)の1本です。

アスベストの連載に続いて、今回から新しいテーマ「PCB含有機器の処分」を取り上げます。舞台は同じく、私たちの現場です。ただし今回は、期限がもう目の前に来ています。

この記事でわかること

  • PCBとは何で、なぜ処分が法律で義務づけられているのかがわかる
  • 処分期限の全体像と、「高濃度」の期限がすでに終わっている事実がわかる
  • どんな電気機器にPCBが入っている可能性があるのかがわかる
  • 今すぐ何から手を付ければいいのか、最初の一歩がわかる

結論から言うと

低濃度PCB廃棄物の処分期限は2027年3月31日。執筆時点で残り約8か月です。高濃度PCBの処分期間はすでに全国で終了しており、期限を過ぎた機器は実質的に処分できなくなりました。同じことが低濃度でも起きます。古い変圧器・コンデンサ・照明用安定器を抱えているなら、動くのは今です。

PCBとは「かつて最高の絶縁油だった」物質です

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、人工的に作られた油状の化学物質です。

熱に強く、電気を通さず、化学的に安定している。絶縁油(変圧器やコンデンサの中に入れる、電気を絶縁するための油)としてこれ以上ない性能を持っていたため、1950年代から変圧器・コンデンサ・照明用安定器などの電気機器に広く使われました。

アスベストの回で「安くて優秀すぎた建材」という話をしましたが、PCBはその電気機器版です。優秀すぎたがゆえに大量に使われ、あとから毒性が判明した。構図はまったく同じです。

転機は1968年の「カネミ油症事件」

PCBの毒性が広く知られるきっかけになったのが、1968年に起きたカネミ油症事件です。食用油の製造工程でPCBなどが混入し、その油を口にした西日本の広い範囲の方々に、深刻な健康被害が出ました。

PCBは分解されにくく、体や環境の中に蓄積し続けます。皮膚の障害、内臓や免疫への影響などが報告されており、この事件を境に規制が一気に進みました。1972年に製造中止、1974年には製造・輸入が原則禁止。その後、2001年のストックホルム条約(残留性の高い有害物質を国際的に廃絶する条約)を受けて、同年にPCB特別措置法(PCB廃棄物の処分を期限付きで義務づけた法律)ができました。

ここで押さえてほしいのは、この法律の性格です。アスベストの法律は「工事のときに調べなさい」でした。PCB特別措置法は違います。「期限までに必ず処分しなさい」です。持っているだけで、カウントダウンが進んでいます。

処分期限の全体像|「高濃度」はもう終わっています

PCB廃棄物は、含まれるPCBの濃度によって「高濃度」と「低濃度」に分かれ、処分期限が別々に定められました。

PCB処分期限のタイムライン(高濃度PCBはJESCO各エリアで2019〜2024年に終了、低濃度PCBは2027年3月31日まで)図1:PCB処分期限のタイムライン

高濃度PCB廃棄物(PCBそのものを絶縁油に使った機器。濃度5,000mg/kg超)は、国が設立したJESCO(中間貯蔵・環境安全事業株式会社)の全国5か所の処理施設で処分が進められました。その処分期間は、エリアごとに2019年3月から2024年3月にかけて、すべて終了しています

そして重要なのが、期限後の扱いです。期限を過ぎて見つかった高濃度PCB機器は、JESCOではもう受け付けてもらえません。行政に相談したうえで、危険物として保管し続けるしかないのが実情です。「期限を過ぎたら処分できなくなる」は脅し文句ではなく、すでに起きている現実です。

低濃度PCB廃棄物(微量のPCBに汚染された機器。濃度0.5mg/kg超〜5,000mg/kg以下)の処分期限が、残された最後の期限です。それが2027年3月31日。この記事の執筆時点(2026年8月)で、残りは約8か月です。

残り時間は日々減っていきます。今日時点の正確な残り日数は、姉妹サイト・セコサポの「PCB処分期限カウントダウンタイマー」でご確認ください。残り日数と時・分・秒が自動で更新されます。

PCB廃棄物の濃度による区分(0.5mg/kg以下は対象外、0.5超〜5,000mg/kg以下が低濃度で期限2027年3月31日、5,000mg/kg超が高濃度で処分期間終了)図2:濃度による区分

「うちは関係ない」と言い切れない理由

「高濃度の機器なんて、とっくに処分済みだよ」という会社は多いと思います。問題は低濃度のほうです。

低濃度PCBのやっかいな点は、メーカーがPCBを使ったつもりがない機器にも入っていることです。製造工程での意図しない混入により、ごく微量のPCBが絶縁油に含まれてしまった機器が全国に大量に残っています。見た目では絶対にわかりません。

目安になるのは製造年です。

PCBが潜んでいる可能性のある電気機器と製造年の目安(変圧器1993年以前、封じ切りコンデンサ1990年以前、照明用安定器1957〜1972年)図3:PCBが潜んでいる可能性のある電気機器
  • 変圧器(絶縁油の交換ができるタイプ):1993年以前の製造なら、微量PCB汚染の可能性があります
  • コンデンサ(絶縁油を封じ切ったタイプ):1990年以前の製造が目安です
  • 照明用安定器(蛍光灯などの安定器):1957〜1972年製造の業務用・施設用のものに、高濃度PCBのコンデンサが使われていた可能性があります

変圧器とコンデンサだけではありません。電気溶接機、X線照射装置、昇降機、分電盤、モーターに付属・内蔵されたコンデンサも対象になり得ます。

たとえば、1970年代の工場を思い浮かべてください。キュービクルの変圧器は10年前に更新済み。ですが、天井の水銀灯の安定器はいつのものでしょうか。倉庫の隅の溶接機は。使っていない古い盤の中のコンデンサは。——低濃度PCBの「掘り起こし」とは、まさにこういう場所を一つずつ潰していく作業です。

「まだ使っている機器」も対象です

もう一つ、見落としやすい点があります。この期限は、倉庫にしまってある廃棄物だけの話ではありません。現役で使用中の機器も対象です。

PCB汚染がわかった使用中の機器は、電気事業法にもとづく届出(産業保安監督部へ)と、PCB特別措置法にもとづく届出(管轄の自治体へ)の両方が必要になります。そして2027年3月31日までに使用をやめ、処分を終えなければなりません。

「壊れていないから使い続ける」という選択肢は、期限の日をもってなくなります。設備更新の計画とセットで考える必要がある、ということです。

最初の一歩は「銘板の写真を撮ること」

では、何から始めればいいのか。難しいことではありません。古そうな機器の銘板(機器に付いている製造者・型式・製造年月が書かれた金属プレート)を確認し、写真を撮る。ここからです。

製造年がわかれば、先ほどの目安と照らせます。該当しそうなら、メーカーに型式で照会するか、絶縁油の濃度分析(1検体あたりおおむね1.5〜5万円、結果まで2〜4週間程度)に進みます。この調べ方の詳細は第3回で扱います。

分析には数週間かかり、処分にも予約や手続きの時間がかかります。残り約8か月という期間は、「まだある」ではなく「もうない」に近い。それがこの連載の出発点です。

この連載で扱うこと

  • 第2回:高濃度と低濃度の違い。期限を過ぎた高濃度機器に何が起きているか
  • 第3回:自社の機器を調べる方法(銘板・メーカー照会・濃度分析)
  • 第4回:電気設備の現場でPCBに出会う場所。機器別・場面別の注意点
  • 第5回:処分の手続きと費用。届出、無害化処理、費用軽減制度
  • 第6回:罰則と放置リスク、点検チェックリスト(連載まとめ)

まとめ

  • PCBは絶縁油として優秀すぎたため、1950年代から電気機器に大量に使われた
  • 1968年のカネミ油症事件を機に規制が進み、1972年に製造中止。2001年のPCB特別措置法で期限付きの処分が義務化された
  • 高濃度PCB(5,000mg/kg超)の処分期間は2019〜2024年に全国で終了。期限後に見つかった機器は実質処分できない
  • 低濃度PCB(0.5mg/kg超〜5,000mg/kg以下)の処分期限は2027年3月31日。執筆時点で残り約8か月
  • 対象は変圧器(1993年以前)・封じ切りコンデンサ(1990年以前)・照明用安定器(1957〜1972年)など。使用中の機器も含まれる
  • 最初の一歩は、古そうな機器の銘板を確認して写真を撮ること

次回は、高濃度と低濃度の区分をくわしく見たうえで、「期限を過ぎた機器がどうなったか」という、すでに起きている現実を追いかけます。

※法令情報および期限は執筆時点(2026年8月)のものです。届出や処分の運用は自治体によって異なる場合があるため、管轄の自治体・産業保安監督部の案内もあわせてご確認ください。

次に読むならこれ【付録】低濃度PCB廃棄物の主な対応業者一覧(第5回の補足資料)PCB廃棄物