マンションの電気設計 ②|幹線の計画 ― 1戸の分電盤を、建物全体へどう配る?

前回は、1つの住戸(専有部)の電気計画を「照明 → スイッチ → コンセント → 弱電 → 回路容量 → 専用回路 → 分電盤」の順でまとめました。1戸ぶんの分電盤が決まると、次に考えるのは「その電気を、建物全体にどう届けるか」――つまり幹線の計画です。
今回もハリタ先生とペン太が、住戸の分電盤を出発点に、幹線をどう組み立てていくかを順番に見ていきます。
- 幹線=分電盤から先の「太い道」。1戸の分電盤を建物全体へ配る
- 全戸を単純合計せず、需要率で現実的な大きさに
- 縦に長い→上階ほど電圧降下。許容電流・電圧降下・こう長で幹線サイズを決める
▶ 前回:マンションの電気設計 ①|住戸内(専有部)の計画の進め方
幹線ってなに? ― 分電盤から先の「太い道」
ペン太「先生、前回で1戸の分電盤まで決まりましたよね。次は何をするんですか?」
ハリタ先生「いい流れだね。分電盤まで来たら、今度はその分電盤に電気を届ける”太い道”を計画するんだ。これが幹線だよ」
ペン太「太い道……。住戸の中の配線とは別物なんですか?」
ハリタ先生「そう。住戸の中は”枝葉”、幹線は文字どおり”幑(みき)”だ。受変電設備や引込口から、各住戸の分電盤まで電気を運ぶ大きな流れ。マンションは住戸が縦にも横にも並ぶから、この幹線をどう通すかで建物全体の設計が決まってくるんだ」

① 全戸を足すと過大になる ― 需要率という考え方

ペン太「じゃあ幹線の太さは、全部の住戸の分電盤を合計すれば決まりますか?」
ハリタ先生「そこが前回と同じ落とし穴だよ。48戸ぶんの契約容量を単純に全部足すと、幹線も受電設備もとんでもなく大きくなってしまう」
ペン太「あっ、また”全部同時には使わない”やつですね」
ハリタ先生「その通り。全戸が同時にフル稼働することはまずない。だから幹線の計画では、需要率(同時に使われる割合)や、複数戴をまとめたときの不等率を見込んで、現実的な大きさに落とすんだ」
幹線を決める前提
・各住戸の契約容量(1戸ぶん)を積み上げる
・全戸を単純合計せず、需要率を掛けて実際の最大需要に近づける
・共用部(照明・動力)は住戸とは別に集計する
ペン太「需要率って、何%くらいなんですか?」
ハリタ先生「戸数や住戸のタイプ、オール電化かどうかで変わるから一概には言えない。電力会社との協議や、内線規程・設計基準の数値を確認して決めるところだね。ここは”必ず裏を取る”部分だよ」
② 縦に配る ― 住戸幹線と縦シャフト(PS・EPS)
ハリタ先生「マンションの幹線の特徴は、縦に伸びることなんだ。1階の受電設備から、上の階の住戸まで、垂直に電気を持ち上げていく」
ペン太「その通り道が……パイプスペースですか?」
ハリタ先生「よく知ってるね。EPS(電気シャフト)やPS(パイプスペース)という縦の空間を使う。ここに幹線をまとめて通して、各階で住戸ぶんを分岐していくんだ」
ペン太「じゃあ、その縦シャフトの場所も電気設計で決めるんですか?」
ハリタ先生「建築と相談しながらね。各住戸から近くて、上下にまっすぐ抜けていて、点検もしやすい位置。ここは前回の分電盤と同じで、”引き込みやすくて点検しやすい場所”が正解なんだ。縦シャフトの位置が悪いと、幹線が遠回りして電圧降下にも効いてくる」
③ 幹線サイズを決める ― 許容電流・電圧降下・こう長
ペン太「いよいよ幹線の太さですね。何を見て決めるんですか?」
ハリタ先生「大きく3つだよ」
- 許容電流 … その幹線に流れる電流を安全に流せる太さか
- 電圧降下 … 長い距離を送っても、末端で電圧が落ちすぎないか
- こう長(配線の長さ) … 距離が長いほど、上の2つが厳しくなる
ペン太「太さって、許容電流だけじゃ決まらないんですね」
ハリタ先生「そこが幹線の難しさ。許容電流だけならこの太さで足りる、でも距離が長くて電圧降下がアウト……となったら、電圧降下で太さが決まることも多いんだ。特にマンションは縦に長いからね」
④ 上階ほど不利 ― 電圧降下の考え方

ペン太「縦に長いと、上の階が不利になるんですか?」
ハリタ先生「そう。受電設備は普通1階まわりにある。そこから10階の住戸まで電気を送ると、こう長が長くなって電圧降下が大きくなる。同じ幹線でも、上の階ほど末端電圧が下がりやすいんだ」
ペン太「電圧が下がると、何が困るんですか?」
ハリタ先生「機器が本来の性能を出せなかったり、不具合の原因になる。だから電圧降下は目安の範囲内に収めるように幹線サイズを決める。長いこう長で厳しいときは、幹線を太くする、というのが基本の対処だね」
電圧降下は”目安の範囲内”に
・こう長が長いほど電圧降下は大きくなる
・許容電流はOKでも、電圧降下で幹線サイズが決まることがある
・具体的な許容%やこう長による緩和は、内線規程・設計基準で確認する
ペン太「毎回、手計算するんですか?」
ハリタ先生「式でも出せるけど、こう長・電流・電圧を入れれば出せる電圧降下の計算ツールを使うと早いよ。何パターンも試すときこそ、ツールの出番だね」
⑤ 共用部の幹線は分ける ― 照明と動力

ハリタ先生「幹線は住戸ぶんだけじゃない。共用部の電気も忘れちゃいけないんだ」
ペン太「共用部……エントランスの照明とか、廊下ですか?」
ハリタ先生「それに加えて、エレベーター・給水ポンプ・機械式駐車場みたいな動力もある。共用の照明・コンセント系統(単相)と、動力系統(三相)は性質が違うから、幹線も分けて計画するんだ」
ペン太「住戸・共用照明・共用動力、の3つに分けて考える感じですにZ
ハリタ先生「いい整理だ。この分け方が、次に出てくる受電方式の話にもつながっていくよ」
⑥ 幹線を守る ― 保護と分岐
ペン太「太さが決まったら、あとは通すだけですか?」
ハリタ先生「もうひとつ、保護が要る。幹線には過電流から守るための保護(ブレーカーやヒューズ)を入れて、各階・各系統へ分岒していく。分岒したところにも、その先を守る保護が必要になる」
ペン太「住戸の分電盤も、その分岐の先のひとつってことですか?」
ハリタ先生「そういうこと。受電設備 → 幹緛 → 各階分岐 → 住戸の分電盤 → 住戸内の回路、と保護が段々になって連なっていく。前回やった1戸の分電盤が、この大きな流れの末端にちゃんとつながるんだ」
まとめ ― 幹線は「1戸を建物に束ねる」工程
幹線の計画は、需要率で全体の大きさを見積もる → 縦シャフトでルートを決める → 許宦電流・電圧降下・こう長でサイズを決める → 共用部を分ける → 保護で守る、という流れで進みます。マンションは縦に長いぶん、電圧降下が効いてくるのが特徴です。前回の「1戸の分電盤」が、幹線を通じて建物全体につながっていきます。
次回は、その幹線の”大もと”――建物にどう電気を引き込むか、「受電方式の選び方(借室電気室・集合住宅用変圧器・低圧引込ー)」に進んでいきます。





