この記事は連載「連載」(全6回)の1本です。

前回は事前調査(工事の前に、これから触る建材に石綿が入っているか調べる手続き)の進め方を、「書面調査 → 現地調査 → 分析調査」の3ステップで見てきました。途中で結論が出れば、そこで調査は終わる、という話でしたね。

今回はその制度を、私たちの現場に引き寄せます。連載の核心にあたる回です。

この記事でわかること

  • 電気設備が法律上どう扱われるようになったのかがわかる
  • 電気工事で石綿に行き当たる2つの経路がわかる
  • 分電盤更新、天井裏配線、照明交換など、工事別に何を見ればいいかがわかる
  • 自分の担当工事に事前調査が要るかどうか、その場で判断できる

結論から言うと

事前調査が要るかどうかは、建材を壊すか壊さないかでほぼ決まります。点検口を開けて覗くだけなら不要、天井を切る・壁を開ける・コアを抜くなら必要です。そして注意すべきは盤そのものより、盤の周りの天井・壁・貫通部の材料のほうです。

ペン太ペン太
盤の更新くらいなら、調査はいらないですよね?
ハリタハリタ
壁に穴を開けるなら要ります。判断の軸は「壊すかどうか」です。

「電気工事だから対象外」は、もう通用しません

まず制度の話を短く済ませます。

第2回でお伝えしたとおり、2026年1月1日から工作物(建物以外で地面に定着しているもの。煙突、ボイラー、貯槽、受変電設備など)の事前調査にも、有資格者による調査が義務づけられました。

その対象になる「特定工作物」(工作物のうち、石綿が使われている可能性が高いとして国が名指しした設備)は、厚生労働省の告示で決まっています。そのリストに、次の4つが入っています。

  • 発電設備
  • 変電設備
  • 配電設備
  • 送電設備
特定工作物のうち電気設備に関係するもの(発電設備・変電設備・配電設備・送電設備)図1:特定工作物に含まれる電気関係の設備

つまり、キュービクル(屋外や屋上に置かれる金属箱入りの受変電設備)の更新、受変電設備の改修、送配電設備の撤去。こうした工事は、制度上はっきり事前調査の対象です。「電気工事は建築工事じゃないから、石綿は元請や解体業者の領分」——長くそう考えられてきた面がありますが、その理解はもう通用しません。

ペン太ペン太
盤そのものにアスベストが入っているかを見ればいいんですね。
ハリタハリタ
逆なんです。危ないのは盤より、その周りの建材のほうが多いんです。

国も「危ないのは盤より、盤の周り」と言っています

ただ、ここで厚生労働省自身が興味深い指摘をしています。資料のなかで、こう述べているのです。

「発電設備等の電気設備は建築設備の一部となっていることも多く、石綿事前調査の必要性がある部分は電気設備そのものよりも周囲の建材部分が多い」

これは実務感覚とよく合います。

たとえば、1970年代に建った工場でキュービクルを更新する場面を思い浮かべてください。危ないのは、新しい盤を据えるために電気室の壁を開口するとき、あるいは新しいケーブルルートのために床や梁を貫通させるときです。盤の中身より、盤が取り付いていた壁のほうが、石綿を含む建材である可能性はずっと高い。

「盤より、盤の周り」。この視点が、今回いちばんお伝えしたいことです。

石綿に出会う経路は2つある

電気設備の工事で石綿に行き当たる道すじは、2つに分けると整理しやすくなります。

電気設備工事で石綿に遭遇する2つの経路(周囲の建材側と機器・部材側)図2:電気設備工事で石綿に遭遇する2つの経路

経路①:周囲の建材(件数はこちらが圧倒的)

工事のために手を入れる、建物側の材料です。数で言えば、ほとんどがこちらです。

天井材——岩綿吸音板(ロックウールを固めた、細かい穴のあいた吸音天井板。事務所の天井でよく見るあれです)や、けい酸カルシウム板(軽くて燃えにくい白い板。天井や壁の下地に使われます)。天井裏の配線ルートを確保するとき、照明器具を替えるときに触ります。

たとえば築40年の事務所ビルで、天井裏の配線をやり直すとします。既存の岩綿吸音板を配線ルート上で50cm四方だけ切り取る。それだけで、この工事は事前調査が必要な工事になります。

壁材・ボード類——石綿を含むせっこうボード、ALCパネル(軽量気泡コンクリートの板。外壁や間仕切りに使われます)、サイディング(外壁に張る板材)など。スイッチやコンセントを新設・移設して壁を開けるときが該当します。

床材——ビニル床タイル(Pタイル)と、その接着剤。OAフロアの改修や床下配線で床を剥がすときに関係します。タイル本体だけでなく、下の接着剤にも石綿が入っている場合があります。

貫通部の耐火材——防火区画を貫く部分を埋めている耐火パテやモルタル。ここは電気設備工事で、もっとも触る頻度が高い部分でしょう。ケーブルを1本増やすだけでも、既存のパテを崩すことになります。

吹付け材・保温材——機械室や電気室の天井・梁に吹き付けられているケース。配管の保温材が盤のすぐ近くを通っているケース。1970年代の工場では、電気室の梁の吹付けがそのまま残っていることがあります。

経路②:機器・部材そのもの(件数は少ないが見落とすと厄介)

盤の中にも、石綿が使われていた時期があります。

具体的には、盤内部の絶縁板、遮断器のアークシュート(遮断器の中で、電流を切ったときに出るアーク=火花を消すための部品。消弧室ともいいます)、配線用遮断器の台座など。さらに盤の扉パッキンや、耐熱電線・特殊ケーブルの被覆材に編み込まれていた例も報告されています。

これらについては、メーカー各社が自社製品の石綿含有状況を公開しています。たとえば富士電機機器制御は2005年に石綿の使用を終了しました。それ以前の製品については対象型式の一覧を公開し、製造番号・型式・製造年月から個別に照会できる窓口も設けています。

古い盤を扱うなら、まずメーカーの公開情報を当たる。これがいちばん確実です。盤の扉を開けて銘板の型式と製造年月を控えるところから始めてください。

工事の種類別|ここを見てください

では、実際の工事場面ごとに何を確認すべきか。よくある工事を並べます。

電気設備工事の種類別に見た石綿含有建材の要注意ポイント一覧図3:工事種別ごとの要注意ポイント

分電盤・キュービクルの更新

盤の裏板、取付下地、壁の開口部の周り。そして盤本体の内部部材(2005年以前の製品)。撤去した盤の裏から出てくる下地材は、要注意です。

天井裏の配線改修

天井材そのもの、天井裏の吹付け材や断熱材。点検口から入るだけで建材を傷めないなら対象外です。天井を一部でも撤去するなら対象になります。

スイッチ・コンセントの交換/増設

壁材の開口部分。既存ボックスをそのまま使って器具だけ替えるなら、建材は壊しません。ですが位置を変える、新しく設けるとなれば、壁を開けることになります。

照明器具の交換

埋込型で天井に開口を設けるなら、天井材が対象です。直付けに替えて既存の穴を塞ぐ場合も、周りの建材を触ることになります。

たとえば1985年築の賃貸マンションで、共用廊下の照明をLEDに替える工事。既存の器具を外して、同じ穴に同じ大きさの器具を付けるだけなら、建材は壊しません。ですが器具が小さくなって天井に穴が残り、開口を広げる・塞ぐ作業が入るなら、そこで話が変わります。同じ「照明交換」でも、中身次第で扱いが分かれるということです。

貫通部の新設・拡大

耐火パテ、モルタル、周りの壁材・床材。コア抜き(ドリルで丸い穴をくり抜く作業)は、石綿を含む建材を粉々にする典型的な作業です。

外壁への穴あけ

エアコン配管や引込線のために外壁を貫くなら、サイディングやALCが対象になります。

いちばん大事な判断軸|「壊すかどうか」で分かれます

ここまでのリストを眺めると、ひとつの共通点が浮かび上がります。

建材を破壊・切断・穿孔するかどうか。これが事前調査の要否を分ける、実質的な境界線です。

この記事でひとつだけ覚えて帰っていただくなら、ここです。

建材を壊さない=原則不要 建材を壊す=必要
既存の点検口を開けて覗く 天井を切る
既存ボックスの器具だけ交換する 壁を開ける
露出配線をモール内で引き直す コアを抜く/穴を開ける
盤の扉を開けて中を確認する 床を剥がす

理由はシンプルです。石綿は、建材のなかにおとなしく固まっている限り、繊維は飛びません。危ないのは、切る・砕く・削る・穴を開けるといった作業で、繊維が空気中に舞い上がる瞬間です。だから法律も、そこを境目にしています。

だから、見積り段階で工事内容を洗い出すときは、「この工事のどこかで、何かを壊すか?」と一度自問してみてください。この観点で見直すだけで、事前調査が必要な工事を取りこぼしにくくなります。

「電気工事だから」ではなく「壊すから」。判断の軸を、そちらに切り替えてください。

費用と工期は、設計段階から見込んでおく

実務で避けて通れないのが、お金と日程の話です。

分析調査の費用は、基本料金に加えて1検体あたり1万数千円〜3万円程度が目安とされています。小規模な改修で3検体なら10万円前後、中規模で8検体なら19万円前後という試算例もあります。ただし調査会社によって幅があるので、実際には複数社から見積りを取ることをおすすめします。

第4回でお伝えしたとおり、分析せずに「石綿が入っている」ものとして工事を進める選択肢(みなし判定)もあります。ただし、ある分析機関の実績では、依頼の7〜8割が「入っていない」という判定だったという報告もあります。みなし判定で厳しい措置を取り続けるより、分析したほうが結果的に安く済むケースは少なくありません。除去にかかる費用と分析費用を比べて決めることになります。

日程面では、試料を採ってから結果が出るまでに日数がかかる点を、工程表に織り込んでおく必要があります。着工の直前に思い出しても、もう間に合いません。設計・見積りの段階で調査の期間を確保しておくのが現実的です。

現場で使えるチェックリスト

最後に、電気設備工事の見積り・着工前に確認しておきたい項目をまとめます。

  • 建物の着工年月日を確認したか(2006年9月1日以後なら原則対象外)
  • その後の改修・増築の履歴を確認したか
  • 今回の工事で、建材を破壊・切断・穿孔する作業があるか
  • 対象建物の種類に対して、調査者の資格区分は適切か(集合住宅の共用部・工作物に注意)
  • 更新する盤・機器の製造年と型式を確認し、メーカーの公開情報を確認したか
  • 分析が必要な場合、その日数を工程に織り込んだか
  • 天井裏など、着工前に目視できない箇所を発注者に報告したか
ペン太ペン太
見積の段階で入れておかないと、まずいですね。
ハリタハリタ
調査費と工期です。あとから足すと、まず揉めます。

まとめ

  • 2026年1月から、発電設備・変電設備・配電設備・送電設備は「特定工作物」として事前調査の対象に明記された
  • ただし厚生労働省自身が「調査が必要な部分は電気設備そのものより周囲の建材が多い」と指摘している
  • 遭遇経路は「周囲の建材」と「機器・部材そのもの」の2つ。件数では前者が圧倒的に多い
  • 建材側では、天井材・壁ボード・床材・貫通部の耐火材・吹付け材が要注意
  • 機器側では、絶縁板・アークシュート・扉パッキン・耐熱電線の被覆など。メーカーが製品情報を公開している
  • 事前調査の要否を分ける実質的な境界線は「建材を破壊・切断・穿孔するか」
  • 分析費用と工期は、設計・見積りの段階から織り込んでおく

次回は、調査結果を役所に報告する「石綿事前調査結果報告システム」の使い方と、報告義務の対象になる工事について解説します。

※法令情報は執筆時点(2026年8月)のものです。費用の目安は調査会社により幅があります。実際の工事にあたっては、最新の官公庁情報および各社の見積りをご確認ください。

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