自火報のベルが鳴っても、それは建物の中にしか聞こえません。消防車を呼ぶには、誰かが119番に電話する必要があります。その電話をボタン1つで、あるいは感知器と連動して自動でかけるのが火災通報装置です。この記事では、火災を建物の外へ知らせるしくみとして、自動火災報知設備(自火報)と火災通報装置・移報の連動を、図で1つずつ丁寧に解説します。

結論

火災を建物の外へ知らせるルートは、119番への火災通報装置警備会社や中央監視への移報の2系統です。病院や社会福祉施設では、火災通報装置を自火報と連動させます。

  • 火災通報装置は、ボタン1つで119番し、録音した音声で建物名・所在地を伝える
  • 病院・有床診療所・社会福祉施設などは、感知器の作動と連動して起動(規則25条)
  • 連動させるなら連動停止スイッチをセットで。点検のあとは必ず戻す
  • 光回線・IP電話は、回線終端装置の停電に注意。予備電源(UPSなど)を用意する
自火報の受信機から、火災通報装置で消防機関へ、移報で警備会社へ、移報で中央監視や管理人室へ、という3つのルートで火災を建物の外へ知らせる全体像
火災を建物の外へ知らせる3つのルート。法律で決まっているのは119番への通報です。

火災通報装置 ― ボタン1つで119番

火災通報装置のボタンを押すと、電話回線で119番を呼び、録音した音声で建物名と所在地を送り、指令センターから呼び返しがあって通話するまでを示した動く図解
動く図解:ボタン1つで119番し、録音した音声で建物の情報を伝えます。

火事のとき、慌てて119番に電話すると、住所や建物の名前がうまく言えないことがあります。火災通報装置は、建物の「名刺」を録音して持っている119番の短縮ボタンのようなものです。押すだけで、落ち着いた声で建物の情報を伝えてくれます。

  1. ボタンを押す(または自火報と連動)防災センターなど常時人のいる場所に置いた装置を操作する
  2. 電話回線をつかんで119番を呼ぶ:ほかの通話中でも回線を優先して使う
  3. 録音した音声で建物の情報を送る:火災であること、所在地、建物名、電話番号など
  4. 指令センターが呼び返し、通話する:受話器で、燃えている場所や逃げ遅れの有無を伝える
項目 内容
設置が必要な建物 用途によって、面積にかかわらず必要なもの、延べ面積500m²以上、延べ面積1,000m²以上で必要なものに分かれる(消防法施行令23条)
電話で代えられる場合 消防機関へ常時通報できる電話があれば設置しなくてよい場合がある。ただし病院・社会福祉施設・ホテル・保育所などは代えられない
設置場所 防災センターなど常時人のいる場所。できるだけ自火報の受信機のそばに置く
操作部の高さ 床から0.8m(いすに座って操作するものは0.6m)以上1.5m以下とする運用の例がある
録音する内容 火災である旨、所在地、建物名、電話番号など。全体を30秒以内に収める運用の例がある
消防法施行令23条、施行規則25条、市の運用指針の例をもとに作成。細部は所轄の消防本部に確認する
ここまでのポイント
  • ボタン1つで119番し、録音した音声で建物の情報を伝える
  • 設置が必要かは用途と面積で決まる(令23条)
  • 常時人のいる場所に置き、受信機のそばにまとめる

連動させる建物 ― 逃げるのに時間がかかる人がいる所

病院・有床診療所や社会福祉施設では感知器の作動と連動して自動で119番し、それ以外の用途では人がボタンを押す手動が基本であることと、連動させるなら連動停止スイッチをセットにすることを示した図
病院や社会福祉施設では、感知器の作動で自動的に119番します。

病院や老人ホームでは、夜間は職員が少なく、入院している人や入所している人は自分で逃げるのが難しいことがあります。職員が避難の手助けに追われると、119番が遅れてしまいます。そこで、これらの建物では自火報の感知器の作動と連動して火災通報装置を起動することが求められています(消防法施行規則25条)。平成27年の改正で、対象となる施設が広がりました。

受信機と火災通報装置が、常時人のいる防災センターにある場合などには例外があります。対象になるかどうかは、用途の区分とあわせて所轄の消防本部に確認します。

ここまでのポイント
  • 病院・有床診療所・社会福祉施設などは、感知器の作動と連動して起動
  • ほかの用途は手動が基本(連動させることもできる)
  • 例外の扱いは所轄の消防本部に確認


誤報への備え ― 連動停止スイッチと呼び返し

連動させると、本当の火災で早く通報できる一方で、感知器の誤作動でも119番してしまうことになります。消防車が出動すれば、ほかの火災や救急への対応にも影響します。そこで、次のような備えをします。

備え 内容
連動停止スイッチ 点検や工事のときに連動を一時的に止める。火災通報装置専用とし、停止中であることを表示灯などで示す
呼び返しへの対応 誤報とわかったら、指令センターからの呼び返しで状況を伝える。職員が対応の手順を知っておく
誤作動しにくい感知器 湯気・ほこり・虫が多い場所には、その場所に合った種類の感知器を選ぶ
移報先への連絡 警備会社など、ほかの移報先にも誤報であることを伝える
市の運用指針の例などをもとに作成
ペン太ペン太
連動停止スイッチを切ったまま、戻し忘れたらどうなるんですか?
ハリタハリタ
本当の火災のときに119番されません。だから停止中は表示灯で目立たせて、点検の記録にも「連動を戻した」と書き残すんです。点検の資格や範囲については「建築消防|消防設備士と消防設備点検資格者|自火報の電源工事は誰がやるのか」で整理しています。
ここまでのポイント
  • 連動させると、誤作動でも119番してしまう
  • 点検や工事では連動停止スイッチで止め、停止中は表示
  • 誤報のときの呼び返しへの対応手順を決めておく

移報 ― 警備会社・中央監視へ渡す信号

受信機の移報端子から、火災代表・地区・故障・移報停止中の信号を、警備会社の端末や中央監視、管理人室の表示器、副受信機、空調やエレベーターの連動へ渡す構成を示した図
移報は、1つの出来事をいくつもの相手に同時に知らせるしくみです。

移報は、たとえるならグループへの一斉通知です。受信機が「火災です」「故障です」という出来事を、警備会社、中央監視、管理人室など、知っておくべき相手に同時に知らせます。

信号 意味 主な渡し先
火災代表 どこかで火災の信号が出た 警備会社、中央監視、電気錠・空調・エレベーターなどの連動
地区(階・警戒区域) どの階・区域で火災か 中央監視、大きな建物の表示盤、階別の連動
故障 電源の異常、断線など 中央監視、警備会社
移報停止中 点検などで移報を止めている 警備会社(止めていることを伝える)
一般的な計画の例。受信機の機種で出せる信号が異なる

信号は無電圧の接点で渡すのが基本です。受信機の接点は数と容量が限られるので、中継端子盤やリレーで分けます。ほかの設備との連動の考え方は、このシリーズの「建築消防|自火報と電気錠・自動ドアの連動|火災時の一斉解錠・パニックオープンと停電時の考え方」などで扱っています。

ここまでのポイント
  • 移報は、受信機からの「一斉通知」
  • 火災代表・地区・故障・移報停止中などの信号がある
  • 無電圧の接点で、中継端子盤やリレーで分けて渡す


回線と電源 ― 光回線は停電で止まることがある

火災通報装置が光回線の回線終端装置を通して119番につながる構成で、停電したときUPSがないと回線終端装置が止まって通報できず、UPSがあれば停電中も通報できることを示した動く図解
動く図解:停電すると、回線終端装置が止まって119番できないことがあります。

昔ながらのアナログの電話回線は、電話局から電気が送られてくるので、建物が停電しても電話がかけられました。ところが光回線やIP電話は、建物の中の回線終端装置(ONUなど)が電気で動いています。停電すればこの装置が止まり、火災通報装置があっても119番につながらないおそれがあります。

確認すること 内容
接続できる回線 アナログ回線、ISDN回線(適合する変換装置を通す)、050から始まる番号のIP電話回線などに接続する運用の例がある
IP電話回線の接続位置 回線終端装置などから、アナログ信号を送る部分に接続する
回線終端装置の電源 停電しても動くよう、予備電源(UPSなど)を設ける
回線の変更 電話会社の切り替えや光回線への変更のときは、火災通報装置が使えるかをメーカーと消防本部に確認する
市の運用指針の例などをもとに作成。細部は所轄の消防本部に確認する

⚠️ 電話の契約変更で、火災通報装置が使えなくなる

建物の管理者が通信費の見直しで電話回線を切り替えたら、火災通報装置がつながらなくなっていた、ということがあります。電話の契約や回線の変更は、電気設備の工事がなくても起こります。点検のたびに回線の種類とUPSの状態を確認します。

ここまでのポイント
  • 光回線・IP電話は、回線終端装置が停電で止まる
  • 回線終端装置に予備電源(UPSなど)を設ける
  • 回線の変更のときは、使えるかを必ず確認

試験と点検 ― つながる・伝わる・戻すを確かめる

119番通報、蓄積音声、連動と停止、移報、回線と停電、復旧の6つの確認ポイントを並べた図
竣工前の試験と定期点検で確かめる6つのポイント。
  • 119番通報:実際に119番へつなぐ試験は、消防本部と事前に日時と方法を調整する
  • 蓄積音声:録音した建物名・所在地・電話番号が正しいか。建物名や電話番号が変わったら録音し直す
  • 連動と停止:感知器の作動で起動するか。連動停止スイッチで止まり、停止中の表示が出るか
  • 移報:警備会社・中央監視に正しい信号が届くか。点検の前に移報先へ連絡する
  • 回線と停電:回線の種類が変わっていないか。UPSや予備電源で通報できるか
  • 復旧:点検のあとに連動・移報を元に戻したか。記録を残す
ここまでのポイント
  • 119番の試験は消防本部と事前に調整
  • 録音の内容と、回線・UPSの状態を確認
  • 点検のあとは、連動と移報を必ず元に戻す


よくある質問

火災通報装置とは何ですか?

ボタンを押すと、電話回線を使って自動で119番に通報し、録音しておいた音声で「火事であること」「建物の所在地・名前・電話番号」などを消防の指令センターに伝える装置です。そのあと指令センターから呼び返しがあり、受話器で状況を話せます。消防法施行令23条の「消防機関へ通報する火災報知設備」にあたります。

火災通報装置は、自火報と連動させる必要がありますか?

病院・有床診療所や老人ホームなどの社会福祉施設では、自動火災報知設備の感知器の作動と連動して起動することが求められています(消防法施行規則25条)。自力で逃げるのが難しい人がいる建物で、通報の遅れを防ぐためです。それ以外の用途では、人がボタンを押す手動の起動が基本です。

連動停止スイッチとは何ですか?

自火報と火災通報装置の連動を一時的に止めるスイッチです。点検や工事で感知器を作動させるたびに119番へ通報されないようにするために使います。停止中であることがわかるよう、表示灯を点灯・点滅させます。点検が終わったら必ず元に戻します。

移報とは何ですか?

自火報の受信機が、火災や故障の信号を無電圧の接点で外部の設備に渡すことです。警備会社の機械警備の端末、中央監視設備、管理人室の表示器、空調やエレベーターの連動などに使います。受信機の接点は数と容量が限られるので、中継端子盤やリレーで分けて渡すのが一般的です。

光回線やIP電話でも火災通報装置は使えますか?

接続できる回線の条件を満たせば使えます。運用指針の例では、IP電話回線の場合は回線終端装置などからアナログ信号を送る部分に接続し、回線終端装置などには停電時にも動くよう予備電源(UPSなど)を設けることとしています。回線を変えるときは、火災通報装置のメーカーと消防本部に確認します。

ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。