動力盤の図面や始動器の銘板に出てくる「Y-Δ」「スターデルタ始動」。用語集では一言で説明されますが、なぜ始動電流が1/3になるのか、直入れと比べて何が変わるのか、盤の中でどう切り替えているのかまでは分かりにくい言葉です。この記事は、この3つだけにしぼって説明します。

ペン太ペン太
動力盤の図面に「Y-Δ」って書いてあるモーターがありました。何のことですか?
ハリタハリタ
スターデルタ始動のことだよ。回り始めの大きな電流を、3分の1に抑える始動の方法なんだ。
はじめての方へ:まず言葉の意味
モーターは回り始めに定格の6倍ほどの大きな電流が流れるので、巻線をY結線にして電流を3分の1に抑えて始動し、数秒後にデルタ結線に切り替えて全力で運転する、というスターデルタ始動の考え方を3コマで示す動く図解
ひとことで言うと
「スターデルタ始動」は、モーターを回し始めるとき、巻線をY(スター)につないで電流を1/3に抑え、回り出したらΔ(デルタ)につなぎかえる方法です。
読み方
スターデルタしどう/ワイデルタしどう
どこで出てくる?
動力盤の図面(「Y-Δ」「スターデルタ」の表記)、ポンプや送風機の始動器、電気工事士や電験の試験。

結論

スターデルタ始動は、Y結線で始動して、回転が上がったらΔ結線に切り替える始動方法です。Yでは巻線の電圧が1/√3になるので、始動電流もトルクも1/3になります。盤の中では、電磁接触器3台とタイマーで切り替えます。

  • Yでは巻線1つに約115V(200Vの場合)、Δでは200V
  • 始動電流は直入れの約1/3。そのかわり力も1/3
  • YからΔに切り替える瞬間に、電流の山ができる
  • MCM・MCS・MCDとタイマー。MCSとMCDはインタロック
この記事でわかること
気になるものを選べば、その項目へ飛べます。

この記事に出てくる言葉

読む前に、意味をざっと押さえておくと分かりやすくなります。

言葉 読み方 やさしい説明
三相誘導電動機 さんそうゆうどうでんどうき 工場やビルで一番よく使われるモーター。3本の線の電気で回る。
始動電流 しどうでんりゅう モーターが回り始める瞬間に流れる大きな電流。定格の5〜8倍ほど。
巻線 まきせん モーターの中の、電線をぐるぐる巻いたコイル。3つある。
Y結線(スター結線) ワイけっせん 3つの巻線の片側を1点にまとめるつなぎ方。
Δ結線(デルタ結線) デルタけっせん 3つの巻線を三角形につなぐつなぎ方。
トルク ― モーターが回そうとする力。
電磁接触器(MC) でんじせっしょくき 電気の信号で、モーターの回路を入れたり切ったりするスイッチ。
インタロック ― 同時に入ってはいけない2つの接触器が、同時に入らないようにするしくみ。
先に理解しておきたいこと

「スターデルタ始動」を理解するために、土台になる考え方を3つだけ押さえておきましょう。

1

モーターは、回り始めがいちばん電流を食う

止まっているモーターを回し始める瞬間は、ふだんの5〜8倍ほどの電流が流れます。この大きな電流で、ブレーカーが落ちたり、ほかの機器の電圧が下がったりします。

2

巻線にかかる電圧を下げれば、電流も下がる

電流は、電圧÷インピーダンスで決まります。巻線1つにかかる電圧を下げれば、流れる電流も小さくなります。

3

電圧を下げると、力も下がる

電圧を下げると電流は減りますが、モーターが回そうとする力(トルク)も小さくなります。電流と力は、引きかえの関係です。

なぜ始動電流が1/3になる? ― Yにすると巻線の電圧が1/√3

ペン太ペン太
同じモーターなのに、どうして電流が3分の1になるんですか?
ハリタハリタ
巻線のつなぎ方をYにすると、巻線1つにかかる電圧が√3分の1になるのさ。電流もそれだけ減るんだ。

三相誘導電動機には、3つの巻線があります。ふだんの運転では、これを三角形のΔ結線にして、巻線1つに線間電圧(200V)をそのままかけます。始動のときだけ、片側を1点にまとめたY結線にすると、巻線1つにかかる電圧は200V÷√3=約115Vになります。

始動Y結線1つに約115V
運転Δ結線1つに200V
電流3分の1
トルク3分の1

巻線の電圧が1/√3なら、巻線を流れる電流も1/√3です。さらに、Δでは電線の電流が巻線の電流の√3倍になるのに対し、Yでは電線の電流と巻線の電流が同じです。合わせると、電線を流れる始動電流は1/√3×1/√3=1/3になります。モーターが回そうとする力(トルク)も、同じく1/3になります。

たとえるなら
スターデルタ始動は、自転車の「軽いギアでこぎ出し」
止まった自転車を重いギアでこぎ出すと、足に大きな力がかかりますよね。軽いギア(Y)でこぎ出して、スピードが乗ったら重いギア(Δ)に切り替える。足(電源)への負担を減らす工夫です。
ここに注意!
「Yのままでも、ずっと運転できる」ではありません。
Y結線のままだと、巻線にかかる電圧が1/√3で、モーターは本来の力を出せません。重い負荷がかかると回転が落ちて、電流が増えます。始動が終わったら、必ずΔに切り替えます。
ここまでのポイント
  • Yでは巻線1つの電圧が1/√3(200Vなら約115V)
  • 電線の始動電流は、直入れの1/3
  • トルクも1/3。始動が終わったら必ずΔへ

直入れと比べると ― 山は低く、力も小さい

ペン太ペン太
いいことばかりなら、全部スターデルタにすればいいんじゃないですか?
ハリタハリタ
力も3分の1になるんだ。重い荷物を載せたままだと、回り切らないことがあるよ。

直入れ(全電圧始動)では、始動電流は定格電流の5〜8倍ほどになります。スターデルタ始動なら、その1/3に抑えられます。ブレーカーや電線、電源の変圧器への負担が軽くなり、ほかの機器の電圧が一瞬下がる(電圧降下)のも小さくなります。

直入れ約6倍
Y始動約2倍
切り替え小さな山
引きかえ力も1/3
比べること 直入れ スターデルタ始動
始動電流 定格の5〜8倍ほど 直入れの約1/3
始動トルク 大きい 直入れの約1/3
切り替え なし YからΔへの切り替えで電流の山ができる
盤とケーブル 接触器1台・電線3本 接触器3台+タイマー・電線6本
向いている機械 小さなモーター全般 ポンプ・送風機など始動の負荷が軽いもの

YからΔに切り替える一瞬は、モーターの電気がいったん切れてからつながるため、電流の山ができます(オープン・トランジション)。この山を小さくするために、切り替えの間も抵抗を通して電気を流し続けるクローズド・トランジションという方式もあります。

たとえるなら
切り替えの山は、ギアチェンジの「ガクン」
自転車でギアを変えた瞬間に、少しガクンとくるのと同じです。YからΔに切り替える一瞬、電気がいったん切れてからつながるので、電流の山ができます。
ここに注意!
「スターデルタなら、どんな機械でも始動できる」ではありません。
始動の力(トルク)も1/3になります。負荷が重い機械(コンベヤを荷物ごと動かすなど)では、Yのまま回り切らず、切り替えたときに大きな電流が流れることがあります。負荷を軽くして始動するか、別の始動方式を考えます。
ここまでのポイント
  • 始動電流は直入れの約1/3。電源やブレーカーにやさしい
  • トルクも1/3。始動の負荷が軽い機械向き
  • 切り替えの瞬間に電流の山ができる


盤の中の切り替え ― 電磁接触器3台とタイマー

ペン太ペン太
盤の中では、どうやって切り替えているんですか?
ハリタハリタ
電磁接触器3台とタイマーだよ。スター用とデルタ用が同時に入らないように、インタロックをかけておくのさ。

スターデルタ始動器は、電源側のMCM、スター用のMCS、デルタ用のMCDの3台の電磁接触器と、切り替えのタイマーでできています。

MCM+MCSYで始動
タイマー数秒待つ
MCDΔで運転
インタロックMCSとMCDは同時に入れない

まずMCMとMCSが入ってYで始動し、タイマーで数秒待ってからMCSが切れ、MCDが入ってΔで運転します。MCSとMCDが同時に入ると電源をショートさせてしまうので、互いに入らないようにインタロックをかけます(シーケンス制御の基本回路)。また、巻線の両端をそれぞれ盤まで引き出すので、モーターまでの電線は6本(3心ケーブル2本など)になります。

ここに注意!
「サーマルリレーは、モーターの定格電流に合わせればよい」とは限りません。
サーマルリレーを巻線側に入れる回路では、流れるのは巻線の電流(相電流)なので、整定は定格電流の約1/√3(約0.58倍)になります。どこに入っているかを図面で確かめます。
ここまでのポイント
  • MCM+MCSでY始動 → タイマー → MCS切 → MCD入でΔ運転
  • MCSとMCDはインタロックで同時に入れない
  • モーターまでの電線は6本

まとめ|結論

結論

スターデルタ始動は、Y結線で始動して巻線の電圧を1/√3に下げ、始動電流を直入れの約1/3に抑える方法です。そのかわりトルクも1/3になるので、始動の負荷が軽い機械に向いています。盤の中では電磁接触器3台とタイマーで切り替え、MCSとMCDにはインタロックをかけます。

図面でスターデルタ始動を確かめるときは、この順で見ます。

  1. モーターの容量と、始動方式の表記(Y-Δ・スターデルタ)
  2. モーターまでの電線が6本(3心2本など)になっているか
  3. MCM・MCS・MCDとタイマー、MCSとMCDのインタロック
  4. サーマルリレーの位置と整定値(巻線側なら約1/√3)


よくある質問

スターデルタ始動(Y-Δ始動)とは何ですか?

三相誘導電動機の始動方法の1つです。回り始めは巻線をY(スター)結線にして始動電流を抑え、回転が上がったらΔ(デルタ)結線に切り替えて運転します。

なぜ始動電流が1/3になるのですか?

Y結線では巻線1つにかかる電圧が1/√3になり、巻線を流れる電流も1/√3になります。Δ結線では電線の電流が巻線の電流の√3倍になるので、比べると電線の電流は1/√3×1/√3=1/3になります。

スターデルタ始動の弱点は何ですか?

始動の力(トルク)も1/3になるので、重い負荷をつないだままでは回り切らないことがあります。また、YからΔに切り替える瞬間に電流の山ができます。ポンプや送風機など、始動時の負荷が軽い機械に向いています。

スターデルタ始動には、何が必要ですか?

電源側(MCM)、スター用(MCS)、デルタ用(MCD)の電磁接触器3台と、切り替えのタイマーが必要です。モーターまでの電線は、巻線の両端をそれぞれ引き出すため6本になります。

サーマルリレーの整定は、定格電流のままでよいですか?

サーマルリレーを巻線側(相電流が流れる側)に入れる回路では、定格電流の約1/√3(約0.58倍)に整定します。回路のどこに入っているかで変わるので、始動器の図面とメーカーの資料で確かめます。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。