【次世代電力技術の実力 第6回】送電線は間に合うのか|海底直流送電1.5兆円・日本海ルート1年延期の中身
北海道と本州を結ぶ海底直流送電は工事費1.5〜1.8兆円、海底ケーブル総延長800km。だが実施案の提出期限は1年延期され2026年12月26日になった。系統増強6〜7兆円の中身と、設備が完成しても計画どおりの容量が出ない現実を整理する。
ニュースの要点
系統増強の必要投資額
の海底ケーブル総延長
標準工期(運開目標2039年3月)
- この連載で第2回から第5回まで、洋上風力・原子力・蓄電池・データセンターのすべてに「送電線が間に合うか」という同じ制約が出てきた。今回はその本丸を扱う。
- 目玉である北海道〜本州の海底直流送電は、実施案の提出期限が1年延期され2026年12月26日になった。理由として資金調達を含む複数の課題が挙げられている。
- 系統増強は10年から15年かかる事業である。「決まった」という報道と「電気が流れる」までの距離が、他のどの技術より長い。
技術の概要 ── なぜ海を渡すのに「直流」なのか
ひとことで言うと:交流は長い海底ケーブルを渡れない。直流なら渡れる。ただし、両端に「交流と直流を変換する工場のような設備」が必ず要る。
いま計画されている長距離の連系設備は、ほぼすべてが直流である。北海道と本州を結ぶ日本海ルートも、中国と九州を結ぶ関門の新設ルートも、海底部分は直流送電(HVDC)で計画されている。
理由は単純で、交流のケーブルは長くすると電気が流れなくなるからだ。ケーブルは導体と海水(接地)が絶縁体を挟んだ構造で、これは電気的にはコンデンサそのものである。交流を流すと、送りたい電力とは別に、この静電容量を充放電するだけの電流(充電電流)が流れる。長さに比例して増えるため、ある長さを超えると導体の許容電流が充電電流で埋まり、送れる電力がゼロに近づく。
直流には周波数がないので、この充電電流が発生しない。距離の制約が事実上外れる。代わりに、送電端で交流を直流に、受電端で直流を交流に変換する交直変換所が必要になる。
数字で比べる
コストの形も変わる。交流は距離に比例して費用が増えるが、直流は両端の変換所という固定費が最初に乗る。だから短距離では割高で、長くなるほど有利になる。海底800kmという条件は、直流が明確に勝つ領域である。
| 項目 | 交流(AC) | 直流(HVDC) |
|---|---|---|
| 海底での実用距離 | 数十km級が目安 | 数百km以上(計画は約800km) |
| 両端に必要な設備 | 変電所 | 交直変換所(大規模・高額) |
| ケーブル条数 | 三相で3条 | 双極で2条 |
| 潮流の制御 | 網目状に自然に流れる | 指令値で制御できる |
| 周波数の違う地域 | 直接はつなげない | つなげる(周波数変換所と同じ原理) |
| 費用の形 | 距離にほぼ比例 | 両端の固定費が大きく、長距離ほど有利 |
そもそも、何のために増強するのか
系統増強の便益は、抽象的な「脱炭素」ではなく、いま実際に捨てている電気の量で説明できる。再生可能エネルギーの出力制御である。
晴れて風の吹く休日、九州や東北では発電できる電気が需要を超える。域内で吸収できず、他エリアへ送る道もなければ、発電を止めるしかない。2025年度の見通しでは、九州で年間およそ10億kWh、東北で約3.8億kWhが制御対象と見込まれていた。
逆に言えば、連系線を太くすれば、この電気は消費地に届き、その分だけ火力の燃料費が減る。実際、東北東京間連系線の増強では、いわき幹線の併用によって年間およそ52億円の燃料費削減が見込まれるという試算が広域機関の資料に示されている。系統増強の投資判断は、こうした燃料費削減や電源投資の効率化を積み上げた「便益」と、工事費を比べる費用便益評価で行われている。
実用化の現在地 ── 「工事中」「計画策定済み」「まだ決まっていない」
系統増強は一枚岩ではない。同じ「増強」という言葉でも、鉄塔が建っている段階と、誰が事業主体になるかも決まっていない段階では、時間軸がまるで違う。主要な計画を進度順に並べると次のようになる。
工事中 ── 東北東京間連系線(2027年11月)
いま最も進んでいるのが、東北と東京を結ぶ連系線の増強である。相馬双葉幹線を含む2ルート化の工事が進み、2026年5月8日には宮城丸森開閉所の一部使用が始まった。500kV10回線のうち3回線が先行して運用に入り、残りは段階的に運用開始される。全設備の使用開始は2027年11月の予定である。
ここに、この連載で繰り返し出てくる論点が現れる。設備が完成しても、計画どおりの容量が使えるとは限らないということだ。この増強は運用容量を573万kWから1,028万kWへ引き上げる計画だったが、広域機関の2024年末の報告では、2027年11月直後に実現する運用容量は680万〜850万kW程度と見込まれている。2030年度以降に段階的に780万〜910万kWへ改善する見通しとされる。
理由は、計画を立てた時点と電源の状況が変わったことにある。275kV以下の系統に再エネが想定以上に増え、下位系統から500kV系統へ突き上げる潮流が生じて、南相馬変電所などで熱容量の制約に当たる。つまり、幹線を太くしても、その手前の枝が新しいボトルネックになった。
計画策定済み ── 中国九州間連系設備(2039年3月)
関門海峡をまたぐ新たな連系設備は、2025年10月に広域系統整備計画が策定された。海底ケーブルによる直流送電で、単極構成100万kW、将来は双極200万kWへ拡張できる設計である。直流海底送電線は約56km、これに本州側約4km・九州側約9kmの架空線と、計約37kmの交流送電線が加わる。
概算工事費は約4,412億円、運転維持費は合計約5,384億円。標準工期は13年6カ月程度で、短縮できても11年程度とされ、運転開始の目標は2039年3月である。費用便益比は前提条件によって0.65〜4.65と幅があるが、おおむねのケースで1を上回ることが確認されている。
まだ決まっていない ── 北海道〜本州(日本海ルート)
マスタープランの目玉が、北海道の再エネを本州へ運ぶ日本海ルートである。±525kVの双極で200万kW、後志〜秋田間が約460km、秋田〜新潟間が約300kmと、海底ケーブルの総延長はおよそ800kmに達する。概算工事費は1.5兆〜1.8兆円、概算工期は6〜10年程度とされる。
有資格事業者には北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、電源開発送変電ネットワークが決定している。ただし2026年5月の広域系統整備委員会で、実施案の提出期限は1年延期されて2026年12月26日になった。理由として、資金調達に向けた課題をはじめとする複数の課題の検討に時間を要することが挙げられている。
1.5兆円規模の設備を、運転開始まで10年近く収入を生まないまま建設する。金利が上がった局面で、これを従来どおりコーポレートファイナンスで賄うのは難しい。延期の背景にあるのは技術ではなく、資金の設計である。
電気設備の観点から見た課題
送電線の増強というと海の上のケーブルが注目されるが、実務で効いてくるのは陸側の設備と、容量の「読み方」である。
裏を返せば、系統増強は10年から15年にわたって工事量が続く分野でもある。ケーブル、変換設備、変電所、そして下位系統の対策工事まで、需要は長く薄く広がる。
産業構造とお金の流れ
増強計画が動くとき、どこに支出が発生するのかを上流から順に整理する。挙げる企業名は報道や公開資料で関与が示されている事実の列挙であり、評価や推奨を意味しない。
ケーブル製造。高圧直流の海底ケーブルは、製造できる設備が世界的に限られる。国内では住友電気工業(みなと工場・大阪製作所)と古河電気工業(千葉事業所)が候補地として報じられており、両社は既存拠点の能力増強で対応する方針とされる。2026年5月にはNEDOの事業として、長距離海底送電ケーブルの施工・管理に関する基盤技術の検討に両社を含む6社が参画すると報じられた。欧州ではプリズミアンやNKTといった大手が同種の設備を手がけており、国際的な受注競争と納期の取り合いが起きている。
変換・電力機器。交直変換設備、変換用変圧器、直流遮断器、フィルタなどが必要になる。国内の周波数変換所や既存の北海道本州間連系設備でも、重電各社が変換設備を手がけてきた。1件あたりの金額が大きく納期も長いため、受注のタイミングが工期そのものを規定する。
敷設・土木・電気工事。海底ケーブルの敷設船、揚陸部の工事、変換所の建設、陸上送電線、そして下位系統の対策工事まで含めると、工事量は10年以上にわたって発生する。中国九州間だけでも直流海底約56km、架空線約13km、交流送電線約37kmが計画されている。
事業主体と資金。日本海ルートの有資格事業者は北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、電源開発送変電ネットワークである。工事費は最終的に交付金と託送料金を通じて回収される。つまり原資の相当部分は、再エネ賦課金と電気料金である。
関連する政策・補助金
地域間連系線の整備には、通常の設備投資とは別の資金の仕組みが用意されている。主なものは次の4つである。
- 系統設置交付金── 再エネ賦課金を原資とし、地域間連系線の整備費を全国9エリアで負担する調整スキーム。
- 特定系統設置交付金── 2023年のGX脱炭素電源法で新設された、大規模な地域間連系線への前倒し交付。
- 電力広域的運営推進機関による貸付── 卸電力取引所の値差収益を原資とする支援。
- 託送料金── 地内系統はエリアの託送料金、広域系統は全国の託送料金で回収される。
そのうえで、2025年10月のGX実行会議の資料では、金利上昇でコーポレートファイナンスによる調達が難しくなっていること、工期が長く費用回収が長期化すること、費用が増額したときの回収の確実性が課題として整理されている。公的信用補完や政府融資、運転開始前からの費用回収といった対応の方向が検討されている段階である。制度の設計次第で、計画の着工時期は前後しうる。
関連する動きを追うには
- 電力広域的運営推進機関「広域系統整備委員会」の資料 ── 各計画の進捗と容量の見通しが会合ごとに公開される
- 資源エネルギー庁「次世代電力系統ワーキンググループ」── 出力制御の見通しと系統運用の論点
- 各送配電会社のニュースリリース ── 使用開始の日程と設備の実態
本記事は公開情報にもとづく技術・産業動向の解説であり、特定の金融商品の売買や投資判断を勧めるものではありません。記載した企業名は報道・公開資料で関与が示された事実の列挙です。投資に関する判断は、ご自身の責任において行ってください。
出典
- 電力広域的運営推進機関「北海道本州間連系設備(日本海ルート)に係る実施案の募集について」第101回広域系統整備委員会 資料2-1(2026年5月22日)
- 電力広域的運営推進機関「東北東京間連系線増強後の運用容量の見通しと対応」第85回広域系統整備委員会 資料2(2024年12月25日)
- 電力広域的運営推進機関「中国九州間連系設備に係る広域系統整備計画(案)の概要について」(2025年10月14日)
- 電力広域的運営推進機関 系統計画部「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)及び広域系統整備計画について」(2025年8月26日)
- 資源エネルギー庁「GX実現に向けた系統整備のあり方について」GX実行会議 産業立地WG 資料2(2025年10月7日)
- 東北電力ネットワーク「宮城丸森開閉所の一部使用開始について」(2026年5月8日)
- 電力広域的運営推進機関「電力ネットワークのマスタープラン」
- 電気新聞「国内電線大手2社、送電線の生産増強検討」
- 日刊鉄鋼新聞「NEDO/海底ケーブル関連の基盤技術検討/住友電工・古河電工など6社参画」(2026年5月1日)
- スマートジャパン「九州-中国間の新たな海底直流連系線 100万kW増強によるコストパフォーマンス評価」
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