第11回 パワー半導体は誰がつくるのか
ニュースの要点
- シリコンに代わる材料として、SiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)の実用化が進んでいる。
- SiCはEV・鉄道・産業用の高耐圧領域、GaNは電源アダプタやデータセンターの高周波領域と、得意分野が分かれている。
- 国内ではローム・東芝・三菱電機の3社が事業統合に向けた協議に入ったと報じられ、供給地図が変わろうとしている。
パワー半導体とは何をしている部品か
ひとことで言うと:電気を「必要な形」に変える部品。効率が上がれば、同じ仕事をより少ない電力でこなせる。
パワー半導体は、電圧・周波数・直流交流の別を変換するためのスイッチである。インバータ、コンバータ、電源装置のいずれにも入っており、変換のたびに一定の損失が生じる。この損失を減らすことが、そのままエネルギー消費の削減につながる。
長らく素材はシリコン(Si)だった。しかしシリコンは物性上の限界に近づいており、これ以上の高耐圧・高速化・低損失化が難しくなっている。そこで登場したのが、絶縁破壊電界がシリコンより1桁高いSiCと、電子の移動度が高いGaNである。
図のとおり、両者は競合というより住み分けの関係にある。SiCは数百V〜数千Vの高耐圧領域で強く、EVの主機インバータ、鉄道車両、産業用電源が主戦場になる。GaNは数十V〜数百Vで高い周波数を扱うのが得意で、小型のACアダプタや通信機器、データセンターの電源が中心である。シリコンも消えるわけではなく、コストが効く低耐圧・低周波の領域では引き続き使われる。
市場はどのくらいの速さで伸びているのか
ひとことで言うと:市場全体は10年で約2.2倍。そのうちSiCは6.4倍と、伸び方が突出している。
調査会社の予測では、パワー半導体の世界市場は2025年の3兆5,285億円から、2035年には7兆7,710億円へ拡大する見通しとされる。内訳を見ると、シリコン製品が数量を支える一方で、金額の伸びを牽引するのはSiCである。
| 2025年 | 2035年(予測) | 倍率 | |
|---|---|---|---|
| パワー半導体全体 | 3兆5,285億円 | 7兆7,710億円 | 約2.2倍 |
| SiCパワーデバイス | 4,558億円 | 2兆9,034億円 | 約6.4倍 |
| GaNパワーデバイス | 580億円 | 2,787億円 | 約4.8倍 |
出典の予測値をもとに整理。倍率は編集部による計算。
SiCの伸びを支えるのはEVである。EVの主機インバータにおけるSiC採用率は2024年時点で1割程度だが、2035年には5割を超えると予測されている。バッテリー容量を増やさずに航続距離を伸ばせる点が評価されており、車両価格の高い上位モデルから採用が広がってきた。
GaNの絶対額はSiCの1割にも満たないが、伸び率では引けを取らない。当初は充電器の小型化が用途の中心だったが、データセンターの電源や車載の補機電源へと広がりつつある。
材料の前に、ウエハの取り合いがある
ひとことで言うと:SiCウエハ市場は2024年の1,436億円から2035年に6,195億円へ。ただし価格は下落局面にある。
SiCデバイスをつくるには、まずSiCの単結晶ウエハが要る。この基板材料の市場は2024年の1,436億円から2035年には6,195億円へと4.3倍に伸びる見通しである。ただし、金額の伸びと単価の動きは別物だという点に注意が必要になる。
枚数ベースでは現在も6インチが9割近くを占め、より大口径の8インチへの移行は2026年以降が本格化するとみられている。その6インチでは、中国系メーカーの増産による価格攻勢が続いており、単価は下落傾向にある。数量が伸びても、事業としての採算は必ずしも改善しない。この構図が、次の再編の話につながる。
国内3社の統合協議が意味すること
ひとことで言うと:ローム・東芝・三菱電機を合算すると、SiCで世界2位相当の規模になる。
SiCパワーデバイスの世界市場では、Infineonが24.4%で首位、onsemiが7.9%で3位という構図にある。日本勢は個々では一桁のシェアだが、ローム・東芝・三菱電機の3社を合算すると11.3%となり、首位に次ぐ位置につける計算になる。
この3社が2026年3月に事業統合に向けた協議を開始したと報じられた。背景にあるのは、前節で触れた価格下落と、大口径化に必要な設備投資の重さである。経済産業省は2023年12月、ロームと東芝の共同生産計画に最大1,294億円を支援する方針を認定しており、政策側からも国内供給網の維持が課題と見なされている。
設計実務の側から見ると、統合の成否そのものより、製品系列と長期供給の見通しがどうなるかが関心事になる。統合が進めば型番の整理が起きる可能性があり、長寿命が求められる産業設備では、部品選定時に供給継続の確認をこれまで以上に取っておく価値がある。
データセンターが持ち込んだ800Vという条件
ひとことで言うと:ラック1台が1MWに近づくと、低電圧のままでは電流が過大になる。
AI向けサーバの消費電力の増大は、給電方式そのものを変えようとしている。1MWのラックを従来の54V級の直流母線で賄うと、電流は約18,500Aに達する。これを800V級にすれば約1,250Aで済む。
NVIDIAは800V直流給電のアーキテクチャを示しており、銅の使用量を約45%削減、エンドツーエンド効率を最大5%向上、GPU近傍の電源実装面積を26%削減できるとしている。同社は2026年下半期にMGX対応の800V直流電源ラック、2027年には1列あたり最大2MWの構成を掲げている。
800Vの直流を効率よく扱うには、高耐圧で高速なスイッチが要る。ここがSiCとGaNの新しい需要になる。EVで育った技術が、そのままデータセンターへ流れ込む形である。
設計実務では何を見ておけばよいか
SiCとGaNは、部品の置き換えにとどまらない。電圧の高さ、周波数の高さ、そして機器の小ささが、配電・冷却・絶縁の設計条件をまとめて変えていく。市場規模の数字よりも、その条件変化のほうが実務には早く届く。
関連する動きを追うには
- 調査会社が公表するパワー半導体市場の予測(富士経済など)で、SiC・GaNの金額と用途別の内訳を確認する。
- 各社のニュースリリースで、統合協議の進展と生産能力の増強計画を追う。
- データセンター向けの800V直流給電については、機器メーカーの技術資料とオープン規格の動向を並べて読む。
本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。
出典
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