建築消防|令8区画と共住区画の違い|電気配線を通せる区画・通せない区画
「開口部のない耐火構造の床又は壁で区画する」という同じ文言で書かれているのに、令8区画には電気配線を通せず、共住区画には通せます。この差を知らずにEPSを1本立ち上げると、1棟を2つの防火対象物に分けていたはずの令8区画が成立しなくなり、消防用設備等の設置義務が一気に増えます。
しかも令8区画は令和6年4月1日施行で改正され、貫通の条件が通知から消防法施行規則へ格上げされました。この記事では、令8区画と共住区画の違いを条文レベルで整理し、電気設備設計として何をどう計画すればいいかまで落とします。
令8区画とは ― 1棟を「別の防火対象物」に分ける仕掛け
消防法施行令第8条は、防火対象物が一定の部分で区画されているとき、その区画された部分を「それぞれ別の防火対象物とみなす」と定めています。この区画が、実務で「令8区画」と呼ばれるものです。
消防法施行令 第8条(通則)
防火対象物が次に掲げる当該防火対象物の部分で区画されているときは、その区画された部分は、この節の規定の適用については、それぞれ別の防火対象物とみなす。
一 開口部のない耐火構造の床又は壁
二 床、壁その他の建築物の部分又は建築基準法第二条第九号の二ロに規定する防火設備(防火戸その他の総務省令で定めるものに限る。)のうち、防火上有効な措置として総務省令で定める措置が講じられたもの(前号に掲げるものを除く。)
効果が及ぶ範囲は「この節」、つまり第2章第3節(消防用設備等の設置及び維持の技術上の基準)に限られます。防火管理者の選任や用途判定にまで当然に及ぶわけではない、という点は押さえておいてください。
図1のように、下層が店舗・上層が共同住宅のいわゆる「ゲタばき」で令8区画が成立していれば、延べ面積6,000㎡の1棟ではなく、4,200㎡と1,800㎡の2つの防火対象物として基準が適用されます。屋内消火栓もスプリンクラーも自動火災報知設備も、区画ごとの規模で判定されるということです。
令和6年4月1日、令8条が改正されています
ここは古い解説と現行法が食い違っているところなので、先に整理します。建築基準法に「別棟みなし規定(火熱遮断壁等)」が創設されたことに合わせて、消防法令も改正されました。改正政令の公布が令和6年1月17日、関係省令・告示の公布が同年3月29日、施行が令和6年4月1日です。
- 第2号が新設されました。渡り廊下・地下連絡路などの扱いが、通知(昭和50年消防安第26号など)から法令に一本化されています。
- 従来の令8区画は第1号です。構造要件と配管貫通の条件は、消防法施行規則第5条の2として省令に格上げされました。
令8区画(第1号)の構造要件 ― 規則第5条の2第1項
- 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造その他これらに類する堅ろうで、かつ、容易に変更できない構造であること
- 通常の火災による火熱が2時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形・溶融・破壊その他の損傷を生じないこと
- 壁等の両端又は上端は、外壁又は屋根から50cm以上突き出すこと(ただし書あり)
- 配管を貫通させないこと(第4号の基準に適合する場合を除く)
「2時間」「50cm突出し」「原則として配管を通さない」。この3つが令8区画のハードルの高さを決めています。建築基準法の防火区画(令第112条)の感覚で判断すると必ずズレます。
令8区画に電気配線は通せない
本題です。規則第5条の2第1項第4号は、やむを得ず配管を貫通させる場合の条件を並べていますが、その筆頭に用途の限定があります。
規則第5条の2第1項第4号(配管貫通の条件)
- 用途:配管の用途は、原則として給排水管であること
- 呼び径:200mm以下であること
- 貫通部の断面積:直径300mmの円の面積以下であること
- 開口部相互間の距離:大きい方の穴の直径以上。その直径が200mm以下の場合は200mm以上
- すき間:不燃材料により埋める方法等により、火災時に生ずる煙を有効に遮ること
- 一体の性能:配管及び貫通部は、区画と一体として2時間の性能を有すること
- 配管表面に可燃物が接触しない措置を講じること
条文のどこにも「電線」「ケーブル」「電気配線」は出てきません。そして、この点は平成7年 消防予第166号の執務資料に、問答の形ではっきり書かれています。
平成7年 消防予第166号(執務資料)
問 電気配線及びガス配管が、令8区画を貫通することは、認められるか。
答 認められない。
令和6年の省令化によって、この「認められない」が通知レベルから法令レベルに固まりました。令8区画に幹線を通せない、弱電も通せない、というのは、消防本部の裁量ではなく条文の帰結です。
共住区画は、電気配線を通せる
一方の共住区画は、特定共同住宅等(平成17年総務省令第40号を適用する共同住宅)で、住戸等の相互間を開口部のない耐火構造の床又は壁で区画するものです。文言はほとんど同じなのに、貫通の扱いが違います。
根拠は平成17年 消防庁告示第4号です。この告示は表題からして「住戸等の床又は壁並びに当該住戸等の床又は壁を貫通する配管等及びそれらの貫通部が一体として有すべき耐火性能を定める件」で、その「配管等」の定義がこうなっています。
平成17年 消防庁告示第4号
配管、電気配線その他これらに類するもの(以下単に「配管等」という。)
定義そのものに電気配線が入っています。さらに平成7年 消防予第53号は、共住区画を貫通できるものを「給排水管、空調用冷温水管、ガス管、冷媒管等であり、これには、電気配線が含まれるもの」と明記しています。同じ第166号の執務資料にも、冷媒管・電気配線が共住区画を貫通することは53号通知に適合していれば差し支えない、という問答があります。
数値の条件は共住区画も同じ
通せる・通せないは正反対でも、通し方の数値条件はほぼ共通です。呼び径200mm以下、貫通用の開口部は直径300mm相当以下、同一壁面の開口部相互間は200mm以上、すき間は不燃材料で埋める。電気配線であってもこの制約は同じようにかかります。EPSから住戸へ引き込むスリーブの径とピッチは、意匠図が固まる前に押さえておくべき数字です。
令8区画と共住区画の比較
| 項目 | 令8区画 | 共住区画 |
|---|---|---|
| 根拠 | 令第8条第1号/規則第5条の2 | 省令40号・告示第2号/第4号 |
| 目的 | 別の防火対象物とみなす (設置単位を分ける) |
特定共同住宅等の特例を 適用する前提条件 |
| 給排水管 | ○ | ○ |
| 空調用冷温水管 | × | ○ |
| ガス管 | × | ○ |
| 冷媒管 | × | ○ |
| 電気配線・ケーブル | × | ○(条件付き) |
| 呼び径 | 200mm以下 | 200mm以下 |
| 貫通部の径 | 直径300mm相当以下 | 直径300mm相当以下 |
| 開口部相互間 | 大径以上(200mm以下なら200mm) | 200mm以上 |
| 耐火性能 | 2時間 | 告示第4号の試験基準 |
電気設備設計としてどう計画するか
EPSは令8区画をまたげない
電気配線そのものが通せない以上、EPSを令8区画の上下・左右に連続させることはできません。区画で分かれた各部分ごとに独立したEPSを設け、幹線も区画ごとに完結させる計画が必要になります。
受電計画も連動します。1回線で受けて上下に振り分ける、という素直な形が取れないため、住宅系と店舗系で引込を分ける、あるいは区画外(外部・ピット・別ルート)を経由させる、といった判断が要ります。これは意匠・構造が固まってからでは間に合わない話で、基本計画の段階で建築側と共有しておくべき条件です。
弱電も例外ではない
電話、アンテナ、LAN、インターホン。条文にも通知にも「電気配線」としか書かれておらず、強電と弱電を区別する記述はどこにもありません。幹線には気をつけたのに弱電を1本通してしまった、という形の事故が起こりやすいところです。テレビ共聴の幹線やLANの縦系統も、令8区画をまたげません。
所轄消防本部の運用も確認しておく
国の通知は「認められない」で一貫しており、各消防本部の審査基準も同じ立場を明記しています。
- 船橋市消防局:「配管の用途は、原則として給排水管(付属する通気管を含む)であり、ガス管及び電気配線の貫通は、認められないものであること」
- 長崎県央地区消防:「電気配線及びガス配管の貫通は認められない」
バスダクトと電線管は、明文がありません
調べた範囲では、バスダクトの令8区画・共住区画の貫通について、消防庁の通知・告示・省令のいずれにも明示的な記述を確認できませんでした。金属管・合成樹脂管そのものの管種別の扱いについても同様です。条文は管種ではなく「配管の用途」で切る建付けになっているためです。電気配線が不可である以上バスダクトも不可と解するのが自然ですが、断定できる根拠は見つかっていません。この2つは、協議で確認すべき項目として持っておくのが安全です。
令8条と令9条は、分け方も効き方も違う
「複合用途だから用途ごとに判定されるのでは」と混同されやすいので、ここも整理しておきます。
| 令第8条 | 令第9条 | |
|---|---|---|
| 分割の根拠 | 物理的な区画 | 用途(複合用途の各用途部分) |
| 効果 | 区画部分を別の防火対象物とみなす | 用途部分を一の防火対象物とみなす |
| 例外 | なし(第3節の全規定に及ぶ) | かっこ書きで多数の条文を除外 |
効いてくるのは令9条のかっこ書きです。スプリンクラー設備(令12条の一部)、自動火災報知設備(令21条の一部)、ガス漏れ火災警報設備(令21条の2)、非常警報設備(令24条)、避難器具(令25条)、誘導灯(令26条)などは除外されており、これらは棟全体で判定されます。建物全体で機能すべき警報・避難系の設備は、令9条では分割されないということです。
対して令8条には除外がありません。自動火災報知設備や誘導灯まで区画ごとに独立して判定させたいなら、令9条では足りず、令8区画を成立させる必要があります。ここが設計判断の分かれ目です。適用の順序としては、まず令8条で防火対象物を分割し、分割後のそれぞれに令9条以下を当てる、という関係になります。
設計時のチェックリスト
- その区画は令8区画か、共住区画か。呼び名が似ているだけで、要求も貫通可否もまったく別物です。図面のどの線が何なのかを最初に確定させます。
- 令8区画があるなら、幹線・弱電のルートは区画をまたがない。EPSは区画ごとに独立。受電から住宅系・店舗系を分ける計画を基本設計で決めます。
- 共住区画を通す配線は、呼び径200mm・開口φ300相当・相互間200mmの制約を意匠図が固まる前に建築へ渡します。
- 貫通処理は消防法と建築基準法で別の基準。令8区画は2時間耐火かつ用途限定で、建基法令第112条の区画貫通処理より厳しいと考えてください。認定工法の適用範囲も確認が要ります。
- 消防同意の前に所轄と協議する。特にバスダクト、電線管の管種、既存改修での扱いは運用差が出やすい項目です。
- 施工・監理まで通して管理する。令8区画は一箇所でも不適合があれば区画全体が不成立になり、別棟扱いが崩れて設備の設置義務が一気に増えます。あとから1本通した弱電ケーブルが、それを引き起こします。
まとめ
令8区画と共住区画は、条文の書きぶりが似ているだけで別の制度です。令8区画は原則として給排水管しか通せず、電気配線は通せません。共住区画は電気配線を含む設備配管を条件付きで通せます。そして令8区画は令和6年4月1日施行で改正され、その条件は通知から消防法施行規則第5条の2へ移りました。
電気設備設計として現場で効いてくるのは、EPSと幹線ルートを区画ごとに分けられるかどうかという1点です。ここは意匠が固まってからでは動かせません。区画の位置が決まった時点で、電気側から声を上げてください。
参考・根拠
- 消防法施行令 第8条・第9条(e-Gov法令検索)
- 消防法施行規則 第5条の2(令和6年4月1日施行)
- 平成7年3月31日 消防予第53号「令8区画及び共住区画の構造並びに当該区画を貫通する配管等の取扱いについて」
- 平成7年7月28日 消防予第166号(執務資料)
- 平成8年3月27日 消防予第47号「令8区画及び共住区画を貫通する鋼管等の取扱いについて」
- 昭和50年3月5日 消防安第26号「消防用設備等の設置単位について」
- 令和6年3月29日 消防予第155号
- 平成17年消防庁告示第2号(特定共同住宅等の位置、構造及び設備を定める件)/同第4号(配管等及び貫通部の耐火性能)
- 平成17年総務省令第40号(特定共同住宅等に関する省令)
- 船橋市消防局 令8区画等の取扱い/長崎県央地区消防組合 令8区画等の取扱い
法令・通知の内容は改正されることがあります。実際の設計にあたっては、必ず最新の条文と所轄消防本部の運用をご確認ください。




