この記事は連載「連載」(全6回)の1本です。
全体像:アスベスト連載 第3回(調査者の3区分と、発注するときの確認点)

前回は、石綿(アスベスト)の事前調査に関する法改正が「調査する → 報告する → 資格者がやる → 対象を広げる」の4段階で進んできたことを整理しました。その3段階目、2023年10月から「資格を持った人でなければ事前調査ができない」ことになりました。では、その資格とは何なのでしょうか。

この3つ、すぐ答えられますか

  • マンションの共用廊下は、「一戸建て等」の資格で調べられるか。
  • 「特定」と「一般」で、いま調べられる建物の範囲は違うか。
  • キュービクルの更新工事に、建築物石綿含有建材調査者の資格で足りるか。
この記事でわかること
※ 本記事は連載「アスベスト事前調査」全7回の第3回です。第1回・第2回・第4回以降は記事末尾の連載リンクからご覧いただけます。

結論から言うと

「資格者です」という言葉だけを信じてはいけません。区分によって調べられる建物の範囲が違うからです。特に「一戸建て等」の資格では、マンションの共用廊下を調査できません。

ペン太ペン太
資格を持っている人に頼めば、どの建物でも大丈夫ですよね?
ハリタハリタ
そこが落とし穴です。資格は3種類あって、調べられる建物の範囲が違います。

調査者の資格は1つではなく、3つに分かれています

トピック1:調査者の資格は1つではなく、3つに分かれています

事前調査(工事の前に、これから触る建材に石綿が入っているかを調べること)を行える資格は、正式には建築物石綿含有建材調査者(建物のアスベストを調べるための国の資格)といいます。これが次の3区分に分かれています。

  • 特定建築物石綿含有建材調査者(以下「特定」)
  • 一般建築物石綿含有建材調査者(以下「一般」)
  • 一戸建て等石綿含有建材調査者(以下「一戸建て等」)
建築物石綿含有建材調査者の3区分(特定・一般・一戸建て等)と調査できる建築物の範囲の比較図1:3区分の調査できる範囲

名前だけ見ると、「特定」が一番上で「一般」がその下、というピラミッドに見えます。ですが、調べられる範囲という点では事情が少し違います。

たとえば、同じ現場に「特定」の人と「一般」の人がいたとします。この2人が調べられる建物の範囲は、いまのところ同じです。一方で「一戸建て等」の人だけは、調べられる建物がはっきり限られます。上下関係ではなく「1つだけ範囲が狭い」と覚えるほうが実務に合います。

ペン太ペン太
アパートの共用廊下も、住宅といえば住宅ですよね?
ハリタハリタ
共用部は住宅扱いになりません。「一戸建て等」の資格では調べられない場所です。
区分 調べられる範囲 取得過程の違い
特定建築物石綿含有建材調査者 すべての建築物(一戸建て住宅、共同住宅の共用部、ビル、工場を含む) 講義に加えて実地研修あり。修了考査は筆記・口述・調査報告書の作成
一般建築物石綿含有建材調査者 すべての建築物(現時点で「特定」と法令上の差はない) 講義11時間+筆記1.5時間
一戸建て等石綿含有建材調査者 一戸建て住宅と、共同住宅の住戸の専有部分だけ 講義7時間+筆記1時間
工作物石綿事前調査者 工作物(煙突、ボイラー、貯槽、受変電設備など) 建築物の3区分とはまったく別の資格
ここまでのポイント
  • 事前調査を行える資格は建築物石綿含有建材調査者で、「特定」「一般」「一戸建て等」の3区分に分かれている。
  • 名前だけ見ると「特定」が一番上のピラミッドに見えるが、調べられる範囲という点では事情が違う。
  • 「特定」と「一般」が調べられる建物の範囲は、いまのところ同じ。「一戸建て等」だけが限られる。上下関係ではなく「1つだけ範囲が狭い」と覚えるほうが実務に合う。


「一戸建て等」の資格では、マンションの共用廊下を調べられない

トピック2:「一戸建て等」では、マンションの共用廊下を調べられない

3区分のうち、実務でいちばん注意がいるのは「一戸建て等」です。この資格で調べられるのは、一戸建て住宅と、共同住宅の住戸の専有部分だけです。

専有部分とは、マンションやアパートで、各住戸の持ち主が自分のものとして使う室内のことです。反対に、廊下・階段・エントランス・バルコニーなどは共用部分といい、住民みんなで使う場所になります。

「一戸建て等」ではこの共用部分を調べられません。もちろん、ビルや工場、店舗、倉庫といった住宅以外の建物も対象外です。

たとえば、1985年築の賃貸マンションで、共用廊下の照明をLEDに替える工事を請けたとします。器具を外し、天井のボードに穴を開け直す必要が出てきました。ここは事前調査が必要な工事です。

そこで「調査者の資格を持っています」という人に依頼したとします。ところが、その人の資格が「一戸建て等」だったらどうでしょう。廊下は共用部分なので、この人は調べられません。住戸の中なら調べられるのに、一歩外に出た廊下はだめ、ということです。

共用部の分電盤を更新する工事も同じです。「マンションの案件だから住宅の資格で足りるはず」——この思い込みが、着工直前の手戻りにつながります。

ここまでのポイント
  • 「一戸建て等」で調べられるのは、一戸建て住宅と、共同住宅の住戸の専有部分だけ
  • 廊下・階段・エントランス・バルコニーなどの共用部分は調べられない。ビル・工場・店舗・倉庫といった住宅以外の建物も対象外。
  • 賃貸マンションの共用廊下で照明を替え、天井のボードに穴を開け直すなら事前調査が必要な工事。だが「一戸建て等」の資格者では調べられない。住戸の中なら調べられるのに、一歩外の廊下はだめ。
  • 共用部の分電盤更新も同じ。「マンションの案件だから住宅の資格で足りるはず」という思い込みが、着工直前の手戻りにつながる。


「特定」と「一般」は、いま調べられる範囲に差がない

トピック3:「特定」と「一般」は、いま調べられる範囲に差がない

では「特定」と「一般」はどう違うのでしょうか。いまの時点では、この2つが調べられる建築物の範囲に、法令上の差はありません。どちらもすべての建築物を調べられます。一戸建て住宅も、マンションの共用部も、ビルも工場も含みます。

違うのは、資格を取るまでの道のりです。「特定」は講義に加えて実地研修があります。修了考査(講習の最後に受ける修了試験)も筆記だけでなく、口述試験と調査報告書の作成試験が課されます。より実践的な訓練を受けている、という位置づけです。

ただし、これはあくまで「いまの時点で」の話です。今後の法改正で、両者に明確な役割の差が設けられる可能性は残っています。実際、そうした方向性も議論されています。

たとえば、これから2〜3年かけて調査業務を社内に根づかせたい、という会社があったとします。この場合、いま「一般」で足りるからと決めてしまうより、長い目で見て「特定」を取っておくほうが安全、という考え方も成り立ちます。

ここまでのポイント
  • いまの時点では、「特定」と「一般」が調べられる建築物の範囲に法令上の差はない。どちらもすべての建築物を調べられる。
  • 違うのは資格を取るまでの道のり。「特定」は講義に加えて実地研修があり、修了考査も筆記だけでなく口述試験と調査報告書の作成試験が課される。
  • ただしこれは「いまの時点で」の話。今後の法改正で明確な役割の差が設けられる可能性は残っており、そうした方向性も議論されている。
  • 長い目で見て「特定」を取っておくほうが安全、という考え方も成り立つ。

講習は「一般」で12.5時間、「一戸建て等」で8時間

トピック4:講習は「一般」で12.5時間、「一戸建て等」で8時間

3区分の講習の中身を並べると、次のようになります。

区分 講義 実地研修 修了考査
特定 11時間 あり 筆記1時間・口述20分・報告書作成1時間
一般 11時間 なし 筆記1.5時間
一戸建て等 7時間 なし 筆記1時間

「一般」の講義11時間は、基礎知識2時間、建築図面調査4時間、現場調査の実務と留意点4時間、報告書作成1時間という構成です。ここに修了考査1.5時間が加わり、全体で12.5時間になります。2日間に分けて行われるのが一般的です。

修了考査はマークシート式の筆記試験です。おおむね6割以上の正答が必要とされています。合格率は講習機関によって差がありますが、6〜9割程度と報じられています。まじめに受講していれば、極端に難しい試験ではありません。

気をつけたいのは出席です。講習中に欠席があると、考査そのものを受けられません。たとえば、2日目の午前に急な現場対応が入って抜けたとします。それだけで、その回はやり直しになります。受講を申し込む前に、2日間まるごと空けられるかを確かめてください。

ここまでのポイント
  • 「一般」の講義11時間は、基礎知識2時間、建築図面調査4時間、現場調査の実務と留意点4時間、報告書作成1時間の構成。修了考査1.5時間を加えて全体で12.5時間。2日間に分けて行われるのが一般的。
  • 修了考査はマークシート式の筆記試験で、おおむね6割以上の正答が必要とされる。合格率は講習機関によって差があり、6〜9割程度と報じられている。
  • 講習中に欠席があると、考査そのものを受けられない。受講を申し込む前に、2日間まるごと空けられるかを確かめる。


講習を受けるには、6つのルートのどれか1つが必要

トピック5:講習を受けるには、6つのルートのどれか1つが必要

この講習は、誰でも受けられるわけではありません。次のどれか1つを満たす必要があります。

建築物石綿含有建材調査者講習の受講資格6ルート(石綿作業主任者技能講習修了、大学卒+実務2年、短大卒+実務3年、高校卒+実務7年、実務11年、特定化学物質等作業主任者+調査実務5年)図2:受講資格の6つのルート
  • 石綿作業主任者技能講習(石綿を扱う作業の現場責任者になるための講習)の修了者
  • 大学(建築に関する課程)卒業後、建築に関する実務経験2年以上
  • 短期大学(建築に関する課程)卒業後、建築に関する実務経験3年以上
  • 高等学校(建築に関する課程)卒業後、建築に関する実務経験7年以上
  • 建築に関する実務経験が11年以上
  • 特定化学物質等作業主任者技能講習(有害な化学物質を扱う作業の現場責任者になるための講習)の修了者で、石綿の調査に関する実務経験5年以上

電気設備の設計・施工をしてきた方の場合、「建築に関する実務経験」に当てはまるかどうかが分かれ目になります。

たとえば、高校の電気科を出て、15年間ビルの改修現場で電気工事をしてきた方を考えてみます。「建築に関する課程」の卒業ではないので、高校卒+実務7年のルートは使えません。

すると「実務経験11年以上」に当てはまるかどうかが焦点になります。ここは講習機関によって解釈に幅があります。申し込む前に、必ず電話やメールで問い合わせて確かめてください。

なお「特定」を受ける場合は、これらに加えて、石綿の調査に関する実務経験が求められるのが一般的です。

受講できるルート 必要な実務経験
① 石綿作業主任者技能講習の修了者
② 大学(建築に関する課程)を卒業 建築に関する実務経験2年以上
③ 短期大学(建築に関する課程)を卒業 建築に関する実務経験3年以上
④ 高等学校(建築に関する課程)を卒業 建築に関する実務経験7年以上
⑤ 学歴を問わない 建築に関する実務経験が11年以上
⑥ 特定化学物質等作業主任者技能講習の修了者 石綿の調査に関する実務経験5年以上
ここまでのポイント
  • この講習は誰でも受けられるわけではなく、6通りの要件のどれか1つを満たす必要がある。
  • 電気設備の設計・施工をしてきた人は、「建築に関する実務経験」に当てはまるかどうかが分かれ目になる。
  • 高校の電気科を出て15年ビルの改修現場で電気工事、という場合は「建築に関する課程」の卒業ではないため、高校卒+実務7年のルートは使えない。「実務経験11年以上」に当てはまるかが焦点になる。ここは講習機関によって解釈に幅があるため、申し込む前に確認する。
  • 「特定」を受ける場合は、これらに加えて石綿の調査に関する実務経験が求められるのが一般的。


煙突やボイラーには、まったく別の資格がいります

トピック6:煙突やボイラーには、まったく別の資格がいります

前回もお伝えした大事な注意点です。2026年1月から義務になった工作物(建物以外で地面に定着しているもの。煙突、ボイラー、貯槽、受変電設備など)の事前調査には、ここまでの3区分とは別の資格が必要です。工作物石綿事前調査者といいます。

建築物石綿含有建材調査者を持っていても、それだけでは工作物を調べられません。逆も同じです。名前が似ているので、混同しないでください。

たとえば、1970年代に建った工場で、キュービクル(屋外や屋上に置かれる金属箱入りの受変電設備)を更新する工事があったとします。この場合、建物の資格だけを持つ人に頼んでも調査は成立しません。工作物が絡む案件では、この点を先に確かめてください。

ここまでのポイント
  • 2026年1月から義務になった工作物(煙突、ボイラー、貯槽、受変電設備など)の事前調査には、3区分とは別の工作物石綿事前調査者が必要。
  • 建築物石綿含有建材調査者を持っていても、それだけでは工作物を調べられない。逆も同じ。名前が似ているので混同しない。
  • 1970年代の工場でキュービクルを更新する工事は、建物の資格だけを持つ人に頼んでも調査が成立しない。

頼む側は「区分・範囲・報告書」の3点を確かめる

トピック7:頼む側は「区分・範囲・報告書」の3点を確かめる

設計者や元請業者等(発注者から直接工事を請け負った会社)として調査を発注する立場なら、次の3点を押さえておくと行き違いを防げます。

1. 相手が持っている区分を具体的に聞く。 「有資格者です」という説明だけでは足りません。「特定」「一般」「一戸建て等」のどれかを、はっきり確かめてください。

2. その区分で対象の建物をカバーできるか照らし合わせる。 特に、集合住宅の共用部が絡む工事と、工作物が絡む工事は要注意です。

3. 調査報告書に、調査者の氏名・資格区分・登録番号が書かれているか確かめる。 これは記録として3年間保存する書類にもなります。

たとえば、見積依頼のメールに「調査者の資格区分と登録番号を明記してください」と1行入れておくだけでも効果があります。契約後に「その建物は調べられません」と言われる事態を、先に防げるからです。

ペン太ペン太
頼むときは、何を聞けばいいですか?
ハリタハリタ
資格の区分、調べられる範囲、報告書の名義。この3点だけ確かめてください。
ここまでのポイント
  • 発注する立場なら、①相手が持っている区分を具体的に聞く、②その区分で対象の建物をカバーできるか照らし合わせる、③報告書に調査者の氏名・資格区分・登録番号が書かれているか確かめる。
  • 特に、集合住宅の共用部が絡む工事と、工作物が絡む工事は要注意。
  • 見積依頼のメールに「調査者の資格区分と登録番号を明記してください」と1行入れておくだけでも効果がある。契約後に「その建物は調べられません」と言われる事態を先に防げる。

まとめ

トピック8:まとめ

資格は3つに分かれていて、範囲が狭いのは「一戸建て等」だけです。そして工作物には、まったく別の資格が要ります。頼む前に確かめるのは、この2点です。

確かめること 具体的に なぜ
1. 区分 「特定」「一般」「一戸建て等」のどれかをはっきり聞く 「有資格者です」という説明だけでは足りない
2. 対象範囲 その区分で対象の建物をカバーできるか照らし合わせる 集合住宅の共用部が絡む工事と、工作物が絡む工事は特に注意
3. 報告書の記載 調査者の氏名・資格区分・登録番号が書かれているか 記録として3年間保存する書類になる

3つの区分

  • 事前調査を行える資格は「特定」「一般」「一戸建て等」の3区分
  • 「一戸建て等」は一戸建て住宅と共同住宅の専有部分のみが対象で、共用部分やビル・工場は調査できない
  • 「特定」と「一般」は、現時点では調査できる範囲に法令上の差はなく、違いは取得過程(実地研修と口述試験の有無)

講習と受講資格

  • 講習は一般が計12.5時間、一戸建て等が計8時間。受講には学歴と実務経験の組み合わせなど6通りの要件のいずれかが必要

工作物と、発注するとき

  • 工作物の調査には別途「工作物石綿事前調査者」が必要
  • 発注する側は、資格区分・対象範囲・報告書への記載の3点を確認しておきたい

この回の落とし穴は、悪意のない思い込みから生まれます。「資格を持っている人に頼んだ」——それ自体は正しいのに、区分が合っていなかった。防ぐ手はひとつで、見積依頼の一文に区分と登録番号を書いてもらうこと。契約前の1行が、着工直前の手戻りを消します。

次回は、事前調査が実際にどのような手順で進むのか、書面調査・現地調査・分析調査の3ステップを実務レベルで詳しく解説します。

※法令情報および講習制度の内容は執筆時点(2026年8月)のものです。受講要件や講習時間は登録講習機関によって運用が異なる場合があるため、実際の受講にあたっては各機関の最新情報をご確認ください。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。