前回は、調査結果を役所に報告するシステムの使い方を見ました。今回で連載は最終回です。「調べなかったら実際どうなるのか」を確かめて、全7回のまとめに入ります。

この記事でわかること

  • 事前調査を怠った場合、どの法律でいくらの罰則があるのかがわかる
  • 行政がどうやって違反を見つけているのかがわかる
  • 罰金よりも実際に痛いのは何なのかがわかる
  • 連載7回分の要点を、着工前チェックリストとして持ち帰れる

結論から言うと

罰金の額そのものは、正直それほど大きくありません。ですが本当に痛いのは、工事が止まることです。石綿が見つかれば作業は中断、届出はやり直し、工期は後ろにずれます。罰則を覚えるより、着工前に確認する習慣をつけるほうがずっと安上がりです。

ペン太ペン太
正直に聞きますが、罰金っていくらなんですか?
ハリタハリタ
金額そのものは、それほど大きくありません。本当に痛いのは、工事が止まることです。

罰則の一覧|重いのは「除去の作業基準違反」

まず罰則を整理します。アスベストの規制は2つの法律にまたがっているので、両方を見る必要があります。

石綿関係法令の違反行為と罰則の一覧(労働安全衛生法・石綿障害予防規則および大気汚染防止法)図1:法令違反と罰則の一覧

労働安全衛生法/石綿障害予防規則(石綿則。働く人を石綿から守るための厚生労働省の規則)の側では、事前調査をしなかった、記録を作らなかった・保存しなかった、といった違反に6月以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています。

大気汚染防止法(大防法。石綿を周囲に飛び散らせないための環境省の法律)の側は、違反の種類ごとに分かれています。表に出てくる「特定粉じん排出等作業実施届出」は、レベル1・2(吹付け石綿、および保温材・耐火被覆材・断熱材)の石綿を実際に取り除く作業について、事前に出す届出のことです。

違反の内容 罰則
特定粉じん排出等作業実施届出をしない/虚偽の届出 3月以下の懲役または30万円以下の罰金
作業基準違反(隔離をせずに吹付け石綿を除去するなど) 3月以下の懲役または30万円以下の罰金
作業基準適合命令に違反 6月以下の懲役または50万円以下の罰金
報告をしない/虚偽の報告/立入検査の拒否 20万円以下の罰金

ここで注目したいのが、作業基準違反です。2021年4月の改正で、この違反には直接罰が導入されました。

直接罰とは、「まず役所が『やめなさい』と命令し、それを無視したら罰する」という段階を踏まず、違反した時点でいきなり罰せられる仕組みのことです。

たとえば、1970年代の工場でキュービクルを更新するとします。壁の吹付け材に石綿が見つかった。ところが工期が押していて、隔離用のシートを張らずに削り取ってしまった。以前ならまず行政指導が入るところでしたが、今はこの時点で罰則の対象です。

なお、これらの罰則には両罰規定があります。作業をした個人だけでなく、その会社にも罰金が科されるという意味です。

ペン太ペン太
報告を出さないほうが、かえって目立たない気がします。
ハリタハリタ
逆です。出していない現場ほど、行政は探しに来ます。

「うちは報告していないから見つからない」は逆効果です

ここが今回いちばんお伝えしたい部分かもしれません。

第6回で説明した石綿事前調査結果報告システムは、事業者が報告を出す窓口であると同時に、行政が指導先を選ぶためのデータベースにもなっています。

行政が指導対象として見ている3つのパターン(報告がない事業者、石綿なし報告の判断根拠、石綿あり報告の飛散防止対策)図2:行政が見ている3つのパターン

行政が見ているのは、大きく3つのパターンとされています。

パターン1|まったく報告していない事業者

一定規模以上の工事をしているのに報告が1件もない。この場合、「そもそも事前調査をしていないのではないか」と判断され、指導の対象になります。報告を出さないことが、かえって目立つ構造になっているわけです。

パターン2|「石綿なし」と報告した工事

報告はしているが、本当にきちんと調べたのか。行政は調査方法の妥当性を確認します。判断が不十分だと見なされれば、改めて分析するよう求められます。第4回で「判断根拠の記載が重要」とお伝えしたのは、これが理由です。

パターン3|「石綿あり」と報告した工事

飛散防止の対策は十分か。実際に現場へ立ち入って調査する事例も出ています。

つまり、報告してもしなくても目に入る。隠れる場所はない、というのが現在の状況です。

実際に書類送検された事例があります

「罰則はあるけど、実際に適用されることはないだろう」——そう考える方もいるかもしれません。ですが、すでに事例は出ています。

解体工事で作業員を石綿にさらしたとして、事前調査を怠ったことを理由に労働基準監督署が書類送検した事例が報じられています。2022年に事前調査結果の報告義務が始まって以降、行政による具体的な指導は目に見えて増えました。2022年7月には東京で、8月には大阪で、労働基準監督署による書類送検が公表されています。

そして重要なのが、送検の対象は会社だけではないという点です。石綿の管理を担当していた責任者個人が対象になった事例もあります。「会社が罰金を払えば済む」話ではない、ということです。

本当に痛いのは、罰金ではありません

ここまで罰則の話をしてきましたが、率直に言えば、罰金の額そのものは工事の規模から見ればそれほど大きくありません。50万円という金額は、中規模の改修工事なら経費の範囲に収まってしまいます。

本当に痛いのは、別のところにあります。

工事が止まる——第4回でお伝えしたとおり、解体を始めてから新たに石綿含有建材が見つかれば、作業をいったん中断し、届出をやり直すことになります。数日で済む話ではありません。

たとえば、築40年の事務所ビルで天井裏の配線改修を請けたとします。事前調査を省いて着工し、天井を開けた。そこに想定外の吹付け材があった。この瞬間、作業は止まります。調査、分析、届出、そして届出には14日の待ち時間。テナントの入居予定が決まっていたら、目も当てられません。

やり直しの費用がかかる——止まっている間の人件費、隔離設備、再手配。罰金よりこちらのほうが確実に高くつきます。

信用を失う——書類送検は報道されます。取引先や発注者の目に触れます。技術力ではなく法令遵守で名前が出るのは、事業者にとって最も避けたい形でしょう。

数十年後の健康被害——そして、これが最も重い。第1回のグラフを思い出してください。中皮腫の死亡者数は、使用禁止から20年経った今も減っていません。今日の現場で飛ばした繊維の結果が出るのは、20年後、30年後です。そのとき責任を問われるのは、今この作業をしている人たちです。

罰則は、これらすべてに比べれば「軽い」ほうの話なのです。

連載7回のまとめ|着工前に確認する7項目

最後に、この連載の要点を1枚のチェックリストにまとめます。見積り・設計の段階で、この7項目を確認する習慣をつけてください。

アスベスト事前調査の着工前チェックリスト7項目(着工日、改修履歴、破壊の有無、資格区分、報告要否、レベル1・2の届出、工程への織り込み)図3:着工前チェックリスト

1. 建物の着工年月日を確認したか

2006年9月1日以後の着工なら、原則として石綿含有なしと判断できます(第4回)。ここで終われるかどうかが最初の分かれ目です。

2. その後の改修・増築の履歴を確認したか

本体が新しくても、改修部分に古い建材が使われている可能性があります(第4回)。

3. 今回の工事で、建材を壊す・切る・穴を開ける作業があるか

これが事前調査の要否を分ける実質的な境界線です(第5回)。点検口を開けるだけなら不要、天井を切るなら必要。

4. 調査者の資格区分は、対象の建物に合っているか

「一戸建て等」の資格ではマンションの共用部は調べられません。工作物には別の資格が必要です(第3回)。

5. 報告が必要な規模か

解体80㎡以上、改修・工作物は請負代金100万円以上(税込・分割契約は合算)。元請が報告します(第6回)。

6. レベル1・2が見つかったら、14日前の届出期限を工程に入れたか

特定粉じん排出等作業実施届出は発注者の義務で、作業開始の14日前が締切です(第6回)。

7. 分析に出す場合、その日数を工程に織り込んだか

試料を採ってから結果が出るまで日数がかかります。着工直前では間に合いません(第5回)。

連載を終えて

7回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。

この連載を通じて一貫してお伝えしたかったのは、「電気工事だから関係ない、ではない」ということです。

天井裏の配線、分電盤の更新、貫通部の新設。私たちが日常的に行っている作業の多くが、建材に手を入れる作業です。そして、その建材に石綿が入っている可能性は、古い建物であれば決して低くありません。

制度は複雑で、覚えることも多い。ですが、突き詰めれば確認すべきことはシンプルです。いつ建った建物か。何を壊すのか。この2つを着工前に確認する。そこから始めれば十分です。

この連載が、みなさんの現場で少しでも役に立てば嬉しく思います。

ペン太ペン太
全7回、長かったですね。
ハリタハリタ
覚えるのは2つで十分です。いつ建った建物か。何を壊すのか。

まとめ

  • 石綿則違反(事前調査の未実施、記録の不作成・未保存など)は6月以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 大防法では、届出違反と作業基準違反が3月以下の懲役または30万円以下の罰金、命令違反が6月以下の懲役または50万円以下の罰金
  • 2021年4月から作業基準違反には直接罰が導入され、命令を待たずに罰せられるようになった
  • 両罰規定があり、個人だけでなく会社にも罰金が科される
  • 報告システムのデータは行政の指導先選びに使われている。報告しないことがかえって目立つ
  • すでに書類送検の事例があり、会社だけでなく管理責任者個人も対象になっている
  • 罰金より痛いのは、工事の中断・やり直し費用・信用の失墜・数十年後の健康被害
  • 着工前に確認すべきは、突き詰めれば「いつ建った建物か」と「何を壊すのか」の2つ

※法令情報および罰則の内容は執筆時点(2026年8月)のものです。罰則の適用は個別の事情により判断されます。実際の案件については、所管の労働基準監督署および自治体にご確認ください。

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