【動力設備の設計マニュアル③】始動電流という別の顔 ― 動く瞬間だけ、別の機械になる
こんにちは、HARITAの設計室です。
動力設備の設計マニュアル、第3回です。前回で銘板のkWから電流を出すところまで来ました。
ところが、動力にはもうひとつ考えなければいけない電流があります。動き出す瞬間の電流です。
ここが、電灯設備の設計といちばん違うところだと思います。照明は点けた瞬間も定格のままですが、電動機は止まっている状態から回り始めるとき、定格よりずっと大きな電流が流れます。
この3つ、すぐ答えられますか
- 竣工後、動かした瞬間だけブレーカーが落ちる。何を疑うか
- 始動方式は誰が決めるのか。電気側で選べるのか
- 始動のたびに照明がちらつく。どこを直すのか
ペン太
はりた
ペン太
はりた動く瞬間だけ、電流がはね上がる
電動機に電圧をかけた瞬間、まだ軸は止まっています。回っていないので、電気的にはほとんど短絡に近い状態です。そこへ大きな電流が流れ込みます。
回転が上がるにつれて電流は下がっていき、定格の回転数に達したところで定格電流に落ち着きます。
この始動電流は定格の数倍になります。倍率も、それが続く時間も、電動機の種類・容量・始動方式・負荷の重さで変わります。
もうひとつ、投入した瞬間だけの過渡的な電流(突入電流)が、この
加速中の電流に重なります。継続はごく短いのですが、遮断器の瞬時引外し要素に効いてくるのはこちらです。加速中の電流(始動電流)は長限時側に効きます。遮断器を選ぶ段になると、この2つを分けて見る必要が出てきます。詳しくは 第4回 で扱います。
定常運転の電流だけを見て設計すると、竣工後に「動かした瞬間にブレーカーが落ちる」という形で問題が出ます。
- 電圧をかけた瞬間、軸は止まっている=電気的にはほとんど短絡に近い状態
- 回転が上がるにつれて電流は下がり、定格回転数で定格電流に落ち着く
- 突入電流は瞬時引外し要素に、加速中の始動電流は長限時側に効く
立ち上げ方には、いくつかやり方がある
始動電流を抑えるために、いくつかの始動方式があります。
- 全電圧始動(直入れ) そのまま電圧をかけます。構成はいちばん単純で、小容量ではこれが標準です。
- スターデルタ始動 始動時と運転時で結線を切り替えて、始動電流を抑えます。切り替わる瞬間の挙動に注意が要ります。
- リアクトル始動 直列にリアクトルを入れて電圧を下げて始動します。電流は下がりますが、トルクも下がります。
- インバータ 周波数を変えてなめらかに立ち上げます。運転中の回転数制御もできます。
注意したいのは、どの方式を使うかは機器側で決まることが多いという点です。パッケージ化された機器なら始動方式も含めてメーカーが決めていますし、制御盤が機器付属であれば電気側で選ぶ余地はありません。
前回の話とつながります。これも機器表から読み取る情報です。機械設備と早めに確認してください。
電動機そのものの仕組みは 電気設備の基本知識 #010 誘導電動機 が入口になります。
| 始動方式 | 始動電流 | 特徴・注意 |
|---|---|---|
| 全電圧始動(直入れ) | 抑えない | 構成がいちばん単純。小容量ではこれが標準 |
| スターデルタ始動 | 抑えられる | 始動時と運転時で結線を切り替える。切り替わる瞬間の挙動に注意 |
| リアクトル始動 | 抑えられる | 直列にリアクトルを入れて電圧を下げる。トルクも下がる |
| インバータ | 抑えられる | なめらかに立ち上げ、運転中の回転数制御もできる。高調波・ノイズ・接地・配線に注意 |
- 全電圧始動(直入れ)/スターデルタ/リアクトル/インバータ
- リアクトル始動は電流は下がるがトルクも下がる
- どの方式かは機器側で決まることが多い。機器表から読み取り、機械設備と早めに確認する
始動電流は、3か所に効いてくる
始動電流が設計に効いてくるのは、大きく3か所です。
- ブレーカーの選定 始動電流で動作してしまわない定格・特性を選ぶ必要があります(第4回で扱います)。
- 電圧降下 始動の瞬間だけ、大きな電流が流れるぶん電圧が落ちます。
- 他の負荷への影響 同じ系統につながっている他の機器が、その電圧の落ち込みの影響を受けます。
どれも定常運転の計算だけでは見えてきません。負荷表に並んだ規約電流を見ているかぎり、始動の話は出てこないからです。
動力の設計が電灯と違うのは、ほぼこの一点に集約されると言っていいと思います。
- 効いてくるのは①ブレーカーの選定 ②電圧降下 ③他の負荷への影響の3か所
- どれも定常運転の計算だけでは見えてこない
- 負荷表の規約電流を見ているかぎり、始動の話は出てこない
始動の瞬間、電圧が落ちる
電圧降下のほうを、もう少し見ておきます。
大きな電流が流れれば、その分だけ電線での電圧降下が大きくなります。始動の瞬間は電流が数倍になるので、電圧の落ち込みも数倍になります。
この落ち込みが深いと、次のようなことが起きます。
- 同じ系統の照明がちらつく
- 他の機器の制御回路が誤動作する
- 電動機自身が、電圧不足で立ち上がりきらない
3つめは見落とされがちです。始動時はトルクが要るのに電圧が落ちているので、負荷が重い場合は回転が上がりきらないことがあります。
落ち込みを浅くする方向は、幹線設計と同じです。太くする・短くする・分ける。幹線設備の設計マニュアル④ 電圧降下の検証 の考え方が、そのまま始動時にも当てはまります。
- 始動の瞬間は電流が数倍になるので、電圧の落ち込みも数倍になる
- 落ち込みが深いと、照明のちらつき・制御回路の誤動作・電動機自身が立ち上がりきらない
- 対策の方向は幹線設計と同じで太くする・短くする・分ける
インバータは、便利なぶん気をつける
インバータは始動電流を抑えられますし、運転中の回転数も制御できるので省エネにもなります。使う場面は増えています。
ただ、電気設計の側から見ると気をつけることも増えます。
- 高調波 波形がひずみ、他の機器に影響することがあります。
- ノイズ 弱電・制御線への影響があります。弱電編② 配管・配線ルート で扱った離隔の話がここにつながります。
- 接地 機器側で指定されていることが多く、まとめて共用しないよう注意が要ります。
- 配線 インバータと電動機のあいだのケーブルには、種類や長さの制限があることがあります。
高調波の漏えい防止については 内線規程【018】高周波電流の漏えい防止 が参考になります。
具体的な条件は機器のメーカー資料に従ってください。一般論で決められる部分が少ない領域です。
- インバータは始動電流を抑えられ、運転中の回転数制御もできる
- そのぶん高調波・ノイズ・接地・配線の注意が増える
- 接地は機器側で指定されていることが多く、まとめて共用しない
ペン太
はりたまとめ ― 動く瞬間だけ、別の機械になる
- 電動機は始動時に定格の数倍の電流が流れる。倍率も時間も機種と方式で変わる
- 始動方式は全電圧・スターデルタ・リアクトル・インバータ。どれを使うかは機器側で決まることが多い
- 始動電流はブレーカーの選定・電圧降下・他の負荷への影響の3か所に効く
- 電圧の落ち込みは、照明のちらつきだけでなく電動機自身が立ち上がらない形でも出る
- 電灯と動力を系統で分ける理由のひとつが、この影響を持ち込まないこと
- インバータは高調波・ノイズ・接地・配線の条件がセットで付いてくる
定常運転の数字だけを見ていると、始動で足をすくわれます。
よくある質問
Q1. 始動電流は定格の何倍くらいですか?
機種・容量・始動方式・負荷の重さで変わるため、一律の倍率はありません。実機が決まっていればメーカー資料の値を使ってください。
決まっていない段階では余裕をみておき、実機確定時に見直すのが実務的です。「◯倍」という数字を覚えて全案件に当てはめるのは避けてください。
Q2. 始動方式は、電気設計側で選べますか?
選べる場合と選べない場合があります。制御盤が機器に付属していれば、始動方式もメーカーが決めています。電気側で盤を組む場合は選択の余地がありますが、その場合も機器が許容する始動方式かを機械設備に確認してください。トルクが足りずに立ち上がらないことがあります。
Q3. 始動時の電圧降下は、どこまで検討すればいいですか?
容量の大きい電動機、幹線が長い場合、同じ系統に敏感な機器がある場合は検討が要ります。
逆に小容量で系統が短ければ、実務上は問題にならないことが多いです。どの案件でも一律に計算するというより、条件を見て「効きそうなところ」を拾うという判断になります。
特記仕様書で検討が求められていることもあるので確認してください。
次回予告
第4回は「ブレーカーとケーブルの選定」です。動力の遮断器は、なぜ電線の許容電流より大きくてよいのか。過負荷保護と短絡保護の役割分担、そして内線規程の表の使い方を扱います。
合言葉は「保護するのは電線、耐えるのは始動」。
→ 第4回 ブレーカーとケーブルの選定 ― 保護するのは電線、耐えるのは始動 を公開しました。
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