「先輩から『60歳でiDeCoをもらって、65歳で退職金をもらうと得だ』って聞いたんですけど」

「その話、もう変わっているよ

ペン太くんが固まりました。

長らく「知っている人だけが得をする」テクニックとして知られていた受け取り方があります。ところがこれが2025年度(令和7年度)の税制改正で見直され、2026年1月1日以後にiDeCoの一時金を受け取った場合から新しいルールが適用されています。

金額のインパクトが大きく、しかも「いつ受け取ったか」で新旧が分かれるので、60代が近い方は一度確認しておく価値があります。

注意点

退職所得の計算は個別事情の影響が大きい分野です。この記事は制度の変更点を整理したものです。実際の受け取り設計は必ず税理士等にご相談ください。


💡前提|退職所得控除は「とても強い」

まず、なぜこの話が金額に効くのかを押さえておきます。

退職金やiDeCoの一時金を受け取るとき、退職所得控除という大きな控除が使えます。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

ポイント!iDeCoの「勤続年数」は掛金を出した期間

会社の退職金なら勤続年数そのままですが、iDeCoの一時金の場合は、掛金を拠出した期間(通算加入者等期間)が勤続年数として使われます。あとで自分の枠を計算するときに必要になるので、覚えておいてください。

たとえば勤続38年なら、800万円+70万円×18年=2,060万円まで控除されます。しかも控除しきれなかった分もさらに2分の1になり、他の所得と分離して課税されます。

だからこそ、この控除を「2回フルに使えるか」で税額が大きく変わるわけです。

注意点|「2分の1」には例外があります

役員等としての勤続年数が5年以下の場合(特定役員退職手当等)は2分の1計算が使えません。役員等以外でも、勤続年数5年以下の場合(短期退職手当等)は300万円を超える部分に2分の1計算が使えません。

iDeCoの一時金は掛金を拠出した期間が「勤続年数」として扱われるため、たとえば60代から加入して5年ほどで受け取る場合は、この例外に当たることがあります。

ポイント!

先に言っておくと、退職金とiDeCoの合計が控除の枠に収まる方には、この記事の話は影響しません。枠を超えそうな方だけが読めば十分な内容です。


📜これまでの「5年ルール」とは何だったのか

iDeCoの一時金と退職金を同じ年や近い年にまとめて受け取ると、勤続期間と掛金の拠出期間が重なっている部分について控除が調整され、その分は二重に使えません。期間の重なりが大きいほど、実質的に1回分に近づきます。

ところが従来の制度では、iDeCoの一時金を先に受け取り、その5年後に退職金を受け取れば、調整の対象から外れて両方でフルに控除が使えました。

これが「5年ルール」と呼ばれていたものです。

60歳でiDeCoを一時金で受け取る → 65歳で会社の退職金を受け取る

という組み合わせがちょうど5年空くため、定年が65歳の会社に勤めている人にとっては、そのまま当てはまる便利な形でした。


🔄何が変わったのか|4年内 → 9年内へ

2025年度の税制改正で、この調整の対象期間が延ばされました。

改正前 改正後
iDeCo一時金 → 退職金の順で受け取る場合 前年以前4年内に一時金があると調整 前年以前9年内に一時金があると調整
実質的に必要な間隔 5年 10年

つまり、60歳でiDeCoを受け取ったら、退職金は70歳以降に受け取らないと、両方でフルに控除を使うことはできなくなりました。

「60歳iDeCo → 65歳退職金」は、まさにこの網にかかります。


iDeCo一時金と退職金の間に必要な間隔が5年から10年に延びたことを示した時系列図
図1:調整期間が「前年以前4年内」から「9年内」へ延びた

⚠️ここが肝|適用されるかどうかは「いつ受け取ったか」で決まる

この記事でいちばん大事なところです。

改正は、次の両方を満たす場合に適用されます。

2026年1月1日以後に老齢一時金の支払を受けている場合であって、

同日以後に支払を受けるべき退職手当等について適用する

これを言い換えると、こうなります。

iDeCo一時金を受け取った時期 適用されるルール
2025年12月31日まで 従来どおりの4年ルール(実質5年空ければOK)
2026年1月1日以後 新しい9年ルール(実質10年必要)

ポイント!

つまり、2025年中にiDeCoの一時金を受け取った方は、これまでどおりの取り扱いです。ネット上には「10年ルールになった」とだけ書いてある記事が多いのですが、受け取った年で新旧が分かれるという点まで押さえておかないと、誤った心配をすることになります。

ご自身やご家族がいつ受け取ったのか(受け取る予定か)を、まず確認してください。


2026年1月1日を境に新旧どちらのルールが適用されるかを示した図
図2:新旧どちらのルールが適用されるかの分かれ目

🔁逆の順番(退職金が先)は変わっていません

もうひとつ、混同されやすい点です。

退職金を先に受け取り、あとからiDeCoの一時金を受け取る場合は、従来から「前年以前19年内」という長い調整期間が設定されていました。いわゆる「20年ルール」です。

こちらは今回の改正では変わっていません。

整理すると、こうなります。

受け取る順番 調整される期間 今回の改正
iDeCo一時金 → 退職金 前年以前9年内(改正前は4年内) 変わった
退職金 → iDeCo一時金 前年以前19年内 変わっていない

もともと「iDeCoを先に受け取るほうが有利」だったのは、この期間の差(4年 vs 19年)が理由でした。今回の改正で差は縮まりましたが(9年 vs 19年)、順番による有利不利そのものは残っています

注意点|企業型DCの一時金も同じ扱いです

今回の9年ルールが対象にしているのは、条文上「企業型年金規約または個人型年金規約にもとづいて老齢給付金として支給される一時金」です。つまりiDeCoだけでなく、企業型DCの老齢一時金も同じルールが適用されます。サブコンにお勤めの方はこちらに該当することが多いはずです。


👷電気設備の仕事だと、どこで効いてくるのか

この改正が刺さるのは、次のような方です。

①サブコン・工事会社に長く勤めて、iDeCoもやっている

いちばん直撃するパターンです。定年が65歳で、60歳でiDeCoを受け取ろうと考えていた方は、設計を組み直す必要があります。

考えられる選択肢としては、

  • 受け取る順番を入れ替える(退職金を先に受け取り、iDeCoは年金形式または後ろにずらす)
  • iDeCoを一時金ではなく年金として受け取る(この場合は退職所得ではなく公的年金等の雑所得として扱われます)
  • iDeCoの受け取りを遅らせる(受給開始は75歳になるまでの間で選べます)

といったものがあります。どれが有利かは、退職金の額・勤続年数・他の所得によって変わります。

②独立していて、小規模企業共済もかけている

一人親方・個人事業主の方は、小規模企業共済の一括受取も退職所得になります。

つまり「iDeCo」「小規模企業共済」という2つの退職所得が発生しうるわけで、受け取る順番と間隔の設計が、勤め人よりむしろ複雑になります。組み合わせによって調整される期間が変わるためです。

受け取る順番 調整される期間
iDeCo一時金 → 小規模企業共済(一括) 前年以前9年内
小規模企業共済(一括) → iDeCo一時金 前年以前19年内
小規模企業共済(一括)⇄ 退職金(DCが絡まない) 前年以前4年内

③60代でも現場に出ている

2026年12月からiDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで広がります。長く働いて長く積むという選択肢が増えたぶん、出口の設計もあわせて考える必要が出てきました。


🧭では、どうすればいいのか

具体的な最適解は人によって違うので、断定はできません。ただ、やっておくべき確認ははっきりしています。

  1. 自分の退職金がいくらかを確認する(就業規則・退職金規程、または総務へ)
  2. 勤続年数から退職所得控除額を計算してみる(上の表で計算できます)
  3. iDeCo・小規模企業共済の残高を確認する
  4. その合計が退職所得控除の枠に収まるかどうかを、ざっくりした目安として見る(実際には重複期間の調整や2分の1課税が入るので、あくまで当たりをつけるための計算です)
  5. 収まらないなら、受け取る順番・時期・方法(一時金か年金か)を税理士と相談する

ポイント!

④で「控除の枠に全部収まる」なら、そもそもこの話で悩む必要はありません。枠を超えそうな方だけが、順番の設計を考えればよい話です。

まずは計算してみて、自分がどちらなのかを知るところからです。


✅まとめ

  • 退職所得控除は勤続20年超で800万円+70万円×(勤続年数−20年)と非常に大きい
  • 「60歳でiDeCo一時金 → 65歳で退職金」という5年ルールが使えなくなった
  • iDeCo一時金→退職金の調整期間が前年以前4年内 → 9年内へ。実質10年必要に
  • 適用は「いつ受け取ったか」で決まる。2025年12月31日までに一時金を受け取った方は従来の4年ルールのまま
  • 退職金が先 → あとからiDeCoという逆順は「前年以前19年内」で変わっていない
  • 企業型DCの老齢一時金も同じ9年ルールの対象。iDeCoだけの話ではない
  • 一人親方は小規模企業共済の一括受取も退職所得。組み合わせで調整期間が変わり、設計はより複雑になる
  • 退職所得の「2分の1」には例外がある(勤続5年以下の短期退職手当等など)。iDeCoは掛金の拠出期間が勤続年数になる点に注意
  • まずは退職金額・勤続年数・iDeCo残高を確認し、控除の枠に収まるかどうかを見るところから

制度が変わったこと自体より、「自分がどちらのルールに当たるのか」を知らないまま受け取ってしまうことのほうがリスクです。60代が近い方は、一度手を止めて確認してみてください。


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⚠️免責事項

本記事は公表されている税制改正の内容を整理した情報提供であり、特定の受け取り方法や金融商品を推奨するものではありません

退職所得の課税関係は、勤続年数・退職金額・他の所得・受給の時期および方法によって結論が変わります。本記事の内容をそのまま個別のケースに当てはめることはできません。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

記載の内容は2026年7月30日時点で公表されている情報にもとづきます。当サイトは金融商品取引業者ではなく、投資助言・代理業には該当しません。

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