こんにちは、HARITAの設計室です。連載「弱電設備の設計マニュアル」も今回で最終回。テーマは図面化と拾いです。

ここまでで、工事区分を決め、経路を確保し、LAN・テレビ・放送を配ってきました。最後に残るのは、それを他人が読める形にして、金額に変える作業です。今回の合言葉は「弱電は、図だけでは終わらない」

今回の全体像 ― 弱電は「図」だけでは終わらない

弱電は「図」だけでは終わらない強電(分電盤・受変電)単線接続図でほぼ確定する機器・容量・回路が1枚で読める図面を追えば数量も出せる図が仕様の中心線をたどれば仕事が見える弱電(通信・情報)単線接続図が存在しない系統図・配線図・機器仕様+ システム構成図・連動表表が図と同じ重さを持つ図だけでは仕様が決まらない火災報知には防火防煙連動表、中央監視には監視制御機能表「どの信号でどれが動くか」は線では描き切れないこの表を書き忘れると、施工段階で動作が決まらないHARITAの設計室

強電の設計は、最後は単線接続図に収束します。分電盤も受変電も、あの1枚に機器と容量と回路が載っていて、線をたどれば仕様がほぼ確定します。

ところが弱電には、単線接続図がありません。国土交通省の建築設備工事設計図書作成基準を見ると、通信・情報設備の成果物は「機器仕様・系統図・配線図」で、そこにシステム構成図が加わる建て付けになっています。

さらに特徴的なのがの存在です。火災報知設備には防火防煙連動表、中央監視設備には監視制御機能表が求められます。「どの信号を受けたら、どれが動くか」は線では描き切れないからです。弱電では、表が図と同じ重さを持ちます。ここを図面だけで済ませると、施工段階になって動作が決まらず止まります。

① 図記号は形より傍記 ― 端子盤は「対数」で語る

端子盤は「対数」で語るGB-60/80-2GBキャビネットG形端子板B形60実装している対数いま使う分80箱の容量将来の伸びしろ2端子板の列数盤の寸法に効く強電の分電盤は「回路数と主幹容量」。弱電の端子盤は「対数」数える単位が違うので、強電の感覚のまま拾うと必ず外れる弱電の図記号は、形よりも傍記に情報が載っている対数・回線数・局数・種別。記号だけ真似ても図面にならないHARITAの設計室

弱電の図記号はJIS C 0303で決まっていますが、覚えるべきは形よりも傍記です。同じ四角でも、脇に書かれた数字で意味がまるで変わります。

代表が端子盤です。たとえば GB-60/80-2 という表記は、キャビネットG形・端子板B形で、実装60対/容量80対、端子板2列を意味します。強電の分電盤が「回路数と主幹容量」で語られるのに対し、弱電の端子盤は対数で語られます。

この「実装/容量」という書き方が、弱電の思想をよく表しています。いま使う分と、将来の伸びしろを分けて書く。第2回の空配管と同じ発想です。容量いっぱいに実装した端子盤は、増設のときに必ず困ります。

なお、無線LANのアクセスポイントのように規格に記号がない機器も増えています。こういうものは凡例で定義するしかありません。凡例のない弱電図面は、読めない図面だと思ってください。

② 拾いの単位が、強電とそもそも違う

拾いの「単位」が、そもそも違う強電(低圧ケーブル)弱電(通信ケーブル) ケーブル端末の処理原則、数えない対数ごとに数える 光ファイバの成端心数ごとに数える 材料の所要量割増(天井内)1.05〜1.101.10〜1.20 途中での接続接続箱で継げるUTPは直線接続禁止 試験系統ごと全数 材料は増え、手間は減る通信ケーブルは割増が最大なのに電工の歩掛は0.8倍になる手間の大半は「結線」にある端子盤は箱だけ付けるなら歩掛0.3倍残り7割は成端の手間HARITAの設計室

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。弱電の拾いは、強電の感覚のままやると必ず外れます。

公共建築数量積算基準を読むと、はっきり書き分けられています。低圧ケーブルの端末処理は、原則として計測の対象としない。ところが情報通信ケーブルの端子接続は、対数ごとの個数で数える。光ファイバは心数ごとの個数です。

つまり弱電では、成端そのものが独立した作業として計上されます。実際、端子盤の歩掛には「箱のみ取り付ける場合は0.3倍」という注記があります。裏を返せば、端子盤の手間の7割は結線側にあるということです。器具の数だけ拾っても、仕事量の大半を取りこぼします。

材料の見方も違います。ケーブルの所要量割増は、強電の太物が1.05〜1.10なのに対し、UTPや同軸は1.10〜1.15、屋内通信線に至っては1.15〜1.20と全カテゴリで最大です。にもかかわらず、同じ場所の電工歩掛は0.8倍。材料は増えるのに、手間は減るという、強電とは逆の動き方をします。

割増が大きい理由は、やり直しが効かないからです。UTPは直線接続が認められていません。長さが足りなければ、端から端まで引き直しです。しかも試験は全数。強電の絶縁抵抗測定が系統ごとなのとは、負担がまるで違います。

③ そもそも「拾えない」設備がある

もうひとつ、弱電の見積で必ずぶつかる壁があります。

公共建築の標準歩掛が用意されているのは、構内交換/情報表示・拡声/誘導支援/テレビ共聴/監視カメラ/火災報知といった設備です。逆に言えば、LAN、映像音響、入退室管理、駐車場管制には公的な歩掛がありません

つまり、金額の大きい設備ほど「拾えば出る」が成立しない。専門業者の見積に頼らざるを得ない領域です。設計者にできるのは、見積を取れるだけの情報を図面と表に載せておくこと。系統図と機器仕様と、その設備が何をするのかが分かる構成図。ここが薄いと、見積の精度も比較の妥当性も落ちます。

テレビ共聴のように総合調整費を機器取付け労務費の20%で見るといった目安が用意されている設備もあります。弱電は「付けて終わり」ではなく調整して初めて使える設備なので、この役務をどう見込むかが金額を左右します。

④ 最後は工事区分表 ― 1枚の図面に3つの業種

1枚の弱電図面に、3つの業種が同居する電気工事構内電気設備配管・配線・端子盤電気工事士建物側でまとめやすい電気通信工事ネットワーク・放送機械TV電波障害防除工事担任者保守の役務は含まれない消防施設工事自動火災報知設備非常警報(非常放送)消防設備士消防同意・検査が付く同じスピーカーでも、館内放送は電気通信工事、非常放送は消防施設工事用途で業種が割れる。だから工事区分表が要る「図面に描いてあるのに、誰も見積もっていない」が起きる構造配線の帰属は設備ごとに違う。行ごとに決めるしかないHARITAの設計室

第1回で「弱電は誰が引くかから始まる」と書きました。最終回で、その話に戻ってきます。

弱電の図面には、建設業法上3つの業種が同居しています。配管・配線・端子盤は電気工事。ネットワークや放送機械、テレビ電波障害防除は電気通信工事。自動火災報知設備と非常警報は消防施設工事

厄介なのは、同じ機器でも用途で業種が割れることです。第5回で扱ったスピーカーがまさにそれで、館内放送なら電気通信工事、非常放送なら消防施設工事。1つの天井に付く同じ形のスピーカーが、書類の上では別の工事になります。

だから工事区分表が要ります。設備ごとに、設計・施工・支給・取付・調整・引込を誰が持つのかを行ごとに決めていく表です。「建物側が配管、利用者側が機器」という原則はありますが、配線の帰属だけは設備ごとにばらばらになります。防犯カメラはモニターまでの配線を含む、LANはEPSまでは建物側、といった具合です。

この表がないと、「図面に描いてあるのに誰も見積もっていない」か、「二重に計上されている」のどちらかが起きます。弱電で予算が狂うときは、たいていこれです。

なお、「配管だけ工事」も公的に想定されています。竣工後に通信事業者が配線する場合は、空配管のルートが分かる系統図を弱電盤に備えておくこと、と定めている自治体の施工要領もあります。強電ではまず見ない形態です。

⑤ あとで拾える図面にする ― 更新性は仕様書に書いてある

弱電の図面は、竣工したら終わりではありません。10年後に誰かが改修するときの唯一の手がかりになります。

公共建築工事標準仕様書は、この点を具体的に書いています。編出し部分は、端子収容替えが1回以上できる程度の余長をもたせる接続しない予備心線にも、十分な余長をもたせる。通線しない配管には呼び線を入れておく

注目してほしいのは、改修工事の仕様書が「端末機器と主装置の対照」から始まることです。心線対照からやり直す前提で基準が書かれている。つまり「弱電の図面は信用できない」というのが、業界の共通認識だということです。

その前提をひっくり返せるのは、設計者と施工者しかいません。予備心が何本、どこに残っているか空配管がどこからどこへ通っているか。これを図面と表に残しておくだけで、次の担当者の仕事は半分になります。

⑥ 連載の総まとめ ― 弱電設計の6ステップ

弱電設計の6ステップ 1工事区分誰が引くかを最初に決める 2配管ルート空配管はいちばん安い保険 3LAN・電話距離でIDFの位置が決まる 4テレビ共聴引き算でレベルを積む 5放送・IP区域でスピーカーが決まる 6図面化と拾いあとで拾える図面にする 弱電は「誰が引くか」に始まり、「あとで拾えるか」に終わる最初と最後が、どちらも人の話であるところが弱電らしさHARITAの設計室

全6回を1枚に並べると、こうなります。

①工事区分で誰が引くかを決め、②配管ルートで道を確保し、③LAN・電話で距離からIDFの位置を決め、④テレビ共聴でレベルを引き算し、⑤放送・IPで区域からスピーカーを決め、⑥図面化と拾いで他人が読める形にする。

こうして並べると、弱電の特徴がはっきりします。最初と最後が、どちらも「人」の話なのです。始まりは「誰が引くか」、終わりは「次の誰かが読めるか」。間に挟まった技術の話より、実はこの2つのほうが案件を左右します。

まとめ

  • 弱電に単線接続図はない。系統図・配線図・機器仕様に加え、連動表などの「表」が図と同格の成果物になる
  • 図記号は形より傍記。端子盤は「実装/容量-列数」の対数で表す。規格にない機器は凡例で定義する
  • 低圧ケーブルの端末処理は数えないが、情報通信ケーブルの成端は対数ごとに数える。拾いの単位が根本的に違う
  • ケーブルの材料割増は弱電が最大(最大1.20)なのに、電工歩掛は0.8倍。材料は増え、手間は減る
  • UTPは直線接続禁止・試験は全数。長さを間違えると引き直しになるため、割増が大きい
  • LAN・映像音響・入退室管理には公的な歩掛がない。金額の大きい設備ほど専門業者見積に頼ることになる
  • 1枚の図面に電気工事・電気通信工事・消防施設工事が同居する。同じスピーカーでも用途で業種が割れる
  • 工事区分表は行ごとに決める。配線の帰属は設備ごとにばらばら
  • 更新性は仕様書に明記されている。編出しの余長・予備心の余長・呼び線を残す
  • 改修の基準が「心線対照から始める」前提で書かれている。図面を信用してもらえる状態にできるのは設計者と施工者だけ

よくある質問

Q. 弱電の見積が業者ごとに大きく違うのはなぜですか。
公的な歩掛がある設備が限られているためです。LANや映像音響、入退室管理には標準歩掛がなく、各社の積算根拠がそのまま出ます。総額で比べるより、成端の数、調整・試験の計上、支給品の扱いがそろっているかを見てください。

Q. 器具の数は合っているのに、金額が合いません。
成端を数えていない可能性が高いです。弱電は端子接続が独立した数量になります。端子盤も、箱を付けるだけなら手間は3割で、残りは結線側です。

Q. 工事区分表はどこまで細かく書くべきですか。
設備ごとに行を分けて、配線の帰属を必ず明記してください。「弱電一式は利用者側」のような書き方が、いちばん揉めます。

Q. 竣工図で、最低限これだけは残すとしたら何ですか。
空配管のルート予備心の本数と位置です。この2つがあるかどうかで、次の改修の手間がまったく変わります。

連載を終えて ― 次はどこへ

全6回、おつかれさまでした。

弱電は、強電に比べて「なんとなく」で流されやすい設備です。図面の枚数も少なく、金額も相対的に小さい。けれど、竣工後にいちばん揉めるのも、改修でいちばん困るのも弱電です。誰が引くかを最初に決め、あとで拾える形で残す。この2つを押さえているだけで、案件の景色はかなり変わります。

他の工事項目の計画ステップは、ハブページの 設計・施工マニュアル にまとめてあります。引込・受変電・幹線コンセント・照明・弱電まで、工事項目ごとに「何を・どの順番で決めるか」を並べてあるので、次の案件の入口としてお使いください。

連載として次に取り上げてほしいテーマがあれば、ぜひ教えてください。

弱電設備の設計マニュアル(全6回)
①全体フローと工事区分②配管・配線ルート③LAN・電話④テレビ共聴⑤放送・IP/⑥図面化と拾い(この記事)

主な参考資料
国土交通省「建築設備工事設計図書作成基準」/「公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)」令和7年版/「公共建築設備工事標準図(電気設備工事編)」令和7年版/「公共建築数量積算基準」令和7年改定/「公共建築工事標準単価積算基準」令和8年改定/「公共建築改修工事標準仕様書(電気設備工事編)」/JIS C 0303 構内電気設備の配線用図記号/建設業法(電気工事業・電気通信工事業・消防施設工事業の区分)
※基準類は改定年が資料ごとに異なります。実務では最新版をご確認ください。
この回の根拠・深掘り記事
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