連載「電気設備とお金の話 ― データで読む、この仕事の稼ぎ方」第1回

「電気設備の仕事って、正直いくらもらえるんですか」

この質問に、ネット上の記事はだいたい「平均年収は約450万円です」と答えます。ただ、その数字がどの調査の、どの年の、誰を対象にした集計なのかまで書いてある記事は多くありません。出典が書かれていない数字は、検証のしようがありません。

この連載では、感想を書きません。公的統計だけを使い、出典・調査年次・集計対象を毎回明記して、この仕事のお金の話を数字で組み立てていきます。

第1回のテーマは、そもそもの前提です。電気設備の仕事は、本当に稼げないのか。

先に結論を書きます。「稼げない」という前提は、少なくとも公的統計では支持されません。ただし「だから安心していい」という話にもなりません。同じ「建設業の賃金」を扱った統計どうしで、結論が真逆になる場面があるからです。その理由まで含めて見ていきます。


この記事で使うデータ

統計名 実施機関 使用する年次 集計対象
民間給与実態統計調査国税庁令和6年分(2025年9月公表)1年を通じて勤務した給与所得者
賃金構造基本統計調査厚生労働省令和7年速報(2026年1月公表)10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所の一般労働者
job tag(職業情報提供サイト)厚生労働省令和7年賃金構造基本統計調査ほか職業別
一般職業紹介状況厚生労働省令和6年度分ハローワーク求人・求職
公共工事設計労務単価国土交通省令和8年3月適用分公共工事に従事する建設技能者
国土交通白書国土交通省令和7年版建設業

いずれも国が実施する調査、または国が決定・公表する単価です。転職メディアの独自集計は一切使いません。


検証1|業種で比べる:建設業は14業種中5位

まず、いちばん大きな枠から見ます。国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分)の業種別平均給与です。この調査は源泉徴収義務のある事業所を対象としたサンプル調査で、賞与を含む年間の給与額を集計しています。

業種 平均給与(万円) 平均賞与(万円)
電気・ガス・熱供給・水道業832.4173.2
金融業、保険業702.3166.4
情報通信業659.5122.6
製造業567.6114.8
建設業565.482.4
学術研究、専門・技術サービス業、教育、学習支援業549.393.9
不動産業、物品賃貸業495.570.4
複合サービス事業490.195.6
運輸業、郵便業487.661.7
医療、福祉429.055.6
卸売業、小売業409.658.4
サービス業389.144.4
農林水産・鉱業347.953.0
宿泊業、飲食サービス業279.318.3
(業種平均)477.574.6

建設業は565.4万円で、14業種中5位。業種平均の477.5万円を87.9万円上回っています。比率にすると約1.18倍です。

なお給与所得者全体の平均給与は478万円で、4年連続の増加、過去最高を更新しています(前年比3.9%増)。建設業もこの流れの中にあり、前年比3.2%増でした。

ここまでで言えること:産業レベルで見る限り、建設業は日本の平均より高い賃金水準にあります。低い側ではありません。


検証2|月給で比べる:残業代を抜いても全産業を上回る

年収データには「残業代が乗っているだけではないか」という反論が必ず来ます。そこで、残業代を含まない数字で比べます。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の所定内給与額です。これは労働契約であらかじめ定められた条件で支給される現金給与額から、時間外勤務手当・深夜勤務手当・休日出勤手当・宿日直手当・交替手当を差し引いた額と定義されています。つまり残業代は入っていません。賞与も入っていません。

令和7年速報(2026年1月16日公表)の産業別・年齢階級別の数値がこちらです。

年齢階級 建設業(千円) 全体(千円) 差(千円)
〜19歳221.5208.3+13.2
20〜24歳250.5242.8+7.7
25〜29歳292.8279.4+13.4
30〜34歳330.9312.3+18.6
35〜39歳361.9340.6+21.3
40〜44歳380.5364.3+16.2
45〜49歳397.3377.9+19.4
50〜54歳429.8388.8+41.0
55〜59歳447.2396.2+51.0
年齢計366.3340.6+25.7

※「全体」は同調査の一般労働者・企業規模計・学歴計の値

年齢計で366.3千円。全体の340.6千円を25.7千円(7.5%)上回っています。しかもこれは残業代ゼロ、賞与ゼロの数字です。

さらに注目すべきは差の広がり方です。20代前半では7.7千円しか差がないのに、50代後半では51.0千円まで開きます。建設業の賃金カーブは、後半で伸びる形をしています。

ここまでで言えること:残業代を除いても、建設業の月給は全産業平均を上回ります。ただし若手のうちは差が小さく、恩恵を実感しにくい構造です。


検証3|学歴で比べる:建設業の高卒は「全産業の平均」とほぼ同じ

「でも大卒と高卒では違うのでは」という論点も、同じ調査で確認できます。令和7年速報の産業別・学歴別所定内給与額です。

産業 高校卒(千円) 大学卒(千円)
電気・ガス・熱供給・水道業434.5457.4
情報通信業384.4412.3
学術研究、専門・技術サービス業360.0458.8
建設業339.6418.7
金融業、保険業333.2480.9
不動産業、物品賃貸業313.4398.8
複合サービス事業309.3329.6
製造業299.7391.2
運輸業、郵便業298.1366.3
卸売業、小売業296.0403.8
教育、学習支援業292.3371.7
生活関連サービス業、娯楽業272.0334.0
サービス業(他に分類されないもの)266.0321.0
宿泊業、飲食サービス業260.6320.3
医療、福祉251.1379.8

建設業の高校卒は339.6千円。15産業中4位です。

そして、この数字には別の意味があります。全産業の学歴計の平均が340.6千円でした。建設業の高卒は、大卒・大学院卒を含めた日本全体の平均と、ほぼ同じ水準にあります。差はわずか1.0千円です。

全産業の高校卒(297.2千円)と比べると、建設業の高卒は月42.4千円高い。所定内給与だけで年換算すれば約50.9万円の差になります。

ここまでで言えること:高卒であることの不利は、産業選択によって相当程度打ち消されています。学歴の差より、どの産業にいるかの差の方が大きく効いています。


検証4|職業で比べる:電気工事士628.1万円、電気技術者703.9万円

ここまでは「建設業」という括りでした。もっと近づけて、職業単位で見ます。

厚生労働省の職業情報提供サイト job tag は、賃金構造基本統計調査をもとに職業別の平均年収を公表しています(賞与を含む年収換算値)。

職業 平均年収 平均年齢 平均月労働時間 就業者数 有効求人倍率
電気工事士628.1万円41.6歳163時間379,510人3.80倍
電気技術者703.9万円42.1歳159時間305,190人2.68倍
電気通信技術者609.8万円42.2歳160時間207,400人3.22倍

※年収・年齢・労働時間は令和7年賃金構造基本統計調査、就業者数は令和2年国勢調査、有効求人倍率は令和6年度ハローワーク求人統計データ

給与所得者全体の平均給与478万円(国税庁・令和6年分)と比べると、電気工事士は150.1万円、電気技術者は225.9万円上回っています。

学歴構成も併記しておきます。電気工事士は高卒56.1%・大卒17.1%、電気技術者は大卒54.0%・高卒38.0%。同じ「電気設備」の現場に立っていても、統計上の職業区分と学歴構成はかなり違います。この境界がキャリアと賃金にどう効くのかは、第4回で扱います。


検証5|反証:国交省のデータでは、建設業の賃金は全産業を「下回る」

ここまで一貫して「建設業は高い」という数字が並びました。ここで、逆の結論を示すデータを出します。

国土交通白書(令和7年版)には、こう書かれています。

  • 建設業生産労働者の年間平均賃金(2023年):432万円
  • 全産業労働者の年間平均賃金(非正規を除く):508万円
  • 差:76万円

先ほどまでと真逆です。同じ国の統計を使っているのに、なぜこうなるのか。

理由は集計対象の定義の違いです。

  1. 「建設業」と「建設業生産労働者」は別物。国税庁データの「建設業」には、現場の技能者だけでなく、施工管理・設計・積算・営業・事務も含まれます。一方、国交省が引用する「生産労働者」は、直接作業に従事する技能者に限定した区分です。管理・技術職を外せば平均は下がります。
  2. 比較対象も違う。国交省側は全産業を「非正規を除く」で揃えているのに対し、国税庁の478万円は正社員以外(206万円)も含んだ全体値です。母集団が違えば差の向きも変わります。
  3. 年次が違う。国交省の数字は2023年、国税庁は2024年分、賃金構造基本統計調査は2025年6月分です。この間に賃金は上昇しています(給与所得者全体で前年比3.9%増、賃金構造基本統計調査の所定内給与額で3.1%増)。

つまり、どちらも間違っていません。「建設業の賃金」という言葉が、話者によって別のものを指しているだけです。

これは重要な示唆を含みます。技能者だけを切り出すと全産業を下回り、技術者・管理職を含めると全産業を上回る。この落差そのものが、この業界の賃金構造を表しています。


検証6|単価と需給:14年連続の上昇、求人倍率は全体の3倍

最後に、賃金以外の2つの指標を見ます。

公共工事設計労務単価

国土交通省が毎年決定する、公共工事の積算に用いる労務単価です。令和8年3月から適用される単価は、全国全職種の加重平均で25,834円(所定労働時間内8時間当たり)。平成25年度の改定から14年連続の引き上げで、初めて25,000円を超えました。全国全職種の単純平均伸び率は前年度比+4.5%、平成24年度比では+94.1%です。

このうち「電工」の単価を都道府県別に見ると、次のようになります。

区分 電工の単価(円/8時間)
東京都34,300
神奈川県31,500
千葉県31,400
埼玉県31,200
愛知県28,200
大阪府28,100
福岡県28,900
北海道29,100
沖縄県23,700
47都道府県の単純平均約28,000

※国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」より。単純平均は公表資料の47都道府県の値から筆者が算出したもので、加重平均値ではありません

この単価の読み方には注意が必要です。 労務単価は公共工事の予定価格を積算するための単価であり、労働者が実際に受け取る賃金そのものではありません。また、時間外・休日・深夜の割増賃金は含まれず、事業主が負担すべき法定福利費や現場管理費・一般管理費も含まれていません。国交省は同じ資料の中で、下請代金にこれらの必要経費を計上しない、あるいは下請代金から値引くことは不当行為であると明記しています。

有効求人倍率

令和6年度平均の有効求人倍率は、全体で1.25倍でした(前年度1.29倍から0.04ポイント低下)。

これに対し、job tag が公表するハローワーク求人統計データ(令和6年度)では、電気工事士3.80倍、電気通信技術者3.22倍、電気技術者2.68倍。電気工事士は全体の約3.0倍の水準です。

需要側から見て、この職種が不足していることは数字にはっきり出ています。


なぜ人手不足なのか:担い手のデータ

求人倍率が高いことは、裏返せば人が集まっていないということです。国土交通白書(令和7年版)と日本建設業連合会の集計から、担い手側の数字を挙げておきます。

指標 建設業 全産業
55歳以上の割合(2024年)36.7%32.4%
29歳以下の割合(2024年)11.7%16.9%
年間平均労働時間(2023年度)2,018時間建設業が62時間長い

建設業就業者数は2024年で477万人。ピークだった1997年の685万人から3割以上減っています。建設技能者は303万人で、1997年比65.3%の水準です。

労働時間についても正直に書いておきます。建設業の年間平均労働時間は全産業より62時間長く、休日の取得状況は「4週6休程度」が最も多い。4週8休以上を確保できているのは公共工事で3〜4割、民間工事では1割強にとどまります。時間外労働の上限規制は2024年4月から建設業にも適用されましたが、労働時間の水準は依然として全産業より長い側にあります。

賃金が相対的に高いことと、労働環境の負荷が高いことは、同時に成立しています。 どちらか一方だけを取り上げても、この仕事の実像にはなりません。


まとめ:数字から言えること/言えないこと

言えること

  1. 産業レベルでは、建設業の賃金は日本の平均より高い。 国税庁の業種別平均給与で565.4万円、14業種中5位、業種平均を87.9万円上回る(令和6年分)。
  2. 残業代を除いても上回る。 所定内給与額で366.3千円、全体の340.6千円を7.5%上回る(令和7年速報)。
  3. 学歴の不利は産業選択で相当程度打ち消される。 建設業の高卒339.6千円は、全産業の学歴計340.6千円とほぼ同水準。
  4. 職業単位ではさらに高い。 電気工事士628.1万円、電気技術者703.9万円。給与所得者全体の平均478万円を大きく上回る。
  5. 需給は働き手に有利。 有効求人倍率は電気工事士3.80倍で、全体1.25倍の約3倍。労務単価は14年連続で上昇。

言えないこと

  1. 「誰でも稼げる」とは言えない。 挙げた数字はすべて平均値です。分布の広がりや中央値は、この記事で使った公表資料からは分かりません。
  2. 「技能者も高い」とは言えない。 生産労働者だけを切り出した国交省データでは、全産業を76万円下回ります。管理・技術職を含めるかどうかで結論が反転します。
  3. 「労働環境も良い」とは言えない。 年間労働時間は全産業より62時間長く、4週8休の達成率は民間工事で1割強です。
  4. 賃金構造基本統計調査の数字は、10人以上の事業所の一般労働者が対象です。 小規模事業所や一人親方の実態は、この調査には十分反映されていません。

「電気設備は稼げない」という前提は、公的統計では支持されません。ただし、その賃金水準は自動的に手に入るものではなく、どの職域にいるか・どの規模の会社にいるか・年齢とともにどう賃金カーブに乗るかで大きく変わります。

次回は、その分岐点を具体的に見ていきます。年齢階級別・企業規模別・勤続年数別の賃金カーブを並べて、「あなたの給料は業界のどこにいるのか」を自分で確認できる形にします。


出典

本記事の数値はすべて上記公表資料に基づきます。統計は毎年更新されるため、賃金構造基本統計調査は毎年1月(速報)、民間給与実態統計調査は毎年9月、公共工事設計労務単価は毎年2月の公表にあわせて記載を見直します。