こんにちは、HARITAの設計室です。

動力設備の設計マニュアル、第3回です。前回で銘板のkWから電流を出すところまで来ました。

ところが、動力にはもうひとつ考えなければいけない電流があります。動き出す瞬間の電流です。

ここが、電灯設備の設計といちばん違うところだと思います。照明は点けた瞬間も定格のままですが、電動機は止まっている状態から回り始めるとき、定格よりずっと大きな電流が流れます。

動く瞬間だけ、電流がはね上がる

動く瞬間だけ、電流がはね上がる時間電流定格電流始動電流定格の数倍が流れる倍率も継続時間も、機種と始動方式で変わります。メーカー資料で確認してください定常運転だけを見て選ぶと、動き出した瞬間に落ちるHARITAの設計室

電動機に電圧をかけた瞬間、まだ軸は止まっています。回っていないので、電気的にはほとんど短絡に近い状態です。そこへ大きな電流が流れ込みます。

回転が上がるにつれて電流は下がっていき、定格の回転数に達したところで定格電流に落ち着きます。

この始動電流は定格の数倍になります。倍率も、それが続く時間も、電動機の種類・容量・始動方式・負荷の重さで変わります。

倍率を暗記して当てはめない
「始動電流は定格の◯倍」という数字を覚えて全案件に当てはめるのは危険です。機種と始動方式で大きく変わります。実機が決まっているならメーカー資料で確認してください。決まっていない段階では、余裕をみておいて実機確定時に見直す、という進め方になります。

定常運転の電流だけを見て設計すると、竣工後に「動かした瞬間にブレーカーが落ちる」という形で問題が出ます。

立ち上げ方には、いくつかやり方がある

立ち上げ方には、いくつかやり方がある1全電圧始動そのまま電圧をかける直入れ・DOL構成が単純2スターデルタ結線を切り替えて始動電流を抑える切替の瞬間に注意3リアクトル直列に入れて電圧を下げて始動トルクも下がる4インバータ周波数からなめらかに立ち上げ運転中も制御できるどれを使うかは機器側で決まることが多い。機械設備と早めに確認する始動を抑える方式ほど、機器と盤は複雑になるHARITAの設計室

始動電流を抑えるために、いくつかの始動方式があります。

  • 全電圧始動(直入れ) そのまま電圧をかけます。構成はいちばん単純で、小容量ではこれが標準です。
  • スターデルタ始動 始動時と運転時で結線を切り替えて、始動電流を抑えます。切り替わる瞬間の挙動に注意が要ります。
  • リアクトル始動 直列にリアクトルを入れて電圧を下げて始動します。電流は下がりますが、トルクも下がります。
  • インバータ 周波数を変えてなめらかに立ち上げます。運転中の回転数制御もできます。

注意したいのは、どの方式を使うかは機器側で決まることが多いという点です。パッケージ化された機器なら始動方式も含めてメーカーが決めていますし、制御盤が機器付属であれば電気側で選ぶ余地はありません。

前回の話とつながります。これも機器表から読み取る情報です。機械設備と早めに確認してください。

電動機そのものの仕組みは 電気設備の基本知識 #010 誘導電動機 が入口になります。

始動電流は、3か所に効いてくる

始動電流は、3か所に効いてくるブレーカーの選定始動で落ちない定格にする必要がある電圧降下始動の瞬間だけ大きく落ちる他の負荷への影響同じ系統の機器が影響を受けるどれも「定常運転の計算」だけでは見えてこない動力の設計が電灯と違うのは、この一点にあるHARITAの設計室

始動電流が設計に効いてくるのは、大きく3か所です。

  • ブレーカーの選定 始動電流で動作してしまわない定格・特性を選ぶ必要があります(第4回で扱います)。
  • 電圧降下 始動の瞬間だけ、大きな電流が流れるぶん電圧が落ちます。
  • 他の負荷への影響 同じ系統につながっている他の機器が、その電圧の落ち込みの影響を受けます。

どれも定常運転の計算だけでは見えてきません。負荷表に並んだ規約電流を見ているかぎり、始動の話は出てこないからです。

動力の設計が電灯と違うのは、ほぼこの一点に集約されると言っていいと思います。

始動の瞬間、電圧が落ちる

始動の瞬間、電圧が落ちる電圧時間通常の電圧始動同じ系統の照明がちらつくことがある幹線が細い・こう長が長いほど、この落ち込みは深くなるHARITAの設計室

電圧降下のほうを、もう少し見ておきます。

大きな電流が流れれば、その分だけ電線での電圧降下が大きくなります。始動の瞬間は電流が数倍になるので、電圧の落ち込みも数倍になります

この落ち込みが深いと、次のようなことが起きます。

  • 同じ系統の照明がちらつく
  • 他の機器の制御回路が誤動作する
  • 電動機自身が、電圧不足で立ち上がりきらない

3つめは見落とされがちです。始動時はトルクが要るのに電圧が落ちているので、負荷が重い場合は回転が上がりきらないことがあります。

落ち込みを浅くする方向は、幹線設計と同じです。太くする・短くする・分ける幹線設備の設計マニュアル④ 電圧降下の検証 の考え方が、そのまま始動時にも当てはまります。

電灯と動力を分ける理由が、ここでも出てくる
第1回で「電灯と動力は変圧器から別系統」と書きました。理由のひとつがこれです。動力の始動による電圧の落ち込みを、照明やコンセントに持ち込まない。系統を分けておけば、影響も分かれます。

インバータは、便利なぶん気をつける

インバータは、便利なぶん気をつける1高調波波形がひずみ、他の機器に影響することがある2ノイズ弱電・制御線への影響。離隔と経路を分ける3接地機器側の指定に従う。まとめて共用しない4配線ケーブルの種類と長さに制限があることがある具体的な条件は機器のメーカー資料に従ってください入れるなら、電気側の対策とセットで考えるHARITAの設計室

インバータは始動電流を抑えられますし、運転中の回転数も制御できるので省エネにもなります。使う場面は増えています。

ただ、電気設計の側から見ると気をつけることも増えます。

  • 高調波 波形がひずみ、他の機器に影響することがあります。
  • ノイズ 弱電・制御線への影響があります。弱電編② 配管・配線ルート で扱った離隔の話がここにつながります。
  • 接地 機器側で指定されていることが多く、まとめて共用しないよう注意が要ります。
  • 配線 インバータと電動機のあいだのケーブルには、種類や長さの制限があることがあります。

高調波の漏えい防止については 内線規程【018】高周波電流の漏えい防止 が参考になります。

具体的な条件は機器のメーカー資料に従ってください。一般論で決められる部分が少ない領域です。

まとめ ― 動く瞬間だけ、別の機械になる

  • 電動機は始動時に定格の数倍の電流が流れる。倍率も時間も機種と方式で変わる
  • 始動方式は全電圧・スターデルタ・リアクトル・インバータ。どれを使うかは機器側で決まることが多い
  • 始動電流はブレーカーの選定・電圧降下・他の負荷への影響の3か所に効く
  • 電圧の落ち込みは、照明のちらつきだけでなく電動機自身が立ち上がらない形でも出る
  • 電灯と動力を系統で分ける理由のひとつが、この影響を持ち込まないこと
  • インバータは高調波・ノイズ・接地・配線の条件がセットで付いてくる
今回の合言葉
動く瞬間だけ、別の機械になる。
定常運転の数字だけを見ていると、始動で足をすくわれます。

よくある質問

Q1. 始動電流は定格の何倍くらいですか?

機種・容量・始動方式・負荷の重さで変わるため、一律の倍率はありません。実機が決まっていればメーカー資料の値を使ってください。決まっていない段階では余裕をみておき、実機確定時に見直すのが実務的です。「◯倍」という数字を覚えて全案件に当てはめるのは避けてください。

Q2. 始動方式は、電気設計側で選べますか?

選べる場合と選べない場合があります。制御盤が機器に付属していれば、始動方式もメーカーが決めています。電気側で盤を組む場合は選択の余地がありますが、その場合も機器が許容する始動方式かを機械設備に確認してください。トルクが足りずに立ち上がらないことがあります。

Q3. 始動時の電圧降下は、どこまで検討すればいいですか?

容量の大きい電動機、幹線が長い場合、同じ系統に敏感な機器がある場合は検討が要ります。逆に小容量で系統が短ければ、実務上は問題にならないことが多いです。どの案件でも一律に計算するというより、条件を見て「効きそうなところ」を拾うという判断になります。特記仕様書で検討が求められていることもあるので確認してください。

次回予告

第4回は「ブレーカーとケーブルの選定」です。動力の遮断器は、なぜ電線の許容電流より大きくてよいのか。過負荷保護と短絡保護の役割分担、そして内線規程の表の使い方を扱います。

合言葉は「保護するのは電線、耐えるのは始動」。

次に読むならこれ【動力設備の設計マニュアル②】負荷容量の換算 ― kWのままでは、電線は選べない設計マニュアル