結論

賃貸の電気まわりは、「壁に穴を開ける工事」はほぼ不可、「差し替えるだけ」はほぼ可という線引きで考えると迷いません。契約アンペアの変更は電力会社への連絡だけで済むことが多い一方、コンセント増設やエアコン専用回路の新設は大家・管理会社の許可が必須です。判断に迷ったら、着手前に必ず書面で確認してください。

  • 契約アンペア変更は入居者の判断でできる場合が多い(分電盤の主開閉器を交換)
  • コンセント増設・回路増設・照明の直結工事は許可なしでは不可
  • 工事不要でできることは意外と多い(スマートプラグ、電池式センサー、置き型照明)
  • 退去時の原状回復でもめるのは「勝手に付けた」ものと「穴」

賃貸に住んでいると、「ここにコンセントがもう一つあれば」「ブレーカーがすぐ落ちる」といった不満が出てきます。持ち家なら工事すれば済む話ですが、賃貸では建物が自分のものではないため、できることに制限があります。

ただし、「賃貸だから何もできない」というのも正しくありません。実際には、入居者の判断でできることと、大家の許可が要ること、そして絶対にやってはいけないことが、はっきり分かれています。ここを整理しておくと、余計な我慢も、退去時のトラブルも減らせます。

賃貸でできること・できないこと

やりたいこと 可否 ポイント
契約アンペアを上げる △ 条件つきで可 電力会社に連絡。分電盤の交換が要る場合は大家の許可が必要
電力会社・料金プランを変える ○ 可 個別契約なら入居者の自由。一括受電の物件は不可
シーリングライトを交換する ○ 可 引掛シーリングに差すタイプなら工具不要。外した器具は保管
コンセントを増やす × 許可なしでは不可 壁内配線を触る工事。電気工事士の資格も必要
エアコン専用回路を新設する × 許可なしでは不可 分電盤から新たに配線を引く工事になる
スイッチを人感センサーに替える × 許可なしでは不可 結線を触るため資格が必要。原状回復の対象にもなる
スマートプラグ・スマートリモコンを使う ○ 可 差すだけ・置くだけ。退去時に持ち帰れる
アース線を自分でつなぐ ○ 可 アース端子付きコンセントに差し込むだけなら資格不要
壁にネジ穴を開けて器具を付ける × 原則不可 原状回復の対象。ピンタイプの金具でも事前確認を
「差すだけ・置くだけ」は可、「配線を触る・穴を開ける」は不可、が基本の線引きです。

ブレーカーがよく落ちるときの正しい順番

賃貸で一番多い不満が「ブレーカーがすぐ落ちる」です。対処には順番があります。いきなりアンペアを上げるのではなく、上から順に確認してください。

  1. どのブレーカーが落ちたかを確認する——分電盤の一番左(アンペアブレーカー)なら家全体の使いすぎ、右側の小さいブレーカー(安全ブレーカー)ならその部屋だけの使いすぎです。
  2. 同じ部屋で大電力の家電を重ねていないか見直す——電子レンジ、ドライヤー、電気ケトル、炊飯器、アイロンは、それぞれ1000W以上を使います。安全ブレーカー1回路あたりの上限はおおむね1500Wです。
  3. 使う部屋を分ける——同じ回路に集中しているだけなら、別の部屋のコンセントを使うことで解決します。延長コードで隣の部屋から引くのは、コードの容量を超えやすいので避けてください。
  4. それでも足りなければ契約アンペアの変更を検討する——ここでようやくアンペアの話になります。

安全ブレーカーが落ちるのにアンペアを上げても意味がない

契約アンペアを上げると増えるのは「家全体で使える合計」です。ひとつの部屋・ひとつの回路で使える上限(おおむね1500W)は変わりません。キッチンだけがよく落ちる、といったケースでアンペアを上げても、症状は改善しません。


契約アンペアの変更は誰に言えばいいか

契約アンペアの変更は、原則として電力会社(小売事業者)に連絡します。入居者名義で契約している以上、契約内容を変えるのは入居者の権利です。ただし、実務では次の点に注意してください。

  • 分電盤の交換が必要なら大家の許可が要る——アンペアブレーカーの容量を上げるとき、既存の分電盤で対応できないと盤ごとの交換になります。分電盤は建物の設備なので、入居者の一存では交換できません。
  • 建物への引込線の容量が足りないこともある——アパートやマンションでは、建物全体で受けられる電気の量が決まっています。1戸だけ大幅に増やせないケースがあります。
  • スマートメーターならブレーカー交換なしで変えられることがある——スマートメーター側で制限をかける方式の地域では、機器の交換なしに契約変更できます。この場合は電話やWebだけで完結します。
  • 基本料金が上がる——30Aから40Aに上げれば、その分だけ毎月の基本料金が増えます。使う頻度が年に数回なら、割に合わないこともあります。

迷ったら、まず電力会社に「この住所でアンペアを上げられるか」を問い合わせてください。工事が必要かどうかを教えてくれます。工事が必要と分かった時点で、管理会社に相談する、という順番が現実的です。

工事なしでできる、賃貸の電気改善

配線を触れない賃貸でも、できることは思ったより多くあります。いずれも退去時に持ち帰れるので、原状回復の心配もありません。

困りごと 工事なしの解決策
スイッチが遠い・消し忘れる スマートプラグ+スマートスピーカー。照明器具自体をスマート対応品に替える手もある
玄関や廊下が暗い 電池式の人感センサーライト。マグネットや置き型なら穴あけ不要
エアコンを外出先から操作したい スマートリモコン。赤外線を飛ばすだけなので工事不要
コンセントが足りない 電源タップ。ただし合計1500Wを超えない範囲で。個口ごとにスイッチがある製品が便利
Wi-Fiが奥の部屋で弱い メッシュWi-Fiの子機をコンセントに直挿し。有線を引けない賃貸では現実的な選択
玄関の鍵をスマート化したい 電池式・貼り付け式のスマートロック。ただし退去時に糊跡が残らない製品を選ぶ
洗面所にコンセントがない 延長は避け、使う場所を変える。水まわりでの延長コード使用は感電・トラッキングの原因
「置く・差す・貼る」で済むものを選ぶのが、賃貸での鉄則です。


内見のときに見ておく電気まわり

入居後に困る点の多くは、内見の10分で分かります。次の項目は、写真を撮っておくだけでも後で役に立ちます。

  • 分電盤の位置と回路数——ブレーカーが並んでいる数がそのまま回路数です。極端に少ない物件は、家電を分散させにくくなります。
  • 契約アンペアの表示——一番左のブレーカーに数字が書かれています。20Aや30Aなら、家電の使い方に制約が出ます。
  • エアコン専用コンセントの有無——エアコンを置きたい部屋に、専用のコンセント(多くは高い位置にある)があるかを確認します。
  • 各部屋のコンセントの数と位置——家具を置きたい壁が全部ふさがっている、という失敗はよくあります。
  • キッチンのコンセント——冷蔵庫・電子レンジ・炊飯器・電気ケトルを同時に使えるだけの口数があるか。
  • 洗濯機置き場のアース端子——アース端子付きコンセントかどうか。水まわりの家電では安全に直結します。
  • 照明の取り付け方式——引掛シーリングがあるか、それとも器具が直付けされているか。直付けの場合、自分で交換はできません。
  • テレビ端子とLANコンセント——インターネットの契約形態にも関わります。

やってはいけないこと

  • 自分でコンセントやスイッチを交換する——屋内配線をつなぐ作業は電気工事士の資格が必要です。無資格での施工は法令違反であり、火災時の保険にも影響します。
  • タコ足配線で電源タップを数珠つなぎにする——タップの定格(多くは1500W)を超えると、コード自体が発熱します。
  • コードを家具の下敷きにする・束ねたまま使う——被覆が傷んで漏電やショートの原因になります。
  • アース線を水道管やガス管につなぐ——危険であり、法令でも禁じられています。アース端子がない場合は管理会社に相談してください。
  • ブレーカーが落ちるからと針金などで固定する——ブレーカーは危険を知らせる装置です。落ちないようにするのは、火災報知器を止めるのと同じことです。
  • 退去直前まで報告しない——照明器具を替えた、コンセントを増やしたといった変更は、気づいた時点で管理会社に伝えるほうが穏便に済みます。


停電・漏電のとき、どこに連絡するか

状況 連絡先
近所も一緒に停電している 連絡不要。送配電事業者の停電情報を確認して待つ
自分の部屋だけ真っ暗 まず分電盤を確認。ブレーカーが落ちていれば復帰させる
漏電ブレーカーが落ちて戻らない 管理会社・大家。建物側の設備が原因のことがある
コンセントが熱い・焦げ臭い そのブレーカーを切ってから管理会社へ。緊急性が高い
共用部の照明が切れている 管理会社。入居者が交換する義務はない
料金・契約に関すること 契約している電力会社
建物の設備に関わるものは管理会社、契約に関わるものは電力会社、が原則です。

緊急連絡先は入居時に控えておく

夜間や休日にトラブルが起きたとき、契約書を探すところから始めるのは大変です。管理会社の緊急連絡先と、契約している電力会社の名前・お客さま番号を、スマートフォンのメモに入れておいてください。停電中は紙の書類を探せません。

よくある質問

大家に無断でコンセントを増設したら、どうなりますか?

契約違反として、退去時に原状回復(元に戻す)費用を請求される可能性があります。加えて、無資格で施工していた場合は電気工事士法に触れます。増設したい理由がはっきりしているなら、まず管理会社に相談してください。費用を入居者が負担する条件で認められることもあります。

契約アンペアを上げる工事費は誰が払いますか?

入居者の都合による変更なら、入居者負担が原則です。ただし分電盤そのものを交換する場合、建物の設備更新にあたるため、大家が負担するケースもあります。着手前に、費用の負担と退去時に戻す必要があるかを書面で確認しておくと安全です。

照明器具を自分で買い替えてもいいですか?

天井に引掛シーリング(円形や角形の差込口)が付いていれば、差し替えるだけなので問題ありません。もともと付いていた器具は捨てずに保管し、退去時に戻します。器具が天井に直接ネジ留め・直結されている場合は、資格が必要な作業になるため自分では外せません。

電力会社は自由に変えられますか?

入居者名義で個別に契約している物件なら変更できます。ただし、建物全体で一括して電気を購入している「一括受電」の物件では変更できません。検針票に管理会社や別会社の名前があれば一括受電の可能性が高いので、契約書を確認してください。

洗濯機のアース線をつなぐ場所がありません。

アース端子のないコンセントに無理につなぐことはできません。水道管やガス管への接続は絶対に避けてください。管理会社に「洗濯機置き場にアース端子がない」と伝えて、アース端子付きコンセントへの交換を相談するのが正しい手順です。感電のリスクに直結するため、遠慮する必要はありません。

スマートロックを付けたいのですが、退去時に問題になりませんか?

両面テープで貼り付けるタイプなら、跡が残らないことを条件に認められることが多いです。ただし、鍵は防犯と管理に直結する設備なので、事前に管理会社の確認を取ってください。無断で交換して元の鍵が使えなくなると、緊急時に管理会社が入れず、大きなトラブルになります。

エアコンを増設したいのですが、専用コンセントがありません。

専用回路の新設は工事になるため、管理会社の許可が必要です。既設のコンセントに延長コードでつなぐのは、容量を超えて発熱するため危険です。エアコンは消費電力が大きく、常時運転するため、必ず専用回路を使ってください。許可が下りない場合は、その部屋へのエアコン設置は諦める判断も必要です。

電力会社の見直しは、あなたの家に効くのか
「乗り換えれば安くなる」は、条件によります。電気設備の設計側から見ると、先にやるべきことがある家と、比較が効く家ははっきり分かれます。当てはまるものを見てください。
A契約アンペアが大きすぎる家
一人暮らしや二人暮らしなのに50A・60A契約、という家は珍しくありません。基本料金は契約アンペアで決まるので、下げるだけで毎月効きます。工事は電力会社が無料で行うのが一般的です。乗り換えより先に、こちらを確認してください。
B使用量が多い家・オール電化・EVがある家
月400kWhを超える、オール電化、EVを自宅で充電している——このあたりから単価と時間帯プランの差が大きく出ます。基本料金より従量料金のほうが金額として大きいので、プランと会社を比べる価値があります。
C関西・中国・四国・沖縄エリアの家
これらのエリアは最低料金制で、そもそも契約アンペアという区分がありません。Aの手が使えないので、比べるならプランと会社そのものになります。
比べるときに見落としやすいところ
  • 燃料費調整額の上限。大手電力の規制料金には上限がありますが、新電力の多くは上限を設けていません。燃料価格が上がった局面では、単価が安いはずのプランが逆転することがあります
  • 解約金・契約期間の縛り。1年未満の解約で費用がかかるプランがあります
  • 停電したときの連絡先は変わりません。設備の保安は送配電会社の担当なので、乗り換えても対応する会社は同じです(責任分界点の記事
ハリタ

この記事を書いた人:ハリタ

電気設備設計の実務者。内線規程・電気工事士資格・住宅の電気設備を「設計者の視点」で解説しています。プロフィール詳細

次に読むならこれ子育て世帯の電気の安全対策|コンセントの感電・トラッキング火災を防ぐ家庭の電気設備の設計
ABOUT ME
HARITA
電気設備の設計に携わる技術者です。内線規程や電気設備技術基準の解釈などの一次資料をもとに、設計・施工者向けの技術解説と、専門知識のない方に向けた「住まいの電気」の解説を書いています。