この記事は連載「連載」(全6回)の1本です。
全体像:アスベスト連載 第6回(報告システムの使い方と、報告と届出の違い)

前回は、電気設備工事とアスベストの関わりを整理しました。事前調査(工事の前に、これから触る建材に石綿が入っているか調べる手続き)で見るべきは、盤そのものより、盤が取り付く壁や貫通部の材料のほうだ、という話です。今回は、その調査が終わったあとの手続きを見ていきます。

この3つ、すぐ答えられますか

  • 見積書が税抜98万円のとき、報告は必要か。
  • 調査したのが下請なら、報告は下請が出せるか。
  • レベル1・2の除去作業があるとき、いつまでに何を出すか。

結論から言うと

手続きは2種類あり、両者はまったくの別物です。片方は「調べた結果はこうでした」という報告、もう片方は「これからこう除去します」という作業の届出。

義務を負う人も期限も違います。そして、どちらもGビズID(国の行政手続きで使う、法人・個人事業主向けの共通ログインID)や日程の準備がないと、着工直前では間に合いません。

ペン太ペン太
見積が税抜98万円なので、報告はいらないですよね?
ハリタハリタ
税込で判定します。107万8千円ですから、しっかり対象です。

「税抜98万円だから対象外」は間違いです

トピック1:「税抜98万円だから対象外」は間違いです

まず、どんな工事が報告の対象になるのか。基準は3つです。

  • 建築物の解体工事床面積の合計が80㎡以上
  • 建築物の改造・補修工事:請負代金の合計額が100万円以上
  • 工作物の解体・改造・補修工事:請負代金の合計額が100万円以上

工作物とは、建物以外で地面に定着しているもののことです。キュービクルなどの受変電設備も含まれます。

このどれか1つに当てはまれば、報告が必要です。逆にこれに満たない小規模な工事なら、報告はいりません。ただし、事前調査そのものは規模を問わず必要です。ここは何度でも確認しておきたいところです。

請負代金100万円の数え方(分割契約は合算、材料費・消費税は含む、事前調査費用は含まない)図1:請負代金100万円の数え方

さて、実務でいちばん判断を誤りやすいのが、この「100万円」の数え方です。

たとえば、こんな場面を考えてみます。1985年築の賃貸マンションで、共用廊下の照明を全部やり直す工事を受けたとします。見積書の金額は税抜98万円。担当者は「100万円に届かないから報告はいらないな」と判断しました。

ですが、これは誤りです。請負代金には材料費と消費税が含まれます。税込にすれば107万8千円。しっかり基準を超えています。判定は必ず税込で行ってください。

もう1つ、契約が複数に分かれていても、合算して1つの契約として扱います。工区ごとや工種ごとに契約を分けて、それぞれを100万円未満にする——という数え方はできません。

なお、事前調査そのものにかかった費用は、この請負代金に含みません。調査費を足したせいで100万円を超えた、と心配する必要はないということです。

工事の種類 報告が必要になる基準 数え方の注意
建築物の解体工事 床面積の合計が80㎡以上
建築物の改造・補修工事 請負代金の合計額が100万円以上 材料費と消費税を含む(税込で判定)。分割契約でも合算する
工作物の解体・改造・補修工事 請負代金の合計額が100万円以上 工作物は建物以外で地面に定着しているもの。キュービクル等の受変電設備も含む
いずれにも満たない工事 報告は不要 ただし事前調査そのものは規模を問わず必要
ここまでのポイント
  • 基準は3つ。建築物の解体は床面積の合計が80㎡以上建築物の改造・補修と工作物の解体・改造・補修は請負代金の合計額が100万円以上
  • 工作物は建物以外で地面に定着しているもの。キュービクルなどの受変電設備も含まれる。
  • どれか1つに当てはまれば報告が必要。満たない小規模な工事なら報告はいらないが、事前調査そのものは規模を問わず必要
  • 請負代金には材料費と消費税が含まれる。税抜98万円は税込107万8千円で、しっかり基準を超える。判定は必ず税込で行う。
  • 契約が複数に分かれていても合算して1つの契約として扱う。工区ごと・工種ごとに分けて100万円未満にする数え方はできない。
  • 事前調査そのものにかかった費用は、この請負代金に含まない。


報告するのは元請業者等。下請は代わりに出せません

トピック2:報告するのは元請業者等。下請は代わりに出せません

報告の義務を負うのは、元請業者等です。発注者から直接工事を請け負った会社のことで、自分で工事する施主(自主施工者)も含みます。

ここで大事なのは、下請の会社が元請に代わって報告することはできないという点です。システムがそういうつくりになっていません。「うちが調べたんだから、うちが出しておきます」ということができないのです。

ですから、電気工事を専門工事として請け負う立場なら、自分の役割はこうなります。調査結果を確実に元請へ渡し、報告が済んだかどうかを確認する。報告そのものは元請の仕事です。

逆に、自社が元請として発注者から直接請け負う案件では、報告は自社の義務になります。

ここまでのポイント
  • 報告の義務を負うのは元請業者等。発注者から直接工事を請け負った会社で、自分で工事する施主(自主施工者)も含む。
  • 下請の会社が元請に代わって報告することはできない。システムがそういうつくりになっていない。
  • 専門工事として請け負う立場なら、調査結果を確実に元請へ渡し、報告が済んだかを確認する。
  • 自社が元請として発注者から直接請け負う案件では、報告は自社の義務になる。

着工3日前に気づいても、もう間に合いません

トピック3:着工3日前に気づいても、もう間に合いません

報告の手順を時系列で見ていきます。

石綿事前調査結果報告の流れ(GビズID取得→事前調査→システムで報告→工事着手)と、1回の入力で自治体と労働基準監督署の両方に報告される仕組み図2:報告までの流れ

STEP 1:GビズIDを取得しておく

システムを使うには、GビズIDが必要です。デジタル庁が運営する、法人・個人事業主向けの共通認証アカウントのことです。

アカウントには「プライム」「メンバー」「エントリー」の3種類があります。このうちエントリーは一括申請ができません。報告は1件ずつになります。

複数の現場を抱える事業者なら、プライムかメンバーをおすすめします。ただし、プライムの取得には印鑑証明書などの書類審査があります。発行までに時間がかかる、ということです。

ここで、よくある場面を1つ。

築40年の事務所ビルで、分電盤の更新工事を元請として受注したとします。請負代金は税込120万円。調査は済んでいて、着工は3日後。準備万端のつもりでした。

そこへ、社内の誰かが言います。「これ、報告は出しました?」——出していません。それどころか、GビズIDを持っていないことにその場で気づきます。ここから申請しても、着工には到底間に合いません。

まだ持っていないなら、案件が発生してからではなく今のうちに取っておく。これに尽きます。

STEP 2:事前調査を行う

第4回で解説した手順にそって、有資格者が調査を行います。

STEP 3:システムから報告する

調査が終わったら、システムにログインして報告します。タイミングは「工事開始前」です。

「調査の終了後◯日以内」といった制限はありません。ですが、遅くとも着手前には済ませておく必要があります。

このシステムの便利な点は、1回の操作で都道府県等(自治体)と労働基準監督署の両方に報告できることです。大気汚染防止法(大防法)にもとづく報告と、石綿障害予防規則(石綿則)にもとづく報告。この2つを別々に出す必要はありません。

複数の案件をまとめて報告したい場合は、Excel形式のファイルによる一括申請機能が使えます。ただし、これはプライムとメンバーだけの機能です。

STEP 4:工事に着手する

報告を済ませてから着工します。あわせて、第4回で触れた現場への掲示(A3サイズ以上)と、発注者への書面での説明も忘れずに行ってください。

ここまでのポイント
  • STEP1 GビズIDを取得しておく。プライム/メンバー/エントリーの3種類があり、エントリーは一括申請ができず報告は1件ずつ。複数現場ならプライムかメンバー。プライムは印鑑証明書などの書類審査があり、発行までに時間がかかる。
  • STEP2 第4回の手順にそって、有資格者が事前調査を行う。
  • STEP3 調査が終わったらシステムから報告する。タイミングは工事開始前。「調査終了後◯日以内」といった制限はないが、遅くとも着手前には済ませる。
  • 1回の操作で都道府県等(自治体)と労働基準監督署の両方に報告できる。大防法と石綿則の報告を別々に出す必要はない。
  • 複数案件はExcel形式のファイルによる一括申請が使えるが、これはプライムとメンバーだけの機能。
  • STEP4 報告を済ませてから着工する。あわせて現場への掲示も行う。


出したあとに間違いに気づいても直せます

トピック4:出したあとに間違いに気づいても直せます

工事の内容が変わったり、入力ミスに気づいたりすることもあります。

報告した内容は、工事終了日までなら修正できます。慌てなくて大丈夫です。

申請そのものを取り下げることもできます。ただし、取り下げた申請は再利用できません。取り下げたら、新しく報告し直すことになります。

なお、システムを使うのが難しい場合は、紙の様式(様式第3の4)による報告も認められています。ただし、原則はシステムからの報告とされています。

ペン太ペン太
報告を出したので、届出も済んだことになりますよね?
ハリタハリタ
別物です。届出は作業開始の14日前まで。ここを間違えると着工が止まります。
ここまでのポイント
  • 報告した内容は工事終了日までなら修正できる。
  • 申請そのものを取り下げることもできる。ただし取り下げた申請は再利用できず、新しく報告し直すことになる。
  • システムを使うのが難しい場合は紙の様式(様式第3の4)による報告も認められている。ただし原則はシステムからの報告。

「報告」と「届出」はまったく別の手続きです

トピック5:「報告」と「届出」はまったく別の手続きです

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。

ここまで説明してきた事前調査結果報告のほかに、まったく別の手続きがあります。名前が似ているせいで混同されやすいのですが、中身は別物です。

事前調査結果報告と特定粉じん排出等作業実施届出の違い(義務者・期限・対象・目的の比較)図3:2つの手続きの違い

レベル1(吹付け石綿。粉じんがもっとも飛び散りやすい、いちばん危険な区分)またはレベル2(保温材・耐火被覆材・断熱材)の石綿含有建材が見つかったとします。そして、実際にそれを取り除く作業を行う。この場合、「特定粉じん排出等作業実施届出」が別に必要になります。

特定粉じん排出等作業とは、レベル1・2の石綿を実際に取り除く作業のことです。

この届出が事前調査結果報告と違う点は、大きく3つあります。

違い1|期限が「作業開始の14日前まで」と決まっている

事前調査結果報告は「着工前まで」でした。一方こちらは、作業開始の14日前までという、はっきりした期限があります。

たとえば、1970年代の工場でキュービクルを更新する工事があったとします。撤去する周りの壁に、レベル2の耐火被覆材が見つかりました。除去作業を始めたいのは4月16日。

締切は、その14日前の4月1日です。4月上旬に「そういえば届出が」と気づいても、もう間に合いません。作業日を後ろにずらすしかなくなります。

この2週間は、工程のうえで決して小さくありません。レベル1・2が出た時点で、日程を引き直す必要があります。

違い2|義務を負うのは発注者

事前調査結果報告の義務者は元請業者等でした。ところがこちらは、発注者が義務を負います。

元請業者等が代わりに提出することはできます。ただしその場合は、発注者からの委任状が必要です。「うちで出しておきます」と言うだけでは済まない、ということです。

違い3|報告ではなく「作業計画」の届出

事前調査結果報告は、「調べた結果はこうでした」という報告です。

一方、特定粉じん排出等作業実施届出は、「これからこういう方法で除去作業を行います」という作業計画の届出です。性格がまったく違います。

つまり、レベル1・2が見つかった案件では、報告と届出の両方が必要になります。しかも届出には14日前という期限がつく。この構造を頭に入れておけば、工程計画で慌てずに済みます。

ここまでのポイント
  • レベル1(吹付け石綿)またはレベル2(保温材・耐火被覆材・断熱材)を実際に取り除く作業には、「特定粉じん排出等作業実施届出」が別に必要。
  • 違い1|期限。事前調査結果報告は「着工前まで」、届出は「作業開始の14日前まで」
  • 違い2|義務者。報告は元請業者等、届出は発注者。元請が代わりに提出するには発注者からの委任状が必要。
  • 違い3|性格。報告は「調べた結果はこうでした」、届出は「これからこういう方法で除去作業を行います」という作業計画。
  • レベル1・2が見つかった案件では、報告と届出の両方が必要になる。


実務では、この4つを順に押さえてください

トピック6:実務では、この4つを順に押さえてください

最後に、電気設備の実務者としての段取りを整理します。

1. GビズIDは案件が発生する前に取っておく。自社が元請になることがあるなら、これが最優先です。着工直前では間に合いません。

2. 見積り段階で、請負代金が税込100万円を超えるかを確認する。税抜で判断しないこと。分割契約でも合算される点にも注意します。

3. レベル1・2が確認されたら、その時点で「作業開始14日前」を工程に書き込む。発注者への説明も必要になるため、早めに動きます。

4. 下請として入る案件では、調査結果を確実に元請へ渡し、報告済みかを確認する。報告義務は元請にありますが、報告漏れは現場全体の問題になります。

ペン太ペン太
GビズIDって、案件が決まってから取ればいいですか?
ハリタハリタ
案件が出る前に取ってください。着工3日前に気づいても、もう間に合いません。
いつ やること 注意
案件が発生する前 GビズIDを取得しておく 自社が元請になることがあるなら最優先。プライムは印鑑証明書などの書類審査があり、発行までに時間がかかる
見積り段階 請負代金が税込100万円を超えるかを確認する 税抜で判断しない。分割契約でも合算される
レベル1・2が確認された時点 「作業開始14日前」を工程に書き込む 発注者への説明も必要になるため、早めに動く
下請として入る案件 調査結果を確実に元請へ渡し、報告済みかを確認する 報告義務は元請にあるが、報告漏れは現場全体の問題になる

まとめ

トピック7:まとめ

名前は似ていますが、報告と届出は義務を負う人も期限も違います。この2つを並べて覚えておけば、工程が止まる事故はほぼ防げます。

事前調査結果報告 特定粉じん排出等作業実施届出
何を出すか 「調べた結果はこうでした」という報告 「これからこういう方法で除去作業を行います」という作業計画
どんな工事で 解体80㎡以上/改修・工作物100万円以上 レベル1・2の石綿を実際に取り除く作業
期限 工事開始前 作業開始の14日前まで
義務者 元請業者等(自主施工者を含む) 発注者(元請が代行するには委任状が必要)
出し方 システムから。1回の操作で自治体と労働基準監督署の両方へ 別途、届出として提出

対象と義務者

  • 報告対象は「解体80㎡以上」「改修100万円以上」「工作物100万円以上」のいずれか
  • 請負代金は分割契約でも合算。材料費・消費税は含み、事前調査費用は含まない
  • 報告義務者は元請業者等。下請が代行して報告することはできない

報告の実務

  • システムの利用にはGビズIDが必要。エントリーは一括申請不可なので、複数現場ならプライムかメンバーを
  • 報告のタイミングは工事開始前。1回の操作で自治体と労働基準監督署の両方に報告できる
  • 報告内容は工事終了日まで修正可能。取り下げた申請は再利用できない

もう1つの手続き

  • レベル1・2の除去作業がある場合は、別途「特定粉じん排出等作業実施届出」が作業開始14日前までに必要。義務者は発注者

この回で唯一「今日やっておくこと」があるとすれば、GビズIDの取得です。案件が決まってからでは、書類審査の日数が工程に乗ってきます。逆にIDさえ持っていれば、報告そのものは調査が終わったあとの数十分で片づきます。慌てるのは、いつも準備のほうです。

次回は連載の最終回です。調査を怠った場合の罰則や実際のトラブル事例を取り上げ、連載全体のまとめとチェックリストをお届けします。

※法令情報および制度の運用は執筆時点(2026年8月)のものです。届出の様式や期限は自治体によって上乗せ規制がある場合があるため、工事実施地域の自治体の案内もあわせてご確認ください。

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次に読むならこれ【連載第7回・最終回】調査を怠るとどうなる?罰則と、罰金より怖いことアスベスト事前調査
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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。