盤や受変電設備の点検、海外製の機器の注意ラベルに出てくる「アークフラッシュ」。用語集では一言で説明されますが、感電と何が違うのか、どのくらい離れればよいのか、どう防ぐのかまでは分かりにくい言葉です。この記事は、この3つだけにしぼって説明します。

ペン太ペン太
盤の点検の注意書きに「アークフラッシュ注意」ってありました。感電とは違うんですか?
ハリタハリタ
違うんだ。ショートしたとき空気中に電気が飛んで、光と熱が爆発みたいに出る現象だよ。
はじめての方へ:まず言葉の意味
盤の中で工具の落下などでショートが起きると、強い光と熱が爆発するように出て近くにいるだけで大やけどを負うので、止めて作業し、離れ、防護具で守る、というアークフラッシュの考え方を3コマで示す動く図解
ひとことで言うと
「アークフラッシュ」は、ショートしたとき空気中に電気が飛んで、強い光・熱・爆風が一瞬で出る現象です。近くにいるだけで大やけどを負うことがあります。
読み方
アークフラッシュ/アークせんらく
どこで出てくる?
盤や受変電設備の点検の安全書類、海外の機器の注意ラベル、通電中の作業の計画、電気安全の講習。

結論

アークフラッシュは、ショートしたとき空気中に電気が飛び、光・熱・爆風が一瞬で出る現象です。触れていなくても被害を受けます。受けるエネルギーが1.2 cal/cm²になる距離がアークフラッシュ境界で、エネルギーは電流・時間・距離で決まります。防ぐには、止めて作業することが第一です。

  • 光・熱・爆風・音や飛散物で、近くにいるだけで危険
  • 境界は1.2 cal/cm²(素肌に2度のやけどが起き始める目安)
  • 電流が大きく、切れるまでが長く、距離が近いほど危ない
  • 止める→早く切る→離れる→防護具の順に考える
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。

この記事に出てくる言葉

読む前に、意味をざっと押さえておくと分かりやすくなります。

言葉 読み方 やさしい説明
アーク ― 空気など、電気を通しにくいものの中を電気が飛ぶこと。強い光と熱を出す。
短絡(ショート) たんらく 電線どうしが、器具を通らずに直接つながってしまうこと。
母線 ぼせん 盤の中で電気を分ける、太い金属の板や棒。
入射エネルギー にゅうしゃエネルギー アークから体に届く熱の量。cal/cm²(カロリー毎平方センチメートル)で表す。
アークフラッシュ境界 ― 受けるエネルギーが1.2 cal/cm²になる距離。この内側では防護具が必要。
遮断時間 しゃだんじかん 事故が起きてから、遮断器が電気を切るまでの時間。
防護具(PPE) ぼうごぐ 体を守るための服・顔面シールド・手袋など。
NFPA 70E ― アメリカの電気安全の規格。アークフラッシュの考え方が決められている。
先に理解しておきたいこと

「アークフラッシュ」を理解するために、土台になる考え方を3つだけ押さえておきましょう。

1

ショートすると、とても大きな電流が流れる

ショートすると、数千〜数万Aの電流が流れます。その電流が空気中を飛ぶと、アークになり、まわりの金属まで溶かすほどの熱を出します。

2

熱は、まわりへ一瞬で広がる

アークの熱と光は、まわりへ一瞬で広がり、空気が急にふくらんで爆風になります。電気に触れていなくても、近くにいる人に届きます。

3

エネルギーは「電流×時間」と「距離」で決まる

電流が大きく、切れるまでの時間が長いほど、出るエネルギーは大きくなります。そして、アークから近いほど、体が受けるエネルギーは大きくなります。

何が起きる? ― 光・熱・爆風が一瞬で

ペン太ペン太
触らなければ、大丈夫なんじゃないですか?
ハリタハリタ
それが怖いところさ。近くにいるだけで、熱や爆風で大やけどをすることがあるんだ。

盤の中で工具を落としたり、誤った操作をしたりしてショートが起きると、母線のあいだの空気中に電気が飛び、アークができます。アークは強い光と熱を出し、まわりの空気が急にふくらんで爆風になります。これがアークフラッシュです。

光目を傷める
熱一瞬で大やけど
爆風吹き飛ばす
きっかけ工具の落下・誤操作など

感電は、体が電気の通り道になったときに起きます。アークフラッシュは、空気中のアークの熱・光・爆風で被害を受けるので、触れていなくても、近くにいるだけで危険です。溶けた金属が飛び散ったり、大きな音で耳を傷めたりすることもあります。

たとえるなら
アークフラッシュは、目の前で起きる「小さな雷」
雷は、空気の中を電気が飛ぶときに、まぶしい光と大きな音、強い熱を出します。アークフラッシュは、それが盤の中という目の前で起きるようなものです。触れていなくても、近くにいるだけで危険です。
ここに注意!
「電気に触れなければ安全」ではありません。
アークフラッシュは、触れていなくても、熱・光・爆風で被害を受けます。盤の扉を開けて作業するときは、触れるつもりがなくても、アークの危険がある場所にいると考えます。
ここまでのポイント
  • ショートで空気中に電気が飛び、アークができる
  • 光・熱・爆風・音や飛散物が一瞬で出る
  • 触れていなくても、近くにいるだけで危険

どのくらい離れればよい? ― アークフラッシュ境界

ペン太ペン太
どのくらい離れていれば安全なんですか?
ハリタハリタ
受けるエネルギーが1.2 cal/cm²になる距離が境界だよ。電流と、切れるまでの時間で変わるんだ。

アークから体に届く熱の量を入射エネルギーといい、cal/cm²で表します。アメリカの電気安全の規格NFPA 70Eでは、入射エネルギーが1.2 cal/cm²になる距離をアークフラッシュ境界とし、その内側に入るときはアーク対応の防護具を着ることにしています。1.2 cal/cm²は、素肌に2度のやけどが起き始める目安です。

境界1.2 cal/cm²の距離
電流大きいほど危ない
時間長いほど危ない
距離近いほど危ない
決めるもの 危なくなる向き たとえば
短絡電流 大きいほど危ない 大きな変圧器の近くの盤
切れるまでの時間 長いほど危ない 上位の遮断器で切るまで時間がかかる場所
アークからの距離 近いほど危ない 盤の扉を開けて、のぞきこむ作業

短絡電流の大きさは%インピーダンスで計算できます。実際の境界の距離は、設備の電圧・短絡電流・遮断時間・盤の形などから、計算(IEEE 1584など)で求めます。

たとえるなら
距離は、たき火から離れるのと同じ
たき火に顔を近づけると熱いですが、少し離れるだけでずいぶん楽になりますよね。アークの熱も、距離が近いほど急に大きくなります。少し離れるだけで、受けるエネルギーは大きく減ります。
ここに注意!
「遮断器があるから、すぐ切れるので大丈夫」とは限りません。
受けるエネルギーは、切れるまでの時間に比例して大きくなります。上位の遮断器で切るまで時間がかかる場所では、短絡電流が大きくなくても、エネルギーが大きくなることがあります。
ここまでのポイント
  • 境界は、受けるエネルギーが1.2 cal/cm²になる距離
  • エネルギーは電流・時間・距離で決まる
  • 境界の内側では、アーク対応の防護具が必要


どう防ぐ? ― 止める・早く切る・離れる・守る

ペン太ペン太
防護服を着れば大丈夫ですか?
ハリタハリタ
まずは止めて作業することが一番さ。防護具は、ほかの手をつくしたあとの最後の守りなんだ。

アークフラッシュの対策は、効きめの大きい順に考えます。いちばん確実なのは、止めてから作業することです。

1止めて作業
2早く切る
3離れる
4防護具
防護具のカテゴリ アーク定格(以上) 主な装備
1 4 cal/cm² アーク対応の長そで・ズボン、顔面シールド、手袋
2 8 cal/cm² 上記+頭まで守るフード(バラクラバ)
3 25 cal/cm² 多層のアークフラッシュスーツ・フード
4 40 cal/cm² 多層のアークフラッシュスーツ・フード(最上位)

止めて作業するときの手順は【ロックアウト・タグアウト】、近づいてよい距離の考え方は【接触防護措置】で説明しています。防護具のカテゴリは、NFPA 70Eの表にもとづく値です。

ここに注意!
「防護服を着れば、通電中でも作業してよい」ではありません。
防護具は最後の守りです。まずは止めて作業することを考えます。エネルギーが40 cal/cm²を超える場所では、防護具では守れないとされ、通電中の作業はしません。
ここまでのポイント
  • いちばんは、止めてから作業する
  • 早く切る・離れて操作するで、エネルギーを減らす
  • 防護具は最後の守り。40 cal/cm²を超えたら止める

まとめ|結論

結論

アークフラッシュは、ショートしたとき空気中に電気が飛び、光・熱・爆風が一瞬で出る現象で、近くにいるだけで危険です。受けるエネルギーは電流・時間・距離で決まり、1.2 cal/cm²になる距離が境界です。止めて作業する、早く切る、離れる、防護具で守る、の順に対策します。

盤の扉を開ける作業の前に、この順で確かめます。

  1. 止めて作業できないか(ロックアウト・タグアウト)
  2. その盤の短絡電流と、上位の遮断器が切れるまでの時間
  3. 遠隔操作や、作業距離をとる工夫ができないか
  4. 必要なカテゴリの防護具がそろっているか


よくある質問

アークフラッシュとは何ですか?

盤の中などでショートが起きたとき、空気中に電気が飛んで(アーク)、強い光・熱・爆風・音が一瞬で出る現象です。触れていなくても、近くにいるだけで大やけどを負うことがあります。

感電とは、何が違いますか?

感電は、体が電気の通り道になることで起きます。アークフラッシュは、空気中で起きるアークの熱や光、爆風で被害を受けるので、電気に触れていなくても、近くにいるだけで危険です。

アークフラッシュ境界とは何ですか?

アークから受ける熱のエネルギー(入射エネルギー)が1.2 cal/cm²になる距離です。素肌に2度のやけどが起き始める目安で、その内側に入るときはアーク対応の防護具が必要です(アメリカの規格NFPA 70E)。

受けるエネルギーは、何で決まりますか?

短絡電流の大きさ、電気が切れるまでの時間、アークからの距離などで決まります。電流が大きいほど、切れるまでが長いほど、距離が近いほど、エネルギーは大きくなります。

防ぐには、どうすればよいですか?

まず止めてから作業すること(停電作業・ロックアウト・タグアウト)です。そのうえで、保護継電器や遮断器を早く動くようにする、遠隔操作で離れる、アーク対応の防護具を着る、の順に考えます。

次に読むならこれ【電圧不平衡】電圧不平衡率の計算とは?モーターが熱くなる理由・目安の1%と5%・原因と対策電気設計の解説
ABOUT ME
HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。