この記事は連載「連載」(全6回)の1本です。

今回から「アスベスト調査」をテーマにした連載を始めます。

この記事でわかること

  • アスベスト(石綿)とは何で、なぜ危険とされているのかがわかる
  • 「事前調査」が何をすることなのか、大まかな流れがわかる
  • 自分の関わる工事が調査の対象になるかどうか、判断の入口がつかめる
  • 電気設備の仕事とアスベストがどうつながるのかがわかる

結論から言うと

解体や改修を伴う工事は、規模を問わずほぼすべて事前調査が必要です。しかも2023年10月からは、資格を持った人でなければ調査できなくなりました。「元請や解体業者の仕事」と思っていると足元をすくわれます。

ペン太ペン太

ハリタさん、うちは電気屋ですよね。アスベストって、解体屋さんの話じゃないんですか?

ハリタハリタ

僕も最初はそう思っていました。でも、天井を少し切るだけでも対象になります。まずはそこから話させてください。

「電気工事なのに、なぜアスベスト?」から始めます

このサイトではこれまで、電気設備の設計・施工の話を中心にお届けしてきました。今回のテーマを見て「畑違いでは」と感じた方もいると思います。

ですが、電気設備の仕事は「すでに建っている建物に手を入れる」場面がとても多い。分電盤の更新、天井裏の配線のやり直し、古いビルのリニューアル。そのどれもが、建物の一部を壊したり穴を開けたりする作業を含みます。

そして、そういう工事には法律上、アスベスト(石綿)の事前調査が必要です。しかも2023年10月からは、資格を持った人でなければ調査できません。

たとえば築40年の事務所ビルで、天井裏の配線をやり直すとします。既存の天井板を一部だけ切り取る——それだけで、その工事は事前調査が必要な工事になります。決して他人事ではないのです。

アスベストは「安くて優秀すぎた」建材

アスベスト(石綿)は、天然にできる繊維状の鉱物です。髪の毛の5000分の1ほどという細さの繊維が、綿のように集まっています。

この材料は、熱に強く、薬品に強く、電気を通さず、それでいて安い。建材としてはこれ以上ないほど都合がよく、1950年代から2000年代初頭まで、驚くほど幅広く使われました。天井材、壁材、断熱材、屋根材、床タイル——建物のあらゆる場所に入っています。

電気設備との関わりで言えば、配電盤の裏板や絶縁材、ケーブルが壁を貫通する部分を埋める充填材、天井や壁のボード類などに使われていました。古い建物の改修現場では、今も普通に出会う可能性があります。

規制が厳しくなった理由は、このグラフを見ると一目でわかります

アスベストの繊維は非常に細かいため、吸い込むと肺の奥に入り込み、そのまま残り続けます。そして数十年後に、中皮腫(ちゅうひしゅ。胸や腹をおおう膜にできるがん)や肺がんを発症するリスクがあります。

やっかいなのは、この「数十年後」という点です。工事をした当時は誰も体調を崩さない。異変が出るのは、20年、30年、40年経ってからです。

日本の中皮腫による年間死亡者数の推移(1995年500人→2024年1,562人)図1:中皮腫死亡者数の推移

厚生労働省の統計によると、中皮腫で亡くなった方は1995年に500人。それが2024年には1,562人になっています。約30年で3倍以上です。

ここで注目してほしいのが、2006年に建材への使用が原則禁止されたあとも、この数字が減っていないという点です。

なぜでしょうか。今も新しく使っているから、ではありません。何十年も前に吸い込んだ繊維の影響が、いま表面化しているからです。

つまりこのグラフは、過去の使用がどれだけ長く尾を引くかを示しています。そして同時に、こうも読めます——今の現場で繊維を飛ばしてしまえば、その結果は数十年後に出てくる、と。

事前調査とは「工事の前に石綿が入っているか調べること」

事前調査とは、解体や改修の工事を始める前に、これから触る建材にアスベストが入っているかどうかを確かめる手続きです。大きく3つの段階に分かれています。

事前調査の3ステップ(書面調査→現地調査→分析調査)図2:事前調査の3ステップ

1. 書面調査——設計図書や竣工図を見て、どんな建材が使われているか、いつ建てられたかを確認します。

2. 現地調査——実際に現場へ行き、建材の状態を目で見て、必要なら手で触れて確認します。

3. 分析調査——書面と現地だけでは判断がつかない場合に、建材のかけらを採取して、分析機関で成分を調べます。

大事なのは、3つ全部を必ずやるわけではないということです。書面調査だけで「これは対象外」とはっきりすれば、そこで終わります。この流れは第4回で詳しく解説します。

なお、この調査は2023年10月から「建築物石綿含有建材調査者」(建物のアスベストを調べるための国の資格)などを持つ人でなければ実施できません。資格の中身は第3回で扱います。

ペン太ペン太

じゃあ、小さい改修なら報告もいらないってことですか?

ハリタハリタ

報告はいりません。でも調査は要ります。この2つを混ぜてしまうのが、いちばん多い事故です。

「小さい工事だから関係ない」は危険です

よく誤解されるのが、工事の規模と調査の関係です。ここは2つに分けて考えてください。

調査そのものは、規模を問わずほぼすべての解体・改修工事で必要です。

調査結果を役所に報告する義務のほうは、一定以上の規模の工事に限られます。基準は次のとおりです。

報告義務が生じる工事の基準(建築物の解体80㎡以上、改造・補修100万円以上、工作物100万円以上)図3:報告義務が生じる工事の基準
工事の種類 報告が必要になる基準
建築物の解体工事 床面積の合計が80㎡以上
建築物の改造・補修工事 請負代金の合計が100万円以上
工作物の解体・改造・補修工事 請負代金の合計が100万円以上

ここで言う工作物とは、建物以外で地面に定着しているもののこと。煙突、ボイラー、貯槽(タンク)、そして受変電設備なども含まれます。

たとえば、テナントビルの分電盤を更新して壁を一部開口する工事が、請負代金120万円だったとします。この場合、事前調査に加えて役所への報告も必要です。逆に請負代金50万円なら、報告は不要ですが、調査は必要です。

「小さいから調査もいらない」ではなく、「小さくても調査は必要、報告だけ不要」。ここを取り違えないでください。

規制は4段階で強化されてきました

法律は一度に厳しくなったわけではなく、少しずつ段階を踏んで強化されてきました。詳しくは次回に譲りますが、全体像だけ先に掴んでおきましょう。

時期 何が変わったか
2021年4月 すべての解体・改修工事で、事前調査そのものが義務に
2022年4月 一定規模以上の工事で、調査結果を役所に報告することが義務に
2023年10月 調査は有資格者でなければできないことに
2026年1月 建物だけでなく「工作物」(煙突・ボイラー等)も有資格者調査の対象に

調査する → 報告する → 資格者がやる → 対象を広げる」という順番です。この4段階を頭に入れておくと、以降の話がぐっと理解しやすくなります。

この連載で扱うこと

第1回は全体像の整理でした。この先は次のテーマを予定しています。

  • 第2回:法改正の詳しい流れと、2026年から始まった工作物調査の義務化
  • 第3回:調査ができる3つの資格と、その使い分け
  • 第4回:書面調査・現地調査・分析調査、それぞれの進め方
  • 第5回:電気設備工事で特に注意したい場面
  • 第6回:調査結果を役所に報告するシステムの使い方
  • 第7回:調査を怠った場合の罰則と、連載のまとめ
ペン太ペン太

思っていたより自分ごとでした……。まず何をすればいいですか?

ハリタハリタ

建物がいつ建ったかを見ることです。それだけで、判断の半分は片づきます。

まとめ

  • アスベストは熱・薬品・電気に強く安価だったため、2000年代初頭まで建材に広く使われた
  • 吸い込むと数十年後に中皮腫や肺がんを起こすおそれがある
  • 中皮腫の年間死亡者数は1995年の500人から2024年は1,562人へ。2006年の使用禁止後も減っていない
  • 事前調査は「書面 → 現地 → 分析」の3段階。途中で結論が出れば、そこで終わる
  • 調査そのものは規模を問わず必要。報告のほうは「解体80㎡以上」「改修100万円以上」が基準
  • 2023年10月からは有資格者でなければ調査できない
  • 電気設備の改修・更新も対象になり得るため、実務者として仕組みを知っておく必要がある

次回は、この義務化がどんな順序で進んできたのかを、年表で詳しく追いかけます。

※法令情報は執筆時点(2026年8月)のものです。公開前に最新の官公庁情報でのご確認をおすすめします。

次に読むならこれ【連載第7回・最終回】調査を怠るとどうなる?罰則と、罰金より怖いことアスベスト事前調査