「独立して3年目なんですけど、税金が高くて……。みんなどうしてるんですか?」

独立したペン太くんが浮かない顔をしています。

会社員のときは、厚生年金も退職金も会社が用意してくれていました。ところが一人親方になると、「老後の備え」も「節税」も全部自分で組み立てる必要があります。

ここで知っておきたいのが、国が用意している制度の存在です。実は一人親方が使える節税+資産形成の制度は、けっこうそろっています。しかも建設業には建退共という業界固有の制度まであります。

この記事では、電気工事に関わる一人親方・個人事業主が使える制度を6つ整理しました。

注意点

税金の取扱いは、所得の額・家族構成・事業の形態によって結論が変わります。この記事は制度の全体像をつかむためのものです。実際の判断は必ず税理士にご相談ください。


💰まず結論|所得控除だけで年174万円の枠がある

細かい話に入る前に、全体像を数字で見ておきましょう。

制度 年間の上限 税制上の扱い
iDeCo(第1号被保険者) 年90万円(月7.5万円)※2026年12月〜 所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
小規模企業共済 年84万円(月7万円) 所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
経営セーフティ共済 年240万円(累計800万円まで) 必要経費
建退共 就労日数×320円 一人親方の自己負担分は必要経費にならない(後述)
付加年金 年4,800円(月400円) 社会保険料控除
NISA 年360万円(生涯1,800万円) 所得控除なし・運用益が非課税

所得控除だけで、iDeCo 90万円+小規模企業共済 84万円=年174万円(2026年12月以降)。

ポイント!

現行(2026年11月まで)は 81.6万円+84万円=年165.6万円です。2026年12月にiDeCoの枠が広がることで、8.4万円分だけ枠が増えます。

もちろん全額を積むかどうかは資金繰り次第ですが、「これだけの枠がある」ことを知らずに使っていないのはもったいない話です。


iDeCoと小規模企業共済による所得控除枠が165.6万円から174万円へ広がることを示した積み上げ棒グラフ
図1:一人親方が使える所得控除の枠

🏦①iDeCo|2026年12月に枠が月6.8万円→7.5万円へ

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で積み立てて自分で運用する年金です。一人親方にとっての最大の魅力は、掛金が全額所得控除になること。

2026年12月1日から拠出限度額が上がります

2025年の年金制度改正法により、2026年12月1日から限度額が引き上げられます。

区分 現行(〜2026年11月) 2026年12月1日〜
第1号被保険者(一人親方・個人事業主) 月6.8万円 月7.5万円
第2号・企業年金なし(会社員) 月2.3万円 月6.2万円
第2号・企業年金あり(会社員) 月2.0万円 月6.2万円(企業年金の掛金と合算)
第3号被保険者 月2.3万円 月2.3万円(変更なし)

会社員の枠が大きく広がるのも注目点です。サブコンにお勤めの方は、この改正の影響を直接受けます。

加入できる年齢も65歳未満→70歳未満へ

同じ2026年12月1日から、加入可能年齢が65歳未満から70歳未満に引き上げられます。対象は、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金をまだ受け取っていない方などです。

「60代でも現場に出ている」という電気工事の世界では、実務的な意味の大きい改正です。

注意点|国民年金基金・付加年金と「合算枠」です

一人親方(第1号被保険者)のiDeCo枠は、国民年金基金の掛金・付加保険料と合わせて月7.5万円です。iDeCo単独で7.5万円ではありません。国民年金基金に入っている方は、その分だけiDeCoの枠が減ります。ここは間違えやすいポイントです。

実務上は、2026年12月分の掛金から新しい限度額が適用される見込みです(具体的な変更手続きは、加入している運営管理機関からの案内をご確認ください)。


🏢②小規模企業共済|建設業は「従業員20人以下」で加入できる

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者のための「退職金制度」です。中小機構が運営しています。

掛金と加入資格

  • 掛金:月額1,000円〜70,000円(500円単位で設定)
  • 税制:全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
  • 加入資格:建設業・製造業・運輸業・不動産業などは常時使用する従業員20人以下

ポイント!

「常時使用する従業員」には、家族従業員・パート・アルバイト・共同経営者は含まれません。一人親方の方はまず問題なく加入できます。

受け取り方で税金の扱いが変わります

受け取り方 税制上の扱い
一括受取 退職所得
分割受取 公的年金等の雑所得
任意解約 一時所得

退職所得はほかの所得と分けて計算され、退職所得控除も使えるため、税負担が軽くなります。掛けるときに所得控除、受け取るときも退職所得という、非常に有利な設計です。

注意点|20年未満の任意解約は元本割れします

任意解約の場合、掛金納付月数が240か月(20年)未満だと解約手当金が掛金合計を下回ります。また共済金A・Bは納付6か月以上、準共済金・解約手当金は12か月以上が支給の条件です。

「とりあえず満額で始めて、苦しくなったらやめる」ではなく、長く続けられる金額から始めるのが鉄則です。掛金の減額はいつでもできます。


🛡️③経営セーフティ共済|これは「節税」ではなく課税の繰延べ

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに無担保・無保証人で貸付を受けられる制度です。同じく中小機構が運営しています。

  • 掛金:月額5,000円〜20万円(5,000円単位)
  • 積立限度額:800万円
  • 税制:個人事業主は必要経費、法人は損金に算入

元請の倒産リスクを抱える建設業とは相性のよい制度ですが、税金の面では大きな誤解があります

注意点|「節税」ではありません

経営セーフティ共済の掛金は経費になりますが、解約手当金を受け取るときに収入として計上されます。つまり税金がなくなるのではなく、払うタイミングを後ろにずらしているだけです。

「利益が出すぎた年に積んで、赤字の年や設備投資の年に解約する」というように、受け取る年をコントロールできて初めて意味がある制度です。

もうひとつ、2024年に入った重要な改正があります。

注意点|解約→再加入の「2年ルール」(2024年10月〜)

2024年10月1日以降にいったん共済契約を解約し、再び加入した場合、その解約の日から2年を経過する日までに支出する掛金は、必要経費・損金に算入できません

「800万円まで積んだら解約して、また積み直す」という使い方が封じられた形です。なお、これは再加入した場合の話であって、解約しただけで2年間何もかも経費にできなくなるという意味ではありません。


🏗️④建退共|建設業だけの制度。一人親方は任意組合経由で

建退共(建設業退職金共済)は、建設現場で働く人のための退職金制度です。これは建設業の人だけが使える制度で、電気工事もその対象です。

しくみ

  • 掛金日額:320円(令和3年10月1日以降の加入分)
  • 21日分=1か月として換算
  • 退職金の請求は、掛金納付月数12か月以上から
  • 税制:事業主が「従業員」のために納める掛金は、法人なら損金、個人事業主なら必要経費

現場で働いた日数分だけ事業主が掛金を納め、その人が建設業界をやめるときに退職金として受け取れる、というしくみです。会社が変わっても掛金が通算されるのが最大の特徴で、現場を渡り歩くことの多い業界の実情に合った制度になっています。

一人親方はどうやって入るのか

一人親方は「事業主」なので、そのままでは加入できません。一人親方が集まって任意組合をつくり、建退共がその規約を認定すれば、組合を事業主とみなして加入できるというルートになります。実務的には、全建総連の加盟組合などを経由するのが一般的です。

注意点|一人親方が自分で負担した掛金は経費になりません

ここは間違えやすい、かつ影響の大きいところです。建退共事業本部は、一人親方が任意組合を通じて掛金を自己負担した場合について、次のように明記しています。

「掛金は自ら負担することとなりますが、事業主が自分に掛けたものとして、必要経費とはなりません

つまり建退共は、一人親方にとっては「節税になる制度」ではなく「退職金を確実に積む制度」です。節税を狙うなら小規模企業共済やiDeCo、退職金の上乗せと経審の加点を狙うなら建退共、という使い分けになります。

ポイント!

建退共は公共工事の経営事項審査(経審)で加点評価の対象になります。公共工事に関わる方には、退職金とは別のメリットがあります。

なお納付方法は、電子申請方式(退職金ポイント)が推進されており、従来の共済証紙貼付方式と併用されています。これから加入する方は電子申請が前提と考えておくとよいでしょう。


📮⑤付加年金|月400円で2年で元が取れる

地味ですが、費用対効果でいえばこの記事でいちばん優秀な制度かもしれません。

付加年金は、国民年金保険料に月400円を上乗せして納めると、老齢基礎年金に「200円×納付月数」が年額として一生加算される制度です。

たとえば40年(480か月)納めた場合:

  • 支払う総額:400円×480か月=192,000円
  • もらえる年額:200円×480か月=96,000円

2年受け取れば元が取れます。しかも終身でもらえるので、長生きするほど有利です。掛金は社会保険料控除の対象にもなります。

注意点|国民年金基金とは併用できません

国民年金基金に加入している方、保険料の免除を受けている方は付加保険料を納付できません。また、申し出た月からの開始で、さかのぼって納めることはできません。思い立ったら早めに市区町村の窓口へ、というタイプの制度です。


📈⑥NISA|所得控除はないが、運用益が非課税

NISAは、投資で得た利益に税金がかからない制度です。通常なら運用益に約20%の税金がかかるところ、NISA口座なら非課税になります。

項目 つみたて投資枠 成長投資枠
年間の投資上限 120万円 240万円
併用したときの合計 年360万円
生涯の非課税保有限度額 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
非課税で保有できる期間 無期限 無期限

売却した分の枠は、翌年以降に「買ったときの金額(簿価)」の分だけ復活して再利用できます。

ここまで紹介した制度との違いは明確です。

ポイント!iDeCo・小規模企業共済とNISAの決定的な違い

iDeCo・小規模企業共済:掛けた年の所得税・住民税が減る(所得控除)。ただし原則60歳まで引き出せない

NISA:所得控除はない。ただしいつでも引き出せる

一人親方は収入の波が大きく、資金の流動性が生命線です。「所得控除は魅力だが、全部iDeCoに入れると現金が足りなくなる」という事態は避けなければいけません。順番としては、まず生活防衛資金を現金で確保し、次に無理のない範囲でiDeCo・小規模企業共済、そのうえで余力をNISA、という組み立てが基本になります。


iDeCo・小規模企業共済・経営セーフティ共済・NISA・建退共を税メリットと流動性で配置した図
図2:制度ごとの税メリットと流動性

⚠️60歳前後の受け取り方には要注意|2026年施行の「10年ルール」

ここはすでに制度が変わっているところなので、特に注意してください。

従来、「60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で退職金を受け取る」という順番にすると、両方で退職所得控除をフルに使えるという有名な手法がありました。いわゆる「5年ルール」です。

これが2025年度の税制改正で見直され、iDeCoの一時金を先に受け取ってから退職金を受け取る場合、調整の対象期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延びました。つまり、両方でフルに控除を使うには10年以上あける必要があります。

注意点|適用されるのは「いつ受け取ったか」で決まります

この改正は、2026年1月1日以後に老齢一時金を受け取り、かつ同日以後に支払われる退職手当等から適用されます。

つまり、2025年12月31日までにiDeCoの一時金を受け取った方は、従来の4年ルールのままです。

なお、退職金を先に受け取ってから、あとでiDeCoの一時金を受け取るという逆の順番は「前年以前19年内」で、今回の改正では変わっていません。

60代が近い方は、受け取りの順番と時期を必ず一度見直してください。ここは金額のインパクトが大きい部分です。


🚫中退共は「本人」は入れません

最後に、よくある誤解をひとつ。

中小企業退職金共済(中退共)は、従業員のための制度です。個人事業主本人や役員は加入できません。

一人で働いているうちは関係ありませんが、人を雇い始めたときに検討する制度です。新規加入時には掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を国が1年間助成する制度もあります。


✅まとめ

  • 一人親方が使える所得控除の枠は、2026年12月以降で年174万円(iDeCo 90万円+小規模企業共済 84万円)
  • iDeCoは2026年12月1日から月6.8万円→7.5万円へ。加入可能年齢も70歳未満に。ただし国民年金基金・付加年金との合算枠である点に注意
  • 小規模企業共済は建設業なら従業員20人以下で加入可。受け取りが退職所得になるのが強み。ただし20年未満の任意解約は元本割れ
  • 経営セーフティ共済は節税ではなく課税の繰延べ。2024年10月以降、解約→再加入した場合の2年ルールにも注意
  • 建退共は建設業固有の制度。一人親方は任意組合経由で加入でき、経審の加点にもなる。ただし自己負担した掛金は必要経費にならないので、節税制度ではなく「退職金を積む制度」と考える
  • 付加年金は月400円で2年で元が取れるが、国民年金基金とは併用不可
  • NISAは所得控除がない代わりに、いつでも引き出せる。収入の波が大きい一人親方には流動性の確保が最優先
  • 60歳前後の受け取り順は要注意。2026年1月1日以後に受け取る場合、iDeCo一時金→退職金の間隔は10年必要に

制度は「知っているかどうか」だけで結果が変わります。まずは自分がどの枠をいくつ持っているのかを把握するところから始めてみてください。


🔗あわせて読みたい

電気設備の「稼ぎ」を数字で見る

制度改正をもっと詳しく

業界を外側から見る


⚠️免責事項

本記事は制度の概要を解説することを目的とした情報提供であり、特定の金融商品の購入や、特定の税務処理を推奨するものではありません

税金の取扱いは、所得の額・家族構成・事業形態・他の所得控除の状況などによって結論が変わります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

記載の制度・金額は2026年7月30日時点で公表されている情報にもとづいています。制度は改正される可能性があるほか、施行日以降に細目が示される場合もあります。最新の情報は各制度の公式サイトでご確認ください。

当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業には該当しません。

参考にした主な情報源