この記事は、連載「引込・受電設備の設計マニュアル」第1回 全体フローと受電方式の判断 の補足解説です。計画全体の流れは 設計・施工マニュアル(目次) からご覧いただけます。
第8回 引込・受変電のきほんの全体像
📚 この記事は連載「図解&会話で学ぶ 電気設備設計の基礎」の1本です。→ 全カリキュラム(目次)はこちら
今回の内容を1枚にまとめたグラレコ
📝 今日の全体像を1枚で。まずこのグラレコ、詳しくは本文で!

こんにちは、HARITAの設計室です。前回(第7回)は電柱からコンセントまでの「電気の流れ1枚図」を手に入れました。今回はその旅の最初の関門、①引込 → ②受変電の区間をぐっとズームインします。

主役はあの金属の箱、キュービクル。「開けたら何が入ってるのか」「そもそもなぜ変圧するのか」を、図解と会話で一気に片づけましょう。

ペンタ
先輩、屋上のキュービクルって近くで見ると結構大きいですよね。あの中、何がどう並んでるんですか?
はりた
いい着眼点。実はキュービクルの中身は電気が通る順番に並んでるんだ。だから配置じゃなくて“旅の順路”で覚えるのが正解。図で見てみよう。
ペン太ペン太
キュービクルの中って機器が多すぎて、全然覚えられません…
ハリタハリタ
電気が通る順番で覚えます。PAS→VCT→断路器→VCB→変圧器の一本道です。

この3つ、すぐ答えられますか

  • キュービクルの中身を、どんな順番で覚えるとよいでしょうか。
  • 断路器とVCB、どちらも「切る」道具なのに2種類あるのはなぜでしょうか。
  • 高圧受電と低圧受電の分かれ目は、どこにあるでしょうか。

キュービクルの中身は「通る順番」で覚える

トピック1:キュービクルの中身は「通る順番」で覚える
キュービクル内部の機器を電気が通る順番に並べた模式図
【図1】キュービクルの中身。①〜⑥の順路で電気が通る
ペンタ
PAS…VCT…VCB…。3文字の暗号が多すぎます…。
はりた
最初はみんなそう言う(笑)。役割で訳せば簡単だよ。PAS=門番、VCT=料金メーター、断路器=縁切り用、VCB=本気のスイッチ、変圧器=主役。この5つだけでキュービクルの会話は8割ついていける。
ペンタ
スイッチが2種類あるのはなんでですか?断路器とVCB、どっちかでよくないですか?
はりた
鋭い!役割が違うんだ。断路器は「電気が流れていない状態で」切り離す縁切り専用。点検のとき「確実に切れてます」を目で見せるためのもの。一方VCB(真空遮断器)は短絡事故の大電流でも断ち切れる本気のスイッチ。日常のON/OFFと事故時の遮断はVCBの仕事だよ。
ペン太ペン太
断路器とVCBって、どっちもスイッチだから同じ機能ですよね?
ハリタハリタ
違います。断路器は電気が流れていない状態での切り離し専用、VCBは短絡電流も遮断します。
順路機器役割を一言で
PAS構内の門番。事故を街へ波及させない
VCT使った電気を計るための計器用の機器
断路器無電圧で切り離す縁切り専用
VCB事故の大電流も断ち切る本気のスイッチ
変圧器高い電圧を建物で使える電圧に落とす主役
低圧側ここから幹線として建物へ配られる
ここまでのポイント
  • キュービクルの中身は電気が通る順番に並んでいる。配置ではなく旅の順路で覚えるのが正解。
  • 役割で訳せば、PASは門番、VCTは料金メーター、断路器は縁切り用、VCBは本気のスイッチ、変圧器が主役。
  • この5つでキュービクルの会話はおおむねついていける。
  • 断路器は電気が流れていない状態で切り離す縁切り専用。VCBは短絡事故の大電流でも断ち切れる。

なぜ変圧する?― 高圧受電と低圧受電の分かれ目

トピック2:なぜ変圧する?― 高圧受電と低圧受電の分かれ目

「そもそも、なんで6,600Vなんて高い電圧で受け取るの?」。その答えが、契約電力50kWを境にした2つの受電方式です。

高圧受電と低圧受電を左右で比較する模式図
【図2】高圧受電と低圧受電。分かれ目は契約電力50kW
ペンタ
うちの実家(戸建て)にキュービクルがないのは、電柱の上の変圧器が代わりにやってくれてるからなんですね。
はりた
その通り。低圧受電は変圧を電力会社まかせにできる“手ぶらプラン”。でも50kW以上使う建物は高圧受電になって、変圧を自前でやるかわりに電力量単価が安くなる。太く仕入れるほど卸値が下がる、と考えると分かりやすいよ。
ペンタ
じゃあ受電方式って、設計の最初のほうで決まっちゃうんですか?
はりた
そう、超重要ポイント。負荷を合計して契約電力を見積もり、50kWを超えそうかを判断するのが受電設計の第一歩。ここで方式が決まると、キュービクルの要否・電気室のスペース・主任技術者の選任まで、建物計画そのものに響くんだ。
比べるところ低圧受電高圧受電
分かれ目契約電力が50kW未満契約電力が50kW以上
変圧する人電力会社(電柱の変圧器など)自前の設備で行う
必要な設備建物側にキュービクルは不要キュービクルと設置スペースが必要
単価と維持単価は高めだが設備負担は軽い単価は安いが設備と保安は自分持ち
ここまでのポイント
  • 低圧受電は変圧を電力会社にまかせられる方式。戸建てにキュービクルがないのは電柱の変圧器が代わりを務めているから。
  • 50kW以上使う建物は高圧受電になり、変圧を自前でやるかわりに電力量単価が安くなる。
  • 負荷を合計して契約電力を見積もり、50kWを超えそうかを判断するのが受電設計の第一歩。
  • ここで方式が決まると、キュービクルの要否・電気室のスペース・主任技術者の選任まで建物計画に響く。

💼 実務でこう生きる

トピック3:実務でこう生きる
📋 実務活用事例:受電方式の一次判断
2階建てクリニックの新築計画。照明・コンセント20kW+空調25kW+医療機器10kW=約55kW。50kWをわずかに超えるため高圧受電が視野に入りますが、キュービクル設置費(数百万円規模)と保安管理費(月数万円)が発生します。
空調の容量を見直して50kW未満に収める案と高圧受電案の2案を比較提示。この「境目の攻防」ができるのは流れを理解している設計者だけです。
📋 実務活用事例:客先からの「電気足りる?」相談
「テナントに厨房機器を入れたい。電気は足りる?」という相談。まず受電方式と契約電力を確認→高圧受電なら変圧器の余裕を、低圧受電なら契約容量の上限(50kWの壁)をチェック。どの階層で詰まるかを順に見るだけで、一次回答が数分でできます。
ここまでのポイント
  • 境目に近い建物では、高圧受電案と50kW未満に収める案を並べて比較提示できる。
  • 高圧受電にはキュービクルの設置費と保安管理費がかかるため、その比較が判断材料になる。
  • 「電気は足りるか」の相談は、まず受電方式と契約電力を確認するところから。
  • 高圧受電なら変圧器の余裕を、低圧受電なら契約容量の上限を見る。どの階層で詰まるかを順に見れば一次回答は数分でできる。

🐣 いまさら聞けない素朴なギモン

トピック4:いまさら聞けない素朴なギモン
🐣 キュービクルはなんで屋上や駐車場の隅にあるの?
決まりで場所が固定されているわけではなく、①重い機器を搬入できる、②電力会社の引込に近い、③点検スペースが取れる、④浸水しにくい、を満たす場所が選ばれます。屋上・1階外構・電気室が三大定番。設計では搬入経路(クレーンで吊れるか)まで考えるのがプロです。
🐣 変圧器から「ブーン」って音がするのはなぜ?故障?
正常な音です。鉄心が磁化のたびにわずかに伸び縮みする「磁歪(じわい)」などで、電源周波数に応じたうなり音が出ます。ただし「いつもより明らかに大きい・音色が変わった」は異常のサインなので、気づいたら主任技術者に報告しましょう。
ここまでのポイント
  • キュービクルの設置場所は、重い機器を搬入できる・引込に近い・点検スペースが取れる・浸水しにくい、で選ばれる。
  • 屋上、1階外構、電気室が三大定番。設計では搬入経路まで考える。
  • 変圧器のうなり音は、鉄心が磁化のたびにわずかに伸び縮みすることなどによる正常な音。
  • ただし「いつもより明らかに大きい」「音色が変わった」は異常のサインなので主任技術者に報告する。

🔎 深掘りQ&A ― 会話だから、もっと分かる

トピック5:深掘りQ&A ― 会話でもっと分かる

先輩への追い質問で、理解をもう一段深めます。

🔎 「PASって門番以外に何をしてるんですか?」と聞いてみた
はりた「一番大事な仕事は波及事故の防止。構内で地絡事故が起きたとき、PASが自動で切れて建物を切り離す。これがないと事故が配電線に波及して、街ごと停電になる。だからPASは“ご近所に迷惑をかけないための装置”とも言えるね」
🔎 「変圧器が2台あるのはなぜですか?」と聞いてみた
はりた「照明・コンセント用(単相3線 105/210V)と、動力用(三相3線 210V)で分けるのが定番構成だから。第2回でやった単相と三相がここで再登場だ。盤の名前も電灯盤・動力盤と分かれていくよ」
🔎 「50kWギリギリのときはどう判断するんですか?」と聞いてみた
はりた「イニシャル(キュービクル設置費)とランニング(単価差・保安管理費)を並べて、何年で逆転するか試算する。それと将来の増設予定。“今ギリギリ低圧”は、増設したら受電方式ごと作り直しになるリスクがあるから、将来計画まで聞くのが正解」
ここまでのポイント
  • PASの一番大事な仕事は波及事故の防止。構内で地絡事故が起きたとき自動で切れて建物を切り離す。
  • これがないと事故が配電線に波及してしまう。PASはご近所に迷惑をかけないための装置でもある。
  • 変圧器が2台あるのは、照明・コンセント用と動力用で分けるのが定番構成だから。
  • 50kWギリギリのときは、設置費と単価差・保安管理費を並べて何年で逆転するかを試算し、将来の増設予定まで聞く。

⚠️ 新人がやりがちな注意ポイント

トピック6:新人がやりがちな注意ポイント
  • キュービクルの扉を開けない・機器に触れない:内部は高圧充電部。点検・操作は電気主任技術者の領域です。
  • 「今の負荷」だけで受電方式を決めない:将来の増設・テナント変更まで確認してから容量を決める癖を。
  • 設置スペースと搬入経路を後回しにしない:変圧器は数百kg〜数トン。図面上は置けても搬入できない事故は実在します。
ペン太ペン太
高圧受電か低圧受電かは、どう決めるんですか?
ハリタハリタ
契約電力50kWが分かれ目。設計では将来増設も見込んで容量を判定しましょう。
ここまでのポイント
  • キュービクルの扉を開けない、機器に触れない。内部は高圧充電部で、点検・操作は電気主任技術者の領域。
  • 「今の負荷」だけで受電方式を決めない。将来の増設・テナント変更まで確認してから容量を決める。
  • 設置スペースと搬入経路を後回しにしない。図面上は置けても搬入できない事故は実在する。

まとめ ― 今日の1枚

トピック7:まとめ ― 今日の1枚

金属の箱の中身は、電気が通る順番に並んでいます。順路で覚えれば、機器名の暗号もそれぞれの役割としてつながります。

決めること見るもの後段に響くこと
受電方式負荷合計から見た契約電力キュービクルの要否
設置場所搬入経路・点検スペース・浸水建物計画そのもの
将来対応増設やテナント変更の予定受電方式ごと作り直しになるか
変圧器の構成電灯系と動力系の負荷盤が電灯盤・動力盤に分かれる

箱の中の順路

  • キュービクルの中身はPAS→VCT→断路器→VCB→変圧器→低圧側の順路で覚える。
  • 断路器は縁切り専用、VCBは事故電流も切れる本気のスイッチ。役割が違う。

受電方式の分かれ目

  • 受電方式の分かれ目は契約電力50kW。高圧は単価が安いが設備と保安は自分持ち。
  • 負荷を合計して契約電力を見積もり、境目を超えそうかを判断するのが受電設計の第一歩。

責任の境目

  • PASが責任分界点。構内事故を街に波及させないための門番。
  • 構内で地絡が起きたときPASが自動で切れて建物を切り離す。

受電方式が決まると、設備の要否もスペースも保安体制も連動して決まります。だからこの判断は、設計のいちばん早い段階に置かれています。

次回・第9回は、変圧された電気の続きの旅。幹線・分電盤・回路のきほんを、盤の中身を展開する“ツリー図”で見ていきます。お楽しみに!

✅ 振り返りチェック ― 今日の理解度をセルフ確認
3つ以上チェックできたら合格!あやしい項目は、その見出しまで戻ってサッと復習しよう。

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HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。