排煙設備は機械設備の図面に描かれます。ところが手動起動装置、感知器との連動、防災センターの切替、非常電源、耐熱配線は、全部が電気設計の担当です。しかも根拠は建築基準法と消防法の両方にあり、数値も要求も同じではありません。

この記事は、消防法施行令第28条・消防法施行規則第30条と、建築基準法施行令第126条の2・第126条の3を突き合わせて、電気設計として何を図面に落とすかまで整理したものです。最後に、排煙設備に代えて使える加圧防排煙設備も扱います。

同じ「排煙設備」でも、守る相手が違う建築基準法の排煙設備建基法施行令 第126条の2・126条の3守る相手=建物の利用者初期火災時の避難安全が目的延べ面積500㎡超の特殊建築物など区画・内装制限による免除がある予備電源(時間の規定なし)消防法の排煙設備(消防排煙)消防法施行令 第28条・規則 第30条守る相手=消防隊中期〜盛期火災の消火・救助活動支援地下街・舞台部・地階/無窓階が対象地階・無窓階に区画等による免除なし非常電源(30分以上)両方かかる建物では、厳しいほうで設計するどちらか一方だけを見て図面を描くと、必ずどこかで足りなくなるHARITA
図1|建築基準法の排煙は在館者の避難のため、消防法の排煙は消防隊の活動のため。目的が違うので、設置対象も免除も非常電源も別々に定められている。

目的が違うから、基準も違う

建築基準法の排煙設備は初期火災時の在館者の避難安全を目的にしています。これに対して消防法の排煙設備は中期火災から盛期火災における消防隊の消火・救助活動の支援が目的です。消防法によって設置する排煙設備を、実務では消防排煙と呼び分けます。

目的が違うので、設置対象も違います。消防法施行令第28条第1項が定める対象は3つだけです。

消防法施行令 第28条 第1項(設置対象)

  1. 別表第一(十六の二)項=地下街で、延べ面積が1,000㎡以上のもの
  2. 別表第一(一)項=劇場等の舞台部で、床面積が500㎡以上のもの
  3. 別表第一(二)項・(四)項・(十)項・(十三)項=遊技場・物販店舗・車両の停車場・駐車場等の地階または無窓階で、床面積が1,000㎡以上のもの

建築基準法側は、法別表第一(い)欄(一)項〜(四)項の特殊建築物で延べ面積500㎡超、といった別の切り方です。病院・旅館・共同住宅などは建基法では対象になりますが、消防法の令第28条には出てきません。逆に地階・無窓階は消防法で強く効いてきます。

免除の考え方が違う

建築基準法には区画や内装制限による免除があります(令第126条の2第1項各号)。共同住宅の住戸なら200㎡以内の区画、学校等、階段室・昇降路など。

消防法の免除は消防法施行規則第29条で、直接外気に開放されている部分令第13条第1項の表に掲げる消火設備が設置されている部分、消防庁長官が定める部分に限られます。「内装を不燃にしたから免除」という論法は消防法側では通りません。

消防法の技術基準は、政令ではなく規則にある

ここは条文を追うときの落とし穴です。令第28条第2項が定めているのは、次の4項目だけです。

消防法施行令 第28条 第2項

  1. 用途・構造・規模に応じ、火災時に生ずる煙を有効に排除できるものであること
  2. 手動起動装置または火災の発生を感知した場合に作動する自動起動装置を設けること
  3. 排煙口、風道その他煙に接する部分は、煙の熱及び成分により機能に支障を生ずるおそれのない材料で造ること
  4. 非常電源を附置すること

防煙区画の面積も、排煙口の位置も、起動装置の高さも、政令には書かれていません。すべて消防法施行規則第30条(排煙設備に関する基準の細目)に落ちています。設計で数字を確認するときは、令ではなく規則を開いてください。


防煙区画と排煙口の数値

項目 一般(令28条1項2号・3号) 地下街(令28条1項1号)
防煙区画の面積 500㎡以下 300㎡以下
防煙壁(垂れ壁)の突出し 天井面から50cm以上 天井面から80cm以上
各部分から排煙口までの水平距離 30m以下
排煙口の位置 天井、または壁のうち防煙壁の下端より上部で床面から天井高さの1/2以上の部分

地下街の80cmは見落とされやすい数値です。「防煙たれ壁は天井から50cm」とだけ覚えていると、地下街で足りません。防煙壁は不燃材料で造るか、不燃材料で覆われたものである必要があります(規則第30条第1号イ)。

排煙機の風量は3つの区分がある

防煙区画の区分 排煙機の性能
消火活動拠点 240㎥/分(特別避難階段の附室と非常用エレベーター乗降ロビーを兼用するものは360㎥/分
消火活動拠点以外/地下街 300㎥/分(1台が2以上の防煙区画に接続されている場合は600㎥/分
消火活動拠点以外/舞台部・地階無窓階 120㎥/分、または防煙区画の床面積×1㎥/分(2以上の防煙区画に接続する場合は×2㎥/分)のいずれか大きい量

自然排煙で対応する場合の排煙口の面積は、消火活動拠点で2㎡(兼用の場合は3㎡)、それ以外の部分は防煙区画の床面積の1/50です。消火活動拠点の給気口は、直接外気に接するもので1㎡以上(兼用の場合は1.5㎡以上)。

市販の解説書には「給気風道の断面積2㎡以上」といった数値が載っていることがありますが、消防法施行規則第30条に給気用風道の断面積の数値規定は見当たりません(第3号イに「必要な強度、容量及び気密性」とあるのみ)。所轄の審査基準や運用に由来する数値の可能性があります。

消火活動拠点の風道には、防火ダンパーを付けない

規則第30条第3号ホは、ダンパーを設ける場合の条件を並べています。自動閉鎖装置を設けたダンパーの閉鎖温度は280℃以上。そして最後に、こう書かれています。

消防法施行規則 第30条 第3号 ホ(ニ)

消火活動拠点に設ける排煙口又は給気口に接続する風道には、自動閉鎖装置を設けたダンパーを設置しないこと。

消防隊が拠点にしている場所への風道が火災で閉じてしまっては意味がない、という趣旨です。建築側の防火区画貫通の感覚でFDを付けると、ここで引っかかります。


電気設計として図面に落とすこと

排煙設備で、電気設計が図面に落とす6項目手動起動装置規則30条4号イ防煙区画ごと/区画内を見とおせる位置壁 FL+0.8〜1.5m/天井吊り FL+約1.8m起動装置の表示規則30条4号イ(ニ)「排煙設備の起動装置である旨」と使用方法操作部の直近の見やすい箇所に自動起動(連動)規則30条4号ロ(イ)自火報の感知器/閉鎖型SPヘッド/火災感知用ヘッドこれらの作動・開放と連動して起動防災センターの切替規則30条4号ロ(ロ)自動起動を設けるなら自動手動切替え装置が必須手動起動装置は上の要件を満たすこと電源・非常電源規則30条7号・8号電源は交流低圧屋内幹​線から分岐させずに専用でとる開​閉器に「排煙設備用」と表示/非常電源30分以上操作回路の配線規則30条9号6​00V二種ビニ​ル絶縁電線(HIV)相当以上の耐​熱電線金属管・可とう電​線管・金​属ダクト・不燃ダクト内ケーブルこのほか、総​合操作盤(規則12条1項8号の準用)と耐震措置(同9号)も第30条で準用されるHARITA
図2|排煙設備は機械設備に見えて、起動装置・連動・電源・配線はすべて電気設計の担当。根拠はほぼ消防法施行規則第30条に集まっている。

手動起動装置

位置と表示が条文で決まっています。一の防煙区画ごとに設け、当該防煙区画内を見とおすことができ、火災のとき容易に接近することができる箇所に設けます。操作部の高さは、壁に設ける場合は床面から0.8m以上1.5m以下、天井からつり下げる場合は床面からおおむね1.8m

表示も条文の要求です。操作部の直近の見やすい箇所に「排煙設備の起動装置である旨」と「その使用方法」を表示します。建築基準法側(令第126条の3第1項第5号)は高さは同じですが「見やすい方法でその使用方法を表示」までで、「起動装置である旨」の表示は消防法側の上乗せです。

自動起動と、防災センターの自動手動切替

自動起動装置は、自動火災報知設備の感知器の作動、閉鎖型スプリンクラーヘッドの開放、または火災感知用ヘッドの作動もしくは開放と連動して起動するものです。自火報受信機からの移報回路を図面に描くことになります。

そして自動起動装置を設けるなら、防災センター等に自動手動切替え装置を設けることが条文上の要求です(規則第30条第4号ロ(ロ))。この切替装置を落とすと不備になります。このとき手動起動装置は、前項の位置・表示の要件を満たしている必要があります。

電源・非常電源・配線

規則第30条の第7号以降は、まるごと電気の話です。すべて他条の「規定の例により」という書き方なので、参照先まで追う必要があります。

規則30条 参照先 内容
第7号 電源 規則24条3号 交流低圧屋内幹線から他の配線を分岐させずにとる/電源の開閉器に排煙設備用である旨を表示
第8号 非常電源 規則12条1項4号 非常電源専用受電設備・自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備/容量は有効に30分間以上
第9号 操作回路の配線 規則12条1項5号 600V二種ビニル絶縁電線(HIV)またはこれと同等以上の耐熱性を有する電線/金属管・可とう電線管・金属ダクト・不燃性ダクト内のケーブル工事
第10号 規則12条1項8号 総合操作盤の規定を準用
第11号 規則12条1項9号 風道・排煙機・給気機・非常電源に耐震措置

規則が明文で耐熱配線を求めているのは「操作回路の配線」です。排煙機・給気機の動力回路そのものについて第30条に耐火配線の明文はなく、非常電源からの配線の耐火要求は第8号が準用する規則第12条第1項第4号のほうに入っています。図面の凡例を書くときは、操作回路と非常電源回路を分けて考えると整理しやすくなります。

建築基準法側は令第126条の3第1項第10号が「電源を必要とする排煙設備には、予備電源を設けること」と書くのみで、時間の規定は政令にありません。30分という数字は消防法側の要求です。両方かかる建物では、当然ながら厳しいほうで設計します。

「排煙口を開けたら排煙機が回る」は、どちらの法の話か

ここは条文を確認して意外だった点です。「一の排煙口の開放に伴い自動的に作動し」という文言は、建築基準法施行令第126条の3第1項第9号にあります。消防法施行規則第30条を第1号から第11号まで読んでも、排煙口の開放と排煙機の起動を連動させる明文は見当たりません。

実務では同一の起動装置で排煙口と排煙機をまとめて起動させる構成が普通なので結果は変わりませんが、根拠条文を聞かれたときに消防法側だと答えると外します。


加圧防排煙設備 ― 排煙設備に代えて使える

排煙は「煙を出す」、加圧防排煙は「煙を入れない」従来の排煙設備火災室🔥消火活動拠点排煙機で吸い出す煙を外へ排出して、活動できる環境をつくる消防法施行令 第28条/規則 第30条加圧防排煙設備火災室🔥加圧式消火活動拠点+圧力給気機遮煙開口部排煙機拠点を加圧し、気流で煙の侵入を止める加圧防排煙はルートB(性能規定)― 令第29条の4に基づく平成21年総務省令第88号(4)項・(13)項イの地階または無窓階で床面積1,000㎡以上、耐火構造、SP等の設置が条件HARITA
図3|排煙設備は煙を外へ出す。加圧防排煙設備は拠点側の圧力を上げて煙を入れない。目的は同じ「消防隊の活動環境の確保」でも、手段が逆になる。

排煙が「煙を外へ出す」のに対して、加圧防排煙は消火活動拠点に給気して圧力を高め、煙を入れないという考え方です。この拠点を加圧式消火活動拠点と呼びます。

位置づけはルートB(性能規定)で、根拠は消防法施行令第29条の4に基づく平成21年総務省令第88号です。適用できるのは次の条件をすべて満たす場合に限られます。

平成21年総務省令第88号 第2条第1項(適用対象)

  1. 令別表第一(四)項または(十三)項イの地階または無窓階で、床面積が1,000㎡以上
  2. 特定主要構造部が耐火構造であること
  3. 吹抜け・階段・昇降路・ダクトスペース等が、準耐火構造の床壁または防火設備で区画されていること
  4. スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備等が技術上の基準に従い設置されていること

省令の本体には、加圧防排煙設備の定義も構成機器も数値も書かれていません。第2項が定めるのは「手動起動装置を設けること」「煙に接する部分の材料」「非常電源を附置すること」の3つだけで、実体的な基準はすべて第3項が委任する平成21年消防庁告示第16号にあります。設計で数値を確認するときは告示を開いてください。

加圧防排煙で電気設計が押さえること

  • 起動装置は防災センター等にも置く。告示では、排煙口の手動起動装置は「防災センター等及び一の防煙区画ごと」、給気口の手動起動装置は「防災センター等及び一の加圧式消火活動拠点ごと」に設けることとされています。
  • 排煙口の開放に伴い排煙機が、給気口の開放に伴い給気機が、自動的に作動する。こちらは告示に明文があります。
  • 加圧式消火活動拠点には、防災センター等と通話できる装置を設ける。拠点まわりの弱電は、この一項目で決まります。
  • 非常電源は規則第12条第1項第4号の例、配線は同第5号の例。結局、一般の排煙設備と同じ枠組みです。

拠点そのものの要件も押さえておくと、建築側との打合せが早くなります。その階の各部分から遮煙開口部までの水平距離50m以下、床面積10㎡以上、出入口の戸を開放する力が100ニュートンを超えないこと。扉の開放力は加圧設備の宿命で、給気量を上げるほど厳しくなります。


解説書と条文で食い違った点

  • 防煙たれ壁の突出しは「50cm」だけではない。地下街(令28条1項1号)は80cm以上です。防煙区画の面積も500㎡/地下街300㎡と分かれます。
  • 「排煙口の開放と同時に排煙機が自動起動」は消防法施行規則第30条には書かれていない。建築基準法施行令第126条の3第1項第9号、および加圧防排煙の告示にある規定です。
  • 給気風道の断面積の数値規定は、規則第30条に見当たらない。「2㎡以上」等の数値を載せている資料がありますが、条文上の根拠は確認できませんでした。
  • 平成21年総務省令第88号の正式名称は「防火安全性能」。「消火活動上必要な支援性能」ではありません。

設計時のチェックリスト

  1. 消防法と建築基準法のどちらが、どこにかかるかを先に分ける。地階・無窓階は消防法、延べ面積500㎡超の特殊建築物は建基法。両方かかる部分は厳しいほうで。
  2. 消火活動拠点を先に確定する。非常用エレベーター乗降ロビー、特別避難階段の附室、兼用部分。ここだけ数値も要求も別枠になります。
  3. 手動起動装置は防煙区画ごと。区画割りが決まらないと個数が出ません。建築の防煙壁の位置を早めにもらいます。
  4. 自動起動を採るなら、防災センターの自動手動切替装置を忘れない。
  5. 電源は専用分岐、開閉器に「排煙設備用」の表示。非常電源は30分以上。
  6. 操作回路はHIV相当+金属管等。非常電源からの配線は別途、規則第12条第1項第4号の要求を確認します。
  7. 消火活動拠点の風道に防火ダンパーを付けない。建築の区画貫通の感覚で描くと引っかかります。
  8. 加圧防排煙を検討するなら、適用対象4条件を先に確認する。(4)項・(13)項イの地階・無窓階1,000㎡以上という入口が狭いので、そもそも使えるかどうかから。

まとめ

排煙設備は建築基準法と消防法で目的が違う別の設備です。建基法は在館者の避難、消防法は消防隊の活動支援。だから設置対象も免除も非常電源も別々に決まっています。

そして技術基準の本体は令ではなく消防法施行規則第30条にあり、その第4号から第11号までは、起動装置・電源・非常電源・配線という電気設計の担当範囲です。機械の図面だからと任せきりにすると、防災センターの切替装置や電源開閉器の表示といった小さな項目が落ちます。落ちると是正になります。

参考・根拠

  • 消防法施行令 第28条(排煙設備に関する基準)、第29条の4(必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等)
  • 消防法施行規則 第29条(排煙設備を設置しないことができる部分)、第30条(排煙設備に関する基準の細目)、第12条第1項第4号・第5号・第8号・第9号、第24条第3号
  • 建築基準法施行令 第126条の2(排煙設備の設置)、第126条の3(排煙設備の構造)
  • 平成21年総務省令第88号(排煙設備に代えて用いることができる必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令)
  • 平成21年消防庁告示第16号(加圧防排煙設備の設置及び維持に関する技術上の基準)
  • 昭和56年消防庁告示第10号・第11号(耐火配線・耐熱配線の基準)

法令・告示は改正されることがあります。加圧防排煙設備については、令和6年総務省令第25号による改正で「特定主要構造部」への文言変更が入っています。実際の設計にあたっては、必ず最新の条文・告示と所轄消防本部の審査基準をご確認ください。

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