前回は有価証券報告書で大手9社の平均年収を比べた。今回は角度を変えて、電気工事の担い手の賃金を公共工事設計労務単価という公的な単価から見て、その地域差を掘る。国土交通省が毎年3月に改定する、職種別・都道府県別の日額単価だ。

ただし最初にはっきりさせておきたい。設計労務単価は公共工事の予定価格を積算するための単価であって、労働者が実際に受け取る賃金そのものではない。この前提を外すと数字を読み違える。本稿は、単価の地域差・実際の賃金の地域差・大手9社の年収の地域分布という3つの「地域差」を重ねて、どこがどう違うのかを一次情報だけで確かめる。

この記事の結論

電工の設計労務単価(令和8年3月適用)は、都道府県別で東京34,300円/日が最高、沖縄23,700円/日が最低。8地方ブロックでは関東(30,771円)が突出して高く、中国(25,480円)・四国(26,350円)が低い。都市部ほど高い。

だが設計労務単価は積算用の単価で、法定福利費(事業主負担分)などは含まず、労働者の受取賃金を保証するものではない。単価を年収に単純換算すると、実態よりかなり大きく出る。

実際の賃金(賃金構造基本統計・電気工事従事者)で見ると、地域差の向きが変わる。東京は単価が全国トップなのに、実際の年収は主要8地域で下から2番目。逆に広島は単価が最下位クラスでも実年収は上位。

大手9社(有報)の年収は関東地盤が首位で、これは企業規模の効果。単価・実賃金・大手年収は同じ「地域差」でも別の層を映しており、単価の高低がそのまま個人の年収差にはならない。

1. 設計労務単価とは:積算用の単価であって、賃金そのものではない

公共工事設計労務単価は、国や自治体が公共工事の予定価格を積算するときに使う、職種別・都道府県別の1日(8時間)あたりの単価だ。毎年10月の実態調査(公共事業労務費調査)をもとに、翌年3月から適用される。令和8年3月適用分は全職種の加重平均が25,834円で、14年連続の上昇となった(国交省・農林水産省、令和8年2月公表)。

ここで大事なのが単価の性格だ。国交省は単価表の注記で、「本単価は労働者に支払われる賃金に係わるものであり、現場管理費(法定福利費(事業主負担分)…)及び一般管理費等の諸経費は含まれていない」と明記している。雇用保険・健康保険・厚生年金の事業主負担分は単価に含まれず、積算上は別途(現場管理費等)で計上される。つまり単価がそのまま給与になるわけではない。この点を踏まえて数字を読む必要がある。

注記:電工の「全国平均」は国交省が公表していない

国交省が全国平均・前年比を公表するのは「全職種」と「主要12職種」だけで、電工はこの12職種に入っていない。そのため電工単独の全国平均・前年比・推移は、国交省の一次資料には存在しない。本稿で示す全国値・ブロック値は、47都道府県の電工単価を単純平均したものであり(重み付けなし)、国交省の公表値ではない。推定や按分はしていないが、この集計は本稿独自のものである点に留意してほしい。

電工の公共工事設計労務単価の8地方ブロック比較(令和8年3月適用)

2. 単価の地域差:関東が突出、中国・四国が低い

図1は、電工の設計労務単価を8地方ブロックに集約したものだ(各ブロックは構成都道府県の単純平均)。最も高いのが関東の30,771円/日で、最も低い中国の25,480円/日を約5千円上回る。都道府県別に見ると、最高は東京の34,300円/日、最低は沖縄の23,700円/日で、東京・神奈川・千葉・埼玉といった首都圏が3万円台前半で並ぶ。おおむね都市部ほど単価が高い

最高(東京)
34,300円/日
最低(沖縄)
23,700円/日
関東ブロック平均
30,771円/日

この単価を年収のイメージに直すとどうなるか。仮に年間の稼働日数を240日と置いて単純計算すると、東京の34,300円/日は約823万円になる。ただしこれはあくまで単価に日数を掛けただけの試算で、実際の賃金ではない。前述のとおり単価には事業主負担の社会保険料などが含まれておらず、稼働日数も現場次第だ。この数字を鵜呑みにすると実態を見誤る——それが次の章でわかる。

注記:年収換算はあくまで単価×仮定の日数

上の「約823万円」は、東京の電工単価34,300円に仮の年間稼働日数240日を掛けた単純計算にすぎない。設計労務単価は積算のための日額単価であり、実際の労働者への支払い額を保証・表示するものではない。稼働日数・雇用形態・会社の給与体系によって実際の年収は大きく変わるため、この換算値は「単価の大きさの目安」以上の意味を持たせないでほしい。

3. 「実際の賃金」で見ると、地域差の向きが変わる

では実際に支払われている賃金はどうか。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年)で、職種「電気工事従事者」の都道府県別の年収(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与)を見ると、全国平均は547.6万円。最も高いのは三重の707.2万円、最も低いのが沖縄の390.3万円で、県によって1.8倍ほどの開きがある。

ここで単価と突き合わせると、意外なことが起きる。単価が高い地域=実際の年収が高い地域、ではないのだ。象徴的なのが東京で、設計労務単価は全国トップの34,300円/日なのに、電気工事従事者の実際の年収は515.6万円と、主要8地域で下から2番目にとどまる。単価から単純計算した約823万円とは、約307万円も開く。逆に広島は単価が最下位クラス(26,300円/日)でも、実年収は592.5万円と上位(8地域で3位)だ。

電工の設計労務単価の順位と電気工事従事者の実年収の順位の比較スロープチャート

図2は、8地方の代表県について「単価の順位」と「実年収の順位」を線でつないだものだ。線が大きく交差しているのが、両者の地域差が一致していないことを示している。なぜこうなるのか。単価は公共工事の積算基準で、都市部の工事費水準や物価を反映して高くなりやすい。一方の実賃金は、事業所の規模・産業構成・賞与の比率など多くの要因で決まる。東京は電気工事従事者の数が全国最多(約6.2万人)で、中小事業所や幅広い層を含む平均が、単価ほどは高く出ないと考えられる。(実賃金は産業計・職種別の統計で、県によって標本が小さい点には留意が必要だ。)

4. 大手9社の年収は「また別の層」:関東地盤が首位

3つ目の地域差が、前回の有報9社の平均年収だ。9社はそれぞれ電力エリアに地盤を持つ会社が多く、本社所在地でブロックに割り当てると、下の表のように単価・実賃金・大手年収を横並びにできる。

地方・代表県設計労務単価
(電工・日額)
電気工事従事者
実年収(賃金構造)
地盤とする大手9社
(有報・2025年3月期)
関東・東京34,300円515.6万円関電工 906.0万/日本電設工業 848.4万
東北・宮城29,900円686.6万円ユアテック 734.9万
北海道・北海道29,100円558.7万円
九州・福岡28,900円559.1万円クラフティア 712.9万
中部・愛知28,200円618.9万円トーエネック 753.0万
近畿・大阪28,100円548.5万円きんでん 888.1万/住友電設 882.4万
四国・香川27,400円514.8万円四電工 721.4万
中国・広島26,300円592.5万円中電工 789.5万
単価=国交省 公共工事設計労務単価(令和8年3月適用)。実年収=厚労省 賃金構造基本統計調査(令和6年・電気工事従事者・産業計)。大手年収=各社有価証券報告書(2025年3月期・単体)。単価の降順。

表の一番上、関東・東京の行がこの記事の要点を凝縮している。設計労務単価は34,300円/日で全国最高。しかし電気工事従事者の実年収は515.6万円で8地域では低め。一方、東京に本社を置く大手・関電工の平均年収は906.0万円で9社トップ。同じ「東京」でも、積算単価・現場全体の実賃金・大手企業の平均年収は、まったく違う水準を指している。

大手9社の年収が地域の実賃金より高いのは、大企業であることのプレミアム(企業規模の効果)だ。関東地盤の会社が高く見えるのも、東京の電気工事従事者全体の賃金が高いからではなく、そこに大企業が集まっているからにすぎない。中国地盤の中電工が789.5万円と、東北・四国・九州地盤の会社を上回るように、大手の年収ランキングは地域の相場とは別の論理で動いている。

5. 就活・転職でどう読むか

単価の地域差=あなたの年収の地域差ではない

「東京は単価が高いから稼げる」と単純には言えない。設計労務単価は積算用の数字で、社会保険の事業主負担も含まれず、そのまま給与になるわけではない。実際、東京の電気工事従事者の平均年収は全国平均を下回る。単価の地域差を、そのまま自分の手取りの地域差と読み替えないことだ。

「地方は給料が安い」は電気工事では単純に当てはまらない

実際の賃金で見ると、宮城・愛知・広島といった地方の中核県は、東京や香川より電気工事従事者の年収が高い。生活コストも考え合わせれば、地方の中核都市はむしろ条件が良いこともある。「都会のほうが給料が高い」という思い込みは、データで見ると必ずしも正しくない。

大手の有報年収は企業規模の効果。地域の相場とは別に見る

前回見た有報の平均年収(関電工906万円など)は、大企業だからこその水準だ。同じ地域で働いても、中小の電気工事会社の賃金は賃金構造基本統計の水準(全国547.6万円)に近くなる。「その地域の相場」と「大手企業の年収」は分けて見たほうが、キャリアの判断を誤らない。

6. このデータの限界

以下は本稿が示していないこと

設計労務単価は公共工事の積算に用いる単価で、労働者の受取賃金を保証するものではない。本稿の年収換算(東京で約823万円など)は、単価に仮の稼働日数を掛けた試算にすぎない。

電工の全国平均・ブロック平均は国交省が公表していないため、本稿が47都道府県を単純平均したものである。重み付け(工事量や労働者数)はしていない。

実賃金は賃金構造基本統計の「電気工事従事者×都道府県(産業計)」で、建設業に限定していない。県によって標本規模が小さく、年による変動もありうる。8ブロックは各地方の代表県で対応づけた。

有報の年収は各社単体の全従業員平均で、その地域の相場ではない。日本電設工業は鉄道系で電力エリアと単純対応しないが、本社所在地により関東に分類した。

3つの数値(単価・実賃金・有報年収)は所管も定義も母集団も異なる別々のデータである。同一条件の比較ではなく、地域差の「向き」を読み比べるための並置である。

転職メディアが独自に集計・推定した情報は使用していない。数値はすべて国土交通省・厚生労働省の公的統計と、各社の有価証券報告書にもとづく。

出典

設計労務単価について:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日公表、農林水産省と共同。単価表・注記の原文は報道発表資料PDF)、公共工事設計労務単価について(制度概要)。職種「電工」の47都道府県別・8時間当たり単価を使用(2026年7月26日取得)。

実際の賃金について:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」、都道府県別の職種別数値はe-Stat(一般労働者・都道府県別)より、職種「電気工事従事者」×都道府県(産業計)の年収換算(きまって支給×12+年間賞与)。全国平均547.6万円(2026年7月26日取得)。

大手9社の平均年間給与:各社の有価証券報告書(2025年3月期・提出会社の状況)。本社所在地・地盤は各社公式の会社概要による。詳細は前回記事「電気設備サブコン大手9社の平均年間給与|有価証券報告書で読む実額」を参照。