【連載第4回】事前調査は3ステップ|どこで終われて、どこから分析が必要か
第3回では、調査ができる3つの資格区分と、その使い分けを整理しました。今回はいよいよ実務編。事前調査(工事の前に、これから触る建材に石綿が入っているか調べる手続き)が実際にどう進むのかを追いかけます。
この記事でわかること
- 事前調査が「書面 → 現地 → 分析」のどこで終われるのかがわかる
- 着工日を見ただけで調査が不要になるケースを判断できる
- 分析に出すか、「みなし判定」(調べずに石綿ありとして扱うこと)で済ませるかの考え方がわかる
- 調査が終わったあとに何をすれば法令上OKなのかがわかる
結論から言うと
事前調査は3ステップを必ず全部やるものではありません。途中で結論が出れば、そこで終わりです。カギを握るのは「着工年月日」と「均質材料(同じ材料・同じ工法で施工されている、ひとまとまりの範囲のこと)ごとの判定」の2つです。
調査って、毎回サンプルを採って分析に出すんですか? それは高くつきそうです……
全部やる必要はありません。途中で終われる構造になっています。
調査を自分で行う方はもちろん、調査を発注する側・報告書を受け取る側にも役立つはずです。「この報告書はきちんと調べられたものか」を見極める材料になります。
調査は「途中で終われる」構造になっている
まず全体像です。事前調査は3ステップを必ず全部やるものではありません。途中で結論が出れば、次のステップに進まなくてよい構造です。
図1:事前調査の判断フローたとえば、2010年築のテナントビルで分電盤を更新するとします。竣工図で着工日を確認したら2009年12月。この時点で「石綿含有なし」と判断でき、現地での目視も分析も必要ありません(理由は次の章で説明します)。
一方、築40年の事務所ビルで天井を一部撤去するなら、書面では決まりません。現地に出て、場合によっては分析まで進みます。
この分岐がわかると、「なぜこの現場は分析まで必要で、あの現場は不要だったのか」が腑に落ちます。
STEP 1:書面調査で見るのは、まず「着工年月日」
最初に行うのは、設計図書等での確認です。発注者から次の資料を出してもらいます。
- 設計図書:意匠図(仕上表・平面図・断面図)、構造図、設備図
- 竣工図:工事中の設計変更が反映されているため、意匠図以上に大事
- 過去の調査記録:以前に石綿調査をしていれば、その結果
- 改修・補修の履歴:いつ、どの範囲を、どんな工法で手を入れたか
この中でいちばん重要なのが着工年月日です。2006年9月1日以後に着工した建築物は、原則として「石綿含有なし」と判断してよいとされています。この日から建材への石綿使用が原則として禁止されたためです。ここが確認できれば、以降の詳しい調査は不要になります。
たとえば、2010年に完成したテナントビルの2階で、テナント入れ替えに伴って配線をやり直すとします。竣工図の表紙に「着工 2009年12月」とあれば、その一行で調査は終わります。あとは、なぜそう判断したかを記録に残すだけです。
ただし、増築・改築・改修の履歴がある場合は注意が必要です。本体の着工が2006年9月以降でも、その後の改修で古い在庫の建材が使われた可能性はゼロではありません。逆に、本体が古くても改修部分だけ新しいこともあります。だからこそ改修履歴の確認が欠かせません。
なお実務では、竣工図が残っていない、増改築の記録が見つからない、というケースも珍しくありません。その場合は書面だけで結論を出さず、現地調査に進みます。
STEP 2:現地調査は「均質材料」ごとに見ていく
書面で判断がつかない場合は、現地に出て目で見て確認します。法令上、事前調査は「設計図書等の文書の確認」と「目視による確認」の両方が必須です。図面があるから現地は省略、はできません。
現地で意識するのが均質材料(同じ材料・同じ工法で施工されている、ひとまとまりの範囲のこと)という考え方です。このまとまりごとに、石綿が入っているかを判定していきます。
天井材と壁材が違えば、別の均質材料です。同じ天井材でも、工事の時期が違えば別の材料として扱います。
たとえば1970年代の工場で、事務所部分の天井が岩綿吸音板(ロックウールを固めた、細かい穴のあいた吸音天井板)、工場部分の天井が別のボード、さらに1995年に増築した倉庫の天井がまた別の材料だとします。この場合は3つの均質材料として、それぞれ判定することになります。「同じ工場だから1つでいい」とはなりません。
試料を採るときは「3箇所以上・3個で1試料」
分析に回す場合、試料の採り方に決まりがあります。その建材を代表する試料にするためです。
- 同一と考えられる建材の範囲ごとに、3箇所以上から採取する
- 採った3個はそれぞれ別の密閉容器に入れ、3個をまとめて1試料として扱う
- 吹付け材で色や質感に違いがあれば、別の施工部位としてそれぞれ3箇所ずつ採取する
吹付け材には施工面積による目安もあります。3,000㎡未満なら施工部位全体から3箇所以上。3,000㎡以上なら600㎡ごとに1箇所で、1箇所あたり10cm³程度を採取するとされています。
たとえば、1970年代の工場の機械室に吹付け材があり、天井面は灰色、壁面は少し茶色がかっていたとします。この場合は別々の施工部位とみなし、天井から3箇所、壁から3箇所、合わせて6箇所を採ることになります。
見えない場所は「見えなかった」と書いて残す
実務でよく困るのが、天井裏の奥、パイプスペースの中、壁の内部など、壊さないと確認できない部分です。ここは次のように扱います。
まず、調査できなかった箇所を現場メモに書き、発注者に事前に報告します。そのうえで、解体が始まって目で見られるようになった段階で、改めて調査します。そこで新たに石綿含有建材が見つかったら、作業をいったん止めて、届出をやり直す必要があります。
電気設備の実務で言えば、天井裏の配線ルートや壁の中のスリーブ周りがまさにこれです。たとえば築40年の事務所ビルで、点検口からは天井裏の一部しか覗けなかったとします。この場合「東側の天井裏は点検口がなく未確認」と記録に残し、発注者に伝えておきます。
「解体してみたら想定外の建材が出てきた」は、工程にも予算にも響きます。どこが未確認なのかを関係者で共有しておくことが、後のトラブルを防ぎます。
分析しないで「入っている」ことにしてしまっていいんですか?
いいんです。ただし、あるものとして工事をする覚悟とセットです。
「みなし判定」なら分析を省略できる
現地調査で判断がつかない場合、必ず分析に出さなければならないわけではありません。その建材を「石綿含有あり」とみなして扱えば、分析調査は省略できます。これをみなし判定(調べずに「石綿が入っている」ものとして扱うこと)と言います。
これは実務でとても大事な選択肢です。分析には費用も日数もかかります。「どうせ除去するのだから、含有ありとして厳しい措置を取るほうが早い」という判断が合理的な場面は少なくありません。
特に吹付け材については、石綿等が使用されているものとみなして労働安全衛生法令に基づく措置を講じれば、分析による調査は不要とされています。
一方で、みなし判定を選ぶと、以降の作業はすべて石綿含有建材としての厳しい措置が必要になります。隔離、作業主任者の選任、保護具などです。当然、工事費は上がります。
たとえば、築40年の事務所ビルで撤去する天井板がわずか2㎡だとします。分析に出せば費用も日数もかかりますが、含有ありとみなしても措置の規模はそれほど大きくならない。こういう場合はみなし判定が合理的です。逆に対象範囲が広ければ、分析して「なし」と出たときの節約額のほうが大きくなります。分析費用と措置費用の見合いで決めることになります。
STEP 3:分析は「入っているか」と「どれくらいか」の2種類
分析に出す場合、日本ではJIS A 1481(石綿の分析方法を定めた日本の規格群)に沿った方法が使われます。
図2:石綿の分析方法(JIS A 1481規格群)事前調査でまず使うのは、定性分析(石綿が「入っているか、いないか」だけを調べる分析)です。定性分析には次の2つの方法があります。
JIS A 1481-1(偏光顕微鏡法) は、実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使う方法です。繊維の形や色、複屈折、消光角といった光学的な特性から判定します。層ごとに分けて分析できること、天然鉱物の中の石綿にも使えること、比較的短時間で結果が出ることが利点です。一方で、判定が分析者の経験と知識に左右されやすい面があります。
JIS A 1481-2(X線回折分析法+位相差・分散顕微鏡法) は、X線回折装置と分散染色法を組み合わせる方法です。色の変化で判定するため、分析者の技量に左右されにくいのが利点です。反面、層ごとの分析はできず、対象は建材製品に限られます。またX線回折のピークが似ている鉱物がある、という課題も指摘されています。
たとえば、築40年の事務所ビルの天井板が、表面の仕上げ材と下地のボードの2層になっていたとします。「どちらの層に石綿が入っているのか」まで知りたいなら、層ごとに分析できる1481-1が向いています。
含有が確認されて、さらに「どれくらい入っているか」を知る必要がある場合は、JIS A 1481-3(X線回折定量分析法) による定量分析(石綿が「どれくらい入っているか」を数値で測る分析)に進みます。このほかJIS A 1481-4、1481-5という定量分析の規格もあります。
どの方法を使うかは分析機関によって扱いが違います。依頼するときに確認しておくとよいでしょう。
調査が終わったあと、やることが3つ残っている
結果が出て終わり、ではありません。次の3つが法令上の義務として続きます。
図3:調査後に必要な3つの対応1. 発注者への説明——調査結果を書面で発注者に説明します。
2. 現場への掲示——工事現場の見やすい場所に、事前調査の概要を掲示します。掲示板はA3サイズ以上が必要です。あわせて「関係者以外立入禁止」「喫煙・飲食禁止」の掲示も求められます。
3. 記録の保存——調査記録を、調査を終了した日から3年間保存します。記録に入れる主な事項は次のとおりです。事業者の情報、作業場所、工事名、調査を終了した日、対象建築物の着工日、調査した部分と方法、材料ごとの石綿使用の有無とその判断根拠、目視が難しかった材料の有無です。
このうち判断根拠の記載は、見落とされがちですが重要です。「石綿なし」と書くだけでは足りません。なぜそう判断したのかまで残す必要があります。
たとえば、先ほどの2010年築のテナントビルなら「着工日が2006年9月1日以後(2009年12月着工、竣工図により確認)」と書きます。分析した現場なら「JIS A 1481-1による定性分析で不検出」と書きます。報告書を受け取る側も、ここが書かれているかを確認してください。
電気設備の現場で、この流れが効いてくる3つの場面
最後に、電気設備の実務者としてこの調査フローが関わってくる典型的な場面を挙げます。
天井裏の配線改修では、天井材そのもの(けい酸カルシウム板や岩綿吸音板など。どちらも軽くて燃えにくい板材です)が石綿含有建材の可能性があります。点検口を開けて中に入るだけなら建材を傷めませんが、既存天井を一部撤去するなら対象です。たとえば築40年の事務所ビルで、配線ルートを変えるため天井板を50cm四方だけ切り取る。その瞬間に事前調査が必要な工事になります。
分電盤やキュービクルの更新では、盤の裏板、壁の下地材、貫通部の充填材が該当し得ます。特に古い建物の盤裏に使われている絶縁板は要注意です。
貫通部の充填材や耐火材も、意外と見落とされます。改修で新たに貫通を設ける、既存の貫通部を広げる。こうした作業では、周りの建材を壊すことになります。
いずれの場合も「電気工事だから建築の話は関係ない」とはなりません。ここが今回いちばんお伝えしたい点です。
調査が終わったら、報告して終わりですね。
あと2つ残っています。現場への掲示と、3年間の記録保存です。
まとめ
- 事前調査は書面→現地→分析の順に進むが、途中で結論が出れば以降は不要
- 2006年9月1日以後に着工した建築物は、原則「石綿含有なし」と判断できる(改修履歴の確認は必要)
- 事前調査は書面確認と目視確認の両方が必須で、図面だけで済ませることはできない
- 試料は同一建材の範囲ごとに3箇所以上から採取し、3個で1試料として扱う
- 破壊しないと確認できない箇所は、未確認であることを明記して発注者に報告し、解体着手後に改めて調査する
- 判断がつかない場合は「石綿含有あり」とみなして分析を省略できる。分析費用と措置費用の見合いで判断する
- 分析は定性がJIS A 1481-1または-2、定量がJIS A 1481-3など
- 調査後は、発注者への書面説明・現場への掲示・記録の3年間保存が義務
次回は、電気設備工事とアスベストの関わりをさらに掘り下げ、盤交換や配線改修の現場で具体的に何に気をつけるべきかを解説します。
- アスベスト調査とは?なぜ今すべての工事関係者に必要なのか
- アスベスト調査の法改正は4段階で進んできた
- その資格でその建物、調べられますか?調査者の3区分と選び方
- 事前調査は3ステップ|どこで終われて、どこから分析が必要か(この記事)
- 電気工事のどこで石綿に当たる?盤更新・配線改修の勘所
- 報告システムの使い方|「報告」と「届出」は別物です
- 調査を怠るとどうなる?罰則と、罰金より怖いこと
あわせて読みたい:PCB廃棄物の連載(全6回)
※法令情報および分析方法の内容は執筆時点(2026年8月)のものです。実際の調査・分析にあたっては、最新の官公庁情報および分析機関の案内をご確認ください。





