「電験、取ったほうがいいんですかね……」

ペン太くんが参考書を眺めながらつぶやいています。

「取ったほうがいい」と答えるのは簡単ですが、それでは動けません。いくらかかって、いくら返ってくるのか。設備の投資回収計算と同じように、資格も数字で考えられます。

この記事では、電気設備の資格を投資として見て、回収期間を計算します。受験料などのコスト側は、試験実施団体の公式サイトで確定できました。

ただし先に、ひとつ正直に書いておきます。

注意点|リターン側に一次情報はありません

資格手当の相場を示す公的統計は存在しません。賃金構造基本統計調査にも資格別の集計はなく、「資格の有無で年収がいくら変わるか」を示す公的データもありません。

ですのでこの記事のリターン側は、求人サイトや業界メディアの集計(二次情報)を使っています。調査元と時期を明記しますが、幅のある目安として読んでください。


💰まず投資額|コスト側は正確に出せます

令和8年度(2026年度)の受験手数料と免状交付手数料から、合格までにかかる最低額を出しました。1回で合格した場合の金額です。

資格 受験手数料 免状・証明書 合計
第二種電気工事士 11,100円 5,300円 16,400円
第一種電気工事士 13,000円 6,000円 19,000円
第三種電気主任技術者(電験三種) 7,700円 2,350円 10,050円
第二種電気主任技術者(電験二種) 13,800円 2,350円 16,150円
1級電気工事施工管理技士 15,800円+15,800円 2,200円 33,800円
2級電気工事施工管理技士 15,800円(一次・二次同時) 2,200円 18,000円
消防設備士 甲種第4類 6,600円 2,900円 9,500円

ポイント!電験三種がいちばん安い

意外に思われるかもしれませんが、電験三種の受験手数料は7,700円で、第二種電気工事士(11,100円)より安いです。免状交付も試験合格ルートなら2,350円。合計1万円ちょっとで取れます。

難易度と金額はまったく比例しません。

いくつか実務的な注意点があります。

  • 電気工事士・電験はインターネット申込のほうが安い(電工二種で1,400円、電験三種で400円の差)
  • 電気工事士・電験は上期/下期で別申込=別料金。複数回受けるなら受験料×回数
  • 電験の免状交付は、試験合格なら2,350円ですが、認定(学歴+実務経験)ルートだと6,600円

電験三種や電気工事士など資格別の取得費用と回収期間を示した横棒グラフ
図1:資格取得にかかる費用と、手当による回収期間

🔁見落としがちな「維持コスト」

ここが差の出るところです。取ったら終わりではない資格があります。

第一種電気工事士は5年ごとに9,000円

電気工事士法第4条の3にもとづき、第一種電気工事士は定期講習の受講が義務です。

第一種電気工事士の免状の交付を受けた日から5年以内に、その後は前回の定期講習を受けた日から5年以内ごとに…定期講習を受講することが義務づけられています

費用は9,000円。受けないと、都道府県知事から免状の返納を命じられることがあります。

第二種電気工事士・電験・消防設備士には、この定期講習の義務はありません。

施工管理技士に更新はないが、監理技術者は別

よくある誤解を整理します。

更新の要否 費用
技術検定の合格証明書 更新なし(合格は終身)
監理技術者資格者証 5年ごと 7,600円
監理技術者講習 5年ごと 8,500〜10,000円

つまり「施工管理技士の更新」というものは存在しません。更新コストが発生するのは、現場で監理技術者として専任される場合の資格者証と講習の側です。

ポイント!生涯コストで見ると順位が変わります

30年間持ち続けた場合の維持費だけを計算すると、

・第一種電気工事士:9,000円 × 6回 = 54,000円

・電験三種:0円

・1級施工管理技士(監理技術者として運用):(7,600+9,500) × 6回 = 約102,600円

電験は取得費も維持費もいちばん安い、という結果になります。


📊リターン側|資格手当の相場(二次情報)

冒頭に書いたとおり、ここには一次情報がありません。調査元を明示して並べます。

電気工事士

工事士.com(求人サイト運営、求人掲載ベース/調査時期の明記なし)の集計では、

資格 同サイトが示す相場
第二種電気工事士 月2,000〜30,000円 月5,000円あたり
第一種電気工事士 月5,000〜60,000円 月10,000〜15,000円あたり

同サイトは「第一種は第二種のおおよそ1.5〜2.5倍」としています。なお同記事には「金額を公開していない企業の割合が高いため、この一覧表はあくまで一例として見て下さい」との断りがあります。

施工管理技士

タテルート編集部が2026年5〜6月に約80社の公開採用ページ・求人票を集計した調査では、

区分 1級 2級
中心レンジ 月1〜3万円 月5,000〜1万円
スーパーゼネコン 月2〜5万円
大手サブコン 月2〜4万円
地場ゼネコン 月5,000〜1.5万円

合格報奨金(一時金)は1級で5〜20万円、2級で3〜10万円とされています。

電験三種

工事士.comの集計で月5,000〜30,000円。掲載企業の例として5,000円/6,000円/7,500円/30,000円/30,000円が挙げられており、会社による差が非常に大きいことがわかります。合格祝い金として5万円以上を出す企業もあるとのことです。

注意点|電験二種の手当相場はわかりません

調べた範囲では、電験二種の手当相場を示す信頼できるデータが見つかりませんでした。令和7年度の二次試験合格者は611人しかおらず、統計として成立していない可能性が高いです。


🧮回収期間を計算する

投資額(一次情報)÷ 手当(二次情報)で、回収期間を出します。

資格 投資額 手当(月) 回収期間
第二種電気工事士 16,400円 5,000円 約3.3か月
第一種電気工事士 19,000円 10,000〜15,000円 約1.3〜1.9か月
電験三種 10,050円 5,000〜30,000円 約0.3〜2.0か月
1級電気工事施工管理技士 33,800円 10,000〜30,000円 約1.1〜3.4か月
2級電気工事施工管理技士 18,000円 5,000〜10,000円 約1.8〜3.6か月

どれも半年かからずに回収できます。しかも合格報奨金が出る会社なら、その時点でお釣りがきます。

注意点|これは「お金」だけの計算です

ここには勉強時間が入っていません。そして本当のコストはそちらです。

ちなみに勉強時間の目安についても、試験実施団体が公表しているものはありません。「電験三種は1,000時間」といった数字はよく見かけますが、根拠が示された調査ではなく、資格スクールや体験談ベースの目安です。

つまり投資回収で意味があるのは、金額ではなく時間の使い方ということになります。


📈本当に効くのは「続く」ことです

回収期間より重要なのは、手当が毎月・退職まで入り続けることです。

月額の手当を、継続年数で掛けてみます。

月額手当 10年 20年 30年
5,000円 60万円 120万円 180万円
10,000円 120万円 240万円 360万円
15,000円 180万円 360万円 540万円
30,000円 360万円 720万円 1,080万円

ポイント!

月1万円の手当は、20年で240万円です。これは元本が減らない定額の上乗せで、しかも基本給のベースが上がれば賞与にも効くことがあります(賞与の算定に手当を含めるかは会社次第です)。

20代で1万円分の手当を取れば、定年まで払い続けてもらえる計算になります。若いうちに取るほど総額が大きくなる——これは複利ではありませんが、時間が効くという意味では同じ構造です。


月額の資格手当を継続年数で掛けた累計額の推移グラフ
図2:資格手当の累計額(月額×継続年数)

⚖️なぜ会社は手当を払うのか

ここを理解しておくと、どの資格が値崩れしにくいかが読めます。

資格手当は福利厚生ではありません。法令上のポジションを埋めるための人件費です。

電気主任技術者|いないと運用できない

電気事業法第43条にもとづき、事業用電気工作物の設置者は事業場ごとに電気主任技術者を選任する義務があります。監督できる範囲は種別で決まっています。

種別 保安監督できる範囲
第一種 すべての事業用電気工作物
第二種 電圧17万ボルト未満
第三種 電圧5万ボルト未満(出力5千キロワット以上の発電所を除く)

有資格者がいなければ、その事業場は法的に運用できません。手当が高いのはこのためです。

第一種電気工事士|高圧に触れる資格

電気工事士法第3条にもとづく作業範囲です。

資格 従事できる作業
第一種電気工事士 最大電力500kW未満の需要設備および一般用電気工作物の電気工事
第二種電気工事士 一般用電気工作物の電気工事のみ
認定電気工事従事者 500kW未満の需要設備のうち600V以下の簡易電気工事

キュービクルのある建物に触れるには第一種が要る——これが第二種との手当差の正体です。

注意点

最大電力500kW以上の需要設備の電気工事は、そもそも電気工事士法の適用対象外です(免状は不要)。ここを誤って書いている記事が多いので注意してください。

施工管理技士|監理技術者になれる

建設業法第26条にもとづき、一定規模以上の工事には監理技術者の配置が必要です。

この金額要件は令和7年2月1日に引き上げられています。

項目 現行の金額要件
監理技術者の配置が必要 下請契約の請負代金の合計が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)
現場専任が必要 1件の請負金額が4,500万円以上(建築一式は9,000万円以上)

注意点|ネット上の情報はまだ旧基準が多く残っています

改正前は監理技術者4,500万円/専任4,000万円でした。古い数字のまま書かれた記事が今もたくさんあります。この金額を扱うときは、必ず国土交通省の最新資料で確認してください。


🔍おまけ|電験の価値を外注費から見る

電気主任技術者は、一定の条件を満たせば外部委託にできます(電気事業法施行規則第52条第2項)。7,000V以下で受電する需要設備、つまり一般的なキュービクル設置のビルや工場が対象です。

ある保安法人が公開している料金表では、契約電力100〜199kWの事業場で年16万円〜(同社の水準)とされています。

ポイント!

「外部に払えば年間十数万円かかる仕事を、社内の有資格者が担える」——これが電験の手当の裏づけです。

ただしこれは一社の営業用の料金表であって、業界の中立的な相場調査ではありません。地域差も大きいとされています。あくまで桁感をつかむための参考としてください。


⚠️計算する前に知っておくこと

最後に、この記事の計算の限界を書いておきます。

  • 手当の額は会社によってまったく違います。電験三種で月5,000円の会社と月30,000円の会社が同じ集計に載っています。転職すれば額は変わります
  • 手当を出さない会社もあります。資格手当は法律で義務づけられたものではありません
  • 1回で受かる前提の計算です。令和7年度の合格率は、第二種電気工事士の学科56.64%・技能71.53%、第一種の学科57.4%・技能58.1%、電験三種は年度計で13.0%でした。電験三種は受験料が安い代わりに、複数年かかるのが普通です
  • 電験三種には科目合格制度があります。合格した科目は最初の合格以降最大で連続5回まで免除されるので、年2回実施の現在なら実質2年半〜3年かけて積み上げられます

✅まとめ

  • 受験料+免状交付の合計は、電験三種が10,050円といちばん安い。第二種電気工事士(16,400円)より安く、難易度と金額は比例しない
  • 第一種電気工事士だけは5年ごとに定期講習9,000円の義務がある(電気工事士法第4条の3)。電験・第二種にはない
  • 「施工管理技士の更新」は存在しない。更新が要るのは監理技術者資格者証(5年・7,600円)と監理技術者講習(5年・8,500〜10,000円)
  • 資格手当の相場を示す公的統計は存在しない。公的統計には資格別の集計そのものがない
  • 求人ベースの手当額で計算すると、どの資格も半年かからずに投資を回収できる。ただしこれは金額だけで、勉強時間は入っていない
  • 効くのは回収期間より継続年数。月1万円の手当は20年で240万円
  • 手当が出るのは福利厚生ではなく法令上のポジションを埋めるため。電験は選任義務、第一種電工は500kW未満の需要設備、施工管理技士は監理技術者
  • 監理技術者の金額要件は令和7年2月1日に引き上げ済み(下請合計5,000万円以上/専任は1件4,500万円以上)。旧基準のままの記事に注意

資格を「取るべきか」で悩むより、いくらで、どれだけの期間、何が返ってくるかを並べたほうが決めやすくなります。数字にしてみると、電気設備の資格はかなり割のいい投資です。


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⚠️免責事項

本記事は公表されている制度と各種調査を整理した情報提供であり、特定の資格の取得や特定の企業への就職・転職を推奨するものではありません

受験手数料・免状交付手数料・講習費用は2026年8月1日時点で各試験実施団体・自治体が公表している金額です。免状交付手数料は都道府県によって異なる場合があります。受験の際は必ず最新の受験案内をご確認ください。

資格手当の金額は民間調査・求人掲載にもとづく参考値であり、公的統計ではありません。実際の支給額・支給の有無は企業ごとに異なります。本記事の回収計算は一定の前提を置いた試算であり、個別の結果を保証するものではありません。

参考にした主な情報源