強電設備の設計|シーケンス制御の基本回路|自己保持・インターロック・タイマーの読み方
動力盤の設計はできる。ブレーカーのサイズも選べる。でも盤屋から出てきたシーケンス図を渡されると、正直よくわからない ― そういう方は少なくないと思います。
自分でPLCをプログラムする必要はありません。ただ、自己保持・インターロック・タイマーの3つが読めるかどうかで、図面レビューの質はまったく変わります。この記事では、この3つの基本回路を「設計者が判断するために必要な範囲」で整理します。
1. なぜ設計者が制御回路を読めた方がいいのか
盤をつくるのは盤屋です。しかし仕様を決め、図面を承認するのは設計者です。動くかどうかは盤屋が保証してくれますが、「動くけれど安全ではない」盤を止められるのは、図面を承認する側だけです。
たとえば後述するインターロックは、部品が同じでも接点を置く位置を間違えると安全装置として働きません。試運転では正常に見えるので、そのまま引き渡されてしまいます。
必要なのは、回路を書く力ではなく読んで判断する力です。基本回路は3つだけ覚えれば足ります。
2. その前に ― 図記号の規格は2024年に改正されています
回路図を読む前提として、図記号の規格を確認しておきます。ここに落とし穴があります。
電気用図記号の規格はJIS C 0617です。ネット上の解説記事の多くは「JIS C 0617:2011」と書いていますが、2024年12月20日に改正されており、現行は2024年版です。
旧規格の図面は、まだ現場に残っています
旧規格の JIS C 0301 は、JIS C 0617の制定にともなって廃止されました。とはいえ、竣工が古い建物の盤に付いている図面は旧記号のままです。改修案件では、旧記号が読めないと現状把握で止まります。
代表的な違いとして、コイルが旧記号では丸、現行では四角で描かれます。新旧の対応は日本電機工業会の技術資料(JEM-TR 222)にまとめられています。
新しい図記号は「足し算」でできています
JIS C 0617の考え方を知っておくと、知らない記号も推測できます。基本図記号に、限定図記号を足すという組み立てです。
たとえば限時動作接点は「接点一般+遅延機能」、押しボタンは「開閉器一般+押し操作」、遮断器は「開閉器一般+遮断機能」。記号を丸暗記するのではなく、パーツの意味を覚えるほうが早いということです。
あわせて、建築設備の実務ではJSIA 118(配電盤類の電気用図記号と文字記号)も効いてきます。公共建築設備工事標準図がこれを参照しているためです。器具番号はJEM 1090です。
3. 自己保持回路 ― 運転を「記憶」させる
押しボタンは押している間しか接点が閉じません。それでもモーターが回り続けるのは、自己保持回路があるからです。
構造は単純で、押しボタンと並列に、そのコイル自身のa接点を入れるだけです。ボタンを押すとコイルが励磁され、励磁されたコイルが自分のa接点を閉じ、その接点が電流の経路を保つ。手を離してもボタンの代わりに接点が電流を通し続けます。停止はb接点でコイルの電源を断つことで行います。
作図の規律:自己保持の接点は左下寄せに描く
回路として成立していても、描き方がばらばらだと読めません。自己保持の接点は必ず左下寄せに描くのが基本です。
盤屋によって描き方の癖はありますが、誰が見ても同じ形に見えることが、良い回路図の条件です。図面レビューで「読みにくい」と感じたら、それは指摘してよいポイントです。
自己保持回路が本当に守っているもの
自己保持は「便利だから」入れるのではありません。停電から復電したときに、勝手に動き出さないためです。
厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、こう求めています。動力の供給が中断して停止したときは、復帰しても再起動の操作をしなければ運転を開始しないこと。あわせて「起動はエネルギーの低い状態から高い状態への移行によること、停止は高い状態から低い状態への移行によること」とも書かれています。
つまり起動はa接点、停止はb接点という構成そのものが、安全側に倒すための決まりごとだということです。
4. インターロック回路 ― 相手のb接点は「出力の直前」に
モーターの正転と逆転を同時に投入すると、電源が短絡します。これを防ぐのがインターロック回路です。考え方は先着優先で、先に入ったほうが優先され、後から来たほうは入れません。
作り方は、相手のコイルのb接点を自分の回路に入れる。相手が動いている間は相手のb接点が開くので、自分は励磁されません。
ここが今回いちばん重要です
問題はその接点をどこに置くかです。答えは出力(コイル)の直前。
もし起動ボタン側に置いてしまうと、いったん自己保持が成立した後は自己保持の経路にバイパスされて、インターロックが効きません。相手が動き出しても自分は止まらない ― 安全装置のつもりで入れた接点が、何もしていない状態になります。
厄介なのは、試運転では正常に見えることです。片方ずつ動かす分には問題が出ません。同時に投入されるという、まさに防ぎたかった状況でだけ露見します。
図面レビューでは「相手のb接点がコイルの直前にあるか」を必ず見てください。
電気的インターロックだけに頼らない
電磁接触器のメーカーは、電気的インターロックと機械的インターロックの併用を求めています。機械的インターロックは、2台の接触器が物理的に同時投入できないようにする部品です。
制御回路が期待どおり動かなくても、物理的に止める。二重化の考え方です。正転逆転の盤では、仕様書に機械的インターロックの有無を明記しておくと後々もめません。
5. タイマー回路 ― 整定値の大小だけで工程が飛ぶ
工程に順序をつけるのがタイマーです。制御盤で使われるのはほとんどオンディレイ(限時動作)で、コイルが励磁されてから設定時間が経過すると接点が動きます。
図記号は、接点一般に遅延機能の限定図記号を足したものです(JIS C 0617の 07-05-01〜04)。
T2の直前にT1の接点を入れる理由
タイマーを2つ使って「10秒後にA、20秒後にB」という工程を組むとします。素直に書くと、T1が10秒、T2が20秒で、それぞれ独立して動く回路になります。
ここに落とし穴があります。後から整定値を変えて、T2をT1より短くしてしまうと、工程の順序が入れ替わるのです。設計時は20秒だったものが、現場調整で5秒に変えられる ― 現実に起こります。
これを防ぐには、T2の回路の直前にT1の接点を入れて、T1が動いてからでないとT2が計時を始めないようにします。順序を回路の構造で担保する、という考え方です。
設計者としては、整定値を「変えられる前提」で回路を見るのが実務的です。竣工後に誰かが触る、と考えてください。
6. 制御盤の仕様書に、何を書けばいいか
ここからが設計者の本題です。「よしなに」ではなく、数値で書ける根拠があります。
公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)令和7年版は、交流電磁接触器に求める性能をこう定めています。使用負荷種別はかご形の直入始動なら AC-3(スターデルタの△用は定格の0.6倍、Y用は0.35倍)、巻線形の一次側は AC-2、抵抗負荷は AC-1。そして開閉頻度30回/時、通電率40%、機械的耐久性100万回以上、電気的耐久性10万回以上。
操作コイルは「接地側」に直接つなぐ
同じ標準仕様書に、地味ですが重要な規定があります。制御器具の操作コイルは、制御回路等の1線(接地する場合は接地側)に直接接続すること。あわせて制御回路の両極に回路保護装置を設けること。
理由はフェールセーフです。コイルの片側を接地側に固定しておけば、途中で地絡が起きてもコイルが勝手に励磁される向きにはならない。逆につないでいると、1箇所の地絡で機器が動き出すことがあり得ます。
検査についても押さえておくと、監理の場面で使えます。工場での受渡検査でも現地検査でも「シーケンス」は全数検査の対象です。動力設備ではさらに連動・インターロック、そして限時継電器および保護継電器の整定が全数の確認項目になっています。
つまりインターロックとタイマー整定は、契約上も「確認して当然」の項目だということです。指摘するのに遠慮は要りません。
7. 非常停止は電源遮断で構成する
制御回路の話でよく言われるのが「非常停止はPLCの入力に入れるな、電源を切れ」という原則です。PLCが暴走したりプログラムが止まったりしたとき、PLC経由の非常停止は効かなくなるからです。
根拠になるのはJIS B 9703:2019(非常停止・設計原則)です。停止カテゴリ0を「機械アクチュエータへの動力の即時遮断」と定義し、非常停止機器には直接開路動作の原理を求め、操作したらラッチし意図的な操作でしか解除できないこと、他のすべての機能および操作に優先すること、そしてリセットによって機械が始動してはならないことを定めています。
ただし「法律で決まっている」とは言えません
ここは正確に押さえておきたい点です。労働安全衛生規則で非常停止装置が明示的に義務づけられているのは、コンベヤー(第151条の78)、産業用ロボット(第151条)、プレス・シヤー(第134条の3ほか)といった特定の機械です。
建築設備一般に非常停止を義務づける条文はありません。「安衛則で決まっているから」という説明は正確ではなく、根拠を問われると崩れます。JIS B 9703と厚労省の指針を根拠にするのが安全です。
なお、現在の安全設計はJIS B 9705-1:2019(ISO 13849-1)のパフォーマンスレベル(PL a〜e)という枠組みで語られます。安全リレーユニットや安全PLCを使い、要求されるPLを満たす構成にする、という考え方です。ISO側は2023年に第4版が出ていますが、JISは2019年版のままです(2026年8月時点)。
8. 図面レビューのチェックリスト
- 自己保持の接点は、押しボタンと並列に入っているか。左下寄せに描かれているか
- 停止はb接点でコイル電源を断つ構成になっているか(起動a接点・停止b接点)
- 復電したときに、再起動操作なしで動き出す回路になっていないか
- インターロックの相手b接点が、コイルの直前にあるか(起動ボタン側にあるとバイパスされる)
- 正転逆転盤で、機械的インターロックの有無を仕様書に明記したか
- タイマーが複数ある工程で、整定値を変えられても順序が崩れない構造になっているか
- 非常停止がPLC入力経由ではなく、電源遮断で構成されているか
- 操作コイルが制御回路の接地側に直接接続されているか
- 電磁接触器の使用負荷種別(AC-3等)と耐久性を仕様書に書いたか
- 検査時にシーケンス・連動・インターロック・限時継電器の整定を確認する段取りになっているか
- 図記号は現行のJIS C 0617か。旧記号との混在があれば凡例で補っているか
よくある質問(FAQ)
Q. 設計者もPLCのプログラムを書けたほうがいいですか。
必須ではありません。必要なのは読んで判断する力です。自己保持・インターロック・タイマーの3つが読めれば、図面レビューで致命的な見落としは防げます。
Q. インターロックの接点は、どこに入れても同じではないのですか。
違います。起動ボタン側に入れると、自己保持が成立した後は経路がバイパスされて効きません。コイルの直前に入れてください。
Q. 非常停止を入れるのは法律上の義務ですか。
建築設備一般については、義務づける条文はありません。義務があるのはコンベヤー・産業用ロボット・プレスなど特定の機械です。ただしJIS B 9703と厚労省の指針が設計原則を示しているので、実務上は入れるのが標準です。
Q. 「シーケンサー」と「PLC」は同じものですか。
ほぼ同義で使われますが、「シーケンサー」は三菱電機の製品名です。仕様書で一般名として使う場合は、意図が伝わるか確認したほうが安全です。
Q. 図記号は新旧どちらで描いてもらうべきですか。
現行のJIS C 0617です。ただし改修案件で既存図が旧記号の場合、無理に統一せず凡例で対応を示すほうが現場は混乱しません。
まとめ
- 設計者に必要なのは回路を書く力ではなく、読んで判断する力。基本回路は3つで足りる
- 自己保持は運転を記憶させる仕組み。本質は復電時に勝手に動き出さないこと
- 起動はa接点、停止はb接点。これは厚労省の指針が求める安全側に倒す構成
- インターロックの相手b接点は、コイルの直前に置く。起動ボタン側だと自己保持にバイパスされる
- しかも試運転では正常に見える。同時投入という、防ぎたかった場面でだけ露見する
- 電気的インターロックだけでなく、機械的インターロックとの併用をメーカーは求めている
- タイマーは整定値を変えられる前提で見る。順序は回路の構造で担保する
- 仕様書には数値で書ける ― AC-3、開閉頻度30回/時、通電率40%、機械的100万回・電気的10万回
- 操作コイルは制御回路の接地側へ直接接続。地絡で勝手に動かないための決まり
- シーケンス・連動・インターロック・整定は全数検査の対象。指摘に遠慮は要らない
- 非常停止は電源遮断で構成する。ただし「安衛則で義務」は建築設備一般には当てはまらない
- 図記号の現行版はJIS C 0617:2024(2024年12月20日改正)
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