建築消防|消防設備士と消防設備点検資格者|自火報の電源工事は誰がやるのか
「自動火災報知設備の受信機に電源を送る配線は、消防設備士がやるのか、電気工事士がやるのか」——現場でいちばん多い資格の質問です。答えは条文にはっきり書いてあります。消防法施行令第36条の2第1項の柱書に「電源の部分を除く」というかっこ書きがあり、自火報の電源工事は消防設備士の独占業務ではありません。
この記事では、消防設備士の指定区分と工事・整備の範囲、点検を行える資格、そして電気工事士法との関係を、条文の順に整理します。甲乙の別が書いてある条文や、点検資格者の定義がある項番号など、解説書で取り違えられがちなところも押さえます。
甲種と乙種の別は法第17条の6第2項に書いてある
まず出発点は消防法第17条の5です。
消防法第17条の5
消防設備士免状の交付を受けていない者は、次に掲げる消防用設備等又は特殊消防用設備等の工事(設置に係るものに限る。)又は整備のうち、政令で定めるものを行つてはならない。
一 第十条第四項の技術上の基準又は設備等技術基準に従つて設置しなければならない消防用設備等
二 設備等設置維持計画に従つて設置しなければならない特殊消防用設備等
読みどころが2つあります。1つは「工事(設置に係るものに限る。)」。撤去や移設はこの条の対象ではありません。もう1つは第1号が「第十条第四項の技術上の基準」を含んでいること。危険物製造所等の消火設備もこの条の射程に入ります。
そしてこの条にも令第36条の2にも、甲種・乙種の別は書かれていません。根拠は法第17条の6です。
消防法第17条の6
第1項 消防設備士免状の種類は、甲種消防設備士免状及び乙種消防設備士免状とする。
第2項 甲種消防設備士免状の交付を受けている者(以下「甲種消防設備士」という。)が行うことができる工事又は整備の種類及び乙種消防設備士免状の交付を受けている者(以下「乙種消防設備士」という。)が行うことができる整備の種類は、これらの消防設備士免状の種類に応じて総務省令で定める。
この委任を受けているのが規則第33条の3で、同条の各項はいずれも「法第十七条の六第二項の規定により」で始まります。
甲種に第六類・第七類はない
規則第33条の3第1項(甲種)の表は特類と第一類から第五類まで、第3項(乙種)の表は第一類から第七類までです。甲種に第六類(消火器)・第七類(漏電火災警報器)はなく、乙種に特類(特殊消防用設備等)はありません。
これは偶然ではなく、後述する「整備の範囲のほうが工事より広い」という令第36条の2の構造の裏返しです。→ 建築消防|漏電火災警報器の設置基準|契約電流50A超と鉄網入りの壁、1級・2級は廃止済み
なお、パッケージ型消火設備・パッケージ型自動消火設備などは規則第33条の3の表には出てきません。これらは第2項・第4項の「必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等…は消防庁長官が定める」という別ルートで扱われます。表に書き足されているように見える解説書は、2つのルートを1つの表に混ぜています。
また、第17条の6第2項が定めているのは「工事又は整備」「整備」であって、点検はここに入っていません。「甲種は工事と整備と点検、乙種は整備と点検ができる」という説明を見かけますが、点検は法第17条の3の3の別制度で、誰が点検できるかは規則第31条の6第6項が告示に委任しています(後述)。
「電源の部分を除く」が独占業務の境界線
電気設備設計者にとって、この記事でいちばん重要なのが令第36条の2第1項の柱書です。
消防法施行令第36条の2第1項 柱書
法第十七条の五の政令で定める消防用設備等又は特殊消防用設備等の設置に係る工事は、次に掲げる消防用設備等(第一号から第三号まで及び第八号に掲げる消防用設備等については電源、水源及び配管の部分を除き、第四号から第七号まで及び第九号から第十号までに掲げる消防用設備等については電源の部分を除く。)又は必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等若しくは特殊消防用設備等(略)の設置に係る工事とする。
除外は各号ではなく柱書に一括で置かれています。設備ごとに号を追っても除外は見つからないので、柱書を読み飛ばすと迷子になります。
自火報の電源工事は消防設備士の独占ではない
自動火災報知設備は第九号、ガス漏れ火災警報設備は第九号の二、消防機関へ通報する火災報知設備は第十号です。いずれも「電源の部分を除く」グループに入ります。
したがって、分電盤から受信機までの常用電源配線は、消防設備士でなければできない工事ではありません。甲種第4類を持っていない電気工事店が施工しても、消防法上は問題になりません(電気工事士法の話は別途あります。後述)。
一方、感知器回路・地区音響装置の回路といった信号配線は甲種第4類の工事範囲です。同じ「自火報の配線」でも、電源側と信号側で主管法令が変わります。→ 建築消防|自動火災報知設備の感知器|警戒区域・感知区域・感知面積と設置してはならない場所
水系(第一号〜第三号・第八号)はさらに水源と配管まで除外されるので、消防設備士の独占は実質的に機器本体・弁類等に絞られます。「消防設備士がいないと何もできない」という感覚は、条文とはかなり違います。
整備の範囲は工事より広い
第2項(整備)は、第1項各号に加えて第二号 消火器、第三号 漏電火災警報器を掲げています。この2つは工事の対象になっておらず、整備だけが規制対象です。だから第六類・第七類には乙種しかありません。
そのかわり第2項には、「屋内消火栓設備の表示灯の交換その他総務省令で定める軽微な整備を除く」という除外が付きます。
消防法施行規則第33条の2の2
令第三十六条の二第二項の総務省令で定める軽微な整備は、屋内消火栓設備又は屋外消火栓設備のホース又はノズル、ヒューズ類、ネジ類等部品の交換、消火栓箱、ホース格納箱等の補修その他これらに類するものとする。
条番号に注意してください。この規定は令和5年4月1日施行の二酸化炭素消火設備関係の改正で、第33条の2から第33条の2の2に繰り下がりました(現在の第33条の2は「適用が除外されない不活性ガス消火設備」)。「規則第33条の2」と引いている資料は改正前のものです。
免状・講習・着工届
講習の起算点は「交付日」ではない
法第17条の10が講習の受講義務を定め、期限は規則第33条の17にあります。
消防法施行規則第33条の17(要旨)
初回は免状の交付を受けた日以後における最初の四月一日から二年以内、それ以降は当該講習を受けた日以後における最初の四月一日から五年以内。
起算点が「交付日」ではなく「交付日以後の最初の4月1日」である点が要注意です。3月に交付を受けた人と4月に交付を受けた人では、実質的な猶予が1年近く変わります。
また、この義務は免状を持っている人全員にかかります。消防設備士として業務に従事しているかどうかは条文上の要件ではありません。
着工届を出すのは甲種消防設備士本人
消防法第17条の14
甲種消防設備士は、第十七条の五の規定に基づく政令で定める工事をしようとするときは、その工事に着手しようとする日の十日前までに、総務省令で定めるところにより、工事整備対象設備等の種類、工事の場所その他必要な事項を消防長又は消防署長に届け出なければならない。
届出義務者は事業者でも関係者でもなく甲種消防設備士その人です。乙種は工事ができないので、着工届の義務者になりません。そして対象は令第36条の2第1項の工事なので、電源・水源・配管だけの工事は着工届の対象外になります。→ 建築消防|消防同意・着工届・設置届・消防検査|期限と対象を条文で確認
免状まわりの条番号も整理しておきます。書換えは令第36条の5+規則第33条の6、再交付は令第36条の6+規則第33条の7。返納命令は法第17条の7第2項が準用する法第13条の2第5項です。なお免状の写真は過去10年以内に撮影したもの(規則第33条の5第2項)とされているため、実質的に10年ごとの書換えが必要になります。
点検は「すべての建物で有資格者」ではない
点検の根拠は法第17条の3の3で、有資格者による点検が必要な防火対象物は令第36条第2項が限定しています。
第一号が特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上、第二号が非特定で1,000㎡以上のうち消防長又は消防署長が指定するもの、第三号が特定用途が避難階以外の階にあり、その階から直通階段が2以上ないもの(いわゆる特定一階段等防火対象物)です。
注目すべきは第三号に延べ面積の要件が一切ないことです。小さな雑居ビルでも、階段が1つしかなく2階以上に飲食店が入っていれば、有資格者点検の対象になります。
逆に言えば、これら以外の防火対象物では関係者自身が点検できます。「点検は必ず有資格者」という説明は正確ではありません。点検の期間と報告は別記事にまとめています。→ 建築消防|消防用設備等の点検・報告|機器点検6か月・総合点検1年の実務
資格者の定義は規則第31条の6「第7項」
消防設備点検資格者の定義は、規則第31条の6第7項にあります。第2項ではありません(第2項は特殊消防用設備等の点検期間です)。
消防法施行規則第31条の6 第7項 柱書
法第十七条の三の三に規定する総務省令で定める資格を有する者は、次の各号のいずれかに該当する者で、消防用設備等又は特殊消防用設備等の点検に関し必要な知識及び技能を修得することができる講習であつて、消防庁長官の登録を受けた法人…の行うものの課程を修了し、(略)書類…の交付を受けている者…とする。
受講資格は各号で、消防設備士、電気工事士、管工事施工管理技士、特定建築物調査員・建築設備等検査員、一級・二級建築士、大学等卒業+実務1年以上、高校卒業+実務2年以上、実務5年以上などが並びます。電気工事士が受講資格に入っているのは、電気設備の実務者にとって現実的な入口です。
第一種は機械系、第二種は電気系
どの設備を点検できるかは、規則第31条の6第6項が消防庁長官に委任し、平成16年消防庁告示第10号が種別ごとの範囲を定めています。
第一種は消火器具・屋内消火栓・スプリンクラー・水噴霧・泡・不活性ガス・ハロゲン化物・粉末・屋外消火栓・動力消防ポンプ・消防用水・連結散水・連結送水管など、いわゆる機械系。
第二種は自動火災報知設備・ガス漏れ火災警報設備・漏電火災警報器・消防機関へ通報する火災報知設備・非常警報器具及び設備・避難器具・誘導灯・誘導標識・排煙設備・非常コンセント設備・無線通信補助設備・特定小規模施設用自動火災報知設備・加圧防排煙設備など、電気系です。
電気設備設計者が関わる消防用設備等は、ほぼすべて第二種の範囲に入ります。そして特種は特殊消防用設備等です。
電気工事士法との関係
最後に、冒頭の問いに戻ります。
「軽微な工事」と「軽微な作業」は別概念
電気工事士法でよく混同されるのがこの2つです。
2つの「軽微」
軽微な工事 法第2条第3項の「政令で定める軽微な工事」→ 施行令第1条。そもそも「電気工事」に当たらないので、法の適用外。
軽微な作業 法第3条の「経済産業省令で定める軽微な作業」→ 施行規則第2条。「電気工事」ではあるが、無資格者が従事してよい作業。
「政令で定める軽微な工事」は第3条ではなく第2条第3項にあります。ここを取り違えると、除外の効き方を読み間違えます。
そして施行令第1条第4号にこうあります。
電気工事士法施行令第1条第4号
電鈴、インターホーン、火災感知器、豆電球その他これらに類する施設に使用する小型変圧器(二次電圧が三十六ボルト以下のもの)の二次側の配線工事
条文から言えること、言えないこと
受信機の常用電源側(AC100V/200V)の配線は、消防法側では令第36条の2で除外され、電気工事士法側では軽微な工事にも軽微な作業にも当たりません。したがって電気工事士が必要です。ここは条文から明確に言えます。
感知器回路等の信号配線は、甲種第4類の工事範囲であると同時に、電気工作物を設置・変更する工事に当たれば電気工事士法第3条の作業制限もかかります。両法は独立して適用されるので、該当すれば両方の資格が必要になります。片方を満たせばもう片方が免除される、という関係ではありません。
ただし、感知器回路がDC24Vで受信機内蔵の電源から供給される一般的な構成について、これを施行令第1条第4号の「小型変圧器の二次側の配線工事」と読めるかどうかは、条文からは一義に決まりません。受信機を「小型変圧器」と見るかという解釈問題で、今回の一次資料調査では有権解釈を確認できませんでした。実務では所轄消防と産業保安監督部の双方に確認するのが確実です。
解説書で確認しておきたい点
確認ポイント
①甲乙の別の根拠 法第17条の5でも令第36条の2でもなく、法第17条の6第2項です。
②「点検」は法第17条の6に書かれていない 同項が定めるのは「工事又は整備」「整備」。点検は法第17条の3の3の別制度です。
③除外は柱書にある 電源・水源・配管の除外は令第36条の2第1項の各号ではなく柱書に一括で置かれています。
④指定区分の表にない設備 パッケージ型消火設備等は規則第33条の3の表になく、第2項・第4項の「消防庁長官が定める」側です。1つの表に混ぜている解説書があります。
⑤軽微な整備の条番号 令和5年4月1日から規則第33条の2の2です(第33条の2から繰り下げ)。
⑥講習の起算点 「交付日」ではなく「交付日以後の最初の4月1日」から2年以内/5年以内です。
⑦点検資格者の定義 規則第31条の6第7項です(第2項ではありません)。
⑧有資格者点検の対象 令第36条第2項に限られます。すべての防火対象物で有資格者が必要なわけではありません。第三号(特定一階段等)には面積要件がありません。
⑨電気工事士法 「軽微な工事」は法第2条第3項→施行令第1条、「軽微な作業」は法第3条→施行規則第2条。別概念です。
まとめ
資格の話は、①法第17条の5で「工事(設置に係るもの)又は整備」という枠を確認 → ②令第36条の2の柱書で除外部分(電源・水源・配管)を外す → ③法第17条の6第2項+規則第33条の3で甲乙と類別を当てる → ④点検は法第17条の3の3+令第36条第2項+規則第31条の6第6項・第7項+告示第10号という別ルート、という順に追うと整理できます。
電気設備設計者にとっての実務上の結論は明快です。自火報の電源配線は電気工事士の仕事、感知器回路は甲種第4類の仕事、点検は第二種消防設備点検資格者の仕事。この3つを分けて考えれば、施工体制の組み立てで迷うことはありません。
なお、性能規定ルートで設計する場合の資格の扱いは別記事にまとめています。→ 建築消防|消防用設備の3つのルートと令32条特例|仕様規定・性能規定・大臣認定
参考にした条文・告示
- 消防法 第17条の3の3、第17条の5、第17条の6、第17条の7、第17条の10、第17条の14、第13条の2
- 消防法施行令 第36条第2項、第36条の2、第36条の5、第36条の6
- 消防法施行規則 第31条の6(第6項・第7項)、第33条の2の2、第33条の3、第33条の5、第33条の6、第33条の7、第33条の17、第33条の18
- 消防設備士免状の交付を受けている者又は総務大臣が認める資格を有する者が点検を行うことができる消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類を定める件(平成16年 消防庁告示第10号)
- 電気工事士法 第2条、第3条/同施行令 第1条/同施行規則 第2条
資格の議論は「誰が何をできるか」より「条文がどこで線を引いているか」を見たほうが早く片づきます。電源・水源・配管の除外を知っているだけで、見積の切り分けも施工体制の説明も変わります。




