【弱電設備の設計マニュアル④】テレビ共聴 ― 分配・分岐とレベル設計
こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」第4回はテレビ共聴。第3回でLANと電話が終わりました。今回はアンテナで受けた電波を、どうやって各戸まで届けるかという話です。
共聴の設計は、他の弱電設備と考え方がまったく違います。LANを決めたのが「距離」だったのに対して、共聴を決めるのはレベルです。今回の合言葉は「共聴は“引き算”で決まる」。
今回の全体像 ― 共聴は引き算でできている
共聴設備の設計は、突き詰めると足し算と引き算だけです。アンテナで受けた電波をブースターで増幅し、幹線を通し、分配器で分け、分岐器で各階へ落とし、住戸内の直列ユニットを経て、最後にテレビ端子へ出る。この経路のあいだ、信号は減り続けます。
ですから設計はこの順番で進みます。まずゴール(端子で必要なレベル)を決める。次に経路で失われる量を積み上げる。最後に入口(ブースターの出力)がいくつ必要かを逆算する。この順番を崩さないことが大事です。
もうひとつ、共聴に特有の注意点があります。下限だけでなく上限も見なければならないということ。強すぎる信号はテレビの受信回路を飽和させ、かえって映らなくなります。最遠端で下限を、最短端で上限を、両方チェックするのが共聴設計です。
① 端子で何dB必要か ― ゴールを先に決める
テレビ端子で確保すべきレベルは、放送の種類ごとに決まっています。JEITAの「受信システム計算事例集」が示す望ましい値では、地上デジタルが50〜81dBμV、衛星(2K)が52〜81dBμV、4K8K衛星が54〜81dBμV。総務省の施工ガイドラインは、これとは別に全テレビ端子で54dBμV以上を求めています。
注目してほしいのは、4K8Kがいちばん範囲が狭いことです。上限は同じ81dBμVなのに、下限だけが54dBμVまで上がっている。つまり4K8Kまで通す設備は、他の放送より余裕が4dB少ない状態で設計することになります。
あわせてC/Nも規定されています。レベルが足りていても、C/Nが確保できていなければ映りません。「レベルは出ているのにブロックノイズが出る」という現場は、たいていC/N側の問題です。レベル計とあわせてMERを見ると原因が絞れます。目安としてはMER25dB以上が良好、20dBを下回ると安定した受信は期待できません。
② 引き算の中身 ― 分配・分岐・ケーブルで何dB減るか
損失の主役は分配器です。2分配で約4dB、4分配で約8dB、8分配になると10dBを超える。分配数を倍にするたびに、おおよそ3dBずつ増えていきます。分岐器の場合は、その階へ落とす結合損失と、幹線をそのまま通過する挿入損失の2つを別々に数えます。
そしてここが4K8Kの本題です。同じ機器でも、周波数が高くなると損失は大きくなります。8分配器は770MHz帯で約12.5dBのところ、3224MHzでは約20〜21.5dB。S-5C-FBは100mあたり19.2dBが45.9dBになります。分配で約1.7倍、ケーブルで約2.4倍。4K8K対応の改修が「機器を替えるだけ」では済まない理由がここにあります。
実際に数字を並べてみます。幹線S-7C-FBを40m、8分配、住戸内S-5C-FBを15m、端末型の直列ユニットという同じ経路で、帯域だけを変えて計算したものです。
地デジ側は72.0dBμVで余裕があるのに、4K8K側は54.6dBμVで下限ぎりぎり。同じ経路なのに余裕が17dBも違います。共聴のレベル設計をいちばん高い帯域で行うのは、このためです。地デジで成立していても、4K8Kでは成立しないことが普通に起こります。
逆に、上限側も忘れないでください。ブースター直下の住戸や、分配数の少ない系統では81dBμVを超えてしまうことがあります。その場合はレベルを下げる、つまりアッテネーター(減衰器)を入れるのが正解です。「強いぶんには問題ない」は誤りです。
③ ブースターは「上げる装置」であって「良くする装置」ではない
よくある誤解を先に潰しておきます。ブースターはC/Nを改善しません。信号と一緒に雑音も増幅するからです。JEITAの計算例でも、ブースターの有無でC/Nは0.4dB程度しか変わりません。受信状態が悪いところにブースターを足しても、悪いまま大きくなるだけです。C/Nを稼ぎたいなら、アンテナの向きや利得、設置位置で解決するしかありません。
だから設置位置はできるだけアンテナに近い側が基本になります。入力レベルが高いうちに増幅したほうが、雑音の影響を受けにくいからです。
もうひとつ、多段にするときの落とし穴があります。ブースターを2台縦続きにする場合、2台とも定格出力いっぱいで使うことはできません。歪み(相互変調)が重なるためで、運用レベルは「定格出力 − 10log(台数)」が目安になります。定格110dBμVのブースター2台なら、それぞれ107dBμV程度に抑える。相互変調は運用レベルが1dB変わると2dB変化するので、少し欲張っただけで一気に悪化します。
なお2024年3月にCS左旋の放送が終わったため、2.5GHz以上に調整用の信号が存在しません。現在はBS ch.1(1049.48MHz)とBS ch.14(2471.82MHz)でレベル調整する手順がメーカーから案内されています。古い手順書のまま最高周波数で合わせようとすると、そもそも信号がなくて調整できません。
④ 右旋・左旋の現在地 ― どこまで対応させるか
新4K8K衛星放送が始まった2018年当時、業界の説明は「左旋に対応しないと4K8Kは見られない」でした。この説明は、いまはもう成り立ちません。
衛星放送は右旋(1032〜2071MHz)と左旋(2224〜3224MHz)に分かれています。左旋が追加されたのは、右旋の帯域に空きがなかったからです。ところが、その左旋から放送が次々に撤退しました。110度CS左旋は2024年3月末に全終了。BS左旋の4Kも2025年4月にゼロになりました。
その結果、いま左旋に残っているのはNHK BS8Kの1チャンネルだけです。しかも右旋側でも、2026年4月にBS-TBSをはじめとする民放系5社が4K放送の終了を発表しています。
設計上の意味は明確です。2150MHz対応の設備でも、現行の4K放送はすべて映ります。3224MHz対応が必要なのは、実質的にBS8Kを見るためだけ。「左旋フル対応」は1チャンネルのための投資という位置づけになりました。新築ならケーブルと機器を3224MHz対応で揃えておくのが無難ですが、改修で費用が跳ね上がるなら、右旋までで割り切る判断は十分に合理的です。発注者にこの状況を説明できるかどうかが、設計者の腕の見せどころだと思います。
左旋を通す場合は電波漏洩の話がついてきます。左旋の周波数帯は携帯・無線LANなどと重なるため、無線設備規則で3mの距離で46.2dBμV/m以下という基準が定められました(2018年4月施行)。JEITAのSHマーク登録品はさらに厳しい40.2dBμV/m以下で、6dBの余裕をとっています。
施工面では総務省のガイドラインが具体的です。手ひねり接続の禁止、C15形(F型)コネクタの使用、空き端子へのダミー抵抗の取付け、1重シールドケーブルの室内使用禁止、ブースターと他の無線設備を概ね10m以上離す。どれも「昔はこれで通っていた」施工が引っかかる項目です。
⑤ 受信方法と工事区分 ― どこまでが建物側か
電波をどう受けるかは3通りあります。自主アンテナ、ケーブルテレビ(CATV)の引込、光テレビ。設計で効いてくるのは、性能よりも工事区分と機器スペースです。
光テレビの場合、V-ONUまでが事業者、そこから先のブースター・分配器・同軸が建物側という切り分けが一般的です。V-ONUの設置場所と電源はオーナー負担になるので、EPSかMDF室に電源付きのスペースを確保しておく必要があります。ここを図面に落とし忘れると、竣工間際に置き場所がなくて揉めます。
CATVは所有の分界点が保安器である一方、法令上の技術基準はヘッドエンドから受信者端子までかかります。所有と責任の範囲がずれている点は押さえておいてください。なおトランスモジュレーション方式なら、宅内配線が3224MHz非対応でもSTB経由で4K8Kを配信できます。左旋改修を回避する手段として、改修案件では有力な選択肢です。
自主アンテナの場合は屋上の計画が必要です。公共建築工事標準仕様書では、アンテナは強電流電線等から3m以上、UHFアンテナ相互は0.6m以上離すこととされています。マストは建築基準法施行令第87条の風圧力に耐える設計とし、防水(アンカー)と避雷設備との取り合いも忘れずに。
最後に手続きの話をひとつ。引込端子数が501以上なら放送法の登録、51〜500なら届出が必要になる場合があります。ただし同一構内であれば原則不要です。大規模な団地や複数棟の計画では、ここを早めに確認しておくと安心です。
まとめ
- 共聴は引き算の設計。ゴール(端子レベル)を先に決め、経路の損失を積み上げ、ブースター出力を逆算する
- 端子レベルは地デジ50〜81/衛星2K 52〜81/4K8K 54〜81dBμV。施工ガイドラインは全端子54dBμV以上
- 下限と上限の両方を見る。最遠端で下限、最短端で上限。強すぎるならアッテネーターで落とす
- レベルが足りてもC/Nが足りなければ映らない。MERは25dB以上が良好の目安
- 損失は周波数が高いほど大きい。8分配器は770MHz帯12.5dB→3224MHzで約20dB、5C-FBは19.2→45.9dB/100m
- 計算はいちばん高い帯域で行う。地デジで成立しても4K8Kでは成立しないことがある
- ブースターはC/Nを改善しない。アンテナに近い側へ置き、多段時は定格−10log(台数)で運用する
- 左旋に残るのはNHK BS8Kの1chのみ。2150MHz対応でも現行4Kは映る。3224MHz対応の要否は費用対効果で判断する
- 光テレビはV-ONU以降が建物側。設置スペースと電源をEPS/MDF室に確保しておく
よくある質問
Q. 既存の同軸ケーブルは4K8Kで使えますか。
S-5C-FBのような2重シールドのケーブルであれば使えます。ただし3224MHzでの減衰量が大きいので、長さの制約が厳しくなる点に注意してください。1重シールドのケーブル(3C-2V等)は室内では使えません。
Q. ブースターを大きいものに替えれば映りますか。
レベル不足なら効きますが、C/N不足には効きません。ブースターは雑音も一緒に増幅するためです。まずレベル計とMERで、どちらが足りていないのかを切り分けてください。
Q. 4K8K改修でいちばん詰まるのはどこですか。
ブースターの台数と設置スペースです。3224MHz対応にすると損失が増えるため、増幅器の数が倍近くになる例があります。既存の収容箱に収まらず、電源も足りない、という形で行き詰まります。改修を検討するなら、機器の型番より先にスペースと電源を見てください。
Q. 新築では左旋まで対応させるべきですか。
ケーブルと機器を3224MHz対応で揃えるだけなら、追加費用はそれほど大きくありません。迷ったら新築は3224MHz対応で問題ないと思います。判断が要るのは改修側です。
次回予告
第5回は「放送・IP」。館内放送と、インターホンなどの呼び出し。音を届ける設備と、そこにIP化がどう入ってきているかを扱います。
連載のバックナンバー:①全体フローと工事区分/②配管・配線ルート/③LAN・電話
JEITA「受信システム計算事例集 第2.2a版[3224MHz対応版]」/JEITA「新4K8K衛星放送 受信システムハンドブック」/総務省「衛星放送用受信設備の設置に関する施工ガイドライン」/総務省「新4K8K衛星放送に係る受信環境について」/国土交通省「公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)令和7年版」/日本CATV技術協会 JCTEA STD-013
※本文の数値は各資料の代表値です。実際の設計では使用する製品のカタログ値と最新の法令・規格をご確認ください。




