電気設備サブコン9社の男性育休|取得率は急伸、でも「定義」で数字は倍変わる
男性の育児休業は、この数年で急速に広がった。電気設備サブコン大手9社も例外ではなく、どの会社も男性育休の取得率を大きく伸ばしている。ただし、その数字を見るときに一つ大きな落とし穴がある。「男性育休取得率90%」と書いてあっても、それが何を数えた数字かで意味がまるで変わるのだ。
今回は9社の男性育休取得率を、公的な定義と全国平均・政府目標に照らして読み解く。従業員1,000人超の企業は男性育休取得率の公表が義務づけられており(令和5年4月〜、令和7年4月から300人超に拡大)、9社ともこの数字を出している。だからこそ、定義をそろえて見ることが大事になる。
この記事の結論
① 男性育休取得率は各社で急伸している。「育児休業のみ(狭義)」で見ても、きんでん66.8%・ユアテック56.6%・四電工55.0%は政府目標2025年50%を超え、全国平均40.5%(令和6年度)を上回る会社が多い。
② ただし『定義』で数字は倍近く変わる。有価証券報告書の多くは「育児休業+育児目的休暇(広義)」で公表しており、これだと90%超も出る(クラフティア92.7%・トーエネック91.0%)。同じ中電工でも、狭義27.8%が広義では77.8%になる。
③ 女性の育休取得率はほぼ100%。開示する会社はいずれも100%前後で、男女差は依然として大きい。
④ 『どれだけ取ったか』はほとんど見えない。男性の平均取得日数を公表するのは中電工(男性30日・女性248日)くらいで、取得率は上がっても取得期間の開示は進んでいない。

1. 男性育休は急伸している
まず、全国平均や政府目標と同じ土俵で比べられる「育児休業のみ(狭義)」の取得率で見たのが図1だ。厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、男性の育休取得率は全国で令和4年度17.1%→令和5年度30.1%→令和6年度40.5%と急上昇している。9社もこの流れに乗っている。
狭義で公表している6社のうち、きんでん66.8%・ユアテック56.6%・四電工55.0%は、政府目標の2025年50%をすでに超えている。関電工37.5%、日本電設工業34.4%、中電工27.8%は全国平均前後で、会社によって差はあるが、いずれも数年前の一桁台から大きく伸びた水準だ。関電工などは2019年度に0.7%だったことを思えば、変化の速さがわかる。
全国平均(令和6年度)
(民間・2025年)
(民間・2030年)

2. ただし「定義」で数字は倍近く変わる
ここからが本題だ。男性育休取得率には、公的に2つの定義がある。一つは「育児休業のみ(狭義)」で、全国平均や政府目標と同じ物差し。もう一つが「育児休業+育児目的休暇(広義)」で、配偶者の出産時などに取る数日の休暇(育児目的休暇)まで含めて数える。当然、広義のほうが数字は大きく出る。
図2は、同じ年度で両方を公表している4社を並べたものだ。差は歴然としている。中電工は狭義27.8%が広義では77.8%(+50ポイント)、四電工は55.0%→84.0%、ユアテックにいたっては56.6%→113.1%だ。配偶者の出産と休暇取得の年度がずれると、広義では100%を超えることさえある。
問題は、有価証券報告書の法定開示で広義を選ぶ会社が多いことだ。クラフティア92.7%・トーエネック91.0%・住友電設71.0%といった数字は、いずれも育児目的休暇を含む広義で、これらの会社は狭義(育休のみ)を公表していない。「男性育休取得率90%」という見出しだけを見て『ほぼ全員が育休を取っている』と読むのは危うい。数日の育児目的休暇の取得も含んでいる可能性があるからだ。全国平均40.5%や政府目標は狭義ベースなので、広義の数字とは直接比べられない。
注記:どちらの定義かは注記で確認できる
男性育休取得率の定義は、育児・介護休業法施行規則の第71条の6第1号(育児休業のみ=狭義)か、第2号(育児休業等及び育児目的休暇=広義)かで決まり、有価証券報告書や統合報告書の注記に必ず書かれている。会社の数字を見るときは、まずこの注記でどちらの定義かを確かめるのが、実態を読み違えないコツだ。本稿の図1は狭義、図2は狭義・広義の対比、下の表は両方を併記している。
3. 女性はほぼ100%、取得日数はほとんど見えない
男性の取得率が注目される一方で、女性の育休取得率は開示する会社がいずれも100%前後だ。トーエネックが92.3%と出ているほかは、関電工・住友電設・中電工・日本電設工業・きんでんが100%。女性が育休を取るのは当たり前になっている一方、男性は狭義で3〜6割という段階で、男女差は依然として大きい。
さらに見えにくいのが『どれだけの期間、取ったか』だ。取得率(取ったかどうか)は各社が競って開示するが、平均取得日数を公表するのは中電工(男性30日・女性248日)くらい。男性が数日〜1か月、女性が8か月前後という差は、取得率の数字だけでは見えてこない。下の表に、各社の男女の取得率(狭義・広義)と取得日数を整理した。
| 会社 | 男性・狭義 (育休のみ) | 男性・広義 (+育児目的休暇) | 女性 | 平均取得日数 |
|---|---|---|---|---|
| 関電工 | 37.5% 2024年度 | 非公表 | 100% | 非公表 |
| きんでん | 66.8% 2026年3月時点 | 64.8% 2025年3月期 | 100% | 非公表 |
| クラフティア | 非公表 | 92.7% 2024年度 | 非公表 | 非公表 |
| トーエネック | 非公表 | 91% 2024年度 | 92.3% | 非公表 |
| 住友電設 | 非公表 | 71% 2024年度 | 100% | 非公表 |
| 中電工 | 27.8% 2024年度 | 77.8% 2024年度 | 100% | 男性30日・女性248日 |
| ユアテック | 56.6% 2025年度 | 113.1% 2025年度 | 非公表 | 非公表 |
| 日本電設工業 | 34.4% 2023年度 | 76.7% 2025年度 | 100% | 非公表 |
| 四電工 | 55% 2025年度 | 84% 2025年度 | 非公表 | 非公表 |
4. 就活・転職でどう読むか
「取得率◯%」は、まず定義を確認する
男性育休取得率の高い会社を見つけたら、それが狭義(育休のみ)か広義(育児目的休暇を含む)かを確かめたい。90%超なら広義の可能性が高い。狭義でも政府目標50%を超えていれば、実際に育休が取りやすい会社と言える。有報や統合報告書の注記に定義が書いてあるので、そこを見るのが確実だ。
取得率だけでなく、取得日数・期間も気にする
『取った』としても数日なのか1か月なのかで、育児との両立のしやすさは大きく違う。平均取得日数を公表している会社は少ないが、開示しているなら実際に長く取れる文化がある証拠になる。面接で『男性の平均取得日数はどのくらいですか』と聞いてみるのも有効だ。
急伸中の分野。数年で状況が変わる
男性育休は全国的にも各社でも、ここ数年で一気に伸びている途上だ。数年前のデータや口コミは実態と合っていないことがある。会社を選ぶときは、できるだけ最新の(できれば有報の)数字を確認するのがよい。
5. このデータの限界
以下は本稿が示していないこと
① 男性育休取得率は狭義(育休のみ)と広義(育休+育児目的休暇)で数字が大きく異なる。会社ごとにどちらで公表しているかが違い、狭義を公表していない会社(クラフティア・トーエネック・住友電設)は9社横並びの狭義比較に含められない。
② 年度・集計範囲(単体/連結)が会社でそろっていない。きんでんの狭義・女性は厚労省データベース、他社は有報・統合報告書など出典が混在する。日本電設工業の狭義は2023年度値で、近年は広義のみ開示。
③ 取得率は『取ったかどうか』で、取得期間の長さは別問題。平均取得日数を公表するのは中電工のみで、他社の実際の取得期間は非公表。
④ 建設業だけの男性育休取得率は公的統計で非公表。全国平均40.5%は産業計で、電気工事業・建設業に特化した公的な取得率は把握できない。
⑤ 取得率の分母・時点は制度上ぶれる。配偶者の出産と休暇取得の年度ずれで、広義では100%を超えることがある(本稿でもユアテック113.1%)。
⑥ 転職・就活メディアが独自に集計・推定した数値は使用していない。数値はすべて各社の公式開示と厚生労働省・政府の一次情報にもとづく。
出典
全国平均・政府目標・制度:厚生労働省「令和6年度 雇用均等基本調査」(男性育休取得率40.5%・女性86.6%)、こども未来戦略方針(政府目標 2025年50%・2030年85%)、厚生労働省 男性育休取得率の公表義務(いずれも2026年7月26日取得)。育休取得率の定義は育児・介護休業法施行規則第71条の6(第1号=育児休業のみ、第2号=育児休業等及び育児目的休暇)。
各社の男女別育休取得率・取得日数:関電工、きんでん、クラフティア、トーエネック、住友電設、中電工、ユアテック、日本電設工業、四電工、および厚生労働省 女性の活躍推進企業データベース(各社の有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティ/ESGデータ。2026年7月26日取得)。




