この記事は連載「連載」(全6回)の1本です。

前回は、石綿(アスベスト)の事前調査——工事の前に、これから触る建材に石綿が入っているか調べる手続き——がなぜ必要なのか、その全体像をお伝えしました。今回はその続きとして、規制がどんな順序で厳しくなってきたのかを年表で追いかけます。

この記事でわかること

  • 石綿の規制がどんな順番で強化されてきたのかがわかる
  • 自分の工事に「調査」「報告」「資格」のどれが関係するか判断できる
  • 2026年1月から始まった「工作物」の資格者調査の中身がわかる
  • 電気設備の仕事がどこで関わってくるのかがつかめる

結論から言うと

規制は一度に厳しくなったのではなく、4段階で進んできました。「調査する → 報告する → 資格者がやる → 対象を広げる」の順です。最後の段階が2026年1月に始まり、煙突やボイラーなどの工作物も資格者でなければ調べられなくなりました。

ペン太ペン太

アスベストの規制、いつの間にか厳しくなっていませんか?

ハリタハリタ

一度にではなく、4回に分けて厳しくなりました。順番で覚えると、もう忘れません。

規制は4段階で強化されてきた

まず全体像です。法改正は次の4回に分けて進んできました。

石綿事前調査の法改正タイムライン(2021年4月 事前調査の義務化/2022年4月 報告の義務化/2023年10月 有資格者調査の義務化/2026年1月 工作物へ対象拡大)図1:石綿事前調査をめぐる法改正の流れ
施行時期 主な内容
2021年4月1日 大気汚染防止法改正施行。事前調査そのものが義務化され、対象建材がレベル3(成形板等)まで拡大
2022年4月1日 一定規模以上の工事について、調査結果の都道府県等への報告が義務化
2023年10月1日 建築物の事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」等の有資格者に限定
2026年1月1日 工作物(煙突・ボイラー・化学プラント等)の事前調査も「工作物石綿事前調査者」等の有資格者に限定

なぜ一気にやらなかったのか。理由は単純で、現場や調査を担う人材の体制が整うまで時間が必要だったからです。だから各段階のあいだに1〜2年の準備期間が置かれています。

たとえば、1970年代の工場でキュービクル(屋外や屋上に置かれる金属箱入りの受変電設備)を更新するとします。2020年に工事をしていたなら、調査そのものが義務ではありませんでした。同じ工事を2026年にやるなら、調査も報告も資格も全部が関係してきます。同じ建物、同じ作業でも、年によってやることがまるで違うのです。

ここからは、それぞれの段階を順に見ていきます。

2021年4月:レベル3の建材まで調べる対象になった

改正大気汚染防止法(工場や工事から出る有害物質を規制する法律。「大防法」とも呼ばれます)が施行され、解体・改修工事の前には必ず事前調査を行うことが義務になりました。変わった点は大きく3つです。

  • 対象建材の拡大:以前は飛散性の高いレベル1(吹付け材等)・レベル2(保温材等)が中心でしたが、この改正で飛散性の低いレベル3(成形板・けい酸カルシウム板等)まで対象が広がりました
  • 調査方法の法定化:書面調査・現地目視調査・分析調査という3段階の進め方が定められました
  • 説明・掲示・記録の義務化:調査結果を発注者に書面で説明すること、工事現場にA3サイズ以上の掲示板で結果を掲示すること、調査記録を調査終了後3年間保存することが義務化されました

この「レベル」という区分は実務でも何度も出てきます。ここで整理しておきましょう。

石綿含有建材のレベル分類(レベル1 吹付け石綿/レベル2 保温材・耐火被覆材・断熱材/レベル3 石綿含有成形板等)図2:石綿含有建材のレベル分類

レベルとは「粉じんの飛び散りやすさ」による区分です。危険な順に1・2・3となります。

  • レベル1(吹付け石綿。粉じんがもっとも飛び散りやすい、いちばん危険な区分)
  • レベル2(保温材・耐火被覆材・断熱材。配管や鉄骨に巻かれているもの)
  • レベル3(成形板など、板状に固めてある建材。飛び散りにくいが対象には入る)

注意したいのは、レベル3だから調査しなくてよい、とはならない点です。2021年4月の改正でレベル3もはっきり対象になりました。スレート屋根材、天井材、ビニル床タイルなど、改修工事で日常的に触る建材の多くがここに含まれます。けい酸カルシウム板(けいカル板。軽くて燃えにくい白っぽい板。台所や洗面所の壁、天井や壁の下地に使われた)も同じです。

たとえば、1985年築の賃貸マンションで共用廊下の照明を替えるとします。天井のボードを部分的に外すだけの作業でも、そのボードがレベル3の建材なら調査の対象です。「吹付けじゃないから平気」は通用しません。

なお、この時点ではまだ「誰が調査してよいか」という資格の縛りはありませんでした。施工者が自分で調査することもできた時期です。

2022年4月:一定規模以上は役所への報告も必要になった

翌年には、一定規模以上の工事について、調査結果を役所(都道府県等)へ報告することが義務になりました。第1回でお伝えした基準がこれです。

工事の種類 報告義務の基準
建築物の解体工事 床面積の合計80㎡以上
建築物の改造・補修工事 請負代金の合計100万円以上
工作物の解体・改造・補修工事 請負代金の合計100万円以上

報告は「石綿事前調査結果報告システム」を使ったオンライン報告が原則です。

たとえば、築40年の事務所ビルで分電盤を更新し、壁を一部開口する工事を考えます。請負代金が120万円なら、調査に加えて報告も必要です。50万円なら報告はいりませんが、調査は変わらず必要です。ここを取り違えないでください。

この段階でも、まだ調査する人の資格要件はありませんでした。

2023年10月:資格がないと調査できなくなった

ここが大きな転換点です。建築物の事前調査は、「建築物石綿含有建材調査者」(建物のアスベストを調べるための国の資格。一般・特定・一戸建て等の3区分があります)などの有資格者でなければできなくなりました。

つまり、誰でも調査できる状態から、専門知識を持つ人だけに任せる体制へ切り替わったわけです。

たとえば、これまで自社の現場監督が図面を見て「石綿なし」と判断していた会社があったとします。2023年10月以降、その判断はもう調査として認められません。社内で資格を取るか、外部の調査者に頼むかの二択になりました。資格の詳しい違いは次回(第3回)で解説します。

ペン太ペン太

工作物って、うちの仕事に関係ありますか?

ハリタハリタ

キュービクルの基礎や、その周りの構造物が入ってきます。他人事ではありません。

2026年1月:煙突やボイラーなどの工作物も資格者調査の対象に

そして今回、いちばん押さえておきたいのがこの最新の改正です。

これまでの有資格者調査の義務化は「建築物」が対象でした。煙突・ボイラー・貯槽・化学プラントといった「工作物」(建物以外で地面に定着しているもの)は対象外だったのです。しかし2026年1月1日から、工作物の事前調査にも有資格者調査が義務付けられました。

新しく「工作物石綿事前調査者」(工作物のアスベストを調べるための資格)という区分が作られました。対象になるのは、保温材・断熱材・耐火材・ガスケット(配管などのつなぎ目に挟むパッキン)・吹付材など、アスベストが使われている可能性のある特定の工作物です。

具体的な対象範囲は厚生労働大臣の告示で定められています。ここで大事なのは、建築物石綿含有建材調査者の資格だけでは工作物の調査はできないという点です。

たとえば、1970年代の工場でボイラーの解体を計画したとします。社内に建築物石綿含有建材調査者がいても、この工事の調査は担当できません。工作物石綿事前調査者を別に手配する必要があります。

工作物の資格は「誰でもすぐ取れる」ものではない

工作物石綿事前調査者の講習は11時間程度です。修了考査(筆記)に合格すれば資格が得られます。ただし、誰でも受講できるわけではありません。次のいずれかを満たす必要があります。

  • 石綿作業主任者技能講習の修了者
  • 工学系課程を卒業し、一定年数(学歴により2〜7年)の実務経験がある者
  • 工作物関連の実務経験が11年以上ある者
  • 建築・環境行政の実務経験が2年以上ある者

このように受講のハードルがそれなりに高いため、資格者の数が急に増えるわけではありません。

たとえば、1970年代の工場で「来月から煙突の解体を始めたい」となったとします。調査者を探し始めても、地域によってはすぐに見つからないかもしれません。「有資格者が見つからず着工できない」という事態も起こり得ます。工作物の解体・改修を予定しているなら、早めの手配が大切です。

キュービクルまわりも「工作物」になり得ます

電気設備の実務者として気になるのは、「工作物」の範囲に自分たちの設備が入るかどうかでしょう。

法令上の「工作物」は、建築物以外で土地に定着するもの全般を指す、かなり広い言葉です。キュービクルや受変電設備を収めた建屋・構造物なども、案件によっては工作物として扱われる可能性があります。

たとえば、1970年代の工場で屋外キュービクルの基礎ごと撤去する工事を想像してください。これが工作物にあたるかどうかは、設備の中身や工事内容によって変わります。判断に迷うときは、元請業者等(発注者から直接工事を請け負った会社。自分で工事する施主も含む)や調査の有資格者、あるいは労働局に確認することをおすすめします。

いずれにしても、「建築物だから」「工作物だから」で油断しないことです。改修・解体を伴う工事なら、まず事前調査が必要かどうかを確認する。この姿勢が今後さらに大切になります。

ペン太ペン太

年表、覚えられる気がしてきました。

ハリタハリタ

「調べる → 報告する → 資格者が → 工作物も」。この4語で十分です。

まとめ

  • 法改正は「調査義務化(2021年4月)→報告義務化(2022年4月)→有資格者調査の義務化(2023年10月)→工作物への対象拡大(2026年1月)」という4段階で進んできた
  • 2021年4月には対象建材がレベル3まで拡大し、説明・掲示・3年保存も義務化された
  • 2022年4月からは一定規模以上の工事で行政への報告が必須に
  • 2023年10月からは建築物石綿含有建材調査者等の有資格者でなければ調査できなくなった
  • 2026年1月からは工作物も対象となり、新設の「工作物石綿事前調査者」が必要になる
  • 電気設備関連の構造物が「工作物」に該当するケースもあるため、判断に迷う場合は早めに確認しておきたい

次回は、事前調査を実際に行う「建築物石綿含有建材調査者」の資格について、一般・特定・一戸建て等の違いと選び方を詳しく解説します。

※法令情報は執筆時点(2026年8月)のものです。公開前に最新の官公庁情報でのご確認をおすすめします。

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