【引込・受電設備の設計マニュアル②】契約電力の想定 ― 契約電力は、設備容量の合計ではない
こんにちは、HARITAの設計室です。
引込・受電設備の設計マニュアル、第2回です。前回は「50kWで設計の世界が変わる」という話をしました。ではその50kWに届くかどうかは、どうやって判断するのか。今回は契約電力の想定です。
新人がいちばん最初につまずくのが、ここだと思います。図面に載っている機器の容量を全部足したら180kW。「じゃあ契約電力は180kWですね」――これが違います。
設備容量の合計は、契約電力ではない
建物にある機器の容量を全部足した数字を設備容量といいます。照明、コンセント、空調、給排水ポンプ、エレベーター、厨房機器。設計の初期段階では、まずこれを積み上げます。
ただし、すべての機器が同時に、しかも全負荷で動くことはありません。事務所のコンセントは全口が同時にフル稼働しませんし、空調も外気温に応じて能力を上下させています。そこで設備容量に需要率をかけて、実際に出るであろう最大値――最大需要電力を出します。
さらに、複数の系統や用途をまとめるとき、それぞれのピークが同じ瞬間に重なるとはかぎりません。照明のピークは昼、給湯のピークは朝、というように時刻がずれる。このずれを見込むのが不等率です。個々の最大の合計を不等率で割ると、建物全体としての合成最大需要電力になります。
つまり、契約電力の想定は足し算が1回、割り引きが2回。この構造だけ覚えておけば、数字が合わなくなったときにどこを見ればいいか分かります。
需要率・不等率・負荷率 ― 3つの「率」は見ているものが違う
よく並べて説明される3つですが、見ているものはそれぞれ別です。
- 需要率=最大需要電力 ÷ 設備容量。「全部が同時に全開にはならない」を表します。1未満になるのがふつうです。
- 不等率=個々の最大需要の合計 ÷ 合成最大需要電力。「ピークの時刻がずれる」を表します。定義上1以上になります。
- 負荷率=平均需要電力 ÷ 最大需要電力。「使い方にムラがあるか」を表します。容量を決める計算というより、運用や電気料金を見るための指標です。
容量計算で直接効いてくるのは需要率と不等率のほうです。負荷率は、竣工後に「契約電力に対して実際どれくらい使えているか」を見るときに出てきます。
3つの定義と使い分けは 【新人講座 第11回】負荷容量と需要率・不等率 でも図解しています。
需要率は、用途と使われ方で変わる
需要率は建物の用途によって変わります。ただ、正確には「用途」というより使われ方で変わる、と考えたほうが実感に合います。
共同住宅は各戸の生活時間がばらけるので、全戸が同時にフル稼働することはまずありません。事務所は照明とOA機器が日中そろうので、それより高くなります。店舗や工場は、営業時間・稼働時間のあいだほぼ動き続けるので、さらに高い。
共同住宅の需要率は戸数によっても変わります。戸数が増えるほど「みんなが同時に使う」確率は下がるので、需要率は小さくなっていきます。集合住宅の考え方は 集合住宅の幹線需要率と幹線計算方法 が具体的です。
変圧器容量の選定でも同じ需要率が出てきます。あわせて 変圧器容量の選定・計算方法と需要率の適用基準 もどうぞ。
契約電力の決まり方は、低圧と高圧で違う
ここが実務でいちばん誤解されやすいところです。契約電力の決まり方そのものが、低圧と高圧で違います。
低圧は、契約方式であらかじめ決めます。主開閉器契約なら主幹ブレーカーの容量から、負荷設備契約なら設備を積み上げて算定します。つまり設計で決まる数字です。
高圧は実量制(デマンド制)です。過去1年間のうち最大となった月のデマンド値が、そのまま契約電力になります。つまり使い方で決まる数字です。
この違いが効いてくるのは竣工後です。高圧の場合、たった一度うっかり全機器を同時起動してピークを作ってしまうと、その値が1年間ずっと契約電力として残ります。基本料金も1年間その水準です。
だから高圧の建物では、設計側でも「ピークを作らせない」工夫が意味を持ちます。空調の起動を時間差にする、デマンド監視装置を入れる、といった話は、電気料金の話であると同時に設計の話でもあります。
契約電力の具体的な算定手順(圧縮計算)は 電力会社との契約電力の計算方法【圧縮計算】 にまとめています。
将来増設は、どこまで見込むか
「将来の増設を見込んでおいて」と言われます。ではどこまで見込むか。極端な2つを先に見ておきます。
まったく見込まないと、あとでEV充電器や厨房機器が追加されたときに、契約変更・盤の増設・最悪は受電方式の変更まで発生します。
逆に過大に見込むと、契約電力が上がって基本料金が高くなり、変圧器も盤も大きくなります。使われない容量にお金を払い続けることになります。
実務的な落としどころは、余裕を契約電力ではなく「盤とスペース」で持っておくことです。分電盤に予備回路を残しておく、盤を置ける場所を確保しておく、幹線ルートに余裕をみておく。これなら、増設が実際に起きたときだけコストが発生します。
契約電力そのものに大きな余裕を持たせるのは、増設の計画が具体的に決まっている場合に限る――くらいの感覚がちょうどいいと思います。
まとめ ― 契約電力は、設備容量の合計ではない
- 契約電力の想定は足し算が1回、割り引きが2回(設備容量 → ×需要率 → ÷不等率)
- 需要率は「同時に全開にならない」、不等率は「ピークがずれる」、負荷率は「使い方のムラ」
- 需要率の数値は内線規程・特記・実績から取る。用途名だけで決めない
- 低圧の契約電力は設計で決まる、高圧は実量制で使い方で決まる
- 高圧では一度のピークが1年きいてくる
- 余裕は契約電力ではなく、盤とスペースで持っておく
足したあとに、2回の割り引きがあります。
よくある質問
Q1. 需要率の数値は、どこを見れば載っていますか?
内線規程や設計資料に用途別の目安が示されています。加えて、特記仕様書や施主の設計基準で指定されていることも多いので、まずそちらを確認してください。同じ用途でも運用時間や機器構成で変わるため、採用した数値と出典をセットで記録しておくことをおすすめします。
Q2. 不等率は必ず使うのですか?
必ずではありません。系統がひとつしかない小規模な建物では、不等率を見込む場面がそもそもありません。複数の変圧器や複数用途をまとめて受電するときに効いてきます。使う・使わないの判断も、根拠を残しておくと後で説明しやすくなります。
Q3. 想定した契約電力と、竣工後の実績がずれたらどうなりますか?
低圧の契約方式であれば、設備や主開閉器を変えないかぎり契約電力は動きません。高圧の実量制では、実績が想定より大きければその値が契約電力になり、基本料金が上がります。逆に実績が小さければ契約電力も下がっていきます。想定は「初期の契約と設備を決めるための数字」であって、その後は使い方が決めていく――と理解しておくと混乱しません。
次回予告
第3回は「引込方式とルート」です。架空か地中か、どこから敷地に入れて、どこから建物に入れるか。引込線と引込口配線の区分、高圧ケーブルのサイズと保護管、そして1引込・2引込の考え方までを扱います。
合言葉は「引込は、敷地の入口ではなく建物の入口で決まる」。




