こんにちは、HARITAの設計室です。

病院の設計をしていると、手術室やICUの図面に絶縁変圧器絶縁監視装置が出てきます。ふつうの建物では見かけない機器なので、「なぜここだけ接地しないのか」と引っかかった方は多いと思います。

これが医用非接地配線方式です。名前のとおり、二次側の電路を接地しない配線方式のことです。

目的はひとことで言えます。一線地絡が起きても、電源を止めないためです。

地絡したときに、止まるか止まらないか

地絡したときに、止まるか止まらないかふつうの接地された回路1一線地絡が起きる2大地を通って地絡電流が流れる3漏電遮断器が動作して停電する非接地配線方式1一線地絡が起きる2回路が閉じず、電流が流れにくい3電源は継続。監視装置が警報する止まらないのは安全だからではなく、止めては困るからHARITAの設計室

ふつうの接地された回路では、一線地絡が起きると大地を通って地絡電流が流れます。回路が閉じるので電流が流れ、漏電遮断器が動作して停電します。これは正しい動作です。感電を防ぐためにそう作ってあります。

ところが医用室では、その「正しい動作」が困る場面があります。手術中に照明や生命維持装置の電源が落ちる、というのは別のリスクだからです。

そこで二次側を接地しない回路にします。接地されていなければ、電路の一線が大地に触れても回路が閉じません。電流はほとんど流れず、電源の供給は続きます。

JIS T 1022では、電源の遮断による機能の停止が医療に重大な支障を来すおそれがある医用電気機器を使用する医用室の医用コンセント用分岐回路に、電路の一線地絡時にも電力の供給を継続するためこの方式を適用する、という趣旨で規定されています。

止まらない=安全、ではありません
一線地絡が起きても止まらないのは、止めては困るからそう作っているのであって、地絡が無害だからではありません。1回線目の地絡を放置したまま2回線目が起きれば、そこで短絡になります。警報が出たら原因を除去するまでが運用です。

構成は3つ ― 絶縁変圧器・絶縁監視装置・警報表示器

非接地配線方式の構成分電盤絶縁変圧器単相2線式・二次側100V定格容量に上限がある二次側は接地しない医用コンセント絶縁監視装置対地インピーダンスを見張る警報表示器気づける場所に置く非接地なので、この二次側に漏電遮断器という考え方は使いません切らない代わりに、見張るHARITAの設計室

絶縁変圧器 一次側と二次側を電気的に絶縁します。JIS T 1022(2018年版)では、単相2線式・二次側100V・定格容量7.5kVA以下とされ、二次側電路は接地してはならないと規定されています。

絶縁監視装置 接地していない代わりに、二次側の対地インピーダンスを常時見張ります。2018年版では、対地インピーダンスが50kΩ以下になるような状態(単相2線電路では地絡電流2mA以上に相当)で警報を発する、とされています。

警報表示器 警報を医療従事者が気づける場所に出します。ここが盤の中だけだと、監視していないのと同じになります。

つまり非接地配線方式は、切らない代わりに見張る仕組みです。遮断による保護をあきらめる代わりに、常時監視で置き換えている、と考えると理解しやすいと思います。

参照する版に注意してください
ここに挙げた数値は JIS T 1022:2018 の条文に基づいています。現行版は JIS T 1022:2023(2023年12月20日改正)です。実務では必ず採用する版の原典で確認してください。

どの部屋に必要か ― 医用室のカテゴリで決まる

医用室のカテゴリで、要否が決まるA電極などを心臓区域内に適用する必須B体内に適用するが、心臓には適用しない必須C電極などを使うが、体内には適用しない必要に応じてD患者に電極などを使わない必要に応じて区分の正確な定義と要否は JIS T 1022 の本文と表によります。採用する版で確認してください先に決めるのは設備ではなく、その部屋で何をするかHARITAの設計室

必要かどうかは、部屋の名前ではなく医用室のカテゴリで決まります。カテゴリは「その部屋で患者にどう電極などを適用するか」で区分されます。

  • カテゴリA 心臓内処置・心臓外科手術・生命維持装置の適用にあたり、電極などを心臓区域内に挿入または接触して使用する医用室
  • カテゴリB 電極などを体内に挿入または接触して使用するが、心臓には適用しない体内処理・外科処置などを行う医用室
  • カテゴリC 電極などを使用するが、体内に適用することのない医用室
  • カテゴリD 患者に電極などを使用することのない医用室

非接地配線方式はカテゴリAとBで求められ、CとDは必要に応じて、という整理になります。保護接地・等電位接地・非常電源の要否も同じ表で決まるので、カテゴリが決まらないと設備が決まりません

ここでよくある手戻りが、部屋名だけでカテゴリを推定してしまうことです。同じ「処置室」でも、そこで何をするかでカテゴリが変わります。図面を描く前に、必ず医療側と用途を確認してください。接地側の要件は 医用接地の設置基準と設計指針 にまとめています。

設計で確認する5項目

設計で確認する5項目1カテゴリの確定設備から決めない。その室で何をするかを医療側と確認する2容量と回路数変圧器の容量に上限がある。系統を分ける前提で考える3変圧器の置き場所発熱と音、点検スペース。室内に置くのか盤に入れるのか4警報表示器の位置気づけない場所にあると、監視していないのと同じ5接地との整合保護接地・等電位接地とセット。非接地方式だけでは完結しない数値は版によって変わります。必ず採用する版の原典で確認してください止めない仕組みは、気づく仕組みとセットで成立するHARITAの設計室

カテゴリの確定 設備から決めない。用途から決めます。ここがずれると、あとの全部がずれます。

容量と回路数 絶縁変圧器には定格容量の上限があります。1台で室内の全負荷をまかなう前提ではなく、系統を分ける前提で計画してください。

変圧器の置き場所 発熱と音があります。室内に置くのか、盤に入れて別室に置くのか。点検・更新のスペースも要ります。ここは建築との取り合いになるので、早い段階で押さえます。

警報表示器の位置 スタッフステーションなのか、室内なのか。誰が気づいて、誰が対応するのかまで決めておかないと、警報が鳴っても運用が回りません。

接地との整合 非接地配線方式だけでは完結しません。保護接地・等電位接地とセットで成立します。接地の基本的な考え方は 高圧受変電設備の設計マニュアル⑫ 接地 も参考にしてください。

まとめ

  • 医用非接地配線方式は、一線地絡時にも電力の供給を継続するための方式
  • 構成は絶縁変圧器・絶縁監視装置・警報表示器の3つ。二次側は接地しない
  • 切らない代わりに見張る。遮断による保護を常時監視で置き換えている
  • 要否は医用室のカテゴリで決まる。A・Bで求められ、C・Dは必要に応じて
  • カテゴリは部屋名ではなく用途で決まる。医療側との確認が先
  • 数値・要否は JIS T 1022 による。現行は2023年版なので、採用する版の原典で確認する

よくある質問

Q1. 非接地なら、漏電遮断器は付けなくていいのですか?

二次側は非接地なので、地絡電流で遮断するという考え方がそもそも成立しません。遮断器で切る代わりに、絶縁監視装置で見張るのがこの方式です。一次側の保護は別途必要なので、混同しないようにしてください。

Q2. 絶縁監視装置の警報が出たら、すぐ止めるのですか?

止めません。止めないための方式です。ただし放置してよいという意味でもありません。1回線目の地絡が残ったまま2回線目が起きると短絡になります。警報が出たら、原因の機器を切り分けて除去するのが運用です。誰がどう切り分けるかを、引き渡し時に取り決めておいてください。

Q3. カテゴリはどうやって決めるのですか?

設計者が単独では決められません。その部屋で何をするかが根拠になるので、医療側(発注者・病院側)との確認が必要です。部屋名が同じでも用途が違えばカテゴリは変わります。確認した内容は議事録に残しておくと、あとで揉めません。

Q4. 既存の医用室を改修するとき、何から確認しますか?

まず現在の用途とカテゴリ、次に既設の変圧器容量と系統、そして警報表示器の位置と運用です。用途が変わっていて、いまのカテゴリに設備が追いついていない、というのは改修案件でよく出てきます。

参考

本記事は、公開されている JIS T 1022:2018 の条文に基づいて整理しています。現行版は JIS T 1022:2023(2023年12月20日改正)です。数値・要否の判断は、必ず採用する版の原典を確認してください。

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