「先月もらった電線の見積、もう使えないって言われました……」

ペン太くんが見積書を持ったまま固まっています。

電線が上がり続けています。しかも、上がり方が2種類あることを知らないと、施主にも上司にもうまく説明できません。

この記事では、電線の価格を銅建値によるスライド分それ以外の値上げ分に切り分けて整理します。そのうえで、電線業界の決算に出てくる「ある不思議な数字」を見ます。


🪙まず事実|電気銅建値は過去最高を更新しました

電線の価格の土台になるのが、電気銅建値です。

JX金属が発表している国内の電気銅の卸売基準価格で、2026年7月の動きはこうでした。

改定日 建値(円/トン) 前回比
7月1日 2,270,000 +30,000
7月3日 2,230,000 ▲40,000
7月7日 2,260,000 +30,000
7月9日 2,240,000 ▲20,000
7月13日 2,270,000 +30,000
7月15日 2,290,000 +20,000
7月21日 2,310,000 +20,000
7月22日 2,370,000 +60,000(過去最高値)
7月24日 2,320,000 ▲50,000
7月28日 2,360,000 +40,000

1か月で10回改定されています。しかも7月22日に+6万円、7月24日に▲5万円、7月28日に+4万円と、2〜3営業日で数万円動いています。

月間平均で見ると、上昇の大きさがはっきりします。

2024年 2025年 2026年
1月 1,265,200 1,459,400 2,130,000
3月 1,342,100 1,496,300 2,089,500
6月 1,584,200 1,462,600 2,273,500
12月 1,419,400 1,866,100

2026年6月は2025年6月比で+55.4%、2024年6月比で+43.5%です。

注意点

2026年7月の月間平均は、この記事の執筆時点でまだ公表されていません。JX金属は「当月末に確定次第記載します」としています。月平均を引用するなら、公表済みの6月値を使ってください。


電気銅建値の月平均が2024年から2026年にかけて上昇した推移グラフ
図1:電気銅建値の月平均推移(2024年1月〜2026年6月)

❓そもそも「建値」とは何なのか

意外と説明できない人が多いところです。

建値はJX金属が発表する国内電気銅の卸売基準価格で、価格が動いたときだけ改定されます。毎営業日出るわけではありません。

構成要素はLME(ロンドン金属取引所)の銅価格+為替+諸経費とされていますが、JX金属は算定式を公開していません(同社サイトには「電気銅建値に関するお問い合わせにつきましてはご回答いたしかねます」との注記があります)。改定は1万円単位で丸められます。

ここで大事なのは、円建ての建値は「ドル建ての銅価格 × 為替」で動くということです。ロンドンの銅価格がまったく動かなくても、円安が進むだけで国内の建値は上がります。

今回の値上がりは、円安のせいなのか

分解してみましょう。矢崎エナジーシステムが建値の改定ごとにLME価格とドル円を公開しているので、それを使います。

建値改定日 建値 LME ドル円
2025年10月10日 147万円 $9,545.00 149.29
2026年1月5日 205万円 $12,509.50 156.96
2026年6月3日 233万円 $13,989.50 159.91
2026年7月28日 236万円 $13,807.50 163.78

2025年10月から2026年7月末までの変化は、

  • 建値:+60.5%
  • LME(ドル建て銅価):+44.7%
  • ドル円:+9.7%

ポイント!

かけ合わせると1.447 × 1.097 = 1.587 で、建値の上昇をほぼ説明できます。寄与度で見ると、ドル建ての銅価格そのものが約8割、円安が約2割です。

「電線が上がったのは円安のせい」と言われたら、「円安の影響は2割くらいで、8割は銅そのものが世界で上がっている」と答えられます。※この分解は上記2時点の公表値からの筆者計算です。

なぜ銅そのものが上がっているのか

電線メーカーの矢崎エナジーシステムは、建値改定のたびに理由を公表しています。2026年7月のコメントを引くと、

LMEと中国の銅在庫は減少を続けており、相場の強材料となっている

現物需給の逼迫感が意識され、銅相場は急伸

実際、LMEの銅在庫は2026年6月末の約35.2万トンから、7月30日には25.5万トンまで減っています。1か月で10万トン近い減少です。

このほか、AI・データセンター建設にともなう電力需要、チリやインドネシアの鉱山の供給問題、米国の銅関税をめぐる思惑などが指摘されています。


⚠️ここが混同ポイント|値上げは「2階建て」です

これが本題です。

電線の価格が上がる経路は2つあり、性質がまったく違います。

①銅建値スライド ②メーカーの価格改定
対象 導体の銅の分 樹脂(被覆材)・物流費・人件費・加工賃
変わるタイミング 建値が動くたび自動的に メーカーが発表したとき
公表されるか 建値として毎回公表 ニュースリリースで公表
2026年の例 205万円→236万円(1月→7月) 4〜8%の改定

注意点|「4〜8%値上げ」に銅は入っていません

ニュースで「電線メーカーが4〜8%値上げ」と聞くと、銅高が理由だと思いがちです。違います。

銅は建値スライドで自動的に単価に乗るので、わざわざ値上げを発表する必要がありません。公表される改定率は、銅以外のコスト(樹脂・物流・人件費)の値上げ分です。

つまりこの2つは足し算であって、どちらか一方ではありません。ここを混同すると、見積の読み方を間違えます。

2026年に確認できた価格改定

メーカー公式のリリースで日付まで確認できたものを挙げます。

メーカー 発表日 実施 改定率 対象
フジクラ・ダイヤケーブル 2026年4月3日 2026年6月より順次 4〜7% 各種電線・ケーブル
SFCC(SWCCグループ) 2026年3月24日 2026年7月1日 平均4〜8% 銅導体の電線・ケーブル全般

このほか、住電HSTケーブルが2026年6月受注分から全品種・全サイズを対象に3〜8%という報道がありますが、同社公式サイトにリリースの掲載がなく、発表日は確定できませんでした(業界紙の報道ベース)。

ポイント!値上げの発信主体は「販社」です

住友電工や古河電工の本体サイトを見ても、建設用電線の値上げリリースは出てきません。建設用電線の販売は、住友電工グループなら住電HSTケーブル、SWCCグループならSFCCが担っているからです。

「メーカーのリリースが見つからない」と思ったら、販社の名前で探してください。

銅以外が上がっている理由

被覆材です。業界紙の報道によれば、

表面保護・電気絶縁に用いるポリエチレンやビニルなど石油由来の被覆材料は、銅と並ぶ主要資材の一つ

2026年3月ごろから被覆材の仕入先から価格改定の通知が来ており、中東情勢の緊迫化が背景にあるとされています。


銅建値スライドとメーカーの価格改定という2つの値上げ経路を示した図
図2:電線の値上がりは「2階建て」

📉電線業界の決算に出てくる「不思議な数字」

ここからが、この記事でいちばん見てほしいところです。

電線専門商社の泉州電業(9824)の2026年10月期中間決算に、こう書かれています。

電線の主材料である銅の価格が、1トン当たり期中平均2,009千円と前年同期平均1,443千円に比べ39.2%上昇いたしました

また、建設・電販向けの出荷量は、前年同期に比べ減少基調で推移いたしました。

銅は39.2%上がっているのに、建設向けの出荷量は減っている。

同社の中間期の売上高は767億79百万円で前年同期比+11.3%。売上が伸びているのは、値段が上がっているからであって、工事量が増えているからではないということです。

業界統計も同じことを言っています

日本電線工業会が公表している銅電線の出荷量(トンベース)を見ると、

年度 出荷計(千トン) 前年度比
2021年度 630.4 +1.2%
2022年度 619.6 ▲1.7%
2023年度 619.5 ▲0.0%
2024年度 595.4 ▲3.9%
2025年度 583.3 ▲2.0%

5年で約7%減っています。2025年度の建設・電販向けは271.5千トンで、前年度比▲4.1%でした。

ポイント!これが「実感が正しい」ことの証明です

「仕事量はそんなに増えていないのに、金額だけどんどん膨らむ」——現場のこの感覚は、業界団体の統計と電線商社の決算の両方が裏づけています。

見積が上がっているのは、需要が過熱しているからではありません。銅の値段です。施主への説明でも、上司との会話でも、ここを押さえておくと話が早くなります。


銅電線の出荷量が2021年度から2025年度にかけて約7%減少したグラフ
図3:銅電線の出荷量の推移(日本電線工業会)

🏭メーカーの決算では、銅高は増益にも減益にもなる

もうひとつ面白いのが、同じ会社の中で銅高がプラスにもマイナスにも出ることです。

住友電工(5802)の2027年3月期第1四半期の決算短信から引きます。

環境エネルギー関連事業(電力ケーブル)

営業利益は…銅価格上昇により、15,265百万円と1,643百万円の増益となりました

自動車関連事業(ワイヤーハーネス)

営業利益は、中東情勢の影響による原材料価格上昇のほか、銅価格上昇の影響もあり、26,026百万円と561百万円の減益となりました

同じ決算の中で、電力ケーブルは銅高で増益、自動車は銅高で減益です。

フジクラ(5803)はもっとはっきりしています。自動車事業では「売価転嫁できない銅価高騰影響」、エネルギー事業では「銅価高騰に起因するデリバティブ評価益」と書き分けています。

ポイント!違いは「転嫁の速さ」です

電力ケーブルは銅建値スライドで即座に転嫁できるので、銅が上がれば在庫評価益も出て増益になります。

一方、自動車のワイヤーハーネスは長期契約で価格が固定されているため、銅が上がった分をすぐには転嫁できず減益になります。

私たちが扱う建設用電線は前者です。だからこそ、建値が上がった瞬間に単価が動きます。


🧮建値が10万円動くと、単価はいくら変わるのか

実務で気になるのはここでしょう。

残念ながら、品種別の銅比率を数値で示した業界団体やメーカーの公表資料は見つかりませんでした。そこで、導体の銅の物理量から試算します。

銅の密度は8.89g/cm³なので、導体銅量(kg/m)= 断面積(mm²) × 芯数 × 8.89 ÷ 1000。建値+10万円/tは+100円/kgです。

品種 導体銅量(概算) 建値+10万円/tでの上昇
CVT 38sq × 3芯 約1.01 kg/m 約+101円/m
CVT 60sq × 3芯 約1.60 kg/m 約+160円/m
CVT 100sq × 3芯 約2.67 kg/m 約+267円/m
IV 5.5sq 約0.049 kg/m 約+5円/m
VVF 1.6mm-2C 約0.036 kg/m 約+4円/m
VVF 2.0mm-3C 約0.084 kg/m 約+8円/m

これを2026年の実際の建値の動きに当てはめると、

  • 2026年1月5日(205万円/t)→ 7月28日(236万円/t)= +31万円/t
  • CVT 38sq×3芯なら、導体銅の分だけで約+314円/m

100m引けば3万円強、1,000mなら30万円強の差です。しかもこれは銅の分だけで、ここに4〜8%の価格改定が乗ります。

注意点|これは理論値です

実際の売価には、撚り線率(約1.02倍)、メーカーごとの銅ベース基準値と加工賃、そして前述の価格改定が加わります。

「建値10万円/tは、CVT38sq×3Cで概ね100円/m前後の変動要因になる」という当たりをつけるための目安として使ってください。正確な単価は必ず商社に確認を。


📝見積の実務でどうするか

①「既受注は対象外」を使う

住電HSTケーブルが公表している価格改定文書には、こう書かれています。

①既受注件名については値上げ対象外とします

受注を確定させれば、単価は固定されるということです。逆に言えば、確定が遅れるほど値上げのリスクを抱え続けます。

因幡電機産業(9934)の2027年3月期第1四半期の決算には、これが業界全体で起きていることが書かれています。

銅価格の上昇や更なる高騰懸念を背景とした先行需要などにより電線ケーブル類の販売が増加しました

中東情勢の影響等による資材供給への懸念などを背景に、全セグメントにおいて市場での需要前倒しの傾向が強まり

同社の第1四半期は売上高+29.3%、営業利益+90.4%。「上がる前に買っておこう」という動きが、決算数値に出るレベルで起きているわけです。

②見積の有効期限を意識する

フジクラ・ダイヤケーブルは価格改定のリリースに、こう書いています。

今後も物価等の変動に伴い、都度価格の改定を行う予定です。また、今後の中東情勢の動向により改定内容を再度改めさせて頂くこともございます

「年1回の改定」という時代ではなくなっています。建値は月に10回動きます。古い見積が使えないのは、担当者が不親切なわけではありません。

③見積条件に銅ベースを明記する

矢崎エナジーシステムや住電HSTケーブルは、銅ベース値を常時サイトで公開しています。見積の前提として「銅ベース○○○千円/t基準」と条件を明記しておけば、後から差額を説明しやすくなります。

注意点

銅建値スライドの見積条件について、業界標準の雛形のようなものは確認できませんでした。実務は会社ごと・取引先ごとに異なるので、社内のルールを確認してください。


🔩銅だけではありません|電線管・ボックス類も

2026年に価格改定が公表された電材は、電線以外にも広がっています。流通業者が集約した一覧から拾うと、

メーカー 改定時期 主な対象
丸一鋼管 / 大和鋼管工業 2026年4月 鋼製電線管・付属品、ライニング鋼管
八州電工 2026年4月 プルボックス全種、電線管用支持部材
ネグロス電工 2026年4月 サドルベースキット、メタルモールほか
外山電気 2026年4月 電線管付属品、メタルモール、支持材
古河電工 2026年4月 エフレックス本体、カセツレックスほか
三桂製作所 2026年3月・6月 ケイフレックス、プリカチューブほか
未来工業 2026年6月 ミラフレキCD、J管、ミラレックスF、ミラメッシュほか
内外電機 2026年6月 標準分電盤、キャビネット、プラボックスほか

背景には鋼材価格の上昇があります。東京製鐵は2026年3月に厚板+5,000円/t、薄板+7,000円/tの値上げを実施し、「数年ぶりの全製品値上げ」と報じられました。

注意点

この一覧は流通業者が集約した資料にもとづくもので、改定率は記載されていません。実際の率は各メーカーの公式リリースでご確認ください。


✅まとめ

  • 電気銅建値は2026年7月22日に237万円/tで過去最高を更新。7月28日は236万円/t
  • 建値は1か月で10回改定されることもある。2〜3営業日で数万円動く
  • 2026年6月の月平均は227.4万円/tで、前年同月比+55.4%
  • 建値はLMEの銅価格×為替で動く。今回の上昇はドル建て銅価が約8割、円安が約2割の寄与
  • 電線の値上げは2階建て。①銅建値スライド(自動)+②メーカーの価格改定(樹脂・物流・人件費)。公表される4〜8%に銅は入っていない
  • 2026年はフジクラ・ダイヤケーブルが4〜7%(6月より順次)、SFCCが平均4〜8%(7月1日)を公表
  • 泉州電業の決算に「銅は+39.2%、しかし建設・電販向けの出荷量は減少基調」と明記されている
  • 業界統計でも銅電線の出荷量は5年で約7%減。2025年度の建設・電販は▲4.1%
  • 金額が膨らんでいるのは需要ではなく銅の値段。現場の実感は統計的に正しい
  • 建値+10万円/tは、CVT38sq×3Cで概ね+100円/m(導体銅の理論値)。2026年1月→7月の+31万円/tなら約+314円/m
  • 既受注は値上げ対象外という慣行がある。確定を急ぐことに価格上の意味がある
  • 「上がる前に買う」先行需要が、因幡電機産業の決算(売上+29.3%)に出るレベルで起きている

見積が上がるのは、誰かがふっかけているからではありません。世界の銅の値段が、そのまま図面の上を流れているからです。


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⚠️免責事項

本記事は市況と各社の開示情報を整理した情報提供であり、特定の銘柄の売買や特定の製品の購入・発注時期を推奨するものではありません。将来の価格を予想・保証するものでもありません。

記載の数値は各社の開示資料および公的機関・業界団体の公表資料にもとづく2026年8月1日時点のものです。銅建値・LME価格・為替は日々変動します。

単価換算は導体銅の物理量からの筆者による試算であり、実際の売価とは異なります。実際の見積・発注にあたっては、必ず取引先の商社・メーカーにご確認ください。

参考にした主な情報源