待遇シリーズの締めくくりに、就活・転職で気になる「安全」を取り上げる。電気工事・建設は危険な業界というイメージがあるが、実際はどうなのか。厚生労働省の労災統計で「危険」を数字で検証しつつ、電気設備サブコン大手9社がどんな安全対策を打ち出し、労災の指標をどこまで開示しているかを見る。

結論を先に言えば、労災は長期的に大きく減った。ただし建設業は今も労災死亡の最多業種で、災害1件あたりの重さも大きい。そして各社の安全は、数字(度数率)を出す会社は少ないが、取り組み自体はどこも手厚いという構図だった。

この記事の結論

労働災害による死亡者数は長期的に大幅減少。全産業では1961年(昭和36年)の6,712人をピークに、2025年は700人まで約9割減った。建設業の死亡も2015年327人→2025年214人、休業4日以上の死傷も減少傾向。「危険な業界」というイメージは、数字で見ると大きく改善している。

ただし建設業は今も労災死亡の約3割を占める最多業種で、災害の『重さ』も大きい。強度率(災害1件あたりの重篤度)は建設業0.29で、全産業0.09の約3倍。墜落・感電など重大災害が多い構造は残る。

労災の度数率・強度率を公表しているのは9社中3社(関電工0.56・住友電設0.20・日本電設工業0.72)だけ。3社とも全産業・建設業(総合工事業)の平均は下回る。残る6社は度数率・強度率を非公表としている。

数字は出さなくても、安全の取り組みはどの会社も手厚い。VR・体感型の安全教育施設、死亡・重大災害ゼロ目標、AI・IoT・ロボットによる安全DXが各社に共通する。

労働災害による死亡者数の推移(全産業・建設業)

1. 「危険な業界」は本当か:労災は長期的に大きく減った

図1は、厚生労働省の労働災害統計による死亡者数の推移だ。全産業の労災死亡は、昭和36年(1961年)の6,712人をピークに、2025年は700人まで約9割減った。建設業の死亡も2015年の327人から2025年は214人へと減っている。安全基準の強化や機械化、現場管理の高度化が積み重なった結果だ。

休業4日以上の死傷者数で見ても、建設業は2015年の15,584人から2025年の13,437人へと減少している。全産業の死傷者数がむしろ増加している(高齢労働者や第三次産業の被災増が背景)のと対照的で、建設業は労災を着実に減らしてきた業種と言える。「昔ながらの危険な現場」というイメージは、少なくとも統計上はかなり過去のものになりつつある。

全産業の労災死亡
(2025年)
700
昭和36年(1961年)比
約9割
建設業の労災死亡
(2025年)
214

2. ただし建設業は今も労災死亡の最多業種、災害の「重さ」も大きい

減ったとはいえ、油断はできない。建設業は2025年も、全産業の労災死亡700人のうち214人(約3割)を占める最多業種だ。しかも問題は件数の頻度だけではない。

労働災害動向調査で災害の「重さ」を表す強度率を見ると、建設業(総合工事業)は0.29で、全産業の0.09の約3倍にのぼる。度数率(頻度)は建設業1.69で全産業2.14よりむしろ低いのに、強度率が高いのは、墜落・感電・重機災害といった一度起きると死亡や重度障害につながる重大災害が多いからだ。電気設備の現場は感電・高所作業のリスクを常に抱えており、「頻度は減っても、一件の重みが大きい」という業種特性は変わっていない。

注記:電気工事業だけの数字は公的統計にない

厚生労働省の労働災害統計では、建設業の内訳は「総合工事業」「土木工事業」「建築事業」といった区分までで、電気工事業(設備工事業)だけの死傷者数・死亡者数・度数率は公表されていない。本稿の公的統計は建設業(総合工事業)・全産業の値であり、電気設備に特化した公的な災害率は把握できない点に留意してほしい。

電気設備サブコン各社の労働災害度数率の比較

3. 各社の労災指標:度数率を出すのは9社中3社

では各社はどうか。労働災害の度数率・強度率は、企業の安全水準を測る国際的な指標だが、9社のうちこれを公表しているのは関電工・住友電設・日本電設工業の3社だけだった(図2)。度数率は住友電設0.20(2023年度)、関電工0.56(2023年度)、日本電設工業0.72(2024年度)で、いずれも全産業2.14・建設業(総合工事業)1.69の平均を大きく下回る。

ただし読み方には注意がいる。電気設備に近い「設備工事業(大企業)」の度数率は0.47前後で、これと比べると住友電設は下回るものの、関電工・日本電設工業は同程度〜やや上回る年もある。つまり「建設業平均より安全」とは言えても、「設備工事の中で特別に安全」とまで断じるのは早い。日本電設工業は度数率・強度率に加えて重大労働災害の件数(2024年度0件)や死亡者数(3年連続0人)まで開示しており、透明性という点では一歩進んでいる

一方、残る6社は度数率・強度率を公表していない。多くは「死亡・重大災害ゼロ」という定性的な目標で安全を語っており、数値目標(度数率◯以下)を掲げる会社もほとんどない。前回までの手当・採用・休日と同じく、安全でも開示の手厚さは会社によってかなり差がある

4. 数字は出さなくても、取り組みはどの会社も手厚い

度数率を出す会社は少ないが、安全の「取り組み」自体はどの会社も驚くほど充実している。9社の安全施策を並べると、共通する3つの柱が見えてくる。下の表にまとめた。

会社度数率・強度率体感型の安全教育安全DX・新技術の代表例
関電工度数率0.56/強度率0.04
2023年度
移動式安全体感車AI安全サポートシステム・スマートグラスWEBパトロール
きんでん非公表全社安全衛生大会・ISO45001適合証明(安全DXは非公表)
クラフティア非公表安全伝承館・VR危険体感(累計約17,600名)360度カメラ巡視・建設RXコンソーシアム
トーエネック非公表安全創造館・VR体感Toenec Safety Navigator(AI災害事例)・AIドラレコ
住友電設度数率0.2/強度率0
2023年度
KY研修・安全品質大会(安全DXは非公表)
中電工非公表安全実習棟(2024年度約2,500名)高所作業安全管理システム・ナット落下防止ソケット
ユアテック非公表安全啓発センター・VR危険体感ドローン点検・AI/IoT/BIM活用
日本電設工業度数率0.72/強度率0.04
2024年度
NDK安全文化創造館・VR体感架空送電監視ロボット(AI活用)
四電工非公表安全体感教育(全19メニュー・VR)ドローン運搬・間接活線・AIナレッジ共有
各社の統合報告書・サステナビリティ・有価証券報告書(2026年7月26日取得)。度数率・強度率は3社のみ開示。体感教育・DXは各社が公表する取り組みの代表例で、網羅ではない。

第一の柱がVR・体感型の安全教育施設だ。中電工の安全実習棟(2024年度に約2,500名が受講)、トーエネックの安全創造館、日本電設工業のNDK安全文化創造館、ユアテックの安全啓発センター、クラフティアの安全伝承館、四電工の19メニューの体感教育――各社がこぞって、感電・墜落・巻き込まれを疑似体験して「危険を危険と感じる感性」を鍛える施設を持っている。頭で理解するだけでなく体で覚えさせる、という発想が業界に共通している。

第二の柱がAI・IoT・ロボットによる安全DXだ。トーエネックは過去の災害事例からAIが危険を予測する「Toenec Safety Navigator」、中電工は安全帯のかけ忘れを検知する高所作業安全管理システム、日本電設工業は鉄塔上の作業員をAIで監視するロボット、関電工はスマートグラスによるWEBパトロール――と、デジタル技術で人の注意力を補う取り組みが広がる。第三の柱が「死亡・重大災害ゼロ」という共通目標で、9社ほぼすべてが掲げている。感電・墜落という電気工事特有のリスクに、体感教育とデジタルの両輪で各社が向き合っているのが実態だ。

5. 就活・転職でどう読むか

「危険な業界」というイメージは、統計上はかなり古い

労災死亡は長期的に9割減り、建設業も着実に災害を減らしてきた。「電気工事は危ない」というイメージだけで敬遠するのは、データと合っていない。ただし建設業が労災死亡の最多業種であることも事実で、感電・高所という重大リスクは残る。過度に恐れず、しかし軽く見ない、というバランスが要る。

度数率を公表している会社は、安全情報の透明性が高い

度数率・強度率という国際的な安全指標を出しているのは9社中3社だけだった。数字を継続的に開示する姿勢そのものが、安全マネジメントの成熟度や透明性の一つの表れと読める。気になる会社が度数率を出していなければ、説明会で「直近の度数率は?」と聞いてみるのも手だ。

取り組みの手厚さ(体感施設・DX)も会社の姿勢を映す

数字を出さない会社でも、体感型の安全教育施設や安全DXへの投資は各社とも手厚い。どんな安全教育を受けられるか、現場でどんな安全技術が使われているかは、働くうえでの安心感に直結する。採用サイトやサステナビリティ報告書の安全ページは、会社が人の命にどれだけ本気かを読み取る材料になる。

6. このデータの限界

以下は本稿が示していないこと

労災の度数率・強度率を公表しているのは3社のみで、6社は非公表。9社を同じ数値指標で横並びに比較することはできない。3社の値も年度・集計基準(対象範囲が従業員のみか協力会社を含むか等)が会社で異なる。

電気工事業(設備工事業)だけの死傷・死亡・度数率は公的統計で非公表。本稿の公的データは建設業(総合工事業)・全産業の値で、電気設備に特化した災害率ではない。

『労働災害発生状況』(実数)と『労働災害動向調査』(度数率・強度率)は調査・母集団が異なる。前者は全数、後者は規模100人以上の標本調査で、実数と率を直接掛け合わせる比較はできない。

各社の安全の取り組みは、公表資料から拾った代表例で、網羅ではない。体感施設やDXの有無・名称は各社の開示状況によるもので、「表に載っていない=やっていない」ではない。

度数率の水準比較は参照する業界区分で結論が変わる。全産業・建設業(総合工事業)を基準にすれば3社とも下回るが、より近い設備工事業(0.47前後)を基準にすると評価は変わる。

転職・就活メディアが独自に集計・推定した災害情報は使用していない。数値はすべて厚生労働省の公的統計と各社の公式開示にもとづく。

出典

公的な労災統計:厚生労働省「労働災害発生状況」(死亡者数・死傷者数)、厚生労働省「労働災害動向調査」令和5年(度数率:全産業2.14・建設業(総合工事業)1.69、強度率:全産業0.09・建設業0.29)、厚生労働省 用語解説(度数率・強度率の定義)(いずれも2026年7月26日取得)。

各社の安全指標・取り組み:関電工きんでんクラフティアトーエネック住友電設中電工ユアテック日本電設工業四電工(各社の統合報告書・ESGデータ集・サステナビリティ/安全ページ・有価証券報告書。度数率・強度率は関電工・住友電設・日本電設工業の3社が公表。いずれも2026年7月26日取得)。

設備工事業の度数率0.47前後は、労働災害動向調査の設備工事業(1,000人以上)区分の値で、日本電設工業のESGデータ集が業界水準値として引用しているもの。